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独禁法 私的独占と不公正な取引方法の関係

1.私的独占

(1)私的独占とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(独禁法2条5項)。つまり、私的独占(独禁法2条5項)の構成要件は、①排除又は支配すること、②一定の取引分野であること、③競争を実質的に制限すること、④公共の利益に反していること、である。

(2)市場を独占する行為には、2つの形態がある。第一の形態が、他の事業者の事業活動を支配して取り込むことにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限する支配型私的独占である。第二の形態が、一定の取引分野における他の事業者の事業活動の継続を困難にさせて排除する、又は、新規参入を困難にする行為(排除行為)による独占である排除型私的独占である。

(3)独禁法の目的は公正かつ自由な競争を促進することであるから、価格・品質・サービスを中心とした自由な能率競争が行われることは望ましい。したがって、能率競争の結果、他の事業者の事業継続が困難になった場合、又は、他の事業者が市場から退出せざるを得なくなった場合は、独禁法上は違法ではない。
 能率競争であるか排除型私的独占であるかの判断は、①当該事業者の行為について、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであるか、②他の事業者の市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって判断される(最判平成22年12月17日民集64巻8号2067頁、最判平成27年4月28日民集69巻3号518頁)。

2.不公正な取引方法

 不公正な取引方法(独禁法2条9項)を用いることは禁止されている(独禁法19条)。
不公正な取引方法に該当するのは、①独禁法2条9項1号から5号に定められた行為、及び、②公正競争阻害性あるもののうち独占禁止法2条9項6号に基づき公正取引委員会が告示したもの(独禁法72条)、である。公正取引委員会が指定したものには、全ての業種に適用される一般指定と、特定の業種等に適用される特殊指定とがある。特殊指定がなされているのは、新聞業等の3つの事業分野のみである。

3.私的独占と不公正な取引方法の関係

(1)私的独占に該当するとされる行為類型・要件と、不公正な取引方法に該当するとされる行為類型・要件とは、重複する場合がある。具体的には、不公正な取引方法における公正競争を阻害するおそれ(独禁法2条9項6号)と、私的独占における一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(独禁法2条5項)とを比較すると、私的独占では競争が実質的に制限された場合に要件を満たすのに対し、不公正な取引方法では、公正な競争を阻害するおそれがあれば要件を満たす。つまり、不公正な取引方法は、私的独占の規定を補完して、私的独占を未然に防止するための予防規制ともいえる。予防規制を行っているのは、私的独占が行われると競争秩序に与える影響が大きいため、競争秩序に与える影響が小さな不公正な取引方法の段階から規制を行うことで、競争秩序への悪影響を排除するためである。

(2)具体的事例から考えると、新聞販路協定取消事件(東京高判昭和28年3月9日 高民集6巻9号435頁)では、対象範囲を競争回避型のうち水平的共同行為に限ったために、不公正な取引方法が垂直制限的行為を分担する関係にあるともいえる。

(3)予防規制の役割を果たす不公正な取引方法の類型は、専ら私的独占との関係で、排除行為になりやすい行為類型(取引拒絶、差別対価等、不当廉売、抱き合わせ販売、排他条件付取引、競争者に対する取引妨害)である。

(4)私的独占と不公正な取引方法とでは、違反した場合の制裁の面でも共通点と相違点とがある。共通点は、排除措置命令の対象となること、及び、損害賠償請求の対象となりうることである。
相違点は、①不公正な取引方法では課徴金納付命令の対象となるのは一部の類型に限られ、②不公正な取引方法では刑事罰の対象とはならず、③差止請求の対象は不公正な取引方法に限られること、である。

●参考文献
・鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』(有斐閣,2017年)75-79,86-88, 124-126, 149-156頁

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