原田マハ「異邦人」を読んで
「京都に、夜、到着したのはこれが初めてだった。春の宵の匂いがした。」
そんな描写から始まります。
「本日は、お日柄もよく」「楽園のカンヴァス」「総理の夫」などで有名な原田マハさんの最新作です。マハさんの作品は、いつもその情景描写の比喩というか、言葉選びが絶妙なため、さも自分がその場にいるように錯覚してしまいます。まるで映画をみているような感覚に陥るのです。とまあマハさんについての想いはこのあたりにして・・・
まずはこのタイトル。「異邦人」と書いて、「いりびと」と読みます。最後まで読むと、あぁなるほどなと味わえるので、説明は省略しますね。
あらすじとしては、以下の通り。
一枚の絵が、ふたりの止まった時間を動かし始める。たかむら画廊の青年専務・篁一輝(たかむら・かずき)と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていた——。
京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。
読後の感想としては、ラストの圧倒的スピード感は圧巻でした。ストーリーとして若干の昼ドラ感はあるものの、予想を超えるものでした。また今まで読んできた原田マハさんの作品の多くとは違う展開の終わりであるため、それだけに意見の分かれそうな作品だなと感じたものの、京都という本音と建て前が入り混ざる地においてハッピーorバッドエンドの単純な終わり方は無理だろうと思います。この終わり方だから良かったのではないかと私は思います。
私個人としては、ストーリーよりも、作品中に数多く登場する芸術作品や菜穂の感性を的確に表す、その描写の美しさに感動しました。こんな表現があるのかと。
個人的にお気に入りのシーンは、「睡蓮」との別れに沈む菜穂に語り掛ける、せんのセリフです。
「あんさんのお気持ちは、ようわかります。せやけどなあ、その『睡蓮』は、もともと、あんさんのもんやなかったん違いますか」
せんの言葉にはっと顔をあげた。
・・・(中略)・・・
「いままでも、これからも、誰のもんにもならへんの違いますか」
もとより、芸術家の創った作品は永遠の時を生きる。それは、永遠に、ただ芸術家のものであり、縁あって、いっとき誰かのもとにある。
その誰かのもとでの役目を終えれば、次の誰かのもとへいく。
そうやって、作品は永遠に伝えられ、はるかな時を生き延びるのだ。
そんなことを、せんは、ぽつりぽつりと話した。
現在京都で大学生活を送る私にとっては、余計に生々しく感じられる作品でした。今のところ今年一番の思い出に残る小説です。次回作も楽しみにしております。※表紙のデザインもいい味だしてますね、わかる人にだけわかるようなかたちで!