西松清一郎

某私大大学院卒。 学生時代、太宰治の短編を読み(授業で強制的に読まされ)、「小説とは…

西松清一郎

某私大大学院卒。 学生時代、太宰治の短編を読み(授業で強制的に読まされ)、「小説とはこんなに面白いものなのか」と感銘を受ける。以来十年以上、普遍性のありそうな作品を読みつつ、小説執筆を継続。

マガジン

  • 胡乱の者たち

    水をも漏らさぬ厳格な密室ミステリーです。 小説家になろうで高い評価を受けました(詳しくは3/6の記事『ご報告(力強い感想をいただきました)』をご覧ください)。 読んで損はさせません。クオリティは絶対に保証します。 ミステリー好きの方にぜひ読んでほしいです。よろしければ(よろしくなくても)、とにかく読んでみてください。

  • 人を狂わす輝き(SF短編)

    【あらすじ】アフリカのダイヤモンド鉱山で派遣坑夫として働く森内光矢(もりうちこうや)は、ある朝先輩からの連絡で叩き起こされた。坑道内で作業をしていた同僚、浅井の消息が途絶えたという。先輩である比嘉(ひが)は、いなくなる直前の浅井と無線により連絡を取っていた。その時浅井は「ダイヤではないもの」を見つけたなどと言い、それ以降連絡を完全に絶った。  比嘉によると、坑道内は場所によっては武装組織が絡んでいて極めて危険だという。森内は比嘉と二人でフライングポッドと呼ばれる航行機に乗り込み、同僚の捜索に向かう。

最近の記事

ご報告(力強い感想をいただきました)

 noteユーザーの皆様 こんにちは、こんばんは。西松清一郎です。いつもお世話になっております。  いつも皆さんの文才、活動力に感服しながら、記事をしばしば拝見しております。  さて、私事で恐縮なのですが、最近嬉しく思ったことがあり、ここで報告させていただきます。先日「人を狂わす輝き」というSF短編を投稿致しました。正直これで小説執筆は最後にしようと思っていました。私、過去に十年ほど塾講師をしていたことがあり、独自に作成した大学入試問題の解説等を配信するなどの方が向いてる

    • 人を狂わす輝き(SF短編) 1

       1  少し飛ばしただけで《鉄馬(モトホース)》 の関節は逆方向にひん曲がりそうになる。手間を惜しんで中古販売サイトで買ったせいだ。メタリックでほっそりとした馬身。まさか運命なんて大それたものを感じたわけじゃなかったけどな。即決だった。だけど―――時間と金をケチらず、ヨハネスブルグまで出向いて新品を買うべきだった。メインストリートのショウウィンドウには、もっとつやつやして丈夫そうなのがいくつも並んでいたはずだ。後悔先に立たず、か―――森内光矢(もりうちこうや)は、鋼鉄製の馬

      • 人を狂わす輝き(SF短編) 2

         2 「それで、ジャメルの爺さんには何て言った」比嘉はすでにコクピットに収まり、左手で操縦桿を握っている。森内は比嘉の隣で四点式シートベルトを手繰り寄せた。 「別に何も言わなかったです。適当に茶を濁して、さっさと出てきました」「浅井が行方不明だとか言わなかったか」「はい」  比嘉は目の前の操作スクリーンに右手を伸ばし、「エネルギー送填開始」タブを押した。湾曲した石英ガラス窓の端に突如、釣り糸のような細いオレンジ色の光線が現れる。給電塔からポッドに発射されるマイクロ波ビームの

        • 人を狂わす輝き(SF短編) 3

           3  メッシュメタルの通路が、穴の底からコンクリート壁に沿って螺旋状に伸びている。そしてそこを、何台もの無人搬送車が、がたぴしと音を立てながら往来する。森内はこの光景を見るたびにはらはらする。こんな壁を這うつたみたいな簡易的な通路は、いつか荷重に負け、穴の底に落ちてしまうのではないか、と。  森内の「宙に浮いた体」は、下から上昇してくるポッドの間を縫って軽やかに進んだ。離陸時ほどの暴走性はないものの、かなり急ぎ気味であることは立体映像を通してすぐにわかった。  立坑内のコ

        ご報告(力強い感想をいただきました)

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        • 胡乱の者たち
          11本
        • 人を狂わす輝き(SF短編)
          5本

        記事

          人を狂わす輝き(SF短編) 4

           4 「お前、気づかなかったか」 「全然気づかなかったです」森内は再び操縦席の隣に収まっている。まだ森内の頭は混乱していた。目の前には、揺らがずにきらめく無数の星々と、ガス状に漂い広がる紫の星雲。天の川はさっと粉でひいたように、いびつな帯となって縦に走っている。  それはまぎれもない現実の光景であった。 「浅井を探してる間も、重力はずっとあった」森内の声は口からこぼれるように出た。グループセッションでは、森内をからかう話題を中心に雑談が繰り広げられている。比嘉がちらと横を向

          人を狂わす輝き(SF短編) 4

          人を狂わす輝き(SF短編) 5

           5  上空で突然、遠い銅鑼(どら)のような音が響き、森内は首を上へ振り向けた。多面体ドームのサファイアガラスに、微小隕石でもぶつかったのだろう。周囲の照明は強く、観察できる星の密度はポッドから見たときよりも随分減った。その中でドームの骨組みに隠れるようにして浮かぶ地球の姿は、やはり一際目を引く。アフリカではもう夕方だろう。薄い雲に覆われた砂の大陸は、徐々に暗い面へと移ろうとしている。  月面の研磨技術開発拠点、ジオ・ルナ。その人口庭園の中央で森内は今、月の女神ルナの小ぶり

          人を狂わす輝き(SF短編) 5

          胡乱の者たち(長編) 序

           序  人気上昇中だった動画クリエイター〈シルバ(中田銀)〉が、山中の空き家で絞殺体となって発見された。事件前に偶然、一度だけ〈シルバ〉と接触した丸多好景(まるたよしかげ)は、被害者の友人北原遊矢(きたはらゆうや)を誘い、捜査に乗り出す。 「密室で行われた殺人」、「家屋の持ち主の失踪」、「被害者の恋人〈美礼〉の不審死」、「その前の恋人〈ちょいす〉の異常な行動」など、調べを進めるうち不可解な点はいくつも出てきた。  丸多は、事件当日、被害者と同行していたクリエイターグループ

          胡乱の者たち(長編) 序

          胡乱の者たち(長編) 1

           2019年3月2日(土)  特殊な夜の予感がし始めていた。  我ながら思い切ったことをしたものだ、と丸多好景(まるたよしかげ)はそれまでの経緯を思い返した。目の前の丸テーブルには冷めたコーヒーの入ったマグカップが一つ載っている。新宿のありふれたカフェ。女子大生らしい二人組は次に行くスノーボード旅行の話を無邪気に響かせ、ビジネスマン風の男は薄いラップトップPCをにらみながら、熱心にキーボードを叩いている。  俺が喫茶店に人を呼びつけるなんて、何年ぶりだろう。それも一度しか会っ

          胡乱の者たち(長編) 1

          胡乱の者たち(長編) 2

           2019年3月2日(土) 「もう店内にいるとは思いませんでした」言葉は丸多の口から滑るように出てきた。呼んだのは丸多の方であるため、当初は、会話を途切れさせないようにしなければならない、という一種の涙ぐましい使命感を持っていた。しかし、北原の現れ方に意外性があったため、会合の冒頭からそのような心配をする必要はなくなったのである。 「ええ、実は」北原は遠慮がちに答えた。「さっき、用事ができて遅れる、っていうダイレクトメッセージを送りましたけど、そのとき僕はもうそこのトイレにい

          胡乱の者たち(長編) 2

          胡乱の者たち(長編) 3

           2019年3月9日(土)  銀色のスカイツリーが、巨大都市に浮遊する塵埃(じんあい)に埋もれて霞んで見える。  そこは丸多が初めて降り立つ駅であった。東京都墨田区に最後に来たのがいつか思い出せない。丸多は、乗ってきた電車が息を切らすように再び出発するのを棒立ちで眺めた。「見てみろ。これが日本の平均的な暮らしだ」と誰かが耳元で囁いてきそうなありふれた住宅街。踏み切りの音が止み、再び歩き出そうとしたが、丸多は急に出しかけた脚を止めた。はて、この踏み切りを渡るのだっただろうか。不

          胡乱の者たち(長編) 3

          胡乱の者たち(長編) 4

           2019年3月16日(土)  一度行ったことがあるとはいえ、正確な道程(どうてい)はほとんど頭に残っていない。丸多は途中何度も車を路肩に止め、カーナビの画面を見直した。 「こっちで合ってますよね」丸多が言うものの、助手席に座る北原は愛想笑いを返すだけで、結局それは独り言にしかならない。タッチパネルを搭載した最新鋭まがいのカーナビも、殺人が起きた現場へ案内するために設計されたわけではないらしく、明らかに崖である箇所をも通行可能な道として表示している。 「前は結構簡単に行けたん

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          胡乱の者たち(長編) 5

           2019年3月21日(木) 「もっと人の少ないところにすれば良かったですね」  丸多は夜まで絶えることのない人込みを見て嘆息をもらした。〈ナンバー4〉の連絡の後、集合場所は、三人ともアクセスしやすいという理由で上野に決まった。そのとき安易な発想で、「西郷隆盛像の前」と提案したことを、丸多は後悔していた。この混雑では、あの特徴のない〈ナンバー4〉が現れても簡単に発見できない。 「大丈夫ですよ」北原は随分リラックスしていた。「あいつが来たら、僕が知らせます。顔は見慣れてるんで」

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          胡乱の者たち(長編) 6

           2019年3月23日(土)  東京駅前で北原を拾い、丸多は再びアクセルを踏んだ。駅舎前の広場では、思い出作りに余念のない人々が、スマートフォンに向けて思い思いのポーズを取っている。 「もうすぐで一年経ちますね」 「何がですか」北原はシートベルトをしながら訊いた。 「ここから歩いて十分くらいですよね。私がシルバさん、北原さんと初めて会ったところ」「そういえば、そうですね。もう一年ですか、早いですね」  休日のオフィス街は人通りが少なく、よって穴場も多い。閉店間際のカフェは貸し

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          胡乱の者たち(長編) 7

           2019年3月24日(日)  D通信 2019年3月24日 9時27分  動画クリエイター「美礼」さんの姉、犯人隠匿(いんとく)の疑いで書類送検  警視庁は24日、約二年前に、動画クリエイター皆川美礼さん(当時22才)が飲酒運転の上、物損事故を起こしたことを知りながらそれを隠蔽(いんぺい)したとして、姉の皆川明日美容疑者(29)を犯人隠匿の疑いで書類送検した。  美礼さんは当時、チャンネル登録者百万人を獲得した有名クリエイターで、2017年5月に「階段から落ちた」という不

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           2019年3月30日(土) この一週間、丸多の気分を多少なりとも前向きにしたものといえば、〈シルバ〉のチャンネルに届くコメント群だけだった。あれから数百件のコメントが集まり、〈シルバ〉の意志を存続させようとする動きは、ネットの片隅でくすぶるような盛り上がりを見せていた。  事件の方は全く進展しなかった。集めた情報をなぞれば毎回、嫌がらせのような袋小路の壁が立ちはだかった。〈キャプテン〉から聞いた話のどこにもほつれは見当たらず、また、残された謎は未だ謎のままだった。  難しい

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           2019年3月31日(日)「飛んだ災難でしたね」  丸多は助手席の方をちらと見た。眠りかけていた北原は丸多の声により薄く目を開けた。  二人は夜明けまで警察の現場検証に立会い、そのまま一睡もせず高速に乗った。今度は真正面から朝日を浴びなければならない。休日の早朝で、道が空いていることだけが救いだった。 「北原さん、お疲れのところ悪いですが、今日はまだ一つ仕事が残っています」  北原は「はい」と言い、開きかけの目をこすった。  彼が聞いていようがいまいが、丸多にはどうでも良か

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