如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙を書くような、そんなnoteでありたいな。

如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙を書くような、そんなnoteでありたいな。

マガジン

  • 晴れの日も雨の日も

    そのとき感じたことを感じたままに綴るエッセイ集。晴れの日のように澄みきった気分のときも、雨の日のように翳りに覆われるときも、その気持ちを、透明な言葉で伝えたい。

最近の記事

如月桃子のプロフィール

如月桃子 Momoko Kisaragi ありふれたこと、とるにたらないこと 隙間から零れ落ちてしまうような さりげないもの、ささやかなものを そっと掌で掬いたい。 さらさら、するする、ごくごく読んでほしい。 それでいて、ざらりとなにかを残せたら… そんなことができているかは、さておき そんな気分で書いています。 ◇ こんなnoteを書いています エッセイがほとんど。記事によって、結構な温度差があり、真面目に学芸員らしく美術の話をしているときもあれば、夫の

    • 「いい時間」を求めて、京都・大阪・奈良へ。30代ふたり旅のスタイル。

      あれもこれも見たい。あれもこれも食べたい。 欲張りな私は、いつも予定をぎゅうぎゅうに詰め込む旅ばかりしていた。 でも、夫と旅するようになってから、旅のスタイルが少し変わった。 きっかけは、夫と付き合いはじめたばかりの頃まで遡る。 付き合って3ヶ月目くらいの真夏のある日、私たちはディズニーランドにでかけた。私は、あまりディズニーランドに来たことがないという彼を楽しませなければと使命感に駆られていた。 人気のアトラクションに並んでいるとき、彼はにこにこして言った。 「待って

      • いまもまだこの音色に恋してる

        小さなガラス瓶に入った桜貝と星の砂。 小学2年生のとき、隣の席のイチヤ君から沖縄土産にもらった。 贈りものとしてはなかなかセンスがいい。 小学2年生の男子が選んだものならなおさら。 「ももちゃんだけに買ったんだよ」 その言葉の意味を深く考えないようにしながら、お土産を受けとる。 「ももちゃん、イチヤの好きな人知ってる?」 数ヶ月後、友人に聞かれたとき、それはきっと、と思いながら知らないと答える。 「あのね、カナちゃんなんだって。」 あれ、私じゃないんだ。 ホッとした

        • 自分のクセを知る。これからの書くを考える。

          つい先日noterさんにお会いしたときに、最近noteはどう?楽しく書けてる?と聞かれた。 その場では、当たり障りのない回答をしたものの、自分のなかで、その質問がすこしぐるぐるしている。 折しも、創作大賞の発表があったタイミングでもあり、ものすごい受賞作品たちを読みながら、こんなすごい書き手がたくさんいるのに私はどうして書いているんだろうと自問していたときでもあって。 そんな折、自分のことを知るのによさそうなステキな質問集を見つけたので、質問に答えながら、書くことを見つめ

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        • 晴れの日も雨の日も
          115本

        記事

          さりげなく、心地よく。「好き」を育む1LDKのインテリア。

          手に入れた瞬間の喜びよりも、手に取るたび、目にするたびに感じる喜びのほうが大きい、そんなふうに愛せるものを手にしたいし、大切にしたいなと思っています。 無理はせずに手の届く範囲で。 でも、ときどきはちょっと背のびして、憧れにそっと手をのばして。 1LDKのわが家には、そうやって集めてきたお気に入りがいっぱい。 でも、なかなか雑誌に出てくるような洗練されたインテリアを実現するのは難しくて。 ああでもない、こうでもない。 あっちにおいて、こっちに戻して。 やっぱりしっくり

          さりげなく、心地よく。「好き」を育む1LDKのインテリア。

          「いまのあなたは本当のあなたですか」という問いから6年目の答え

          私が最初の勤め先を去ったのは9月末だった。だからだろうか、秋風そよぐ季節になると、悲しいわけでもないのに、少し鼻の奥がツンとする。 6年前の9月、私は新卒で学芸員として入庁した市役所を辞めた。勤めはじめてからたった1年半しか経っていなかった。抑鬱状態になって、仕事に行けなくなった末の退職だった。  辞令を受け取るために登庁した最後の日は、やわらかな秋の光が降り注ぐ秋晴れの日だった。 9月末に辞令を受け取る人は少なく、私のほかに市長室に集まっていたのは、出産を控えたお腹の

          「いまのあなたは本当のあなたですか」という問いから6年目の答え

          ひとりで暮らしても、ひとりで生きているわけじゃない

          案外ひとりでもなんとかなるもんだ。 30歳にして、初めてのひとり暮らしは、夫の単身赴任により突然始まった。 毎日朝6時に起きて、朝ごはんをつくりながら、弁当をつくって。化粧して、車を運転して仕事に行って。帰ってきたら夕ごはんをつくって、食器を洗って、洗濯して。風呂に入って風呂を洗って、歯を磨いて、食器を片付けて、ちょっと本を読んで勉強して。目覚ましセットして10時に寝る。 夫がいるときよりも、規則正しい生活かもしれない。部屋もピカピカに片付いている。ひとりでいると暇だか

          ひとりで暮らしても、ひとりで生きているわけじゃない

          紙一重 #秋ピリカ応募

          またやってしまった。 指先に一筋血がにじむ。 コピー機から吐き出された紙を恨めしく眺める。紙が悪いのではない。慌てて引き抜いた自分が悪いのだ。 デスクへと戻る途中、パソコンから顔を上げた簾藤さんと目が合う。 「どうしたの、怖い顔して」 「なんでもありません」 愛想なく答えて、デスクへ戻る。 どうしてこの人は、私の些細な変化にやたらと気がつくのだろう。 新しいワンピースを着てくれば「今日はそのまま結婚式にでも行けそうだね」と言われ、イヤリングをしていた日には「耳のきら

          紙一重 #秋ピリカ応募

          おいしい授賞式「#このレシピが好き」受賞しました

          お題企画「#このレシピが好き」で受賞作品として選んでいただきました! そして、一昨晩「料理レシピ本大賞」の授賞式に招待していただきました! はじめに、このような機会をくださった料理レシピ本大賞運営委員会の皆様、そしていつも書くことを応援してくださっているnote株式会社の皆様に心より感謝申し上げます。 授賞式の会場では、微熱さんのブックカフェでお会いしたかなこさんに再会できました。 受賞のお知らせをいただいたときから、これでまたかなこさんに会える!と思っていたのですが

          おいしい授賞式「#このレシピが好き」受賞しました

          青く沈む

          ときどき、自ら沈みたくなるときがある。 ぷかぷか浮いているいつもの水面から、少し潜って。 底のほうは、少し暗いけれど、ひんやりして心地よい。 最近、そんな気分だった。 夫が単身赴任になってひとりでいるからというのもあるのだろうけれど、いつもより静かに考えている時間が多い。 本を読んで、言葉の海を潜って、自分の言葉を書こうとバタバタもがいて、下書きばかり増やして。 はたからみたらちょっと苦しそうに見えるかもしれない。 でも、こういう何も生み出せない静かな時間も、私

          おとなだって、夏休みを楽しむのだ

          夏休みがはじまってから、たくさんの子どもたちが美術館にやってくる。 普段学芸員室の自分のスペースに引きこもっている私も、夏はイベントが盛りだくさんだから表にも出る。 子どもたちと一緒にお絵描きをしたり、工作をしたりする。 元気いっぱいのちびちゃんたちに、夏バテ気味の私は元気を吸われそうになったり、逆に元気をもらったりしている。 ちびちゃんの工作が終わり、バイバイしようと、目線を合わせるために私はしゃがんだ。すると、ちびちゃんもしゃがんでバイバイしてくれた。しばし二人で

          おとなだって、夏休みを楽しむのだ

          私、ちゃんと笑ってる

          小学校高学年の頃から中学、高校、大学にかけて、写真のなかの私はいつも口をギュッと結んでいる。 その顔がキメ顔だったわけではなく、笑うことができないほど心に闇を抱えていたわけでもない。 自分の笑った顔が好きになれなかったのだ。 小学5年生くらいなって、歯もすっかり生え変わり、下顎が成長してくると、私は父に似た受け口になった。そして、父そっくりの細い顎には母譲りの大きな歯が収まりきらず、窮屈そうに凸凹に並んだ。 学校の歯科検診では、歯並びのところにいつもバツがついた。

          私、ちゃんと笑ってる

          ありがとう、これからも

          意味深なタイトルですが、引退宣言でも、誰かを見送るnoteでもありません。 なんのnoteかというと、フォロワーさんが1000人超えました、ありがとうのnoteです。 この記事のタイトルを、「これからも」としたのは、できるだけこれからもフォローしていてもらえたらいいなという下心からです。 先に御礼を言っておくスタイル。 普段はフォロワー数なんて全然気にしていない風を装っていますが、たくさんの人に読んでいただけるのはやっぱりうれしくてありがたくて心強いです。 新たにフォ

          ありがとう、これからも

          軽井沢へ「旬」の旅

          新幹線に乗ったら、まずは座席に備え付けの冊子を繰る。 目当ては、巻頭にあるエッセイ。 ほんの2頁の短い文章だが、これを読むと、さあ旅に出るんだという気分になる。 文章の書き手は、沢木耕太郎さんから柚月裕子さんにバトンタッチされたが、読後の静かな高揚感は変わらない。 今回のエッセイのテーマは、「旬」の旅だった。 夏だから海、秋だから紅葉というような旬の話ではなく、行き先には自分にとっての旬があるのかもしれないという話。 若い頃に憧れていたハワイを老後に訪れてみたら、

          軽井沢へ「旬」の旅

          おうちリストランテ開店!

          おうちのごはんが好きだ。 実家にいた頃、どこで食べるよりも、父や母のつくるごはんが一番おいしいと思っていたし、今もそう思っている。 実家を出るまで、私はほとんど料理をしなかったが、両親が料理をつくる姿を見ていたからか、毎日おいしいものをつくってくれた両親に味覚を育ててもらったからか、料理をするのにそれほど苦労はなかった。 まだ父や母のように料理が得意とまでは言えなくとも、私は料理が好きなのだ。 新鮮な食材を手に入れるとほくほくしたきもちになる。 手を動かして、食材に触

          おうちリストランテ開店!

          しゅわしゅわ、今日も溶けてゆく

          もう少しでプツンと何かが切れてしまいそう。 朝なのに、お疲れさまですと言いそうになって、慌てておはようございますと言い直した。 うまくいったと喜んだ束の間、別の心配事が降りかかる。 その繰り返しに、だんだん疲弊してくる心に見ないふりをして。 熱を出したり、原因不明の腹痛に悩まされて、ようやく少し無理をしているなと気づくのだ。 どっぷりと疲れを溜め込んだ週末。 家に帰ってきて、部屋の扉を開けると、ふんわりと甘い香りがした。 休みの日だったぺこりんが、スコーンを焼いて

          しゅわしゅわ、今日も溶けてゆく