私道かぴ (安住の地)

安住の地 所属。http://anju-nochi.com 戯曲や小説やコラムなどを書…

私道かぴ (安住の地)

安住の地 所属。http://anju-nochi.com 戯曲や小説やコラムなどを書きます。

マガジン

  • どこかでだれかときいたはなし

    劇作家・美術家の私道かぴが、作品づくりのために行った先々で聞いた話、経験した出来事について書いたコラムです。毎週水曜に更新します。(2024年1月~)

  • あなたも生きてた日の日記

    2022年は1つのテーマにつき2ケ月程かけて書いていきます。テーマは【ぬいぐるみ】【英会話】【身体】等を予定。すべては、あなたも生きてた同じ日に、起こった出来事です。

  • 道後温泉クリエイティブステイ日記

    道後温泉活性化プロジェクトのうち「クリエイティブステイ」の日記です。松山や道後のことを中心にリサーチ、創作を進める記録です。

  • もしもしからだ

    見逃しがちな身体感覚や、人間のふとした会話についてのコラム。時勢柄、コロナウイルスや、過去のことを考えるコラムが多めです。

最近の記事

どこだれ㉘ 六ヶ所村で考えた

いつ誰に聞いたのだったか、「六ヶ所村はおもしろいから行った方がいいよ」という言葉がずっと頭に残っていた。 恐山へ向かう途中にあった看板に「六ヶ所村」という文字見た時、これも何かの縁かと思い、訪れることにした。 しかし、先の言葉の「おもしろい」という意味がどうやら一般のそれではないことを、村に入る前から薄々感じ始める。 本当は、下北半島を走っている最中から度々目に入っていたのだ。それは、地面からにょきにょきと生えたかのような巨大な風力発電機群だった。緑豊かな中に、真っ白な風

    • どこだれ㉗恐山へ行ってきた

      少し前になるが、青森県の恐山に行ってきた。「イタコの口寄せ」が有名で、「人は死ねば恐山に行く」と言われている霊山だ。 きっかけは盲目の女旅芸人「瞽女」についての作品をつくったことだった。 瞽女ミュージアム高田には「瞽女マップ」なるものが展示されていて、日本全国の瞽女の概要がわかる。その中の、青森県の欄にあった以下の文言がずっと気にかかっていた。 「津軽藩 盲男女が数えられるが、瞽女、イタコの区別がつかない」 区別がつかないということは、似た役割を担っていたということだろ

      • どこだれ㉖ある日の雨宿りのこと

        京都での稽古後、「あ〜降りそうだな」という曇天の中歩いていたら、ぽつぽつ、と大粒の雨が肩に落ちた。 「まだ大丈夫かな」と歩き続けると、ピカっと空が光ったのを合図に、滝のような土砂降りになった。折り畳み傘ではとても対応できず、目の前のビルの一階、駐車場となっているスペースに駆け込む。その数秒後、とんでもない大雨になった。 先程まで歩いていた道が川になっていくのを見ながら呆然と立ち尽くしていると、自転車を押した2人組がずぶ濡れで駆け込んで来た。 観光客だろうか、スマホで地図を見

        • どこだれ㉕ 戯曲を書いてよかった

          2022年に、「脱げない」という戯曲を書いた。これは、ファストファッションや綿農家の現状を集中的に知る機会があり、その時の「書き残しておこう」という気持ちだけで一気に書いた作品だ。それゆえ上演のあてがないまま出来上がった。ありがたいことに第8回せんだい短編戯曲賞の最終候補に選ばれたので、その年の戯曲集に掲載されている。 日本の若い女性の貧困とバングラデシュのファストファッションの工場での労働をテーマにした短編で、テーマがテーマなだけに、自分が書いた他の作品と比べてメッセージ

        どこだれ㉘ 六ヶ所村で考えた

        マガジン

        • どこかでだれかときいたはなし
          30本
        • あなたも生きてた日の日記
          44本
        • 道後温泉クリエイティブステイ日記
          8本
        • もしもしからだ
          43本

        記事

          どこだれ㉔ 100年という時間をつなぐこと

          最近、気づけば100年という時間の流れについて考えている。 きっかけは、米津玄師の『さよーならまたいつか!』を耳にしたことだった。「さよなら100年先でまた会いましょう」「100年先も憶えてるかな」と歌詞に幾度も100年という単位が出てくるのだが、それを聴いてふと学生演劇の頃によく読んだ寺山修司の言葉が思い出された。 「百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」 学生の頃は、この言葉の意味がよくわからなかった。しかし、わからないながらも何だか予言めいてい

          どこだれ㉔ 100年という時間をつなぐこと

          どこだれ㉓ 新潟の印象って何ですか?

          「新潟の印象って何ですか?」 1か月半に及ぶ新潟での滞在制作の最中に、何度こう聞かれたかわからない。その度に、言葉につまる自分がいた。今回は「瞽女」というテーマに集中して制作していて、「新潟」という観点で土地を見ていなかったのでなかなか即答できなかったのだ。「えっと…鳥が多いなと思いました」と見当違いな返しをしてしまったこともあった(けれども実際に鳥は多いと思う。公園でおにぎりやパンを食べていると必ず鳥がおこぼれをもらいに来るので…)。 同時期に滞在していた盲目の美術鑑賞者、

          どこだれ㉓ 新潟の印象って何ですか?

          ◎瞽女さを追いかけて見えてきたもの

          今回の制作は、新潟県にあるゆいぽーとのアーティスト・イン・レジデンス事業「招聘プログラム2024春季」の支援の元で実施した。瞽女についての知識はほとんどないまま新潟を訪れ、制作を始める際、方向性を考える上で大きなきっかけになったのが、同時期に滞在していた全盲の美術鑑賞者、写真家の白鳥建二さんの存在だった。 滞在開始から数日後、白鳥さんの出演された映画が自主上映されると聞き、観に行くことにした。以前、白鳥さんについて書かれた本『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(著:川内有

          ◎瞽女さを追いかけて見えてきたもの

          どこだれ㉒ 知らない人に話かけること

          新潟での滞在が続いている。最近気づいたのは、道を聞いても、バス乗り場を聞いても新潟ではなかなか会話が続かないということだ。これまでの場所では、最初の質問のあとに「どこから来たの?」と聞いてもらったり、「運賃って先払いですか?」と尋ねることができる雰囲気があったりでしばらく会話ができたのだが、今回はそもそも答えてくれた人がスマホを見てしまったり、他の方を向いてしまうことが多く、続きを話すタイミングをなかなか掴めない。新潟の人曰く「新潟の人はそう言われるとシャイかもしれない」とい

          どこだれ㉒ 知らない人に話かけること

          どこだれ ㉑ もういない存在を語り継ぐこと

          大学生の頃、他学部の授業によく潜り込んだ。ある日たまたま出たメディア系の授業に、ゲストスピーカーとしてある音楽プロデューサーが来ていた。名だたるミュージシャンの曲をプロデュースしたというその人は、自己紹介としてこれまで手掛けてきたMVの映像を見せ始める。その中に、X JAPANのHideの作品があった。当時私は、Hideの楽曲を使ったミュージカルのチケットを知人にもらったことから、勉強しておこうと曲を聴き始めたばかりだったので、偶然に胸が高鳴った。授業の最後の「何か質問があっ

          どこだれ ㉑ もういない存在を語り継ぐこと

          どこだれ20 ホタルを知らずにいたかった

          ある滞在先であてもなく歩いていると、田畑が混在する広々とした場所に出た。抜けるような青い空がどこまでも続くなか、視界の隅に違和感があった。見ると、ぽつんとコンテナが建っている。何だろうと思い近づくと、コンテナはどうやらお店のようだ。たまたま出てきた男性に聞くと、農業を営む一家でやっているレストランだと言う。話をしてくれたのはそこの父親で、数年前に農地の一角にあるコンテナを改装して、週末だけオープンするお店を始めたそうだ。自分の作った野菜が購入され、料理され、人の口に入るまです

          どこだれ20 ホタルを知らずにいたかった

          どこだれ⑲ 養蚕の神楽を見に行った時のこと(2)

          群馬県には、もう一つ養蚕をテーマにした神楽がある。毎年5月3日に開催されている、「春日神社太々神楽(だいだいかぐら)」の蚕の舞だ。もともと前橋市の重要無形民俗文化財に指定されていたところ、ちょうど今年、群馬県の重要無形民俗文化財に認定されたそうだ。前回取り上げた赤城神社よりも紹介されているHPが多く、注目度が高い印象を受けた。 そんな春日神社に、今年のGW、念願叶って行ってきた。日差しが痛いくらいの晴天のなか、神社めがけて歩く。辺りは高い建物が一切なく、どこまでも視界のすぱ

          どこだれ⑲ 養蚕の神楽を見に行った時のこと(2)

          どこだれ⑱ 養蚕の神楽を見に行った時のこと(1)

          昨年の4月、群馬県の赤城神社に行った。 この神社の【下南室太々神楽】で「養蚕の舞」が行われていると知ったからだ。この神楽は江戸時代頃から続いているとも言われていて、県指定の重要無形民俗文化財に登録されている。 「毎年4月の第一日曜に実施」という情報しかなく、役所に時間を問い合わせてみると「神楽自体は10時から行われる予定だが、養蚕の舞が何時頃なのかはわからない」とのことだった。ひとまず行ってみるしかないようだ。 当日、「群馬は本当に平坦な土地なのだなあ」と思いながら田んぼや

          どこだれ⑱ 養蚕の神楽を見に行った時のこと(1)

          どこだれ⑰ 京都の民藝店で教わったこと

          学生時代、京都の出版社で手伝いをしていた。ある特集で「民藝」がテーマになったのをきっかけに、人生で初めて民藝に触れることになった。 当時は大学生になり2年目の春で、初めて1人暮らしをする上で「借りた部屋には自分がものを持ち込まなければなにもないのだ」という当たり前のことを知った頃だった。空の食器棚を開けては「自分で買いそろえないと、食器は1枚もないんだな」と気づき、手を出したのはIKEAや100均の食器だった。プラスチックのお皿は軽くて扱いやすいし、安い食器は割れてもまた手

          どこだれ⑰ 京都の民藝店で教わったこと

          どこだれ⑯ 蚕に教わったこと

          今年も蚕を飼っている。 昨年「かいころく」という養蚕にまつわる演劇を作り、長野県の大桑村と兵庫県の豊岡で上演した。その脚本を書く際に、蚕の生態をこの目で見たいと思い、自宅で飼ってみたのだ。その子たちが産み残した卵を保管していたら、今年は春先に急にあたたかくなったのもあり、わらわらとあっという間に孵ってしまった。昨年は、最後の脱皮を終えそこそこ成長した状態の蚕を飼った。夏だったので人間が寒く感じるほどの温度設定にして飼育した覚えがある。今年は種から、春の蚕、いわゆる「春蚕(はる

          どこだれ⑯ 蚕に教わったこと

          どこだれ⑮ 幽霊話がいやだったわけ

          「ホールの下手の奥の方、出るらしいですよ」 ある滞在中、何人かで会場の下見をしている時に、ホールの担当者がそう言った。「えっ本当ですか?」と別の関係者が尋ねる。 「何人も見たって言うし、霊感ある人は下手で待機したくないってよく言います」 こういう類の話は、演劇に携わっていると至る所で聞く。髪の長い人がいたとか、誰かの声がしたとか、どれもどこか似通っている。こういう話が全くないホールって存在するのだろうか?と疑問に思うくらいだ。 「そういえば...」と、カメラマンが話を続

          どこだれ⑮ 幽霊話がいやだったわけ

          どこだれ⑭ 地元神戸、知らなかった街のこと(後編)

          神戸をテーマに創作するにあたって、まずは震災のことを今一度知らなければと思った。足を運んだのは、HAT神戸にある【人と防災未来センター】だ。阪神淡路大震災の記憶を語り継ぎ、教訓を今後に生かす防災学習施設として2002年に開館した施設で、公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構が管理運営を担っている。 (ちなみに、HAT神戸のHATは「Happy Active Town」の頭文字を取ったもので、この地域には復興住宅街として神戸市内でも最大の約3500戸が建てられている。震災

          どこだれ⑭ 地元神戸、知らなかった街のこと(後編)