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夏目ジウ 掌編・短編小説集

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これまでnoteに掲載した小説をまとめてみました。
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2023年5月の記事一覧

短編小説「告げるキセキは白いが元々は黒い」前編

短編小説「告げるキセキは白いが元々は黒い」前編

 小学校6年の作文で将来の夢「アイドルと結婚します」と、僕は大口をたたいた。周囲の同級生達は意外だったのか、それを境に僕に対して後ろ指を指すようになった。そのうち同級生に留まらず、担任の前田先生までも僕を怪訝な目で見るようになった。でも、校長先生は「横山君。アイドルは腹黒いから気をつけなさい」と説いてくれた。

 あの時の校長室での教えは僕に世の中は甘くない、と教えてくれた。

 高校を卒業してす

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短編小説「告げるキセキは白いが元々は黒い」後編

短編小説「告げるキセキは白いが元々は黒い」後編

 翌日僕は仕事を休んだ。
 一日休暇を取る、などとそんな一時的なものではない。永遠にずっと、休むつもりだった。入社二年目の僕に工場に行くメンタルなんか、体内にはなかったのだ。
 窓から差し込む陽光が途轍もなく眩しかった。

 これから僕はどうなって行くのか。
 途方もない死に近い何かが追いかけてくる。寝ても醒めても、「死に近いもの」しか身近にない場合はどんな末路を辿るのか。

 携帯電話のバイブ音

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ありえない星の群たち【掌編小説】

ありえない星の群たち【掌編小説】

 「やっぱり、別れようと思うんだ」
 日付けが変わるか変わらないかぐらいのタイミングで裕樹は恋人のエミーにそう告げた。

 8月、真夜中の公園。
 周りは蝉が激しく鳴いていたにも関わらず、彼女は耳を塞いだようにその鳴き音は一切聴こえなかった。エミーは追いたてられるように声を出さずに静謐に涕泣した。
 時が一瞬止まったように、息を一つ吐いたエミーは声を絞り出すように言った。何となくそんな気がしていた

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令和の風船おばさん【掌編小説】

 僕たちは、今日も一人の女性に魅せられる。彼女はいつも携帯電話片手に大きな紙袋を引っ提げている。年齢はいくつだろう。目の周辺に無数のシワがあるから、40歳は超えているのだろう。

 小学校の休み時間にみんなで外を眺めていたら、何やら彼女は話をしていた。
 「もしもし。私です。今週日曜日ですね。かしこまりました」
 おばさんは風船を背中につけて空を飛ぶ。その風船をレンタルする仕事をしているらしい。背

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