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黒田 浩太郎/クロファーム

法人名/農園名:クロファーム
農園所在地:熊本県八代市
就農年数:4年
生産品目:生姜、イチゴ、柑橘類(ネーブル、デコポン、晩白柚)、米
HP:https://kurodafarm.thebase.in/
SNS:kurofarm0801

no.225

パティシエやシェフが調理したメニューのおおもとを自分が作っているんだ

■プロフィール

 生姜(ショウガ)の生産量全国2位と、晩白柚(ばんぺいゆ)の産地で知られる熊本県八代市で、生姜と柑橘農家の2代目として生まれる。幼い頃から両親とともに生姜の収獲などを手伝い、「農業はキツイ仕事」という印象を抱いて育った。

 母の母校である熊本農業高校に進学し、さまざまな農家のもとで研修したり、授業で桃の栽培を1年かけて経験したことで、就農への意欲が高まる。卒業後は熊本県立農業大学校で、ブドウやみかんの農園などに赴いて実習を経験。

 卒業した2016年からは国際農業者交流協会(JAEC)の農業研修プログラムを利用して、米国で2年近くインターンシップ生活を送る。

 帰国後の2019年に親元就農を果たし、両親と一緒に生姜や柑橘類、米を育てながら、地域で使われていなかったビニールハウスを借り受け、イチゴの栽培を始める。

 当初はJA出荷がメインだったが、3年目以降は熊本市内のカフェなどに原材料としてイチゴを卸すようになった。養蜂農家とコラボレーションしたイチゴソフトクリームや、ジャムなども人気だ。

 自治体と若手農家が一緒になって立ち上げた「やつしろ農業の魅力アップ」プロジェクトでは、地元・八代の魅力を伝えるため、旅をしながら収穫の手伝いをしてくれる「おてつたび」の受け入れも始めたばかり。

■農業を職業にした理由

〜生姜の収穫を手伝った子供時代
 生姜の生産量全国2位の熊本県内でも、八代市は大正末期に栽培が始まった生姜と柑橘類が特産になっている。

 子供の頃から生姜やデコポン、晩白柚の栽培の手伝いをしていたが、例年秋になると、大人の腰ほどまでに成長した生姜を手で掘る作業をするたびに「キツイな、しんどいな」と感じていた。

 特に東陽地区は、地形的には山間の谷に位置し、段々畑で栽培する関係で機械の導入が難しく、ほとんどの農家が高齢になっても、人力で作業していた期間が長かった(最近は収獲だけは機械を導入するが増えている)。

 周囲も農家の子女ばかりで、将来の選択肢が乏しいなか、母の出身校である熊本農業高校に進学し、ブドウやみかんなどの観光農園で実習したり、桃の栽培を体験したことで、「農家はいろいろなことができる」「自分でもこんなに美味しい桃ができるんだ」と気づきを得る。

〜米国の大規模経営に触れて、故郷の良さに気づく〜
 「美味しいものを食べる喜びを提供したい!」と、熊本県立農業大学校でさらに2年間勉強する。

 卒業後はアメリカに留学し、愛媛出身の同期と共に生活しながら、オレゴン州の大規模果樹園で、メキシコ人と一緒に梨やブルーベリー、リンゴの収穫作業に従事する。八代では主流だった手作業中心の農業とは正反対の機械化・効率化を極めた大規模経営を体験したことで、コンパクトな環境に、さまざまな魅力が詰まった故郷の良さを再発見する。

 帰国後、かつて研修したブドウ農家に相談した際に勧められ、それまで考えたこともなかったイチゴのハウス栽培への挑戦を思いたつ。地元で、長年使われていなかった空きハウスを見つけて、半年かけて環境を整えながら、父親の知人だったイチゴ名人のもとで栽培を学んだ。

〜お客さんの顔が見える販路にこだわる〜
 東陽地区は地形的にイチゴを作るには不利だが、その分、ゆっくり時間をかけて糖度を高めて完熟させた状態で収穫する完熟イチゴを作って、販売している。

 2022年には農協出荷から切り替えて、「お客さんの顔が見える販路」にこだわり、飲食店や道の駅などに卸して直接販売するようになったことで、販売単価も高くなった。

 顧客のひとつであるカフェのパティシエからのアドバイスがヒントとなり、フルーツには珍しい「エビベリー」という名前をつけ、子供がそのまま食べても安心なように農薬を極力減らして、害虫駆除には天敵を利用。地元の西岡養蜂園のハチミツを使ったソフトクリームや、ジャムなどとのコラボレーションにも熱心に取り組んでいる。

■農業の魅力とは

 学生時代に、ブドウ園やみかん農家など、いろいろな農家のもとで実習を受けた経験を通じて「農業っていろんなことができる!」「とても可能性に満ちている」と考えるようになりました。それは今も変わりません。

 今、「エビベリー」と名付けたクロファームのイチゴをケーキ屋やカフェに卸していますが、パティシエやシェフが調理加工したメニューでも、そのおおもとになる原料は「自分が作っているんだ!」という自負があります。

 買ってくれる人の顔が見える販売にこだわっているので、道の駅やマルシェに参加するときに、おじいちゃんやおばあちゃんから「美味しいイチゴだねえ」と褒めていただくと、作物の一番美味しい時期を知っている農家だからこそ提供できる味だと誇らしくなります。

 アメリカの農業留学では、オレゴン州の巨大果樹農園で同期と2人で生活しながら1年余り働きました。農園主の右腕のメキシコ人と一緒にトラクターに乗って、片言のスペイン語でメキシコ人の労働者に指示を出していました。

 大型農機を駆使した大規模経営でしたが、農園の周囲は40kmくらい車で走らないと、飲食店や娯楽施設は何もなかった。渡米して2カ月間はワシントン州のビッグ・ベンドカレッジで英語やスペイン語の語学研修を受けたけれど、メキシコ人とのコミュニケーションには苦労したし、日本食が恋しいと思うこともありました。

 海外経験で得られたことは、一緒に留学した農業仲間とのコミュニティと共に、生まれ育った八代の魅力を再発見したことです。

 典型的な中山間地に位置する東陽地区は、地形的に日照時間が短く、イチゴの栽培には本来向いていません。段々畑が多いので農機を導入しづらいなどのデメリットもある反面、熊本市内に出て行くのは簡単だし、自然豊かな環境でキャンプやテントサウナを楽しむこともできるのです。

 両親も例外ではありませんが、農業をやっていると、特に高齢者は農家以人の人と出会うチャンスがありません。僕は八代の豊かな自然を利用した遊びの要素を農業に取り入れることで、外の世界から若い人たちを呼び寄せ、地元の人と交流するチャンスを増やしたいと考えています。

 自治体、若手農家と一緒に「やつしろ農業の魅力アップ」プロジェクトを立ち上げて、「おてつたび」を利用してやってくる若者たちに八代地域の魅力や農業の魅力を伝えたい。

■今後の展望

 僕は今、10アールほどの面積のハウスで2トン、約1万パックのイチゴを作りながら、両親の代からの生姜や柑橘、米も生産しています。2023年は病気が出たり、苗の数が足りなかったこともあって半分の面積でしか栽培できませんでしたが、今後、これ以上イチゴを増やす計画はありません。

 両親も年金をもらう年齢が近づいているので、経営権の継承も視野に入れていかなければならないと思っています。

 また、東陽町の特産である生姜についても、地域農業の火を絶やさぬよう、耕作放棄地などを活用して、生姜の生産基盤を維持していきたいと考えています。

 2023年には、少しの傷などで正規品として売れない生姜をメルカリで売ってみたんですが、B品であっても正規品と変わらない値段で売れることを知りました。生姜にはまだ伸び代があると思っています。

 八代市では毎年10月になると「東陽しょうが祭」が開催されます。2020年に八代生姜がGI(地理的表示)マークを取得したことも手伝って、近年、ますます盛り上がっています。僕も出店しましたが100kg分の生姜があっという間に完売しました。

 今後はガリや紅生姜に加工して付加価値をつけて売りたいと思っています。実は近隣の食品製造加工会社に協力してもらって、試作している最中です。キャンプやテントサウナなど、アウトドアで過ごすときにスナック感覚で食べられるガリや紅生姜を開発したい。2024年以降はしょうが祭で紅生姜たっぷりの焼きそばや、生姜焼きなどのメニューも提供したいと思っています。

 泥くさいやり方に思われるかもしれないけれど、生姜は手売りがいいと思ってるんです。コロナ禍でかなり販売価格が下がってしまって、地域の農家もあとつぎがおらず、高齢化する一方ですが、生姜の産地として残していきたい。

 稼げる農業を目指しながら、若手農家を増やし、女性が活躍できるようにするなど、新しい農業のあり方を常に模索しています。

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