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【エッセイ】旅動画を作ろう⑥─旅動画(1日目)─(『佐竹健のYouTube奮闘記(48)』)

 8月14日朝。ベッドの上で、私はスマホを開いた。

 スマホの通知欄を見ると、ミラティブのマークがあった。

「早いねぇ...…」

 そうつぶやいて、私はミラティブのアプリを開いた。起きた瞬間低血圧と熱さが同時に襲ってくる灼熱の朝は、正直辛い。

 画面の向こうの後輩は、元気にトークをしながら、愉快に小さな町や暑そうな田んぼの真ん中にある道を駆け抜けていた。

 私は、おはよう、と返して、灼熱の旅動画の1日目の顛末を見届けることにした。


   ※


 注意のため、最初に言っておくことがある。

 このエッセイが出るときは、2023年も暮れになるころだろう。撮影から4ヶ月経っているので、忘れていたり、記憶が不鮮明だったりする部分がある。だから、ここからは、起きたこと全てを書かずに、何となく印象深かった場面やそれについて思ったこと感じたことを書いていこうと思う。

 また、旅動画の最新作が出て、新たな情報がわかり次第、加筆修正していくつもりだ。


   ※


 話は、8月14日の朝に戻る。

 青葉の繁る周りの山々。強い日差しに照らされ、紺を帯びたグレーから灰色に変わっている道路のアスファルト。どれも世間の人が言う夏を象徴する光景そのものだった。そして何より、どこまでも広がるコバルトブルーの夏空がとても印象的だった。

(え、新潟の下越ってこんなところだったっけ?)

 風景を見て、私はふとそんなことを思った。

 私自身、鉄道での遠距離旅行で、前にも何回か来ているが、こんなに山深かったとは思わなかった。どちらかと言えば、郊外は東京やさいたま市からほんの少し離れた埼玉に近い感じで、都市部は、都内の辺縁にあるそこそこ大きな街みたいな感じというイメージがあった。分かりやすく表現すると、郊外は志木市とか富士見市、都市部は埼玉の川口市とか神奈川の藤沢市に近い印象を見受けた。一部川越の蔵の街や菓子屋横丁、葛飾区の柴又みたいなところもある。おそらく私が山間部にあまり行かないから勝手にそう印象づけているのだろうが。

 もし今度行く機会があったら、志木や富士見の方といかに似ているかを検証してやろうと思う。

 ちょっとした違和感を感じつつも、私はベッドに横たわって配信を眺めていた。

 言い忘れていたが、このときの後輩の行き先は、胎内市で鮎釣りをするため、荒川だか胎内川の河原へ向かっていた。

 他愛もない話をしているところへ、私は、

「クイズは覚悟しておきなね」

 と言っておいた。

 二人を乗せた車の窓から見える景色は、人の住処を残した街並みから、田んぼと青い山の絵になるような田舎道へと変わっていく。


 村上市へと向かう道中、後輩たちは線路に沿った道を走っていた。目的地の方向からして、路線は羽越本線であろうか?

 二人はトークをしながら、車を走らせていた。

 しばらくしたころ、右脇にある線路に電車が走っていった。

 その電車の車両の色が何色だったかまでは、私は覚えていない。だが、よくJRの路線で走っている銀色に色のついた帯(山手線なら黄緑色、京浜東北線なら水色の帯みたいなのがある)のデザインのものでなかったのは確かだ。

 銀色ではない電車を見て、後輩と相方は、

「うおー、電車キター!!」

「しかも銀色じゃねー!!」

 とはしゃいでいた。

「よくあるんだけどね……」

 心の中で、私はこうつぶやいた。

 銀色じゃない電車は、そんなに珍しいものではない。

銀色の電車の車両(2020年撮影)
江ノ電の車両(2020年撮影)

 都営三田線に停まる東急線直通の紺色の車両、西武線の黄色い車両。こんな感じで意外とあるものだ。特急や路面電車、新幹線などを含めると、都電荒川線のそれや江ノ電、群馬と東京を繋ぐりょうもう号、MAXとき、東海道新幹線の白い車両、わたらせ渓谷鐵道などがある。西日本のものでは、肥薩おれんじ鉄道や豊肥本線の赤い車両の列車であろうか。見ただけのものなら、神田だかお茶の水だかで赤い列車を見たことぐらいだろうか。結構当たり前に見ているし、乗っている。だから、赤色の電車が通っても、

(あ、電車が走ってる)

 程度の認識でしかない。だから、配信で電車が移っても、なんとも思わない。

 2人にとっては、そんな銀色でない車両が珍しく見えるらしい。

 ここに私は文化や生活習慣の違いを感じた。


 電車が通った後、今度は海沿いへと出た。

 車窓から見える青い海は、灼熱の季節の強い日差しを受けて、きらきらと輝いていた。その上には、淡い水色の空が広がっている。

「うおー!! 海だ!!」

「めっちゃきれい!!」

 海を見た後輩とその相方は、車の中でハイテンションになっていた。

(きれいだな……)

 私もそう思いながら、大海原が広がる光景を画面の向こう側から見ていた。

 目の前にあった海岸の光景は、若洲海浜公園やお台場、鎌倉の由比ヶ浜や稲村ヶ崎のそれとは違う、人工感が無い天然の海岸だった。

東京湾(2021年撮影)
由比ヶ浜(2022年撮影)
由比ヶ浜(2023年撮影)

 一番上の写真が東京湾のもので、下の2つは鎌倉の由比ヶ浜から撮影した相模湾だ。こんな感じで、人工感が強い。

 特に東京湾のそれは、ものすごい人工感がある。京葉線の鉄橋に西葛西や千葉の団地群、そしてその対岸には観覧車が見える。おそらくこの観覧車は、葛西臨海公園か千葉の浦安市にある夢の国のものと考えられる。

 鎌倉に至っては、東京湾ほどではないが、リゾートホテルやらがあって、観光都市だなという感じがある。

 人工感のある海岸は、これはこれでいい。人工物がしっかりと絵になっているから。

 淡い水色の空に青い海、そしてせり立った岩壁。天然の海岸というのは、やっぱりいいものだ。自然の海に来ているという感じがして、何だか胸がワクワクしてくる。それにここは、東京の裏側にある日本海。冬場にここを訪れたら、灰色の空に白波が大きな音を立てて岩壁に当たって砕けるという迫力ある光景を見ることができるだろう。

 その後、笹川流れへとたどり着いた後輩は、配信を切って旅動画の収録へと向かった。

 1日目の旅で印象に残っているシーンは、こんな感じだろうか。文化や生活習慣、天然の海岸の良さに気づかされたいい配信だった。

(続く)


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