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独禁法2条9項5号 優越的地位の濫用

1.概要

 独禁法は、優越的地位の濫用(独禁法2条9項5号)を、公正競争を阻害する不公正な取引方法の一つとして禁止している(独禁法19条)。優越的地位の濫用の構成要件は、①優越的地位を有すること、②優越的地位を濫用したこと、である。

2.優越的地位

(1)優越的地位とは、取引の相手方(乙)にとって、取引の一方の当事者(甲)との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいう。

(2)公正取引委員会が平成22年11月30日に策定した「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」によると、甲が乙に対して優越的地位にあるか否かは、①乙の甲に対する取引依存度、②甲の市場における地位、③乙にとっての取引先変更の可能性、④その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実、を考慮して総合的に判断される。これらの①から④の考慮要素の中でも、③の取引先変更の可能性が最も重要と考えられる。これは、取引先変更が可能であれば、取引困難となっても事業経営上大きな支障をきたすことはないからである。つまり、優越的な地位にあるか否かは、市場シェアや市場での順位よりも、個別の取引相手との比較において相対的に優越しているか否かによって決まると考えられる。

3.優越的地位の濫用

(1)優越的地位の濫用とは、取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越している優越的地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える濫用を行うことをいう(独禁法2条9項5号)。通説では、優越的地位の濫用は、自由競争基盤の侵害であるため、公正競争を阻害するとされている。

(2)優越的地位の濫用の具体例が、①取引する相手方に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること(独禁法2条9項5号イ)、②取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(独禁法2条9項5号ロ)、③取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること(独禁法2条9項5号ハ)、である。

4.最近の例

(1)最近の事例は、大規模小売事業者についての事例が多い。これは、納入業者にとって、①有力な取引先であり、②納入取引の継続を強く望んでいる状況であり、③取引継続の為に、価格・品質等の取引条件以外にも様々な要請に従わざるをえない立場にあるからとされる。このような大規模小売事業者についての事例が多いことを受け、特殊指定「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(平成17年5月13日)が告示されている。

(2)その他には、①フランチャイズ本部とフランチャイズ加盟店との間の関係で、優越的地位の濫用が認められた例(公取委排除措置命令平成21年6月22日 審決集56巻第2分冊6ページ)、②百貨店と百貨店への納入業者との間で優越的地位の濫用が認められた例(公取委審判決昭和57年6月17日 審決集29巻31頁)、③銀行と借り手との間で優越的地位の濫用が認められた例(最判昭和52年6月20日 民集31巻4号449頁)、がある。

●参考文献
・鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』(有斐閣,2017年)261~273, 435, 436,477, 478頁

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