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【エッセイ】武蔵(東京編)⑧─皇居一周達成(『佐竹健のYouTube奮闘記(39)』)─

 桜田門へと着いた。

 桜田門は私のいる通路から堀を隔てたところにある。白亜の漆喰と黒く塗られた頑丈そうな扉が特徴的な門だ。

 3月の雪の日に、この門の目の前で、大老井伊直弼が水戸藩の尊王攘夷派の脱藩浪士の集団に襲撃された。これが世に言う桜田門外の変である。幕末史の大きなターニングポイントとなった桜田門外の変の舞台となった場所である。

 桜田門外の変で思い出したのだが、昔『週刊新潮』だか『週刊文春』で、司馬遼太郎の『幕末』という短編集の漫画版が掲載されていた覚えがある。そこに、桜田門外の変に関わった有村次左衛門という薩摩藩士の話が載っていたのを見かけたことがある。

(それにしても、こんなきれいなところで暗殺事件があったとはね……)

 私は目の前にある桜田門を見て、ふと思った。桜田門の辺りは落ち着いた雰囲気があるから、ここでかつて暗殺事件があったとはぱっと見思えない。歴史とか何も知らない人だと、きれいで落ち着いたところだね、の一言で終わってしまいそうなくらいに。


 桜田門の駅から地下鉄に乗って、半蔵門駅で降りた。

 このまま歩き続けていると足がくたくたになるので、少しショートカットしたいと思って地下鉄を使うことにした。

 本当は半蔵門へと向かいたかったが、間違えて代官山へと続く通りの方へ出てしまった。

(やっぱり江戸城は広すぎる)

 広い。あまりに広すぎる。歩いても歩いても、どこまでも城の敷地になるのだから。

 さて、歩いて千鳥ヶ淵を目指そう。そう考え、土橋の南側を見た。

 南側には、たくさんの水をたたえた堀があった。そしてその向こう側には、たくさんの灰色のビルが立ち並んでいる。

 その中に場違いな石造りの建物が見えた。少し赤みがかった石材の様子から、永田町にある国会議事堂だとすぐにわかった。

(お、こんなところから国会見えるのな)

 意外だった。まさかこんな場所から国会議事堂が見えるなんて。

 鉄筋コンクリート造りのビルの中にある石造りの建物だから、ものすごい存在感がある。

(これはいいネタになるぞ)

 そう思った私は、カメラを回した。


 千鳥ヶ淵へと向かった。

 青葉の繁る桜の下には、白や紫に近い青に彩られた満開のアジサイの花が咲いている。その隣にある遊歩道を、軽い生地のスポーツウェアに身を包んだ皇居ランナーは駆けていく。

 アジサイと青葉の極彩色で彩られた堀沿いの通りを、私は歩いて行った。

 堀の方を見てみる。すると、一羽の鳥が、堀に刺さっていた竹竿みたいなものに止まっていた。鳥は両側の羽を大きく広げている。

「不思議生物発見!」

 そう心のなかで叫んだ私は、カメラを構え、その不思議生物の姿をとらえた。

 やっぱり、皇居にはいろんな生き物がいる。

 よく東京のことについて、

「自然が無い」

 と言う人がいるが、そんなことはない。

 皇居にはたくさんの木々があるし、白鳥や今見つけた謎の鳥もいる。上野にも桜をはじめとした木々をはじめ、不忍池には蓮池もある。あと、東大の前には何本もの銀杏の木が植えられているではないか。都心や池袋や新宿などの副都心から離れた郊外には、もっとたくさんの自然がある。武蔵野や三鷹、調布、八王子などの都外は言うまでもない。

 こうして考えてみると、東京にも自然はあるんだなと感じる。田舎と都市という極端な形で区分けされているのではなく、都市の中に自然が共存しているのが本当にすごい。


 北の丸の方へと出た。

 引っ越す前はよくこの近辺まで自転車で来ていた。

 というのも、この辺りは前住んでいたところから自転車で行くには調度いい距離だったからだ。だから、靖国神社や近くの東京大神宮、神保町の古本屋街なんかをよく見たものだ。

 近くに昭和館があるが、そこは一度しか行ったことがない。だが、第二次大戦に日本が負けたとき、昭和天皇がラジオで国民に語りかけた玉音放送を聞けるコーナーがあったのは今でも覚えている。

(せっかくだし、靖国神社にでもお参りするか)

 私は信号を渡り、向かいにあった靖国神社へと向かった。靖国神社で英霊にあいさつを済ませたあと、境内でやっていた菖蒲の展覧会を見た。

 簾で覆われた空間に、青紫や白、水色に近い青に彩られた花を咲かせたたくさんの菖蒲が展示されていた。特に水色に近い青の花を咲かせた菖蒲は、爽やかな色合いが初夏らしい。

(やっぱりこの時期は菖蒲もきれいよね)

 私はウエストポーチからカメラを取り出し、写真を撮った。

 5月、6月という夏の始まりには、青や水色、紫色がよく似合う。


 靖国神社を参拝したあと、九段下の地下鉄に乗って竹橋で降りた。そこから再び歩いて、和気清麻呂の銅像や不浄門と呼ばれた平河門を見て、スタート地点である三田線の大手門駅の前に戻っていた。

 皇居を一周した。といっても、途中で2回地下鉄を使ってだけど。

 階段を降りて電車に乗って自宅へ帰ろうとしたときには、足がくたくたになっていた。

 よくメディアなんかで、皇居を一周する皇居ランナーが取り上げられているが、彼らは本当にすごいと思う。


   ※


 正直私は、関東城めぐりという企画の中で最も苦戦したのは、ここ江戸城であると思っている。

 地元で何度も来ているから、勝手は知っている。だが、広いし、いろいろあるしで、どこを巡ればいいのか、わからなくなるし、疲れるからだ。でも、景色はいいからいくらでも巡れるのだけど。

 もしまた「関東城めぐり」の企画をやることがあったら、今度は二の丸とか飯田橋の見附跡にも行こうかなと思う。そして、寄り道先は、湯島聖堂とか墨堤とかにしようと思っている。


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