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「ホテルエデン」連載中

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愛猫の「楓」を亡くし、泣き暮らす千里は暗闇のなか目覚めた。そこには黒髪の少女アケルと仮面の総支配人ケルビムがいた。そこはホテルエデンの東館。なぜそこにいるかもわからぬまま、ケルビ…
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#ケルビム

「ホテルエデン」第一話

「ホテルエデン」第一話

プロローグ
 白い光に目が眩む。この光は外からやってくるものなのか、内からやってくるものなのか……。破裂するほどの痛みに発する声は他人のものようにぼんやりと響く。
「まだですよ! まだいきまないで!」
 助産婦の手に汗が光り、私の顔を布のようなもので拭いている。
 そうだここは処置室……。白い処置室……。
 何度も訪れる無意識の狭間に、意識を失いかけるほどの激痛が私を呼び覚ます。
 今、ひとつの新

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「ホテルエデン」第九話

「ホテルエデン」第九話

美しい変化
(8)

 でき上がった料理を三人で食堂まで運ぶ。
「チクワ!」
 アケルが切り株の椅子の上で飛び跳ねる。待ちきれないのだろう。
「それじゃあ食べようか?」
「食べる!」
 サラダに煮物、焼き物に炒め物。まさに竹輪祭り。こんなに素敵で幻想的な大広間の中央テーブルでアケルと竹輪料理を食べ始めていることがとてもおかしくて、内心くすりと笑ってしまう。
「ではわたくし、せめてものお詫びとして音

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「ホテルエデン」第十一話

「ホテルエデン」第十一話

美しい変化
(10)

「ところで、まだ北館への入口は見つかってないのよね?」
「そうですね」ケルビムがしずかに答える。食堂の奥。中央に植えられている大きな木のさらに後方を指した。
 そこに、先ほどまでなかった扉が姿を現していた。
「たった今入口は開かれたようです。千里様のご尽力のお陰です」
 この食堂に入ったときには確かにそこには何もなかったはずだが、ふしぎとあまり驚かなかった。
 古めかしい、

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