如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙…

如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙を書くような、そんなnoteでありたいな。

マガジン

  • 晴れの日も雨の日も

    そのとき感じたことを感じたままに綴るエッセイ集。晴れの日のように澄みきった気分のときも、雨の日のように翳りに覆われるときも、その気持ちを、透明な言葉で伝えたい。

記事一覧

おとなだって、夏休みを楽しむのだ

夏休みがはじまってから、たくさんの子どもたちが美術館にやってくる。 普段学芸員室の自分のスペースに引きこもっている私も、夏はイベントが盛りだくさんだから表にも出…

如月桃子
2週間前
83

私、ちゃんと笑ってる

小学校高学年の頃から中学、高校、大学にかけて、写真のなかの私はいつも口をギュッと結んでいる。 その顔がキメ顔だったわけではなく、笑うことができないほど心に闇を抱…

如月桃子
3週間前
70

ありがとう、これからも

意味深なタイトルですが、引退宣言でも、誰かを見送るnoteでもありません。 なんのnoteかというと、フォロワーさんが1000人超えました、ありがとうのnoteです。 この記事…

如月桃子
1か月前
100

軽井沢へ「旬」の旅

新幹線に乗ったら、まずは座席に備え付けの冊子を繰る。 目当ては、巻頭にあるエッセイ。 ほんの2頁の短い文章だが、これを読むと、さあ旅に出るんだという気分になる。 …

如月桃子
1か月前
130

おうちリストランテ開店!

おうちのごはんが好きだ。 実家にいた頃、どこで食べるよりも、父や母のつくるごはんが一番おいしいと思っていたし、今もそう思っている。 実家を出るまで、私はほとんど…

如月桃子
1か月前
118

しゅわしゅわ、今日も溶けてゆく

もう少しでプツンと何かが切れてしまいそう。 朝なのに、お疲れさまですと言いそうになって、慌てておはようございますと言い直した。 うまくいったと喜んだ束の間、別の…

如月桃子
2か月前
81

「つづかない」私がつづけている朝の習慣

継続は力なり、という言葉がちょっぴり苦手だ。 なにかを毎日コツコツとつづけられる人たちには、あわい憧れを抱いているものの、自分ではつづけられたためしがなく、いつ…

如月桃子
2か月前
125

5月の日常

晴れた日の図書館 晴れていたある休日、私と夫は近所の図書館へ行く。 こんな天気のいい日は遠くへ出かける人が多いのか、いつもよりも図書館は空いていた。いつもは貸出…

如月桃子
2か月前
72

最高だったよ。—おやきと文学—

微熱ブックカフェに行ってきました。 微熱ブックカフェでの時間は、まだ自分のなかにしまっておきたいような気もします。 でも、やっぱり、最高だったよ、と伝えたくなり…

如月桃子
3か月前
74

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学…

如月桃子
3か月前
137

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の…

如月桃子
4か月前
98

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息…

如月桃子
5か月前
55

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年…

如月桃子
6か月前
131

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こん…

如月桃子
6か月前
72

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした…

如月桃子
6か月前
73

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんか…

如月桃子
7か月前
56

おとなだって、夏休みを楽しむのだ

夏休みがはじまってから、たくさんの子どもたちが美術館にやってくる。 普段学芸員室の自分のスペースに引きこもっている私も、夏はイベントが盛りだくさんだから表にも出る。 子どもたちと一緒にお絵描きをしたり、工作をしたりする。 元気いっぱいのちびちゃんたちに、夏バテ気味の私は元気を吸われそうになったり、逆に元気をもらったりしている。 ちびちゃんの工作が終わり、バイバイしようと、目線を合わせるために私はしゃがんだ。すると、ちびちゃんもしゃがんでバイバイしてくれた。しばし二人で

私、ちゃんと笑ってる

小学校高学年の頃から中学、高校、大学にかけて、写真のなかの私はいつも口をギュッと結んでいる。 その顔がキメ顔だったわけではなく、笑うことができないほど心に闇を抱えていたわけでもない。 自分の笑った顔が好きになれなかったのだ。 小学5年生くらいなって、歯もすっかり生え変わり、下顎が成長してくると、私は父に似た受け口になった。そして、父そっくりの細い顎には、母譲りの大きな歯が収まりきらず、歯は窮屈そうに凸凹に並んだ。 学校の歯科検診では、歯並びのところにいつもバツがついた

ありがとう、これからも

意味深なタイトルですが、引退宣言でも、誰かを見送るnoteでもありません。 なんのnoteかというと、フォロワーさんが1000人超えました、ありがとうのnoteです。 この記事のタイトルを、「これからも」としたのは、できるだけこれからもフォローしていてもらえたらいいなという下心からです。 先に御礼を言っておくスタイル。 普段はフォロワー数なんて全然気にしていない風を装っていますが、たくさんの人に読んでいただけるのはやっぱりうれしくてありがたくて心強いです。 新たにフォ

軽井沢へ「旬」の旅

新幹線に乗ったら、まずは座席に備え付けの冊子を繰る。 目当ては、巻頭にあるエッセイ。 ほんの2頁の短い文章だが、これを読むと、さあ旅に出るんだという気分になる。 文章の書き手は、沢木耕太郎さんから柚月裕子さんにバトンタッチされたが、読後の静かな高揚感は変わらない。 今回のエッセイのテーマは、「旬」の旅だった。 夏だから海、秋だから紅葉というような旬の話ではなく、行き先には自分にとっての旬があるのかもしれないという話。 若い頃に憧れていたハワイを老後に訪れてみたら、

おうちリストランテ開店!

おうちのごはんが好きだ。 実家にいた頃、どこで食べるよりも、父や母のつくるごはんが一番おいしいと思っていたし、今もそう思っている。 実家を出るまで、私はほとんど料理をしなかったが、両親が料理をつくる姿を見ていたからか、毎日おいしいものをつくってくれた両親に味覚を育ててもらったからか、料理をするのにそれほど苦労はなかった。 まだ父や母のように料理が得意とまでは言えなくとも、私は料理が好きなのだ。 新鮮な食材を手に入れるとほくほくしたきもちになる。 手を動かして、食材に触

しゅわしゅわ、今日も溶けてゆく

もう少しでプツンと何かが切れてしまいそう。 朝なのに、お疲れさまですと言いそうになって、慌てておはようございますと言い直した。 うまくいったと喜んだ束の間、別の心配事が降りかかる。 その繰り返しに、だんだん疲弊してくる心に見ないふりをして。 熱を出したり、原因不明の腹痛に悩まされて、ようやく少し無理をしているなと気づくのだ。 どっぷりと疲れを溜め込んだ週末。 家に帰ってきて、部屋の扉を開けると、ふんわりと甘い香りがした。 休みの日だったぺこりんが、スコーンを焼いて

「つづかない」私がつづけている朝の習慣

継続は力なり、という言葉がちょっぴり苦手だ。 なにかを毎日コツコツとつづけられる人たちには、あわい憧れを抱いているものの、自分ではつづけられたためしがなく、いつも自分の力不足を実感させられるから。 なかでも、特に苦手なのが、いわゆる「朝活」。 朝を気持ちよく過ごせたら、きっとその日はいい時間を過ごせるのだろう。 頭ではわかっている。 でも、目覚ましを止めてからの数分間、お布団のなかで背徳感を抱きながらまどろむ心地よさに抗えず、朝活をしようと幾度となく試みては断念してき

5月の日常

晴れた日の図書館 晴れていたある休日、私と夫は近所の図書館へ行く。 こんな天気のいい日は遠くへ出かける人が多いのか、いつもよりも図書館は空いていた。いつもは貸出中の雑誌『天然生活』も、その日は1冊本棚に残っていた。 屋内とはいえ、晴れた外の空気が図書館の中にも満ちていて、本の森のなかを歩くのは気持ちのよいものだ。 雨の日の湿っぽい空気と雨の音が図書館には似合うような気がしていたけれど、晴れの日の図書館もいい。 図書館からの帰り道、少し遠回りをして、ネモフィラが咲く丘に

最高だったよ。—おやきと文学—

微熱ブックカフェに行ってきました。 微熱ブックカフェでの時間は、まだ自分のなかにしまっておきたいような気もします。 でも、やっぱり、最高だったよ、と伝えたくなりました。 行きたくても行けなかった方、羨ましがらせてしまったら、ごめんなさい。 先に謝っておきます。 東京のとあるビルに向かって私は走っていた。 ワークショップのはじまる時間ギリギリになっていたから、かなり焦りながら。 部屋の前で、ここで合っているかな、と扉の前でスマホを取り出して確認しようとすると、扉が開い

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学や以前の職場が仙台にあるし、宮城というよりも仙台といったほうが県外の人には伝わりやすいようなので、仙台出身ということにしている。 それはともかく、私の住む街へ帰るときにも仙台を経由する。 仙台に到着してすぐ、私と夫は、メーナという小さなレストランへと向かった。 駅から少し離れていて、奥まった場所にあるこのレスト

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の花言葉は、「あなたのとりこ」「チャーミング」「気立てのよさ」。それから、「天下無敵」。 そんな花言葉を私が知っているのは、自分の名前には「桃」の漢字が当てられているから。 でも、桃の花をじっくりと眺めるのは初めてのことだ。 「あれは桃の花だよ」と両親に教えられても、ふーんと聞き流して梅や桜との違いもわか

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息をつく暇もなく、関連イベントの準備や取材の対応に追われていました。 先週の土曜日に作品解説会を終え、ようやくふうと一息つけました。 はじめて展覧会を担当して、改めて感じたのは、展覧会は自分一人でつくるものではないということ。 上司や、同僚、美術館ボランティアさん、印刷や会場作成の業者の方々、広報してくれるメ

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年勤めていた会社を定年退職した。定年まで勤め上げたとはいっても、父はその仕事が好きなわけではなかった。父がそこで働いていたのは生活のため。私たち家族のためだった。 コンクリート工場の作業員をしていた父は、汚い・きつい・危険の3Kが揃った仕事だといつも言っていた。 給料も高くはなかった。 退職金も僅かにしか出なかっ

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こんなにも静かな誕生日を迎えるのははじめてかもしれないなと思いながら、前の日の夜につくっておいたカレーを温めてひとり夕食をとる。 夕食を終えて、母に電話した。 朝に、母から「誕生日おめでとう」とLINEが来ていた。 ありがとう、とすぐに返事をしたあとで、「私を産んでくれて」と続けた。 いつもなら言わないけれど

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした言葉だが、今思い返すと、なんとも可愛げのない台詞だ。 そのときは、そっか、と相づちを打っていた夫だが、このときの台詞をのちのち夫は何度も引用することになる。 「ももは飽きっぽいはずなのに。全然ぼくに飽きないね?」とか。 「あれれ?つねに冷めているのは誰だっけ」などと、にやにやしながら言ってくるのだ。 あの頃

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんからの年賀状がテーブルにおいてあった。微熱さんイラストのかわいい年賀状にはおだんごさんの美麗な字でコメントが添えてある。 そこに「ももちゃん、愛してるよー」という一文を見つけてしまったぺこりん。 「ももが、ぼくの知らない人に愛されてる…!」と少し困った顔をしている。 これは、もしかして、もしかすると…やきもちかも