私道かぴ (安住の地)

安住の地 所属。http://anju-nochi.com 戯曲や小説やコラムなどを書きます。

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    マガジン

    • あなたも生きてた日の日記

      2022年は1つのテーマにつき2ケ月程かけて書いていきます。テーマは【ぬいぐるみ】【英会話】【身体】等を予定。すべては、あなたも生きてた同じ日に、起こった出来事です。

    • 道後温泉クリエイティブステイ日記

      道後温泉活性化プロジェクトのうち「クリエイティブステイ」の日記です。松山や道後のことを中心にリサーチ、創作を進める記録です。

    • もしもしからだ

      見逃しがちな身体感覚や、人間のふとした会話についてのコラム。時勢柄、コロナウイルスや、過去のことを考えるコラムが多めです。

    最近の記事

    あなたの生きてた日の日記51 (最終回)文章はコスパで測れるか?

    「毎週水曜日に1500-2000字のコラムを更新する」 この単純なルーティーンを続けて丸4年が経った。 来週更新したら5年目突入かあ…という境地で思うのは、「どれだけ書いてもやっぱり文章って難しいなあ」ということだ。だから、5年目に入る前に、ここで辞めることにした。 もう何度か書いているけれど、このコラムを始めたのは、かつて勤めていた出版社で上司から言われた「あなたの文章にはオチがない」という言葉がきっかけだった。 この上司は編集会議の際にミスを執拗に攻め立てたり、明らかに

      • ◎あなたも生きてた日の日記㊿地上86mの戦い

        先日、水戸芸術館へ行った。 水戸芸術館には特徴的な形をした大きなタワーがあって、街中で多少迷ってもそこ目掛けて歩いて行くと必ず到着できる。方向音痴にはありがたい建物だ。 32年前に建てられたこともあり、バブル期の景気のよさに任せた、とんでもなくお金がかかった作りになっている。水戸芸術館全体を見ても、相当な割合でお金が注ぎ込まれたそうだ。 何でもタワーは、斬新な設計と費用と施工期間の問題で、計画当初は反対意見も多かったらしい。しかし「シンボルになるタワーが必要だ」ということで

        • ◎あなたも生きてた日の日記㊾表現、この恥と切実さを含むもの

          何度目かの転職活動をしていた時に、ある出版社でこんな話を聞いた。 「数年前から原稿を持ち込んでくるお年寄りが増えて、仕方ないから自費出版部門を立ち上げたんだよね」 そこは月刊誌を作っている会社だったのだが、下町にある出版社だからか、ふらっとお年寄りが入って来て、「つかぬことをお聞きしますが、ここで本を作ることは可能ですか」と聞くのだと言う。そのうちカバンからスケッチブックや日記帳、原稿用紙の束を出して「これを一冊にしたい」と話すそうだ。 「そういう人が何人もいたから、じ

          • あなたも生きてた日の日記㊽ 休む、をやる

            年末に、身体を壊した。 公演が終わってから休むつもりでいたのだけれど、残務をできるだけ年内に終わらせようと欲張った瞬間、どえらい感じになった。 こういう時の症状は(友人たちに聞く限り)人によって色々あるらしい。風邪として症状が出るならわかりやすいのだけど、だるくて起き上がれないとか、常に頭痛がして治らないとか、耳鳴りが止まらないとか、「まだ何とかなるんじゃないか」と「ああもう絶対むりだ」の間をうろうろするような場合もある。 私の場合は、「食道が痛すぎる」だった。物を食べると

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            ◎あなたも生きてた日の日記㊼踊りを初めて観た人に教わったこと

            2022年は、コロナの影響もあって様々な芸術祭がぎゅぎゅっと開催された年だった。瀬戸内国際芸術祭、あいち2022、越後妻有 大地の芸術祭 2022、Reborn-Art Festival 2021-22、みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022…。 その中でも、特に印象に残っている「越後妻有 大地の芸術祭 2022」のある作品についての思い出を、今年が終わる前に書き残しておきたい。 ある作品と言っても、私はその作品を観ていない。チケットが取れなかったからだ。 それは

            ◎あなたも生きてた日の日記㊻ 馬に踏まれて粉砕骨折

            兵庫県神戸市で中学生時代を過ごした人限定の風習に、「トライやるウィーク」というのがある。 「トライ」と「やる」を掛け合わせたのだろうか。それとも「トライアル」を可愛く崩したのだろうか。言葉のセンスに一瞬「んっ?」と思うが、一度聞くとなかなか印象に残るナイスネーミングだ。 そんな「トライやるウィーク」、一体何なのかと言うと、職業訓練週間のことだ。中学生になったら、1週間何かの職業を体験する実習がある。場所は様々で、スーパーや文房具屋、おもちゃ屋に個人商店など実に多種多様な施設

            ◎あなたも生きてた日の日記㊺ 強い言葉の用法容量

            安住の地『凪げ、いきのこりら』の公演のため、シアタートラムに小屋入りした。 実際に公演を行う舞台に、風景が着々と立ち上がってきている。 朝からスタッフと劇団員が集まって挨拶をし、その後は照明、舞台、音響など各部署に別れてすばやく機材を運び込んでいく。 舞台には活気ある声が響き、時折笑い声が聞こえるなど、和やかな雰囲気だ。 思えばこんなに人がたくさん関わる現場は随分久しぶりで(コロナ禍で人数が制限されていたり、そもそも大規模な公演を打つことを避けていた節がある)、ヘルメット

            ◎あなたも生きてた日の日記44 無言でいいから電話して

            「ぜひお顔を見てあげてください」 お葬式の最後、そう言って故人の顔を見るように促されることがある。こういう場面では毎回「見たくない」と思いつつ、断ることがはばかられて、流れに乗って棺桶の前まで足を運んでしまう。 「眠っているみたいだね」 「生きてる時と変わらないね」 そう言って人々は泣く。 でも、心の中では思っている。生きてる時と同じなものか。その身体は何かが完全に失われて、今まで通りにならない現実を痛いほど伝えている。 ただ、本当はわかっている。皆そんなことは百も承知

            ◎あなたも生きてた日の日記㊸ いきのこりたい身体たち

            世田谷パブリックシアターの企画【ネクストジェネレーション】で上演する公演の稽古が佳境だ。タイトルは『凪げ、いきのこりら』。 劇場は「シアタートラム」と言って、これまで名だたる先輩たちが公演を行ってきた場所だ。今までよりもうんと規模が大きくなって、ひと頑張りどころかふた頑張り、ひゃく頑張りくらいしなければならない。 それはもちろん脚本のクオリティにおいても、演出方法においても、稽古場の作り方においてもそうだ。 今回は劇団員以外の役者さん(いわゆる客演さん)を三名お迎えして上演

            ◎あなたも生きてた日の日記㊷モノが動物にもどる時

            今年もとうとう年末に差し掛かり、段々と慌ただしくなってきた。一年を振り返ることも多くなってきた最近、改めて今年見た展示のことを振り返ってみた。 今年はコロナで会期がずれ込んだビエンナーレやトリエンナーレが多く開催され、また地方に行く機会を多くもらったこともあり、例年よりも美術の展示をたくさん見ることができた。 その中で「いちばん強烈だったものはどれか?」と考えたとき、指の先がむずむずするような感覚を思い出した。視覚ではなく触覚で記憶されたその展覧会は、おそらく2022年で

            ◎あなたも生きてた日の日記㊶ 犬から知るかつての子育て

            久々に実家に帰ったら、知らない犬がいた。 正確に言うと「まさか本当にいると思わなかった犬」がいた。というのも、数か月前に母から「犬を飼えないかという話があって、迎えるかどうか迷っている」と聞いていたのだ。しかし、私は「やめておいたら」と言った。 家には、もうすでにチワワが一匹いたからだ。 そのチワワは、我が家のペット歴で言うと二代目で、先代のチワワが昨年亡くなった際に、母があまりにも寂しがるので迎え入れた。 チワワと言っても一匹目と二匹目の性格は全然ちがう。 先のチワワは「

            ◎あなたも生きてた日の日記㊵ ヒーローに求められるもの

            およそ25年振りに、東京ドームへ行った。 後楽園駅に降り立った際にスタジアムを見上げて抱いた最初の感想は、「球場でかっ!」そして「こんなに大勢の人が野球を見に来ているのか…!」だった。 今年の初めに上演した『¡play!』というスポーツを題材にした演劇にも書いたけれど、私はこれまでの経験上、野球にあまりいい思いを持っていない。故に球場は長らく避けてきた場所だった。 ではなぜ今回出向いたのかと言うと、「もうそろそろ大丈夫なんじゃないか」と思ったことと、「現代の野球の試合という

            ◎あなたも生きてた日の日記㊴ ゲストハウス、各自のルール

            昨年から徐々に、各地で滞在制作をする機会が増えてきた。 滞在場所に応じてホストの方々が寝泊まりする場所を手配して下さる場合も多く、この話をするとよく友人に「いいなー」「旅行みたいで楽しそう」と言われる。 ただ、その環境は様々だ。宿泊するのはゲストハウスやレジデンス施設であることが多い。いつでも清潔で、プライバシーが必ず守られる環境であるとは限らない。他にも寝泊まりしている人や、場合によってはそこに住んでいる人もいる場所に一定期間滞在する、というのは自宅と違って様々なストレス

            ◎あなたも生きてた日の日記㊳ 声は身体コミュニケーションか?

            以前取材の際に聞いたエピソードで、印象に残っているものがある。 それは、話し手であるお父さんの、息子さんとのコミュニケーション方法についてだった。 「昔から、僕と息子は顔を合わせないで話をすることが多かった。彼が思春期になった今、そのことがかえって良かったんじゃないかと思うことがある」 聞くと、お父さんも、その息子さんもどちらかと言うと話下手で、日常で積極的に会話をする関係性ではなかったらしい。間に母親が入って会話が成立することが多かったと言う。 「だから、幼稚園の送り

            ◎あなたも生きてた日の日記㊲初めて経験する痛み

            正直言うと、なめていた。 他人が突然「あー待って、つる、つる!」と言って突然動きを停止することを、その後「あーやばい、つった!」と言って苦悶の表情で足を掴むことを、全然理解できなかった。 私は足がつったことがない。 だから他人が「足がつった」という状態にある時には、必ず「予測」の時間になる。どれくらい痛いのか、どの程度動けないものなのか全くわからないので、つらそうな本人に「これ止まっておいた方がいい?」とか、「まだ時間かかりそう?」とか聞いていた。 今振り返るとなんて残酷な

            ◎あなたも生きてた日の日記㊱ 誰にも聞かれなかった話を聞くこと

            地方に滞在制作に行くようになって、人に話を聞く機会が増えた。 普段はそれを「リサーチ」という名で呼んで、なんだか大層なことをしているようだけど、やっていることは至って単純、ただ会話をしているだけだ。 「今日はずいぶん冷えますね~」 こういう具合に、まずは気候の話から入る。昨日は天気がよかったのにねとか、朝はえらく寒いねとか、話題が少し広がったら、そこから会話を転がしていく。 庭先で会った人なら植物のことを聞いたり、駅の待合室なら行き先を聞いたり、時には「アーティストとして