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【精神科病棟実習】その人“らしさ”と居場所

その人“らしさ”と居場所
〜患者と看護者の相互関係と支援の在り方を考える〜

 私が精神科病棟で学んだことは、精神科で言われる病気は「状態」であるということだ。当たり前の様なことを言っているかもしれないが、私には新しい感触だった。精神科の患者さんは、「患者さんなりの生き方が病気と言われる状態だった」と考える。生き方と言えど、それは患者さんなりの生き延び方と言った方が適当かもしれない。患者さんの状態は、患者さんが生きようとする「生き様」として感じられた。そしてそれは、同じ人間として、人間味のあるものだと思った。


 私が受け持った患者さんが統合失調症患者だったことから、ここでは統合失調症を参考に精神科での病気を述べたい。まず、精神を病む要因としては、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などが挙げられることが多い。そして、これは誰もが機会を持っているものであり、いつ誰がそうなるかは分からないものだ。現在どんな精神症状を呈している人でも、精神症状を発症する前は人並みの日常を送っていて、自分なりの夢や理想、価値観があって生きている。だから、まずは患者さんの人生の背景に思いを馳せてみることが何よりも大切だと私は考える。そして、同時にその思いを馳せる過程において選択肢をより多く持とうと努めることが看護者にとって患者さんを理解する上で大事な姿勢になると考える。もし、患者さんが人間関係が原因で精神を病んでしまったのだとしたら、その背景には家庭環境があるのか、学校での友人関係があるのか、それともその人自身の内側に障害があるのか。そうやって、患者さんの「内面を客観的」に見ようと試みる。患者さんは自分の心に蓋をしてしまって自分の心の内が分からない、忘れたい、知りたくないと自分に目を向けることを辞めているのかもしれない。でも、看護者がそのことに「気付かせる」こともまたひとつ患者さんの回復に繋がる道ではないだろうか。ここでの回復という言葉は、元の状態に戻るという意味だけでなく、患者さんが個人の尊厳を高めていくという意味も含んでおく。


 では、患者さんが個人の尊厳を高め、自分らしい人生を自分で切り開いていくには何が必要だろう。私は第一に「居場所」であると答える。そして、その居場所には多様性が関係していると考える。前述した、患者さんの背景に思いを馳せる過程において選択肢をより多く持とうと努める姿勢にも通ずることであるが、患者さんの「らしさ」を尊重したいと考えたとき、思考の根本にあるのは多様性だと思う。しかし、それは患者さん自身が主観的に感じる必要のあるものでもあるから、看護者は自分自身が多様性を尊重した思考と態度をとりつつ、同時にその姿を患者さんへと移し支援していく立場に立つ必要があると考える。人間は共感できる部分もあれば共感できない部分もあることを前提にして他人と向き合えた時に、自分らしさを発揮し、回復への一歩を踏み出すことができると思う。看護者も共感は大切だけれども、し過ぎてはならないし、傾聴するのみで患者さんとの関係を終らしてはいけないと思う。そうして誰もが誰かを一方的に排除することなく、違いを認め合い、人の回復を促す人間関係は「お互い」の居場所になると思う。患者さんの居場所と言えども患者さんと同じ場所に看護者として存在する限り、患者さんの居場所は同時に看護者自身の居場所でもある。相互的な人間関係は建設的であり、それは患者の回復に伴走する者としての積極的な姿勢であると考える。人間は自分の周りの数人で自分の生きる世界、見える世界が決まっている様に感じることがある。患者さんのその周りの数人に私という存在の居場所を共有してもらえる看護者になれたら、患者さんの生きる強さにもなり得ると思う。居場所ができ、それが自らの拠り所になり、最後には自立し、次の場所へと繋がって場を残していく。それが病院から地域への移行の姿であると思う。私は、そうやって患者さんとある一定の距離感を大切にしながら、緩やかな繋がりに見えるが根底には強い意志のある看護者になりたい。


 精神科で処方される精神薬は精神症状を抑えるための薬であり、精神疾患を治すための薬ではない。そのことを踏まえると、そもそも精神科において病気は治療ではなく「養生」がしっくりくるのではないかと考える。信頼のおける居場所を提供して、心の安寧を患者さんにもたらすことのできる場所で患者さんに過ごしてもらうことが一番の養生だと思う。そして、自分も一人間として患者さんとの関わりの中で患者さんと自分自身の居場所における多様性の幅を増やし、看護者としての心構えを新しい患者さんと関わる度に振り返っては更新し、生涯に渡って成長していきたい。

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