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起業と言葉vol.003 / YouTube

「伝え方を変えれば、世界は変えられる。」をミッションとするコミュニケーションテックカンパニー(株)NOBU PlanningのCEO兼コピーライター/クリエーティブディレクターで、縦型グルメSNS「Popdish」のCEO(Chief Eating Officer)をしています、起業家のノブです。元電通のコピーライターとして、今回は「起業と言葉」について触れていきます。第2弾から1年半の時が空いてしまいましたが、久しぶりの第3弾です。




スタートアップ起業家に必要な言葉のチカラ

スタートアップ起業の成功には、起業する分野などの先見性や時代感を含めたビジネスアイデアやビジネスモデル、創業者の想いや創業チームや組織カルチャーの強さ、ロジカルやファイナンスの強さなど様々な点が議論されるものの、意外と軽視されがちな言葉のチカラについて触れていきたいと思います。

ピッチの中でのコピーのチカラ

ビジョンミッションバリューが大事だ!という点は何度も耳にしているものの、スタートアップが避けて通れない、ピッチの中で言語化力、コピーのチカラについては、なかなか触れられることはありません。

しかし、本当に成功している起業家は、仲間集めや資金調達、そして何より目の前にいる顧客を動かすという点において、言葉のチカラを大いに活用し、未来を、世界をアップデートしていることに気がつきました。

私は、元電通のコピーライター/ビジョンライターであり、起業家として、起業家の生み出す言葉のチカラについて、分析していきたいと思います。

YouTubeのピッチデッキ

今回は、みんな大好き、YouTubeの事例です。(#いつもお世話になっております)ご存知の通り、YouTube は 2005年2月に設立され、そこからわずか1年後の2006 年に Google に 16 億ドルで買収されました。残念ながらYouTubeの初期のオリジナルピッチデッキは見つけることができず、世界最大手ベンチャーキャピタルであるSequoia Capital (アメリカで最も定評のある VC 投資家の 1 つであり、業界最高の投資家の 1 つとみなされる) に対する YouTube の提案資料にはなりますが、絵や写真などの装飾なし、文字だけというシンプルな構成ながら、調達のために必要な要素がたった10ページに凝縮されており、資金調達をする際に必要な資料はこの10ページの言葉だけで説明できることをわかりやすく示すピッチデッキになっています。

冒頭2ページで未来と夢を提示するスタイル

YouTubeのピッチデッキは、下記のシンプルな表紙と、下記のCompany Purposeから始まります。表紙には、画面のイメージなど載せたくなるところですが、Youtubeのピッチデッキはロゴとキャッチコピーのみです。私は電通でも国内企業のクリエーティブ業務がほとんどでしたので(#英語力不足)英語のコピーを書くのはファイナリストにも残ったヤングカンヌの日本代表選考の時ぐらいでしたが、「Broadcast Yourself.」は短くわかりやすい素晴らしいコピーだと思います。日本でのプロモーション展開時のコピーである「好きなことで、生きていく。」も投稿者の意志を感じられて、個人的にとても好きなコピーですが、「Broadcast Yourself.」は当時ビデオで自分を表現するプラットフォームが少ない中で、そのような未来を作っていくという企業の意志を強く感じるコピーだと思います。

シンプルだが、キャッチコピーがガツンとくる表紙

さらに表紙の次のページで、この企業のパーパスが説明されます。個人的には、こういったパーパスやビジョンミッションなどが、冒頭に説明される方が、何を目指している企業なのかわかりやすくて好きです。(説明する時間があれば、最初と最後でサンドイッチ(2回提示)して強く印象付けるのもおすすめです。)
”To become the primary outlet of user generated video content on the internet”
ここで主要なユーザー作成のビデオプラットフォームになることを宣言し、
誰もがそのビデオコンテンツにアクセスできるようにすることを目指しているという、わかりやすい宣言ですね。「Broadcast Yourself.」をよりわかりやすく説明したページとも言えますが、表紙と繋げることで、よりその強い意志が伝わってきます。

わかりやすい文章で、会社のパーパスを語る始まり


toCが陥りがちな課題不在(課題が弱い)問題を払拭

そしてこのYouTubeのピッチデッキでは、toCサービスが弱くなりがちになると言われる、強い課題をわかりやすく列挙しています。メールで動画リンクを送るのは今では当たり前になっていますが、2005年の時点では、確かに大きな課題だったかと思います。今ではメールでビデオファイルを送る場合は、Youtubeなどの動画プラットフォームのリンクか、ファイルストレージサービスのリンク送付が一般的になっていますが、当時はファイルを送れない、ということが大きな課題だったのだと思います。(dropboxをはじめとして、この前後に誕生したファイル共有サービスは多そうですね。)
そして、2005年の時点でYouTubeがビデオファイルの課題だけでなく、後半の二文(ビデオの標準的なフォーマットの不在、バラバラに点在するビデオファイル)から、すべてのビデオが集まり、送り合うことができる、総合的なビデオプラットフォームとしての未来の形を描いていたことが伺えます。起業初期は一つの課題を深掘りして解決していくことが正攻法とされていますが、世の中が複雑化、多様化している現在には、個々の強い課題を解決しつつも、プラットフォームとしてそれらバラバラに点在している課題をまとめて解決する、YouTube型のサービスが求められているのかもしれません。(#個々の課題の強さが重要)

当時のビデオファイルについてわかりやすく提示している

強いチームはそれだけでメインコンテンツになる

そのほかにも、このピッチデッキに迫力と説得力を与えているのがチームのページです。このページを意外と疎かにしている起業家も見受けられますが、YouTubeはあの有名なPayPalマフィアの企業の一つ。あのTeslaやSpaceXをはじめとした多くの企業を創業しているイーロン・マスクもPayPalマフィアの一人です。このPayPalの中でも、初期のエンジニア2人と最初のデザイナー(PayPalのロゴも作った!)がチームにいるということで、これだけで、投資家としては、ユニコーンを作った連続起業家並みの安心感がありそうです。

PayPalの初期メンバー3人が共同創業しているという、安心感とつよつよ感

FMFとはアイデアとチームのバランスのこと

もちろん、出自(どこの会社出身かや、経歴など)だけでなく、本人たちの描く未来やアイデアも信頼感を生んでいることは間違いありませんが、このTeamページが入ることでアイデアとチームのバランス、つまりこのアイデアを実現できそうなチームか、という問いに対して、説得力が違います。PMF(プロダクトマーケットフィット)の前に、FMF(ファウンダーマーケットフィット=起業家がそのビジネス市場に合っているか)が必要と言われますが、FMFとはアイデアとチームのバランスが取れているかということだと思っています。もちろん最初は一人もしくは共同創業でも数人の起業家しかいないチームだと思います。しかし、その起業家の経歴や、どれだけこの市場を変えたいか、どのくらい本気で新しい価値を生み出したいと思っているかという熱量と、アイデア実現までにかかる労力や時間を乗り越えられるかのバランスは、投資家も無意識にでも見ていると思います。

10ページ、言葉だけのお手本ピッチ

今回はYoutubeのピッチデッキを見てきましたが、本当にこの要素さえ揃っていれば、言葉だけでも資金調達は可能になるという、お手本のようなピッチデッキだと思います。逆に言えば、自社の資金調達用のピッチデッキがこれ以上のページ数になってしまう場合、課題が明確ではなかったり、ビジネスモデルが複雑すぎるのかもしれない、と思った方がいいのかもしれません。(もちろん当てはまらない企業や、補足説明が必要な業界もあるかもしれませんが・・・)

  1. 表紙(ロゴとキャッチコピー)

  2. Company Purpose(企業のパーパス)

  3. Problem(課題)

  4. Solution(解決策)

  5. Market Size(市場規模)

  6. Competition(競合状況)

  7. Product Development(製品開発状況)

  8. Sales & Distribution(販売戦略、ビジネスモデル)

  9. Team(チーム)

  10. Metrics(数値的な指標、トラクションなど)

言葉の手法=共感できる未来を語る

Youtubeは未来を描き、夢を語ることで、投資家から共感を生み、世界を変えていきました。ここでは、同じように企業が共感を生んで、ビジネスを加速させた広告事例を紹介します。

共感できる未来を語った広告コピー①サントリーホールディングス株式会社

広告コピーの世界でも同じように、共感を生んで世界を変えたコピーがあります。

正しく戻して
素晴らしい過去になろう。

サントリーホールディングス株式会社

新しい地図の3人を起用したサントリーのマナー広告です。この広告は、一見普通のマナー広告に見えますが、「素晴らしい過去」という言葉がポイントになっていると思います。通常は、「素晴らしい未来をつくろう」とか「明日の地球のために正しく戻そう」というコピーになりそうなところ、このコピーは「未来の人から見た、今の時代」という視点で言葉をまとめています。何気ない言葉選びのように見えますが、このコピーが書けるコピーライターが凄すぎて、畏敬の念を抱かざるを得ません。

共感できる未来を語った広告コピー②パタゴニア

「地球を救うためにビジネスを営む」

パタゴニア

アメリカのアウトドアアパレルブランド、パタゴニアは、今でこそ当たり前になった、リサイクル素材で商品を作っている企業です。パタゴニアは創業当初から地球環境に配慮した事業ドメインをぶらさず、目指す未来への共感を生んで事業を伸ばし続けている会社のお手本と言える存在です。そんなパタゴニアの企業理念が「地球を救うためにビジネスを営む」です。誰からも分かりやすく、かつ共感を生む言葉になっています。「地球を救う」というと一見大きすぎる夢物語に見えますが、商品が本気で環境に配慮して作られているため、言葉が一人歩きせず、地に足がついた言葉になっている素晴らしい例だと思います。地球を救うためのビジネス、シンプルにかっこいいです。

今回は、コピーライターの視点で、スタートアップやベンチャー起業家向けに言葉のチカラについてまとめてみましたが、起業をしていなくても、すべての会社の新規事業や、広告やマーケティング活動、企業の広報やPR活動においても、これからの時代に言葉のチカラは必須だと思います。
ビジョンライティングやブランドを規定する言葉を作りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください!(怖くないです!笑)

NOBU Planning CEO / ビジョンライター
縦型グルメSNS「Popdish」CEO(Chief Eating Officer)
nobu@nobuplanning.com
https://twitter.com/popdish_nobu

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