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にとり
2021年10月25日 20:38
ハタチになってからというもの、お酒を浴びるように飲むヤツや、ギャンブルで大金を使って遊ぶヤツ、ブランドものばかりを身につけるヤツが私の周りに増えた。つい最近まで同じサッカー部で汗を流していた友人たちもそんな人間になってしまって、すっかり体も丸くなってしまった。私には中学生の頃から変わらない仲の良いメンバーがいた。「喧嘩するほど仲が良い」という言葉のせいで、仲の良い連中には喧嘩が付き物のよう
2021年10月25日 20:27
夏は、いつの間にかやって来る。時々、夏が七月から始まるというのが嘘のように聞こえるほど六月は暑い。自分だけ人とは違う体なのだろうか。人と違うのは当たり前なのに、感じ方の背景や順序が違うだけで劣等感を感じてしまうのは、心の奥底では、人生に正解があると思っているからだろうか。少しでも暑さから逃れるように下を向いていると、冬の時より影が短くなっていることに気づいた。暑さから逃れることを諦めて顔をあ
2021年10月24日 18:01
世の中が桜の桃色に魅了されている春に、誰が青という色を想像して「青春」と名付けたのだろう。17歳になってからは、僕らの世代を中心に世の中が動いているように見えた。若さに浮かれていた僕は、常にそんなことを考えるほどの時間を持て余していた。流行りのものはいつも僕らのすぐ側にある。僕らが頻繁に飲む食べ物や飲み物が、テレビでは僕らに少し遅れて特集されブームになり、僕らの世代がスポーツや文芸、芸事で
2021年6月30日 15:54
この記事は、前回の記事「ALL ALONE」のあとがきです。これは自分と自分の対話のお話「二人きりでないと話せない」「帰りにイヤホンをしたら急に一人になる」「自分の分しか飲み物を買わない」ということから分かるように、ただ一人で歩いている時間に、頭の中で二つの感情がぶつかっているシーンを対話として表現したこの小説。基本的には二つの異なる感情同士の意見が対立しているように見えるが、時折、「それ
2021年6月26日 21:49
人の顔も明瞭に見えない真夜中で点滅する黄色信号は、自分の将来に対する不安に似ていて嫌いだった。夏の暑さも眠りに落ちる午前2時。僕たちは二人きりでないと話せなかった。それだけお互いを尊重していたのだと思う。一方が意見を出せば、もう一方はその意見を聞く。自分でも非常に良い関係だと思う。来週に迫った上京の日。思い返せばこの日が近づくほど、その会話に込められた感情は激しくなり、対話の時間は長く
2021年5月2日 21:32
梅雨。薄暗い体育館に幽閉されていたからか、雨上がりの夕暮れはこの世のものとは思えないほど美しく見えた。僕は今日のホームルームを終えた後、一人で図書室へ向かう階段を登った。一つ階が増える度に人の気配がなくなり、遂に誰もいなくなった五階に図書室があった。ドアを開けると、中には誰もいなかった。そして、窓から見える夕暮れの美しさにつられるように窓際の席に座った。一人の時間が好きだった僕は、毎日
2021年4月3日 18:42
それは何度も出会ったはずの感情なのに、もう二度と出会う事のない感情のように錯覚してしまう。そんな抱きしめたくなるような愛おしい感情が、生きているこの瞬間の美しさを象徴していた。二月、夜の冷たい風は街を沈黙させた。僕は、白いランニングシューズの靴紐を結び、誰もいない世界を駆け抜けた。この電信柱からあの電信柱まで、三十メートル。自分の腕を、脚を大きく振り、内臓を自ら痛めつけるようにフル稼働
2021年3月6日 23:58
この記事は、前回のnoteで書いた「In the blink of an eye」という小説のあとがきになります。今回は「渡せなかった手紙」という題材。前回は、伝えたい言葉一つを軸にストーリーを捻り出したが、今回は先にストーリーが思いついていた。ジャンルは、「渡せなかった手紙」から連想するものは恋愛だと一番初めに思ったので、それに従う事にしてから、すぐにストーリーが思い付いた。1.
2021年3月4日 21:53
人々が桜の美しさに顔を見上げる頃、僕は憂鬱に押し潰されて横になっていた。憂鬱とはあまりにも対照的な外の陽気は、僕を強く、強く布団に押しつけた。高校は春休みに入り、授業はなかったが部活には精を出していた。それでも、部活の練習に行く時間以外はこうして横になる事が増えた。そういえば、部活でも上手くいかない事が多くなった。勉強の出来は元から悪かったが、今学期の成績表には目も当てられなかった。平凡だ