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Ricetta4 茶色の朝を迎えないためにーArt saryo物語ー


夏の終わりを思わせる、涼しい日がつづいています。

日に日に、夜が長くなっているのを感じます。
秋は、すぐそこまで来ているのでしょう。

季節の変わり目は、体調を崩しやすい時期でもあります。

今日は、温かい飲み物を用意しますね。
小鍋でお湯を沸かし、紅茶とショウガとシナモンとお砂糖を煮立て、色づいてきたら、お湯の1.5倍の牛乳をくわえて、ふつふつするまで待ちます。すると、おいしいチャイができます。たくさんスパイスを使ったものもおいしいですが、ショウガとシナモンだけでもやさしい味わいです。


今回は、チャイとともに、秋の夜長にじっくりと味わっていただきたいRicettaを用意しました。
内容は、絵本の紹介です。



絵本なのに、「じっくり」ってどういうことだろうと思った方も、タイトルから内容を想像できた方もいらっしゃるかもしれません。


今回紹介する絵本は、フランク・パブロフの『茶色の朝』です。


簡単にあらすじを紹介します。

この物語の舞台では、茶色のペット以外を飼うことが法律で禁じられます。国の科学者たちが、茶色のペットのほうが優れていることを突きとめたからです。茶色以外のペットは安楽死させなければなりません。主人公は、自分の猫を始末します。そのときは胸を痛めますが、時が過ぎて、茶色の猫を飼い始めた主人公は、法律に逆らうことなく、流れに身を任せていることに安心感を覚えます。
ところが、ある日、法律はさらに厳しいものとなり、「以前茶色以外のペットを飼っていた者」も処罰の対象となってしまいます。そうして、はじめて主人公は自分の愚かさに気づくのです…。


ほんの数ページの物語ですが、この物語は、子どもむけではなく、大人に向けたものです。


この物語が作られた1990年代は、各国に極右政党が台頭し、移民排斥を唱え、社会不安を乗り越えようとした時期でした。それは、かつてのナチス(「茶色」はナチスの象徴です)を思わせるものでした。フランスにおいて、極右政党が政権を握ろうとしていたときに、この物語がわずか1€で売られたそうです。そして、この物語は、ベストセラーとなり、この物語の読者は自分たちの置かれた状況を読み取ることができたのです。


この物語が書かれてから、20年ほど経って、また各国で極右政党が力を増しているように思います。

そして、いま日本は、長期政権が終わり、新たな局面を迎えています。
それなのに、どこか遠い世界の出来事のように感じてしまっているのはなぜなのでしょう。
普段の私は、そう感じてしまっていることを、特に問題だとすら考えていません。


でも、それでよいのでしょうか。



政治に対する無関心が孕む危険性を、この物語は示してくれます。

ひと晩じゅう眠れなかった。
茶色党のやつらが
最初のペット特別措置法を課してきやがったときから、
警戒すべきだったんだ。
(中略)
いやだというべきだったんだ。
抵抗すべきだったんだ。
でも、どうやって?
政府の動きはすばやかったし、
俺には仕事があるし、
毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。
他の人たちだって、
ごたごたはごめんだから、
おとなしくしているんじゃないか?

フランク・パブロフ著、ヴィセント・ギャロ絵、藤本一郎訳『茶色の朝』大月書店、2003年、28頁。

この主人公の思いは、胸に迫るものがあります。

たぶん、政治に対する無関心の根底にあるのは、「無力感」だと思います。

たったの1票でいったい何が変えられるのだろう
対話なき、数で押し切る政治に、自分の声など届くことがあるのだろうか
と考えてしまっています。

でも、だからといって、考えることを放棄してしまったら、きっといつか茶色の朝を迎えることになってしまうでしょう。


違和感を感じているとしたら、それはそのままやり過ごすべきではないのです。


上記の引用の「でも、どうやって?」の答えは、自分で考えるしかありません。それは容易いことではないでしょう。


そして、今の生活に満足している、違和感などない、という人は、本当にそうなのか、と問うてみる必要があると思うのです。主人公が、白色の猫を殺して茶色の猫を飼ったように、無理やり流れに合わせて自分を安心させている可能性もあるからです。


政治が動こうとしているいま、茶色の朝を迎えないためには、「自分には関係ない」と目を背けずに、「ひとりひとりが考えることをやめないこと」が求められているのだと思います。


私自身も、「どうやって?」の答えは見つけていませんし、きっととるに足らないことしかできません。それでも、考えることをやめずにいたいと思うのは、この物語に出会えたからです。


私は、無力感に打ちひしがれそうなとき、この本を手に取ることにしています。


この小さな物語が、政治を動かす力を持っていたように、きっと私たちの小さな行動が大きな力となることもあるだろうと思うのです。



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