ケン@神経薬理研究者

薬学博士/専門は神経薬理学、特に感覚に関する研究/旧帝大薬学部卒業後、博士課程へ進学(…

ケン@神経薬理研究者

薬学博士/専門は神経薬理学、特に感覚に関する研究/旧帝大薬学部卒業後、博士課程へ進学(学振DC1)/学位取得後、大手企業の研究所勤務→大学発ベンチャー社員・大学の博士研究員/痛覚、嗅覚などの感覚研究に取り組んだ後、現在は脳がもつ新しい全身機能の研究に従事。

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  • ライフサイエンス論文紹介

    感覚や神経、脳に関する分野を中心に、比較的新しい論文や各分野における非常に重要な発見についての論文をご紹介します. 間違っている箇所への指摘や, コメントなどは大歓迎ですのでお願いします!

最近の記事

学振DC1をとったときの話

こんにちは、あるいははじめまして、ケンです。 2021年末に転職し、現在では大学発ベンチャー企業での研究員の身分と、大学での博士研究員の身分を得たため、科研費など研究助成の申請資格を得ることができました。そんなわけで、つい最近まで科研費(研究活動スタート支援)や民間の助成金への応募のために、久しぶりに研究費の申請書の作成を行っていました。 学振-DC1の申請以来なので、実に8年ぶりの申請書作りです。当時とはフォーマットが結構変わっていたので少し手間取ってしまいました。

    • アストロサイトと恐怖記憶(2021年11月Nature Neuroscience掲載論文)

      脳には神経細胞以外に、グリア細胞と呼ばれる細胞が存在する。アストロサイトは脳の構成細胞の中でも最も数が多い細胞で、脳の中には神経細胞の数の数倍から10倍程度の数のアストロサイトが存在する。 これまで、アストロサイトは脳の支持をしたり、栄養を供給する、いわば神経細胞のサポート役(脇役)のように考えられてきたが、ATP、グルタミン酸、D-Serineなどのグリア伝達物質と呼ばれる物質を放出することで神経機能を調整し、積極的に脳機能を制御していることがわかってきた。実際、記憶の形

      • 危険を感知する神経(2018年3月Nature掲載論文)

        こんにちは、ケンです。 最近、所属が変わったことに伴い、研究テーマもガラッと変わりました。 もともと脊髄における感覚情報処理機構が自分の学位論文のテーマだったのですが、今度は脳をメインターゲットに感覚および情動の研究を行うことになります。そのため、最近は脳のお勉強に時間を割くようになりました。 まずは体性感覚と関連深い脳領域(腕傍核、偏桃体、前帯状回、青斑核など)に関するところから手を付けていって、そこから少しずつ領域を広げていこうと思っています。 今日紹介するのは少

        • 研究職の転職活動に関して

          こんにちは, あるいははじめまして. ケンです. 転職活動を終えて、無事に転職することに成功しました。最近は新しい環境に向けた準備でバタバタとしていましたが, ようやく少しずつ落ち着いてきました. 論文紹介も再開していこうと思います. さて, 今回は自身の転職活動についてつらつらと書き連ねていきます. 転職するに至った経緯理由はいくつかありますが, 最初のきっかけは所属していた企業では5年, 10年先を見据えたような腰を据えた研究を行いにくいように感じだしたことです. 

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        • ライフサイエンス論文紹介
          6本

        記事

          心地よい匂いの報酬価値の神経処理(2021年4月Current Biology掲載論文)

          先日, 恐怖情動を惹起するにおいが人工冬眠状態を惹起するメカニズムに関する論文を紹介したが, 今回は心地よいにおいに関する研究を紹介しようと思う.  音楽を聴いたとき, 絵画を見たとき, においを嗅いだときなど, 感覚刺激は快であれ不快であれ, なんらかの情動が惹起されることが多い. におい自体の強度, 種類がどのように処理されているかということにもまだまだ謎は多いが, においに伴う情動がどのように神経処理されているかについてはさらに多くの謎が残されている.  今回紹介す

          心地よい匂いの報酬価値の神経処理(2021年4月Current Biology掲載論文)

          化学感覚ニューロンの起源となる祖先型の化学感覚ニューロンを発見か!?(2021年8月Neuron掲載論文)

           今回紹介する論文はドイツのザーランド大学とマックスプランク研究所からの研究報告で、タイトルは「Danger perception and stress response through an olfactory sensor for the bacterial metabolite hydrogen sulfide(バクテリアの代謝物である硫化水素の嗅覚センサーによる危険察知とストレス応答)」だ.  ちなみに本研究には筆頭著者が3名いるが, そのうち1名は東北大学で修士号

          化学感覚ニューロンの起源となる祖先型の化学感覚ニューロンを発見か!?(2021年8月Neuron掲載論文)

          神経活動パターンが違うと生じる感覚が変わる?(2020年6月Neuron掲載論文)

          体性感覚(痛み、かゆみ、触覚、温度感覚など)にあまり馴染みがない人には、かゆみと痛みはよく混同されるが、実は両者は全く異なる感覚である。体性感覚の中でも特にかゆみのメカニズムの解明は遅れており、かつては「痛みの神経が感じる弱い痛みがかゆみである」と考えられていたほどである。 2007年になり、ガストリン放出ペプチド(gastrin-releasing peptide:GRP)とその受容体(GRP receptor:GRPR)が脊髄後角でかゆみ情報を選択的に伝達することが示さ

          神経活動パターンが違うと生じる感覚が変わる?(2020年6月Neuron掲載論文)

          人工冬眠を誘導するにおい分子とその神経伝達経路の解明(2021年4月 Nature Communications掲載論文)

          嗅覚は五感の中でも最も軽視されてきた感覚である。「五感の中のうちどれか1つの感覚をあきらめないといけないとしたら?」と尋ねられるとたいていの人は嗅覚を選ぶ。実際、マッキャン・ワールドグループによる2011年の調査によれば、ノートPCや携帯電話のような電子機器をあきらめるか、それとも嗅覚を失うかどちらがいいかと尋ねられた若い人(16歳から22歳)のうちなんと半数以上が嗅覚を失うことを選択したという報告もある。置き換え可能なテクノロジーを失うことよりも、身体的な障害を負うことを選

          人工冬眠を誘導するにおい分子とその神経伝達経路の解明(2021年4月 Nature Communications掲載論文)

          企業と大学でのバイオ関連研究の違い

          こんにちは, あるいははじめまして, ケンです。 現在, 修士・博士課程に在籍されている方の中には, アカデミアの世界に進むか, 企業に入って研究員として働くか迷われている方も多いのではないでしょうか? とはいえ, 大学での研究のイメージはある程度想像がつくとはいえ, 企業での研究のイメージはあまりピンとこない人も多いはず(私もそうでした)。 企業ごとに文化やスタイルがあるため, ひとくくりにすることは不可能なのですが, ある程度多くの企業で当てはまるであろうアカデミア

          企業と大学でのバイオ関連研究の違い

          企業での研究は本当に不自由か?

          こんにちは、あるいははじめまして、ケンです。 アカデミアに進むか企業に進むかを決めるときの軸の1つとして、 「自分がやりたい研究ができるか?」 というものがあるかと思います。研究成果の社会実装を目指すには企業というのは非常に魅力的な環境であると思っていますが、やはり製品開発を最終的な目的とする企業の研究と比べて、発見そのものが主たる目的のアカデミアの研究はやはり研究自由度が高いと思います。 その一方で、アカデミアの研究であってもその原資は国民の税金であるのだから、国民

          企業での研究は本当に不自由か?

          Ph.D取得は企業で働く上でメリットか?

          こんにちは、あるいははじめまして、ケンです。 学部や修士の人の中には、博士課程に進学するかどうか、アカデミアか企業のどちらに行くかで迷われている方が結構多いのではないかと思います。私もその1人でした。 私の場合は、学部3年のときにアカデミアに進むか、企業で研究職になるかどうかをウンウン唸りながら悩んでいたのを今でもよく覚えています。 今回は博士課程に進学したことで私が学んだことと、企業に入ってから感じた恩恵について書いてみようと思います。 【12/13追記】 アカリ

          Ph.D取得は企業で働く上でメリットか?

          企業に入って感じたデメリット

          企業に入ったデメリット デメリットと言えないようなものもあると思いますが、あくまでも僕個人が感じているデメリット(フラストレーション)という風にお受け取りください。 その1 時間の流れの違い これはその企業の研究所の方針や働き方にも依存するので一概には言えませんが、僕のところでは萌芽研究の進捗速度は非常に遅いように思います。 メリットのところで、「企業では重要度が高い研究課題であれば、そのお金に物を言わせて、外部の研究機関に実験を委託し、研究のスピードアップを図ることが

          企業に入って感じたデメリット

          企業に入って感じたメリット

          こんにちは、あるいははじめまして、ケン です。 僕は大学院で神経薬理学を専攻し学位を取得した後、大手消費財メーカーの研究職として現在働いています。 大学時代も学部〜博士と、ずっと感覚の研究を行ってきましたが、幸いなことに企業に入ってからも感覚の研究に従事しています。 今回は企業に入って見えてきたことをつらつら書いていきたいと思います。 今回はメリット編 企業に入ったメリットその1金銭的・時間的な余裕前回の記事でも少し触れましたが、アカデミアと企業では金銭的な面での違

          企業に入って感じたメリット

          博士修了後の進路選び 企業研究者へ

          こんにちは、あるいははじめまして、ケン です。 博士に進んだ人はもちろん、現在修士課程の人も「アカデミア」か「企業」かで迷うことがあるかと思いますが、僕もその1人です。 入社後も「どうして企業に?」とちょいちょい聞かれますが、やはりそれだけ博士進学者が企業に行く選択をすることはまだまだ少ないのかもしれません。 特に自分の場合は、薬学出身だったこともあり、医薬業界かそれ以外かについても非常に悩みました。 アカデミアではなく企業を選んだ経緯1 研究自由度の観点から 企業

          博士修了後の進路選び 企業研究者へ