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スタッフインタビュー「中の人を知ろう!~パレスチナ事業現地代表・木村万里子さん編~」

こんにちは!JVCインターン生の中村萌音です。

今回は、2023/2/20に一時帰国された、パレスチナ事業現地代表の木村万里子さんのスタッフインタビューを行いました!

民間企業での経験を経たのち、NGOでのキャリアを10年以上積まれた木村さんの、自分の興味を行動に移して学び続ける姿勢や、大切にされている思いに迫ります。

※2023年2月にインタビューしました

 

万里子さんの略歴

・中学時代から、ニュースで見る紛争や災害、難民の様子から、緊急時に人々を助ける仕事がしたいと漠然と考えるようになった。

・大学卒業後、平和教育について専攻するため大学院へ進学。

・パレスチナにおけるイギリスの三枚舌外交についての卒業論文を執筆。

・その後社会人として民間企業に10年間勤め、事務処理能力を磨く。旅行添乗員で接客業なども経験する。

・転職で上京し、NGOでのボランティアを始める。難民問題や緊急時の教育支援に再び興味を持つ。

・NGOでの就職を視野に入れ、イギリスのヨーク大学大学院で戦後復興研究コースの猛勉強。

・アジアで教育支援を行っているNGOに入職、11年勤務。

・NGOスタッフの人材育成に関心をもつようになり、上記のNGO退職後、「スフィアスタンダードハンドブック(※)」の日本語版出版のサポートやハンドブックを用いた研修講師として活動。

・元から興味のあったパレスチナでの現地職員募集がJVCに入るきっかけとなる。

・JVCパレスチナで現地NGOと一緒に女性のエンパワーメント事業に携わる。

(※)スフィアスタンダードハンドブック:緊急人道支援において、災害や紛争の影響を受けた人びとの尊厳や生活を守るために、支援者が遵守すべき最低基準を示したもの。(https://jqan.info/sphere_handbook_2018/)

はじめに、パレスチナで一番好きな食べ物を教えてください!

一緒に働く現地スタッフのお母さんが作ってくれる家庭料理。特にお米が好きなので、マクルーベ(肉やスパイスを使った炊き込みご飯)やダワリ(ブドウの葉で挽肉やお米を包んで煮込んだ料理)、マハシ(なすやズッキーニなど野菜の中にお米をいれたもの)などが好きです。

あとはフムス(ひよこ豆のペースト)をパンにつけて食べるのも好きで、フムスはお店によって味が結構違ったりするので、お気に入りを探しています。

事務所の大家さん手作りのマクルーベ
(左上のなべで炊いたご飯をひっくりかえしたのが中央のもの)
(マハシ(お皿の上のほう)とダワリ(お皿の下のほう
パレスチナの朝ごはん(写真右下のペーストがフムス)

豚肉が食べられない!?現地での生活!

イスラム教徒が多いパレスチナも、ユダヤ教徒が多いイスラエルのいずれも、宗教上の理由で豚肉を食べることができるお店がほとんどありません。豚肉を食べるキリスト教徒が住んでいる地域では豚肉を売っているお店もありますが、日本にいる時ほど頻繁に豚肉を食べることはなくなりました。

また私が滞在するエルサレムは物価が高く、家賃も東京より高いです。月に一度生活費を引き出すのですが、円安の影響もあって、どんどん出費が多くなって大変です。一方で果物などは安く量り売りなので、市場で一人分だけ買ったり、たくさん買って誰かとシェアしたりもできます。


東京事務所でのランチ会の様子

一時帰国で東京事務所に来られたときに行ったスタッフインタビューですが、この日のランチ会では「豚の生姜焼き定食」を真っ先に注文されていました!

パレスチナ事務所スタッフでサイクリングを楽しんだ後のランチ

現在取り組まれている具体的な業務を教えてください!

活動地の東エルサレムとガザ地区のうち、東エルサレムで女性のエンパワーメント事業を主に担当しています。職業訓練やビジネス研修などの女性支援事業を行う現地NGOのシルワン・アットゥーリ女性センター(以下AWC)と一緒に活動を行っています。


現地スタッフとの会議の様子

JVCラオス事務所など他の活動地が現地スタッフを雇用しているのとは違って、パレスチナでは、地域に根付いて活動を行っている現地NGOのスタッフとともに活動を行う形になります。

現地NGOの方々と協力する中で大切にされていたことは何ですか?

現地AWCのスタッフは大学院を出ていたり、女性支援の経験が豊富な優秀な方々が多く、自分たちが過去に行ってきた活動に対して誇りも持っています。JVCは日本の外務省の資金を得てこの活動を実施していますが、単にAWCに資金提供して活動の実施をお任せし、活動報告をもらうという一方通行ではなく、「ともに活動をする」という姿勢を大事にしています。その際に、現地の女性たちのことを理解しているAWCスタッフの考え方を尊重し一緒に活動を作り上げていくことを心がけています。

「お金も出すけど、口も出す」みたいな感じですかね笑。

AWCとの活動は今年で3年目になりますが、支援を行うJVC、支援されるAWCとして、ではなく

「同じところを目指す対等なパートナー」であると強く感じます。

1年目はお互いの関係性も手探りな状態で、活動に口を出すのもためらいがあったので、個人的なおしゃべりをしたりして仲を深めていきました。

2年目からは、活動に対してのフィードバックでお互いに率直な意見交換を行い、PDCA(プロジェクトサイクル)を行う重要性を一緒に考えて活動しました。例えば、女性への研修後にアンケートを取ったりインタビューをしたりして、実際に女性たちにどのような変化があったのかを検証しました。その結果、AWCスタッフの方から「このやりかたでいいかな?」という風にJVCスタッフに意見を求めてくれるようになったり、自分たちの活動に手応えを感じてくれるようになったと感じています。

JVCが関わることで、AWCのスタッフも効率的な仕事のやり方など積極的に提案してくれたりといった姿を見るのがとても嬉しかったです。

あとは、活動の成果をわかりやすく示すために、研修の出席率など定量的なデータを用いるだけではなく、実際に活動を通して、はつらつと明るくなった女性のエピソードを含めるなど、活動を通して女性たちにどのような変化があったのかが伝わるように心がけていました。

その中で大変だったことはなんですか?

女性を取り巻く男性たちの考え方や行動が変わらないと、女性の社会的・経済的自立に限界があると感じたことです。

活動を行っている地域は伝統的家長父制に基づく男性優位の社会です。そのような地域社会では、そもそも男性向けの研修を行っても研修の必要性を男性に理解してもらうこと自体が困難ですが、そういった社会のあり方根本が変わる必要性をとても感じます。

一方で、男性の女性に対する意識や行動が変わるまでには時間がかかるので、男性を対象とした研修などを行ってもすぐに成果が出るものではないと思っています。AWCのスタッフが男性に対するアプローチに限界を感じていたり、難しさを実感して悶々としている様子を見ているので、この点は大きな課題だと思っています。

ただ一方で、例えアプローチできる男性の人数が少なくても、その人たちがキーパーソンになって彼らの話や行動が他の地域に広がっていったり、一つの過程から変化が生まれると思うので、小さな一歩でもやらないよりは挑戦したほうが良いと、ポジティブに捉えられる部分はあると思いますね。

一番のやりがいは何でしたか?

中東地域での活動は初めてで難しい部分もありましたが、最終的な裨益者である女性たちの変化を、モニタリングやインタビューを通して知ることができたのが嬉しかったです。研修の初めにはシャイでほとんど話をしなかった女性が、研修の途中から堂々と自分の意見を言えるようになっているところを見ると、私たちの研修が女性たちの自立に少しでも役に立つことができたのかなと感じました。


(現地スタッフとの様子)

今後の夢はありますか?

自分の興味が向いているのは、「緊急時の教育支援」や「人道支援に携わる人材の育成」です。

災害や紛争などの有事の際には、衣食住が優先、教育は後回しにされがちですが、教育によって、非日常の状況でも子どもたちが日常を取り戻すことができ、精神の安定を保つことができます。上述の「スフィアスタンダード」の仲間として、緊急時の教育ミニマムスタンダードという国際的な基準がありますが、これについて教える講師の資格も取得しました。

緊急人道支援だけでなく開発支援においても、こういった国際基準にのっとって支援を行ったり、支援に従事する人たちが国際基準について知ることも重要で、そのためのサポートにも取り組んでいます。その一環として、NGOや国連職員など緊急人道支援に関わる人たちのキャリアを綴った本※を、上智大学総合人間科学部教授の小松太郎先生と一緒に編集したり、緊急人道支援を目指す人たちのための社会人講座(上智大学・「緊急人道支援の基礎知識・スキル」にコーディネーターとして参加しています。

※小松太郎著 2020/4/20「国際協力・国際機関人材育成シリーズ3 国際緊急人道支援のキャリアと仕事 -人の命と生活を守るために- グローバルキャリアのすすめ」株式会社国際開発ジャーナル社

NGOを目指した当初から「教育支援」に関心がありましたが、最初は「教育支援=途上国での学校建設や教員の育成」といったイメージしかありませんでした。それが、実際にNGOで働きはじめると、現地スタッフなどNGOで働く人たちの人材育成も「教育支援」の大事な要素ではないかと気づきました。

現地での子どもへの教育はもちろん、現地スタッフの人材育成や、支援する側のスタッフのプロフェッショナル性を磨くのも、広い意味での教育にあたります。

例えば、紛争や災害でマーケットが全滅した場合と、生き残った場合では、物資支援なのかキャッシュの支援(クーポンなど配付して必要なものを購入してもらう支援)なのか、適切な支援の仕方が変わります。また現地での調査ではLGBTQなど性的マイノリティへの配慮も必要な時代になってきました。上述した支援の国際基準も、時代や状況に応じて変わっていきます。

支援する側のモラルも大切な時代になってきたので、引き続き国際協力を目指す人たちの人材育成やキャリア形成に関わりたいという夢があります

JVCの特徴は何だと思いますか?

JVCは政策提言(アドボカシー)活動にも力を入れているように、NGO周りのコミュニティーだけではなく、一般の方々に対しても社会の課題に対する問題提起を行っている点が特徴的だな思います。社会課題への意識を持っていながら、行動を起こしたい方たちが支援してくれるからこそNGOは成り立ちます。同じ意識をもった市民の輪を広げていくことがNGOとして大事な姿勢だと感じています。

また、寄付文化が成熟していない日本で、災害時には一時的に募金が集まるけれど、故郷を追われてから75年たった今も苦しむ人々がいるパレスチナの人たちへの寄付をしようとする人は残念ながら少ないです。だからこそ現地で活動する私たちが、現地で起こっていることや現地の人たちの声を発信することが大切だし、それもNGOの大事な役割のひとつだと思っています。

座右の銘を教えてください!

意志あるところに道は開ける”Where there's a will, there's a way”です。

私は群馬県出身で、都心よりも情報量が少なかったがゆえに当初はNGOでの働き方をうまくイメージできませんでした。国際協力に関心がありつつ、民間企業で働いていました。その中で9.11の出来事がきっかけとなり、ずっと持っていた国際協力や特に緊急人道支援への思いが大きくなりました。そこから知り合いをつたったり、自分でボランティアに参加したりする中でNGOとの繋がりができました。NGOの職員になるために、勉強の必要性を感じて30歳を過ぎてから大学院への留学を決意しました。

具体的なキャリアプランを持って行動してきた訳ではありませんでしたが、必要性を感じた時に行動を起こしてきました。

関心を持ち続けて小さなことから行動に起こすことが大切だと実感しています。

国際協力を目指す人々へ何か一言あればよろしくお願いします!

国際協力に関心があっても、最初の一歩をふみだせずに迷っている学生や社会人の方からキャリア相談を受けることがあります。そういう方たちに、私が勇気をもらった会田みつをさんの言葉を送りたいと思います。

「ともかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば 具体的な答えがでるから」

気になることを調べる、その分野で活動しているNGOに問い合わせをしてみる、ボランティアやインターンをしてみる、、、そういった行動の積み重ねの結果、私は30歳を過ぎてから国際協力の世界に足を踏み入れることができました。何か一つ行動を起こせばそれが将来に必ずつながるので、あまり頭の中で考えすぎず、自分の感性を頼りに、勇気をもって是非最初の一歩を踏み出してみてください!

どんな経験でも思わぬところで役に立ちます。私は、NGOとは全く関係ないように見える旅行添乗員の職務経験が、NGO主催のスタディツアーのアテンドという仕事として活かされたことがあります。

どんな経験でも損はないし、いつからでも遅くない」と思います。

国際協力での具体的なキャリアプランを決めていなくても、やりたいと思った時に行動をすればいつかは実現できます。年齢は関係なく、焦る必要もありません

私のキャリアを見てぜひ自信を持って欲しいです。

インタビューを終えて

今回のインタビューでは、

日本のNGOとして支援を押し付けるのではなく、現地の考え方を尊重し共に創り上げることの大切さ

年齢に関係なく、自分の興味に正直に行動を起こされてきた木村さんの姿勢

どんな年齢からでも挑戦できるし、何か一つ行動を起こせば必ず将来に生きるということ

支援者側の人材育成、キャリア形成の大切さ

を学ぶ内容となりました!広報担当として、支援の輪を広げていく重要性を改めて強く感じました。また、絶賛就職活動中の身からすると、「どんなキャリアでも、起こした行動は将来に必ず生きる」という言葉に勇気をもらいました!

JVCのインターンをやってみて、万里子さんにお話を伺えて良かったと心から思いました。

穏やかで優しい第一印象でしたが、お話を伺うにつれ、海外での大学院留学や現地での活動、一つの場所に止まらずに成長を追い求める姿勢など、とても活動的な一面を見ることができました。

このインタビューが国際協力を目指す方々の何かヒントになれば幸いです!

木村さん、私の拙い質問にも丁寧に答えてくださり、大切にされている思いもお聞かせくださり、本当にありがとうございました!


木村万里子  パレスチナ事務所現地代表

群馬県出身。 民間企業で働きながら国際協力NGOでボランティアを続けるうちにNGOの世界へ。 イギリス大学院への留学後、複数のNGOに勤務。 13年間で国内外あわせて16の緊急救援および教育支援、開発教育に携わる。 支援活動で滞在した国は、中国雲南省、フィリピン、ラオス、カンボジア、バングラデシュ、ミャンマー、ネパール。 2020年5月まではロヒンギャ難民支援に従事。これらの支援活動を通じ、より良い支援を行うためには自身も含め、支援する側の能力が重要であることを実感する。 2021年4月より現職。

●2023年度にやってみたいこと…①アラビア語初級からの卒業。②旧市街をくまなく踏破。③ものづくりに挑戦。


JVCでは【パレスチナ・ガザ】緊急支援を実施しています。皆さまのあたたかいご支援をお願いいたします。

イスラエルとパレスチナ・ガザ地区で今年 10月7日に始まった、ガザ側からのロケット弾と、イスラエル側からのミサイルの応酬によって、双方で1,000人以上が亡くなり、数千人もの人々が負傷しています(2023年10月8日時点)。

「天井のない監獄」と呼ばれるガザ地区は安全な場所に逃げる手段がなく、ガザ市民の置かれた状況は特に深刻です。貧困層も多く住む難民キャンプすらも空爆の対象となっています。国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告では、10月8日時点でガザでは120,000人を超える人々が、国連が運営する学校などより安全な建物への避難を余儀なくされていますが、それでもガザの人々の安全が確保されているわけではありません。また、イスラエル側からガザ地区に供給されていた電力やガスの供給が停止されたことにより、電力の約8割をイスラエル側からの供給に頼っているガザでは、ただでさえ機材の老朽化などが深刻な病院などは機能不全に陥り、人々の日常生活にも大きな影響を与えています。さらに、イスラエル側は燃料や物資の供給を停止するとしており、今後、人々の生活はさらに困難なものとなることが予想されます。

こうした状況を受けて、エルサレムに駐在するスタッフを中心に現地との調整を行い、緊急支援を実施します。皆さまからのご寄付は、現地のニーズを調査の上、被害を受けた人々への食糧支援、医療支援などの緊急支援に活用します。(※集まった金額のうち10%は、支援活動を日本から支えるための管理費に使わせていただきます。)

皆さまのあたたかいご支援をお願いいたします。



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