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2022年5月の記事一覧

【詩】紅水晶

君が教えてくれたのは
光の海が現れる季節
誰かに優しくする理由
正しい約束の破り方
"好き"でもなく
"嫌い"でもなく
その間でもない
まったく別の場所にある
愛に似た結晶体

【詩】明白

僕たちは
絶交したわけでもなく
別れの言葉すら
ろくに交わしていない
今日も
同じ国に住んで
同じ朝日を浴びて
同じニュースにうんざりする
だけど
もう二度と会えないことだけが
こんなにも確かに分かっている

【詩】君の目に焼き付いた銀色の海

君の目に焼き付いた銀色の海
彼が綺麗だと言った銀色の海
あの人が背を向けた銀色の海
私の足にからみつく銀色の海

海は今日も同じ場所で光り続けている
あの日のことなど何も知らないままで

【詩】神様も、天使も、死神も、みんな同じような顔をしている。

【詩】神様も、天使も、死神も、みんな同じような顔をしている。

神様も、天使も、死神も、みんな同じような顔をしている。
見分けがつかないと言うと、見分ける必要はないと言われた。
望んでいたはずの終わりはあまりに呆気なく、
危うく通り過ぎてしまうところだった。

神様との決別の日。
(日付は何度も書き直している。)

あと何回思い出すのでしょうか。
今日のことを。
思い出すたび、
鉛が砂に沈むように、
少しずつ胸に押し込まれて、
いつかは見えなくなるのでしょうか

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【詩】新しい王子様

新しい王子様が産まれたので、その日は国民の祝日になった。
でもほんとうはずっと前から、私だけの記念日だったのに。
新しい王子様はどろぼうだ、どろぼうだ。
そう言って、大声で泣きながら歩いていたら、
いつのまにか牢屋に入れられてしまった。
私がここにやってきたのは、そういうわけなのです。

【詩】翼のあと

”折れてしまった翼の痕をなぞって、手紙を書きます。
猫たちは元気だし、僕も元気です。
新しい恋人は、僕が起こさなくてもちゃんと起きてきて、
一緒に朝ごはんを食べてくれます。
外国語も教えてくれます。
洗濯のやり方は僕が教えました。
猫たちも懐いています。”

死ぬまでに使い切れないほどの
光、光、光

あなたがくれた翼は偽物だったけど
僕にはそれで充分だった

【詩】忘れられずにいるよ

誰もが生涯忘れないと言う
恋の苦さや愛の深さを
私はすぐに忘れてしまう
そのかわりに
長いスカートからちらりと見えた
靴下の色が完璧だったこととか
真剣に話す君のTシャツに
書かれた外国語のでたらめさだとか
そんなことばかりを
いつまでも忘れられずにいるよ

【詩】寒い夜

人の話ばかり聞いていないで
君の話を聞かせてよ
月と、雲が、そう言っている
木々と、電球が、笑っている
黒緑の空がそれを眺めている
つめたい風の金曜の夜

【詩】希望の地図

何年も何十年も
同じ場所をぐるぐると回り続けているように見えた
その人が足跡で描いていた希望の地図は
人類が滅亡した今もこの星に残っている

【詩】壊れた月

壊れた階段の先にある壊れた窓、
それは壊れた月です
「満月を叩き割りたい、完璧は嫌い、未来がないから。」
そう怒って泣いていた、
君のための月です

【詩】星について

みんなが想像している太陽と、私が想像している太陽は、まるで別物みたいだ。
月もそう。
星は、なんとなく似た形をしているようだった。
だから最近は、星の話ばかりしてしまう。
星の話をしている時だけは、みんなと同じになれたような気がして。

【詩】低気圧だったから

天気予報が外れただけで何をすればいいのか分からないし、
昔好きだった人のことを何て話せばいいのか分からない。

ぼくたちはぼくたちの上に降り注ぐ雨の色を知り得るか?
水で洗えば、すべて綺麗になるとでも思っていそうな土砂降り。

低気圧だったから。
「また会いましょう」という社交辞令が、どうしても言えなかった。

知らない間に水溜まりができて、
知らない間に乾いた道路は、
きっと昨日と同じにしか見え

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【詩】恋とダンス

君を好きになれない
君の恋人
君の友達
先輩後輩
仕事仲間
飼ってる犬
好きな俳優
フォローしてるモデル
行きつけの店の店員も
全員羨ましくて
全員死んでほしい
でもその屍たちの上で私は
どんなダンスを踊ればいいのだろう?
そんなことばかり考えてしまうから
君を好きになれない

【詩】美しかった瞬間を思い出そうとしている

美しかった瞬間を思い出そうとしている
瞼を閉じる時すら煌めきをかくせない
銀河によく似た青い瞳

美しかった瞬間を思い出そうとしている
声に出して呼べば桃色の
花と同じ匂いがするあなたの名前

美しかった瞬間を思い出そうとしている
土砂降りの日に優しい人が
結び直してくれた赤い糸

美しかった瞬間を思い出そうとしている
地に足が付かないように
踊っている白い天使の群れ

美しかった瞬間を思い出そう

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