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変な年末年始


年が明けてから10日が経った。

早い。

今年は例年にも増して早い気がする。

年始に大阪に帰ったり何やしてバタバタしていたからだろうか。

ちなみに久しぶりの大阪はとても楽しかった。

やはり昔からの仲間というものはいいもんである。

出来たらまた夏頃に帰りたいけど、どうだろうか。

まあ色々含めて、わからんなあという感じである。

そんなこんなで年末年始はいつになくバタバタしていたが、今回の年末年始を一文字で表すならば

それは「変」である。

とにかく変だったのだ。

ずっと。

今回の年末年始はひたすら変だった。




12月30日。

僕は東京で高校時代からの友人と再会していた。

その友人とは

高校ラグビー部で出会い何やかんや20年以上の付き合いになる、とにかくめちゃくちゃ変な人、通称「変人」である。

仕事の関係で東京付近にいた変人と合流し、30日は高級焼肉、31日は僕の家で飲みながら格闘技観戦、1日は新幹線で2人で京都まで帰る、といったスケジュールを僕達は組んでいた。

怒涛の変人3DAYS。

30代後半のおじさん2人が年末年始3日間行動を共にしている。

異様な光景である。

こんなおじさん2人、世の中に中々いない。

何せ年末年始の3日間である。

このある意味特殊な期間をおじさん2人で過ごすのだ。

他にこんな事をしているのはコンビの芸人か、年越しライブをやっている稲葉さんと松本さんぐらいだろう。

これはまごうことなき"変"である。

そしてさらに恐ろしい事にこの"おじさん2人で過ごす年末年始"、実は去年も開催しており、何と2年目なのである。

昨年の大好評により今年も開催決定!なのだ。

ちなみに去年は30日と31日の2日間。

そう。

1日追加されているのだ。


大好評により今年は1日延長!なのである。

大好評て何や。


数年前まではこんなに2人という事はなかった。

毎年大晦日になるとラグビー部の5、6人で集まっていたのだが、みんな結婚していき

1人、また1人、と消えていったのである。

そして僕達以外、誰もいなくなったのだ。

そんなアガサクリスティ状態を経て、このおじさん2人編成は完成したのである。

とはいえ、別に嫌なわけではない。

結婚できないおじさん2人、こうなりゃ年末年始をとことん満喫しよう。

そう心に決めて僕は待ち合わせ場所に向かった。


待ち合わせ場所は六本木。

ヒルズの中にある高級焼肉店である。

この焼肉店はコマンダンテの石井くんにオススメを教えてもらい、僕が予約した。

と、ここまでで

僕の事を少しでも知ってる方なら当然こんな事を思うだろう。

いや、お前支払い出来んのか!?と。

胸を張って答えさせていただく。

もちろん出来ません。

変人さんが全て出して下さるのです。

変人さんは値段が高くなればなるほど、何故か嬉々として全額払って下さるのである。

僕に課せられたミッションはたった一つ。

「とにかく高い店を予約しろ」

僕はそれを遂行したのである。


予約時間になり店に入る。

時間が早い事もあり、お客さんはまだあまりいない。

2人でメニュー表を見ながら何を頼むか考える。

と、すぐさま変人は店員さんを呼び、片っ端から高い肉を頼んでいく。

無双である。

変人が1人でクソ高い肉をバッサバッサと頼み倒していく。

まさに変人無双。

僕は爽快感すら感じた。

あまりの無双っぷりに店員さんの顔付きが変わる。

これは大物がきた、、、!!と。

若くして成功した何かの社長や、、、!!と。

桁外れの金持ちご来店、、、!!と。

ざわつく焼肉店。

おそらく前澤さん的な何かが来たと思っている。

しかしこの予想。

実は大ハズレなのである。

変人は社長でも前澤さん的な何かでもなく

ただひたすらお金の使い方がぶっ飛んでる平社員なのだ。


もちろん相当給料のいい所に勤めているので、かなりの金持ちではあるのだが

頼み方が完全に石油王の頼み方なのである。

そしてそんな頼み方をする男の前には、太ったおじさんが貫禄たっぷりにどっしりと座っている。

店員さんはこう思ったに違いない。

「もしかしてこの太ったおじさん、、、。このメニュー頼んでる人よりさらに大金持ちかも、、、」

しかし残念。

これまた大ハズレである。

この太ったおじさん、

ほぼ無一文の崖っぷちおじさんなのだ。



何故か貧乏なのに太れるという特殊アビリティを持っているがために金持ちの雰囲気だけ出てしまったおじさんなのである。

僕は本来ならこの店に現れてはいけないおじさんなのだ。

それがこうしてどっしり座ってられるのも変人さんのおかげ。

変人さん、いつも本当にありがとうございます。


こうして金使いぶっ飛びサラリーマンとほぼ無一文のデブのコンビが注文を終えると

次第に他のお客さんが増えてきた。

カップルや家族連れ。

おじさん2人はいない。

僕達は思った。

"やはり浮いている"

予想はしていたが、年末のこの時期の飲食店におじさん2人は浮くのだ。

何故だか分からないがこの時期の飲食店におじさん2人は存在しないのだ。

どこにいったんやおじさん2人!

出てきてくれ、おじさん2人!

俺らだけ寂しいやないか!

おーい!!


そんな事を考えていると、肉が到着した。

まずは特上厚切り塩タン。

凄まじく分厚い。

すぐさま焼いて口に入れる。

!?

うますぎる。

とんでもないうまさである。

ああ、最高。

と、思った瞬間。

「んんんんんんんんんん!!!!」


変人が咆哮した。

変人はうますぎるものを食べると唸り声とも喘ぎ声ともとれる奇妙な大声をあげるクセがあるのだ。

奢ってもらってて何だが、やっぱり変な人である。

変人は手足が長く背が高いので、そんな人が咆哮している様は側から見ると

ほとんどエヴァ初号機である。

前澤さん的な何かと太ったおじさんが座っていたテーブルは、いつの間にか

エヴァ初号機と太ったおじさんのテーブルに変わっていた。

こうして僕達はさらに周りから浮きに浮いて天井スレスレになった。


タン塩以降もどんどん肉が運ばれてきた。

全てめちゃくちゃ美味かった。

大袈裟じゃなく、今まで食べた肉の中で一番美味かったんじゃないだろうか。

変人、いや初号機は終始、吠えっぱなしだった。

完全に暴走モードである。

リツコさんもびっくりだ。


こうして僕達は大満足で食事を終えた。

伝票を見て変人は意気揚々と支払いの準備をする。

繰り返すが何故か変人は高ければ高いほど、気持ちよく奢ってくれるのだ。

僕は密かにこの状態を「ミスチルの終わりなき旅状態」と呼んでいる。

まあ、とにかく本当にありがたい。

いつか絶対お返ししたいものである。

変人さん、お肉、ご馳走様でした。


こうして初日が終わった。

普通ならこれで終わりである。

また次の大型連休にでも、となる所だが

間髪入れずに2日目はやってくる。

おじさん達の年末年始は始まったばかりなのだ。

この日は大晦日。

おじさんが2人で年を越す。

何とも奇妙な光景である。


17時頃。

僕達は僕の家の近くのスーパーで待ち合わせした。

合流するなり、どちらからともなく

「またお会いしましたね」

と言った。

この「またお会いしましたね」

一体何なのかというと

僕達が敬愛する稲川淳二氏が自身の怪談を収録したビデオシリーズ「稲川淳二の超こわい話」のオープニングで必ず言うセリフなのである。

僕達は稲川ファン過ぎて、日常会話の至るところに稲川が出てしまうのだ。

例えば、相手にありがとうと言う場面なら

「ありがとう杉山」とありがとうの後ろに杉山を必ず付ける。
("迎えにきたマネージャー"という怪談で亡くなってからも主人公の事を気にかけて幽霊として出てきてくれた杉山マネージャーに感謝の気持ちを伝えるセリフ)

何かちょっとでも驚く事があると「ぎいやああああ!」と叫ぶ。
(稲川怪談定番の叫び声。ぎい↑やあああ!とぎい↓やあああ!の「い」の高さが違う2バージョンある)

何かの話の終わりには「こんな話があったんですねえ」
(稲川氏が怪談でこれといったオチがない時に多用するセリフ)

相手の事を何か指摘する時に「あ、あんた!〜してんだねっ!」
("真夜中の訪問者"という怪談で浅野さんが戸田さんに「あ、あんた、死んでんだねっ!」と言うセリフ)

こんな風に僕達の会話の中には頻繁に稲川用語が出てくる。

我ながらわけわからんおじさん2人だと思う。

何でこんな事になったのか。

自分達でもわからないのである。


とりあえずスーパーに入る。

元々はピザ食べながら酒を飲む予定だったのだが、スーパーに入り僕の頭の中に「鍋」という単語が出てくる。

「鍋どうやろ??」と僕が言う。

「ほ〜鍋か〜」と変人が答える。

1時間後。

僕達はグツグツと煮える鍋を2人で囲んでいた。

部屋の真ん中に置いた小さいテーブルの上に鍋を置き、2人ハフハフ言いながら食べている。

うまい。

すごいうまい。

うまいのだが、、、

えっと、、、

何これ???



おじさん2人が大晦日の夜に家で鍋をハフハフ言いながら食べている。

すっごい変。

昨日よりもさらに変。

もしアパートを断面図みたいに各部屋見える形にしたら「何かあの部屋、変な事やってる!」てなるやつ。

ちなみに鍋は変人がスーパーで高級食材をまたもや無双して、めちゃくちゃうまかった。

変人さん、お鍋、ご馳走様でした。

こうして鍋を食べ、酒を飲み、格闘技を見て

年越しの10分前

変人は帰っていった。

何で!?




そして迎えた1月1日。

正月。

僕達は昼過ぎに東京駅で待ち合わせをした。

待ち合わせ時間よりもかなり前に変人が到着した。

先に新幹線のキップを買っておいてくれるらしい。

しかもどうしてもグリーン車に乗りたいからグリーン車分の料金は変人が出してくれるという。

僕からすればこんなありがたい話はない。

人生初のグリーン車である。

ワクワクしながら東京駅に向かう。

途中、東京メトロで行く所を山手線で行ってしまい、若干時間が押したがまあ、まだ大丈夫なレベルである。

東京駅に着き、新幹線の乗り換えの改札に行く。

ざっと辺りを見渡す。

おかしい。

変人がいない。

新幹線のキップを買って時間が決まってる状態なので、少し焦りを覚える。

急いで変人に電話する。

すると変人は「北口にいるで!」と言う。

しかし僕も北口にいるのである。

全く変人は見当たらない。

「まずい!」僕はそう直感した。

これは何かが起こっている。

このパターンはなかなか合流出来ないやつである。

「え、どこ!?」僕はどんどん焦ってきた。

お互い南口に移動する。

しかしそれでも会えない。

「どこや!?どこにいるんや!?」

「ここやって!あっちょっと見えた気する!いや、また消えた!」

「え〜!まじでどこにいんねん!」

いつまで経っても会えないおじさんとおじさん。

太ったおじさんがめちゃくちゃ焦り出す。

「まずい!新幹線、間に合わん!どうしたらいいんや!」

金持ちのおじさんがなだめる。

「焦るな!大丈夫や!会えるから!絶対会えるから!」

走り出す太ったおじさん。

それと同時に金持ちのおじさんも走りだす。

会いたい!会いたい!

お互いを求めて疾走する2人。

まるで恋愛映画のクラマックスである。


そしてついに。

2人は出会う。

東京駅の


外で。



そう。

変人は

駅の外にいたのだ。

どうりで出会わないはずである。

お互い駅の中と外を走り回っていたのだ。

いくら探しても会えるわけがない。

おじさん2人が一体何をしていたのか。

あと変人が僕をなだめる時に言った

「会えるから!絶対会えるから!」

いや、何を言うとんねん。


こうして何とか新幹線に間に合った僕達は乗る前に駅弁を買う事にした。

今までのお返しといっては何だが駅弁は変人の分もこっちが出そう!と思ったのだが、変人はそれを断り3千円する叙々苑のカルビ弁当を自分で購入した。

圧巻である。

結局、ビールだけは奢らさせてもらった。

弁当を持って、新幹線に乗り込む。

さすがにグリーン車は空いている。

席もゆったりである。

めちゃくちゃ快適だ。

横で変人はカルビ弁当を食べながら、またもやエヴァ初号機になっている。

とんでもなくうまいらしい。

僕もいつか食べれるようになりたい。


弁当を食べ終わりしばらくすると、乗務員の方がゴミを回収しに来てくれた。

僕は驚いた。

グリーン車はこんなサービスもあるのか!と。

変人は得意げに答えた。

「グリーン車はな、何でも出来るねん!!」

そう言いながらカルビ弁当の豪華な箱にいくつかのゴミをポイポイと入れながら、それを乗務員さんが持っているゴミ袋の中に入れた。

そんなこんなで2時間後。

もうすぐ京都駅に着く。

久しぶりの帰郷である。

横で変人がこう言った。

「いや〜やっぱグリーン車よかったわ!イスもやわらかいし!京都まですぐやったわ!やっぱ、あれやな!グリーン車は時間の感覚がなくなるな!」

僕も「確かにな!」と言った。


そんな事を言いながら僕達は新幹線を降りた。

新幹線のドアが閉まる。

その瞬間、変人が

「ぎい↑やああああ!」

と叫んだ。

「ない!ない!新幹線の切符がない!」

新幹線の切符がないらしい。

僕は「え!?どっかに入れてるやろ?」と言った。

しかし財布や服やカバン、どこを探しても切符は出てこない。

変人は諦めた顔でこう言った。

「これ完全に切符なくしてるわ」

何と変人はグリーン車で時間の感覚がなくなった上に何故か切符までなくしたのである。


「どこでなくしたんやろ、、、」と変人が記憶を辿る。

「弁当食べて、それから、え、あ、ぎい↓やああああ!!!」

変人が再び絶叫した。

「思い出した!カルビ弁当や!ゴミ捨てる時、カルビ弁当の中に切符入れて捨ててもうた!」

そう。

変人はカルビ弁当の中にポイポイと入れたゴミの中に切符も一緒に入れて捨ててしまったのだ。

何でや。

何でそんな事なるんや。

新幹線の切符捨てる人、生まれて初めて見たわ。

そんな事を思いながら僕は言った。

「あ、あんた!切符捨ててんだねっ!」

こうして「グリーン車は何でも出来る」と豪語していた変人は

まさかの切符を捨てる事が出来てしまったのである。



結局、領収書を持っていた変人は駅員さんに事情を話し何とか事なきを得た。

そして2人は京都に降りたつ事が出来た。

色々あったが、とりあえず変人さん。

おグリーン、ご馳走様でした。


こうして変な3日間は終わりを告げた。

変だったが、何やかんやで楽しかった。

美味しいものもいっぱい食べれたし。

変人には改めてお礼が言いたい。

色々奢ってくれて、本当に

ありがとう杉山。

というわけで年末年始

こんな話があったんですねえ。



100円で救えるにっしゃんがあります。