「もがいている限り、失敗ではない」とAwichが言っている
「あかん。人生ダルすぎる」
最近イライラする事が非常に多い。
今文章を書いているが、変換が少し遅れただけで舌打ちしている。
舌打ちしながら「クソが!」と言っている。
はたから見たらものすごいヤンキーだ。お口の治安が悪すぎる。
道端で絶対に目を合わせたくないタイプのチンピラだ。
ところが私は32歳。自分のメンタルに不調が生じたときのマニュアルは作成済みだ。
私の場合、イライラの約90%は生活習慣の乱れが原因だ。
そこでまず生活習慣からチェックする。
睡眠、食事、運動、この三拍子が上手く整っていないとメンタルにダメージが及ぶ。
昨日はちゃんと8時間の睡眠時間を確保したし、ぐっすり眠りにつけた。
朝も気分よく爽快に目覚めた。
タンパク質、脂質、糖質の黄金バランスを意識した食事をし、野菜も食べている。
朝のお便りも良好だ。
運動は週3回ピラティスに通い、お散歩は毎日しているので問題ない。
ちなみに月1の体内女子会は先週終わったばかりなので、ホルモンバランスの乱れも問題ないはずだ。
しかし、すごくイライラしている。なぜだ。
考え抜いた結果、先週のとある出来事が頭の中に思い浮かんだ。
先週の金曜日、私はカフェに立ち寄った。
以前勤務していた職場の近くにあるカフェで、何回かコーヒーを飲みに立ち寄ったりしているうちに、店主の方とざっくばらんにお話する仲になった。
久しぶりにお会いしたので「最近どうよ」という当たり障りのない会話がスタートする。
私は日本でスターバックス、そして韓国のカフェで勤務した経験を通し、本腰を入れてコーヒーのことについてちゃんと勉強したいと思うようになった。そこで、国際的に知名度と信頼性の高い『SCA』という団体が運営するコーヒー業界に関わる資格取るため、専門学校に通うことにした。この資格を英語関連の資格で例えるならば『TOEFL』や『IELTS』に近い。語学は資格なんてなくても実力があれば良いかもしれないが、資格があったほうが明らかに有利に働く場面が多い。
なんだかんだ、いろいろ勉強し始めて、今はコーヒー豆の焙煎に関する資格習得に向けて勉強中だ。
このように今、コーヒーに関する勉強をしている旨を伝え、遠い将来、コーヒー関連の商売をしようと思っていることも添えた。
すると私の話に被せるように
「コーヒー関連は……しんどいで! しかもカフェとかやめときほんま! ほんで学校なんて行っても意味無いで!?」
と、重めの右フックが返ってきた。
韓国は空前のカフェブームだ。私の家の半径1km圏内にはスターバックスコーヒーを含むチェーン店が6店舗、個人が経営しているカフェが2店舗ある。ちなみに私の住んでいる地域は繁華街というわけではなく、マンションが密集している住宅街だ。
住宅街ですら競合他社がひしめき合っているのに、繁華街となるともっと生存競争が激しくなることは想像にやすい。
韓国ではすでにカフェが多すぎて、飽和状態になっているのだ。
しかも安価でコーヒーが飲めるコーヒーチェーンの店舗が大量発生しているため、そちらに顧客が流入し、個人経営のカフェは次々と廃業に追いやられている。
多くの店舗が少ない顧客を奪い合っているのだ。
血で血を争う顧客争奪戦が繰り広げられている。
店主はこの点を心配して言ってくれているのだろう。
しかし、この畳みかけるような話っぷりに私は
「いや、だから最初からわかっとんねん、そんなん!」
とムっとしてしまった。
心配してくれているのは十分感じる。
でも……でも。
こんなせき立てるように話されてはクレイジーケンバンドでさえ戸惑う。
「俺の話をきけえぇぇぇい~」の「お」を言う隙すら与えないのだ。
「それしちゃダメ!!」と頭ごなしに全力で阻止しようとする圧にビビってしまい、それと共に嫌気がさした。
このカフェでの出来事があってから、心の中にもやもやが残ってしまった。
このもやもやが悲しみなのか、不安なのか、辛さなのかよく分からないが、それが混ざった鉛のようなものがずっと胸の中に居座っていた。
そしてこの鉛がイライラを生み出し、私をチンピラ化させてしまっていたのだ。
始めてもないのにダメだなんて、
なんで分かるんだ。
ちくしょう。
本当に、ちくしょうだ。
ちくしょうって言ってしまうくらい、多分私は悔しいのだ。
自分のやってきたこと、考えていることは全て無意味と言われているようで悔しいのだ。
異国に来て「この仕事でご飯を食っていく!」と腹をくくったこと、時間とお金を投資して仕事に関連する資格を取ったことなど、全部無駄だったのだろうか。
悔しくて、ショックで、へこんでしまった。
モチベーションを奈落の底に置いたまま、
いつものようにコーヒーの勉強をするため学校へ行くバスに乗る。
最近はアップルミュージックで「朝にピッタリな洋楽リスト」を聞きながらオシャレな気分で移動時間を過ごしていた。
しかし、今の気分はヘドロそのものだ。オシャレどころか、爽やかな朝に繁華街の道に落ちている吐物を見たような気分だ。
だから今日はAwichを聞くことにした。
ガッツを注入してもらおうと思ったのだ。
Awichは日本で1番有名な女ラッパーだ。年齢は37歳。2020年にメジャーデビューという、ラッパーの中ではかなり遅咲きと言われる年齢だが、壮絶な人生を通して得た彼女にしか出せないパンチの効いたメッセージが多くの人の心を射抜いてきた。
私はHIPHOPはよく分からないが、Awichが大好きだ。
ファンになって3年経つ。
Awichの曲は綺麗な言葉でなく、かといって攻撃的でもない強い言葉で私の背中を突き飛ばしてくれる。
『RASEN in OKINAWA』がかかる。
中毒性のある沖縄民謡のようなメロディーとビートが流れる。
「やるワッタ(私達)にしかできない Music
既存の道が無くても Do it
失敗は成功のもと
本当に成功の反対にあるのは何にもやらないこと」
刺さった。弱った心にぶっ刺さった。
やっぱり弱った時にはAwichだ。
Awichは私のためにこの歌詞を書いたんじゃないだろうかという、うぬぼれた考えすら湧いてくる。
成功の反対にあるのは何もやらない事だ。
じゃあ今やっていることは少なくとも無意味ではない。
そう考えるとだんだん心の中の鉛が軽くなってきて、頑張れそうな気がしてきた。
Awichから最高のエールをもらった私は、
ゆっくりとやる気スイッチをONに切り替えていく。
脳みそに重低音が鳴り響く。
韓国の地方都市のバスの中で、私は目をギンギンにたぎらせていく。
世界で1番強くていい女になった気分で、バス停から学校までツンと歩く。
目がギンギンの大人がぶつぶつと完コピしたラップを呟きながら歩いている姿は、はたから見たらさぞかし怖いに違いない。もはやお経だ。
まあ、なんだ。もう1回仕切り直してがんばろうやないか。
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