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2023年2月の記事一覧

【詩】皮

彼氏面でも被害者面でも
好きな顔をすればいいよ
化けの皮を剥がすのが好きな人たちと
そのための皮を被っている人たち
新しいカップでコーヒーを飲んだら
驚くほど美味しくなくて
くやしいから世界で一番
幸せそうに生きようと思った
あの頃とは違う風景になっても
土の下には同じものが埋まっている
あの頃とは違う顔をしている
君の瞳に同じ涙

【詩】速い車

赤と白のお祭りの日
私たちはみんな
みずみずしい双葉みたいに
だれの区別もつかなかった
速く走りすぎる車に乗って人々は
置き去りにされたことも知らずにいる
美しい景色が見たかったわけじゃない
ただ自分の足で歩きたかった
誰も知らない向こう岸まで

【詩】見逃してあげる

締め付けない下着
シャンプーの香り
余った太陽の光
私たちはよく似ていると思っていたけど
そうでもなかったみたい
花束を買ってはいけません
ここでアイスを食べないでください
今日だけは見逃してあげます

【詩】転生する魚

子どもが歌っている
大人も歌っている
短いズボンを履いた人も
長いブーツを履いた人も歌っている
君がいなくなってしまう本当の理由は
元の世界に帰らないといけないから
月に帰っていったお姫様みたいに
そうでしょ?
泳ぎ続けなければ死んでしまう魚
死んでしまうあなたと私
流れていつか海に出て
蒸発して雨になって
気づいたらまたひとつの白い波

【詩】西日

白い夜に足が生えて
青い空に逃げていった
朝の澄んだ空気を
きちんと汚していく人の営み
適当な答えを言えば
よかったのかもしれない
帰り道が分からなくなることも
もうめったにないし
夕方の澱んだ空気を
きれいに焼き払っていく赤い西日
いつもより世界が眩しく見えるんだ
気のせいなのは分かってる

【詩】彼女

おはようも さようならも
ここでは同じ絵文字だった
便利だから使っているけど
実は全然しっくり来てない
あの映画の主人公は最後に
何を言おうとしたんだっけ
こんな事なら歯も磨かずに
さっさと眠ってしまいたい
天国を信じていない彼女と
地獄みたいに静かな場所で

【詩】補色

こんなにきれいな便箋に
気持ち悪いラブレターを書くなよ
質問されたからって
すべてに答えなくても別にいいから
夜にだけパレットに浮かぶ色を使って
確かめたいことがあるんだ
ぼくらが混ざって灰色になる日まで
このまるい星の端と端に立ち
濁った世界を見つめている