如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙…

如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙を書くような、そんなnoteでありたいな。

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  • 晴れの日も雨の日も

    そのとき感じたことを感じたままに綴るエッセイ集。晴れの日のように澄みきった気分のときも、雨の日のように翳りに覆われるときも、その気持ちを、透明な言葉で伝えたい。

  • 注目記事に選んでいただいた記事

    『今日の注目記事』に入れていただいたものをまとめました。

記事一覧

固定された記事

雨降る美術館

ひとりで静岡の美術館へ旅をしたことがある。 その美術館は、いつか行ってみたいと思っていた美術館のひとつだった。 クレマチスの丘という、美術館がたち並ぶ丘がある。…

如月桃子
3年前
346

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学…

如月桃子
2日前
71

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の…

如月桃子
2週間前
94

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息…

如月桃子
1か月前
55

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年…

如月桃子
2か月前
131

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こん…

如月桃子
2か月前
73

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした…

如月桃子
2か月前
74

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんか…

如月桃子
3か月前
58

大叔母の品格

実家に帰省していた夜、「明日、初江おばさん(仮名)の家に一緒に行かないか」と父から誘われた。 初江おばさんは、父にとっての叔母。私にとっては大叔母に当たる。 私が…

如月桃子
3か月前
51

美術館の学芸員を目指す人へ

今年度学芸員になったばかりのひよっこ学芸員が語るには、題が重すぎるという気もするのですが。 ここ最近、年度末にさしかかって学芸員の募集の案内をたびたび目にするな…

如月桃子
3か月前
121

今年やりたい25のこと

昨年から、年初めに、ぺこりんとその1年のやりたいことビンゴをつくっています。 うえはらけいたさんのアイデアをお借りして。 しかし、昨年は、ハードルを高くしすぎた…

如月桃子
3か月前
85

年末年始の日記

どんな言葉から書きはじめようか、少し迷いながらパソコンに向かっています。 実家で過ごした数日間は、穏やかで、あたたかくて、しあわせなひとときでした。そんな数日間…

如月桃子
4か月前
87

12月前半の日記

今日も日記を綴ります。 今回も長いので、つまみ食い推奨です。 つまみ食いのおともには、この曲を。 12月のある日 お昼やすみに、久しぶりに後ろの席の人と美術館のま…

如月桃子
4か月前
87

11月の日記

11月の日記です。ごはんと本のお話が多めです。 長文なので、気になるところだけ、つまんでください。 私の好きな曲を聴きながら、どうぞ。 11月のある日 美術館の展示…

如月桃子
5か月前
62

ご自愛はじめました

近頃、なんだか疲れがとれない、体が重いと感じることが増えました。 季節の変わり目のせいなのか、それとも仕事が忙しくなってきたせいなのか。あまり考えたくはないけれ…

如月桃子
5か月前
84

お母さんへ #贈りnote

お母さんへ お母さんはたまに私のnoteを読んでくれているので、読まれるかもしれないし、読まれないかもしれない手紙をここに書いておこうと思います。 お母さんは、私の…

如月桃子
5か月前
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固定された記事

雨降る美術館

ひとりで静岡の美術館へ旅をしたことがある。 その美術館は、いつか行ってみたいと思っていた美術館のひとつだった。 クレマチスの丘という、美術館がたち並ぶ丘がある。 その丘の上にある美術館で、須田悦弘さんの展覧会『ミテクレマチス』が開催されていた。 須田さんの作品は、その展覧会以前にも見たことがあった。 はじめてみたときから強く惹かれた。 私が学芸員を務めた市でも、須田さんの作品を所有していた。 クレマチスの丘を訪れたとき、私は学芸員だったけれど、いろいろあって辞めよ

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学や以前の職場が仙台にあるし、宮城というよりも仙台といったほうが県外の人には伝わりやすいようなので、仙台出身ということにしている。 それはともかく、私の住む街へ帰るときにも仙台を経由する。 仙台に到着してすぐ、私と夫は、メーナという小さなレストランへと向かった。 駅から少し離れていて、奥まった場所にあるこのレスト

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の花言葉は、「あなたのとりこ」「チャーミング」「気立てのよさ」。それから、「天下無敵」。 そんな花言葉を私が知っているのは、自分の名前には「桃」の漢字が当てられているから。 でも、桃の花をじっくりと眺めるのは初めてのことだ。 「あれは桃の花だよ」と両親に教えられても、ふーんと聞き流して梅や桜との違いもわか

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息をつく暇もなく、関連イベントの準備や取材の対応に追われていました。 先週の土曜日に作品解説会を終え、ようやくふうと一息つけました。 はじめて展覧会を担当して、改めて感じたのは、展覧会は自分一人でつくるものではないということ。 上司や、同僚、美術館ボランティアさん、印刷や会場作成の業者の方々、広報してくれるメ

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年勤めていた会社を定年退職した。定年まで勤め上げたとはいっても、父はその仕事が好きなわけではなかった。父がそこで働いていたのは生活のため。私たち家族のためだった。 コンクリート工場の作業員をしていた父は、汚い・きつい・危険の3Kが揃った仕事だといつも言っていた。 給料も高くはなかった。 退職金も僅かにしか出なかっ

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こんなにも静かな誕生日を迎えるのははじめてかもしれないなと思いながら、前の日の夜につくっておいたカレーを温めてひとり夕食をとる。 夕食を終えて、母に電話した。 朝に、母から「誕生日おめでとう」とLINEが来ていた。 ありがとう、とすぐに返事をしたあとで、「私を産んでくれて」と続けた。 いつもなら言わないけれど

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした言葉だが、今思い返すと、なんとも可愛げのない台詞だ。 そのときは、そっか、と相づちを打っていた夫だが、このときの台詞をのちのち夫は何度も引用することになる。 「ももは飽きっぽいはずなのに。全然ぼくに飽きないね?」とか。 「あれれ?つねに冷めているのは誰だっけ」などと、にやにやしながら言ってくるのだ。 あの頃

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんからの年賀状がテーブルにおいてあった。微熱さんイラストのかわいい年賀状にはおだんごさんの美麗な字でコメントが添えてある。 そこに「ももちゃん、愛してるよー」という一文を見つけてしまったぺこりん。 「ももが、ぼくの知らない人に愛されてる…!」と少し困った顔をしている。 これは、もしかして、もしかすると…やきもちかも

大叔母の品格

実家に帰省していた夜、「明日、初江おばさん(仮名)の家に一緒に行かないか」と父から誘われた。 初江おばさんは、父にとっての叔母。私にとっては大叔母に当たる。 私がいいよ、と答えると、父は少しほっとしたように見えた。 我が家は、親戚との付き合いが希薄だ。 特に父方の親戚とは、ほとんど連絡を取り合っていない。 もともとお盆や法事の際に顔を合わせるくらいだったが、私の祖父母が亡くなってから、さらに顔を合わせることが減った。 伯父が永代供養をして、墓をなくしてから、墓参りに行

美術館の学芸員を目指す人へ

今年度学芸員になったばかりのひよっこ学芸員が語るには、題が重すぎるという気もするのですが。 ここ最近、年度末にさしかかって学芸員の募集の案内をたびたび目にするなか、少しでも学芸員を目指す人の役に立てるならと思い、筆を執ることにしました。 ベテラン学芸員さんだからこそ書けることもあれば、最近受験したばかりの私だからこそ書けることもあるかもしれない、と思って。 学芸員試験を間近に控えている方向けの話もしつつ、将来美術館で働いてみたいなとぼんやり思っている方たちに向けてのお話

今年やりたい25のこと

昨年から、年初めに、ぺこりんとその1年のやりたいことビンゴをつくっています。 うえはらけいたさんのアイデアをお借りして。 しかし、昨年は、ハードルを高くしすぎたせいで、なかなか達成できず。 冷蔵庫に貼って毎日見ていたんだけどなぁ。 今年はハードルを高くしすぎず、かといってあまり低いものだけでもつまらないので、少し難しいものも混ぜながら、ビンゴをつくってみました。 それがこちらの25個。 ・部屋に飾る絵を描く フレームは用意しているんだけどね… ・農家レストランに行

年末年始の日記

どんな言葉から書きはじめようか、少し迷いながらパソコンに向かっています。 実家で過ごした数日間は、穏やかで、あたたかくて、しあわせなひとときでした。そんな数日間の思い出を書き残しておきたい気持ち。 実家から遠く離れた場所で起きたことでも、他人事とは思えなくて、かといって何を語ればいいのかわからない気持ち。 そんな二つの気持ちのあいだを揺れています。 両方のきもちを一つの記事にするのは、少し乱暴かもしれないとも思うのですが、今感じていることをそのまま言葉にしてみようと思

12月前半の日記

今日も日記を綴ります。 今回も長いので、つまみ食い推奨です。 つまみ食いのおともには、この曲を。 12月のある日 お昼やすみに、久しぶりに後ろの席の人と美術館のまわりを散歩する。朝晩は寒いけど、昼間はポカポカしている。 夕方、次の日の美術館のパフォーマンスのリハーサルをしていて、美術館に不思議な音が響いていた。 夜ごはんはイワシパスタをつくる。 オリーブオイルをフライパンにたらして、ニンニクを炒めてから、玉ねぎとイワシの水煮缶を炒めて、さっとお醤油をかける。梅干し

11月の日記

11月の日記です。ごはんと本のお話が多めです。 長文なので、気になるところだけ、つまんでください。 私の好きな曲を聴きながら、どうぞ。 11月のある日 美術館の展示室で、お客さまの前で解説をする日だった。 朝から緊張して、おなかが痛かった。 どんな話をしたら面白いのか不安だったが、参加者は少なかったけれど、聞きはじめた人たちは最後まで聞いてくれた。 上司も、「うまくまとまりましたね。聞きやすかったですよ」と褒めてくれた。言葉の少ない上司だけど、褒めるときはちゃんと褒

ご自愛はじめました

近頃、なんだか疲れがとれない、体が重いと感じることが増えました。 季節の変わり目のせいなのか、それとも仕事が忙しくなってきたせいなのか。あまり考えたくはないけれど、歳のせいなのか? 調子のいい日と思える日が少なくて、やりたいこと・やるべきことができていない不安と焦りから、ますます体調が悪くなっているような気がする… そんなことを感じていた私ですが、友達へのプレゼントをAmazonで物色しているとき、ふと自分にもプレゼントを贈ろうと思い立ち、「あとで買う」にしばらく入れっ

お母さんへ #贈りnote

お母さんへ お母さんはたまに私のnoteを読んでくれているので、読まれるかもしれないし、読まれないかもしれない手紙をここに書いておこうと思います。 お母さんは、私のnoteを読んで、「ももちゃんはお父さんの話をするときは、真面目で感動的なお話が多いのに、私の話をするときは面白おかしく書くよね」と少し不満気だったね。 でもさ、それはお母さんが面白おかしい人だからだよ。 私が小学生の頃、クリスマスの朝に、プレゼントが普段履いてる小さい靴下にぎゅうぎゅうって無理やり詰め込ま