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【小説】Stay Youth Forever

【小説】Stay Youth Forever

「全部無駄だったな」

最後の歌詞は確かそうだった。高校時代の友人たちに連れられて来たライブハウスでその歌詞を歌っていたのは、また別の高校時代の友人であるアイツだった。

ライブの事はよく覚えていない。興味がないと言うより、見ていられなかった。音響だけはキッチリと整えられたその空間で鳴り響いていた音楽は、アイツを含めた今も変わらないメンバーが、高校時代に文化祭で演奏していた音楽と何ら変わりはなかっ

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【小説】ALL ALONE

【小説】ALL ALONE

人の顔も明瞭に見えない真夜中で点滅する黄色信号は、自分の将来に対する不安に似ていて嫌いだった。

夏の暑さも眠りに落ちる午前2時。

僕たちは二人きりでないと話せなかった。それだけお互いを尊重していたのだと思う。一方が意見を出せば、もう一方はその意見を聞く。自分でも非常に良い関係だと思う。

来週に迫った上京の日。思い返せばこの日が近づくほど、その会話に込められた感情は激しくなり、対話の時間は長く

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【あとがき】Oxymoron

【あとがき】Oxymoron

この記事は前回の「Oxymoron」のあとがきです。

1.「Oxymoron」の意味「Oxymoron」とは、撞着語法(どうちゃくごほう)のこと。撞着語法とは「明るい闇」「冷たい情熱」などの矛盾した意味の言葉を一つの文脈に入れること。

今回では、「明るい闇」「臆病な自尊心」「無音の悲鳴が喧しい」「生き方で殺す」などの表現がそれに該当する。

効果としては注意を惹きつけたり、その描写について考え

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【小説】Oxymoron(オクシモロン)

【小説】Oxymoron(オクシモロン)

梅雨。薄暗い体育館に幽閉されていたからか、雨上がりの夕暮れはこの世のものとは思えないほど美しく見えた。

僕は今日のホームルームを終えた後、一人で図書室へ向かう階段を登った。

一つ階が増える度に人の気配がなくなり、遂に誰もいなくなった五階に図書室があった。ドアを開けると、中には誰もいなかった。そして、窓から見える夕暮れの美しさにつられるように窓際の席に座った。

一人の時間が好きだった僕は、毎日

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【あとがき】Written in the stars

【あとがき】Written in the stars

この記事は前回の「Written in the stars」のあとがきです。

また、こちらは、第6回文芸課題"ぶんげぇむ"参加の記事です。

◆お題:「電信柱」「あだ名」「運命」「未来」「カラフル」
◆執筆ルール:
 ・お題に沿った作品を作ってください。
 ・小説/エッセイ/詩 などの形式・ジャンルは問いません。
 ・5つのキーワードを作品に登場させてください。ただし、文字そのものを登場させる必

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【小説】Written in the stars

【小説】Written in the stars

それは何度も出会ったはずの感情なのに、もう二度と出会う事のない感情のように錯覚してしまう。そんな抱きしめたくなるような愛おしい感情が、生きているこの瞬間の美しさを象徴していた。

二月、夜の冷たい風は街を沈黙させた。僕は、白いランニングシューズの靴紐を結び、誰もいない世界を駆け抜けた。

この電信柱からあの電信柱まで、三十メートル。

自分の腕を、脚を大きく振り、内臓を自ら痛めつけるようにフル稼働

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【あとがき】In the blink of an eye

【あとがき】In the blink of an eye

この記事は、前回のnoteで書いた「In the blink of an eye」という小説のあとがきになります。

今回は「渡せなかった手紙」という題材。

前回は、伝えたい言葉一つを軸にストーリーを捻り出したが、今回は先にストーリーが思いついていた。

ジャンルは、「渡せなかった手紙」から連想するものは恋愛だと一番初めに思ったので、それに従う事にしてから、すぐにストーリーが思い付いた。

1.

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【小説】 In the blink of an eye

【小説】 In the blink of an eye

人々が桜の美しさに顔を見上げる頃、僕は憂鬱に押し潰されて横になっていた。憂鬱とはあまりにも対照的な外の陽気は、僕を強く、強く布団に押しつけた。

高校は春休みに入り、授業はなかったが部活には精を出していた。それでも、部活の練習に行く時間以外はこうして横になる事が増えた。そういえば、部活でも上手くいかない事が多くなった。勉強の出来は元から悪かったが、今学期の成績表には目も当てられなかった。

平凡だ

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【あとがき】You'll Never Walk Alone

【あとがき】You'll Never Walk Alone

この記事は、前回のnoteで書いた「You'll Never Walk Alone」という小説のあとがきになります。

普段は、頭の中で妄想に耽っている事を文字に起こしたり、伝えたいメッセージを言うためにストーリーを捻り出したりして文章を書いている。

今回は後者。自分自身がこの小説のように友人に救われて生きてきた。10代の頃のピュアな悩みは大体友達に解決してもらっていて、友達の家に泊まりにいった

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【小説】 You'll Never Walk Alone

【小説】 You'll Never Walk Alone

冬の日。滅多に雪の降らないこの街にも、雪が似合った。僕は公園にいた。

薄く地面に積もった雪を眺めながら歩いていると、少し前に一枚の羽根を見つけた。

頭の中で渦巻いていた行き場のない焦燥感を消化するために、落ちているその平和の象徴にも縋りたい思いだった僕は、立ち止まって、少し離れたところから羽根を見つめていた。

正面から走って来る子供が、それを拾おうとすると、「汚いから触っちゃダメよ」と母親が

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