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如月の日記

2月1日

30歳になった。
夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。

私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。

こんなにも静かな誕生日を迎えるのははじめてかもしれないなと思いながら、前の日の夜につくっておいたカレーを温めてひとり夕食をとる。

夕食を終えて、母に電話した。

朝に、母から「誕生日おめでとう」とLINEが来ていた。
ありがとう、とすぐに返事をしたあとで、「私を産んでくれて」と続けた。
いつもなら言わないけれど、今年は30歳という節目の歳だから、そんなに照れくさくもなく言えた。

「こちらこそ、私のもとに産まれてきてくれてありがとう」と母から返事が来ていた。

私は夕食後、その返事を書きながら、やっぱり電話しようと思い直す。

母に電話すると、「今日はももちゃんの誕生日だから、ももちゃんの好物のブリ大根食べたよ!」と報告される。

なに、その祝い方。

感動的なムードは微塵もなくなり、ただ近況報告をしあう。

書き言葉と話し言葉はこんなにもちがうのだ。


この週、私は土曜日も日曜日も仕事の予定だったが、急遽土曜日は休みをとることにした。夫にはそのときに誕生日を祝ってもらおうと企みながら。

昼休みに、土曜日は休むことにしたよ、と夫にLINEをすると、「はっぴー」と返事がきた。
そうか、はっぴーなのか。
はっぴーな夫を想像したら、私もはっぴーな気持ちになった。


次の日

私は、初の在宅ワークをした。
夫は、その前の二日間出張で疲れ切っていたため、年休をとっていた。

そうすると、どうなるか。

夫においしいお茶を淹れてもらったり、夫とピザの出前をとってランチにしちゃったり、ふとパソコンから目をそらすと夫の寝顔が見えちゃったりと、すっかり在宅ワークを満喫してしまった。

ちゃんとお仕事をしていたから何も悪いことはしていないのに、ほんのり罪悪感。

夕食は、照り焼きチキン丼。

夜に映画『ラストレター』を観る。故郷宮城の風景が美しく描かれていてうれしい。広瀬すずちゃん、森七菜ちゃんの瑞々しさに心洗われる。



次の日

気になっていたカフェに行く。ケーキ屋さんのすぐ隣にあるカフェ。私はチーズケーキ、夫がモンブランを注文する。

モンブランは、その場でイケメンなお兄さんがつくってくれていた。
夫は「ねぇ、イケメンな店員さんも写真に撮ったら?」と提案してくる。勝手に撮るのは失礼だよ、と断る。
というか、妻にそんな提案をしてくるのがおかしい。

チーズケーキは、見た目も、味もとっても私好み。誕生日ケーキにぴったり。

ケーキの周りのふちどりは
皿の模様ではなくチョコレート
  

帰ってきてから、ファビオ・スタッシ『読書セラピスト』を読む。相談内容に応じて、読む本を提案することを仕事にしようと模索する男の話。私が以前ノートで書いていた「ricetta」と重なるなと思いながら読み進める。この物語では、提案を受け入れてもらえることばかりではなくて、「あんたは本当に図々しい」とお客さんから言われたりする。そうなんだよね、アドバイスをするってどこか上から目線になってしまうところがあって、難しいんだよね。と思いながらも、いつか選書企画とかやってみたくもある。

夜は豆乳シチュー。職場の人が教えてくれたおいしいパン屋さんのチーズパン。チーズパンは冷凍したものを解凍したけれどおいしかった。

次の日

お仕事で美術館のボランティアさんの研修に同行する。バスに乗って県内の美術館を二つ巡る。

美術館のボランティアさんたちは、美術館のお手伝いをしてくださる、とてもありがたい存在。
定年後に社会とのつながりを求めてボランティアに参加してくださっている方が多い。毎月2日当番があるため、仕事をしている人や学生はちょっと参加が難しい。お年寄りの方々に参加してもらえるのもとてもいいことなんだけど、若い方でも参加できるようなプランがあってもいいな、と思う。

私とはかなり歳の離れたボランティアさんばかりだけど、美術を共通の話題として盛り上がれるから、あまり気を遣わない。熱心に勉強している方々ばかりだから、私も見習わなければ。

この日、珍しく上司がヒゲを剃っていたら、ボランティアさんたちから「あら、今日は一段といい男だわ〜」とチヤホヤされていておもしろかった。


次の日

おやすみの日。
外は雪。

なんだか身体が重いので、こんな日はゆっくり休むに限る。午前は窓の外の雪を眺めながら、音楽を聴いたり、お香を炊いたりする。

母が誕生日プレゼントとしてくれたお香立てに、「冬はつとめて」のお香を立てる。火をつけなくても、凛と澄んだ爽やかな香りがする。

午後も、昼寝したり、原田ひ香『ランチ酒』を読んだりする。おいしそうなものがたくさん出てきておなかが空いたから、夕食の用意をする。寒い日だから、キムチ鍋にした。

なかなか身体の重さがとれないので熱を測ってみると、熱がある。びっくりして夫に連絡すると、すぐに帰るよ、と言われる。

熱があるけど、食欲もあって、キムチ鍋をちゃんと〆のうどんまで食べたら、本当に病人なの?と夫に疑われる。


次の日

外は雪景色。熱は下がらない。

コロナの検査キットの結果は陰性。
でも、インフル疑惑が拭えないため、午前中は病院に行くために年休をとる。

家のすぐそばの病院で、インフルも陰性とわかる。いろいろと症状を話すうちに、胃腸炎だと診断された。胃腸炎だとわかっていたら、キムチ鍋は食べなかったのに。

疲れてくると、元気を出そうとして、ガツンとしたものを食べがち。でも、疲れているときこそ、胃に優しいものを食べないといけないんだよな、と反省する。

病院から帰ってきてお昼過ぎまで寝ていたら、熱が下がったから、午後から在宅ワークをする。

展覧会の直前でいろいろと仕事が溜まっているから、休んでいても休んだ気がしないのだ。
上司から、展覧会が「日曜美術館」でほんの少しとりあげてもらえることになった、と連絡がくる。お客さんが増えるといいなぁ。

夕食は、夫がつくってくれたたまごがゆを食べる。


次の日

午前中は、メンタリングのため本庁舎へ。メンタリングとは、新規採用職員が自分の職場では相談しにくいことを話せるようにと、グループがつくられて相談できる仕組みのこと。これまでにも数回あったが、今回が最終回。

特に相談したいことはないけれど、こういう時間を設けてもらえるのはありがたいなと思う。

午後からは美術館へ。在宅ではできない仕事がいろいろと溜まっていたから消化する。午後からは学芸会議。

夜ごはんは、ホッケの塩焼きと小松菜のお味噌汁。


次の日

また在宅ワーク。体調が悪くなる前に申請したのだけど、まだ身体が本調子ではないため、在宅にしておいてよかった、と先週の自分に感謝する。

胃腸炎のごろごろ感がつづいているから、朝は甘酒豆乳を飲み、お昼はヨーグルトにぺこりんがつくったいちごジャムを混ぜて食べる。

夜は、親子丼をつくる。

自分への誕生日プレゼントに買った本が3冊届く。少しずつ読もうと思う。


次の日

展覧会の会場で配布する小さなリーフレットの校正をする。回覧してみんなが入れてくれた赤をもとになおす。ひとりでは気づけないことにも、みんなに読んでもらうことで気づける。

添削してもらえるありがたさを感じながらも、赤の入らないnoteという場所があることに安心する。上達したいし、自由にも書きたい。

やろうと思っていたことを全部終わらせて、三連休!

展覧会の会期がどんどん近づいてきていて焦る気持ちもあるけれど、はじめての展覧会を楽しみたい。


次の日

ぺこりんも、私もおやすみの日。のんびり起きる。

パン屋さんとコーヒー豆屋さん、お花屋さん、スーパーを回る。

お花屋さんで久しぶりに枝物を買った。お花と枝をあわせても全部で千円ちょっと。ひかえめなボリュームだけど、家に飾るならこのくらいで十分かな。

一気に部屋が春らしくなる

枝物を生けるのは久々だから、なかなか思うとおりに活けられず苦戦した。苦戦しているうちにお花がポロポロ落ちてしまう。
落ちたお花は、ワイングラスに生けてみる。

夜はフルートレッスンに行ったあと、家に帰ってきてから映画『デリッシュ』を観た。
タイトルから、おいしいものが出てくるお話かなと想像していたけれど、革命前夜の18世紀という時代設定がよいスパイスになっていて、面白かった。映画『真珠の耳飾りの少女』を観たときも、ふとした一場面があまりにも絵画的で、動いているのが不思議に感じたが、この映画もそんな感じ。

次の日

ぺこりんとドライブ。まずは、おいしいお蕎麦屋さんに。
ここのお蕎麦屋さんは、一つ難点がある。
注文してからの待ち時間がとても長いのだ。
だいたいいつも注文してから40分後くらいに出てくる。

ただ、この恐ろしいほどの時間を待ってでも食べたいおいしさであることは間違いない。かれこれすでに私は5回ほど食べているが、毎回そのおいしさに感動する。

蕎麦屋を出たあとは、美術館へ。
『手でふれてみる世界』の上映会&トークに行く。

『手でふれてみる世界』は、イタリアのオメロ美術館を取材したドキュメンタリー。オメロ美術館は、すべての作品を手で触れることができる、という特殊な美術館。ヴァンジ彫刻庭園美術館の元学芸員の方が監督をなさっている。

オメロ美術館は、目の見えない人も美術作品を楽しめるが、目の見えない人のためだけにあるわけではない。目の見える人も、触れることで、見えてくることがある。

映画の中で、盲目の少女がオメロ美術館に通っている理由として、「ただ私は美術作品を楽しみたいだけ」と話していたのが、印象に残った。

触れられる、というのは美術館の中では特別なことでも、目の見えない人にとって、触れることは「見る」ために必要なことなのだ。

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』を読んだときもはっとしたことがたくさんあったけれど、今回の映画を見て、自分には知らない、知ろうともしていなかったことがたくさんあるのだと思い知る。

イタリアに留学しているときに、もしオメロ美術館のことを知っていれば行ったのにな…と後悔する気持ちもあるけれど、いまは日本で学べることを学びつつ、いつかイタリアにも学びに行きたい。

夜は、しらす&めかぶ丼を食べる。


次の日

私だけお休みの日。

永井宏『サンライト』を読み終える。
図書館で借りた『暮しの手帖』で紹介されていた本。気になって、自分への誕生日プレゼントとして買った。

まだ一読しただけだけど、これは私の宝物になりそうな本だ。そして、この本をプレゼントしたい人も思い浮かぶ。

好きなものや憧れを、こんなふうにまっすぐに書いてもいいんだなぁ。

少し昼寝をしてから、夕ごはんのカレーと、少し早いけれどヴァレンタインのケーキをつくる。今年は、バナナココアケーキ。バナナブレッドに、ココアパウダーを少し混ぜただけの簡単ケーキだ。バナナブレッドは、ほとんどミキサーまかせ。バターはほんのちょっぴり、そのかわりにヨーグルトを入れる。

スパイスカレー
バナナココアケーキ
まだほんのり温かくて
ふかふかしていた




30歳の誕生日を迎えて、なにか抱負のようなものを書こうかとも思ったのですが、特に浮かばず、いつもどおり日々のできごとを淡々と書きました。

30代というと、もっと大人な人を想像していました。でも、私はまだ少女のような気分が抜けません。いい大人がこんなことを言ったらおかしいかもしれませんが。

私は、まだまだ青くさい自分でいたいな、と思います。青くさく夢を語ったり、青くさく足掻いたりしたい。

一方で、歳をとるごとに少しずつ図太くなっていく自分もいます。
最近なにか失敗しても、まあいっか、と思えるようになってきました。それは惰性で生きるというのともちょっと違って、よし、次こそがんばろう、と思えるというか。私はこの図太くなってきた自分を結構気に入っています。

青くさく、図太く、生きたい。

抱負なんて書けないなと思っていましたが、それなりに抱負のようなものが書けました。

こんな私ですが、またこれからもよろしくお願いします。

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