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読書。"Redeployment" by Phil Klay

2014年に発表されたこの作品は、何度も何度も「読むべき一冊」などのリストに載った。

短編小説だとは知らず、最初の数編を読みながら、つじつまが合わない、登場人物がフォローできない、などと首を傾げていた、というのは内緒の話。小説によっては、異なる場所で複数の登場人物が別個にストーリー展開するのはよくあることなので、そのうち融合するのだとばかり思っていた。

著者には、イラクでほぼ1年の従軍経験がある。前線で戦ったわけではない。が、彼の作品は、前線で戦う(戦った)兵士たちの鮮明な現実を読者に届けると評価されている。遠くの国の紛争に従軍する兵士たちの国への奉仕に感謝しつつも、あくまで自分には直接関わりのない遠くのこと、という一般国民の意識と、軍人たちの現実のギャップを、著者は埋めようと試みる。短編小説は、アフガニスタンやイラクの現場で現地ゲリラと戦う、遅々として進まない現地の生活改善プロジェクトを、軍の上官と現地人責任者との間に挟まれてやりくりする、除隊して奥さんの待つ家庭に戻る。同じ隊の同僚の奥さんは家を出てしまっていて、いない。奥さんは彼が変わってしまったことをひしひしと感じているし、彼も従軍前の自分に戻れないことを意識する。この本は、そんなストーリーの集まりである。

ムスコの高校時代の友人二人が、軍でのキャリアを求めている。一人はNaval Academy(海軍大学)に合格。もう一人はそこに受からず、別の大学に行くことになった。楽しい大学生活を送れば入隊するなどという気はなくなるかも、と思っていたが、彼は諦めていない。大学2年を終えた今年の夏、Marine Corps(海兵隊)の6週間のキャンプに参加。ムスメの水泳クラブのコーチの一人も大学で学びながら、ROTC (Reserve Officers' Training Corps)のプログラムで訓練している。

大学で何をやりたいか、何を学びたいかがわからない高校生は多い。当然だ。それでも、17歳の時点である程度の方向性が定まってないと、無数にある大学から受験する対象を選ぶのはほぼ不可能である。

SATやACTなどの共通テストの成績で、受けられそうな大学の目安がついていたのが、最近ではテストのスコアの提出義務がどんどんなくなってきた。高校の成績(GPA)が大学に入ってからの4年間の成績傾向を予測できるのに対し、共通テストのスコアは最初の1年の指標にしかならない、と大学がわかり始めたのである。となると、何が合格できるかどうかの判断基準か。GPA(その大学に合格した学生の高校時代の成績)と、個々の大学の合格率(受験した学生数のうち、何%が合格したか)の組み合わせになるらしい。

希望する学部によって、高校時代に関連する科目をとっているか、その科目でどういう成績を取ったか、まで大学側は目を通す。となると、何が勉強したいかわからないと、高校3年と4年でどの科目を選択すべきかも手探りになる。

成績はそこそこいいし、やる気はあるし、体力もある。でも具体的に何をやりたいかがわからない。そういう子の答えが、軍、になることが多いらしい。そして、訓練後の入隊を約束すれば軍が大学費用を持つ。そういう経済的な理由から軍人を目指す若者も多い。ROTCに登録して「戦闘活動中ではないが、緊急時に招集される」Military Reserveになる若者も多い。うちのムスコも18歳になった時に、国民召集の義務登録をしたけれど、まずは軍人が、次に訓練を済ませReserveとなった若者たちが対象となって、その後にムスコ、となる。

この本を読みながら、前線にいる感覚が走り、ムスコの友達はちゃんとこういう現実をわかって志願しているのか、と怖くなった。ちょうど感謝祭前後の休暇に、二人ともムスコに会いに遊びに来た。

丸坊主になって6週間の海兵隊訓練キャンプに参加した一人は、軍曹に3分で昼食を食べるように毎日怒鳴られ、実弾の入ってないライフルを背負って泥の中を這いずった。苦難を一緒に乗り越えた50人の仲間との絆が生まれた。鍛えた肉体と精神の自信もついたことだろう。海軍大学の彼は、その話を聞いて、訓練の厳しさは自分のソレを上回っていると言った。

四つの軍の中で、一番頭が良くなきゃいけないのが空軍。一番体力的に厳しいのが海兵隊。海兵隊は陸軍と連携する。陸軍と海軍が4軍の中では、楽、な方に位置する。4軍の中では。

彼らのおかげで、軍人の存在を身近に感じるようになったと思う。「またクリスマスに顔見せにきてね」と言うと、二人とも「もちろんです」と笑顔を見せてくれた。

そして、このニュース。ミシガン州で15歳の息子にクリスマスプレゼントとして、Black Fridayに銃を買い与えた親がいる。その数日後に、高校で銃撃事件を起こし四人を殺した。事件の数時間前に、親は学校に呼び出され子供の危険な言動について注意を受けている。面談の後、仕事があるからと子供を家に連れて帰らず、教室に戻したあとに起こった事件だからやりきれない。

この事件の数日後に、ケンタッキーの共和党議員が家族で一人ずつ銃を抱えた家族写真をTwitterに流し、同じくケンタッキーの共和党議員が「ケンタッキーの議員全員が無神経なろくでなしでではない」と反応。

もう一体この国で何がどうなっているのか…..。一冊の本から、私の思考はあちこちに飛んだのでした。


ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。