企業での研究は本当に不自由か?

こんにちは、あるいははじめまして、ケンです。

アカデミアに進むか企業に進むかを決めるときの軸の1つとして、

「自分がやりたい研究ができるか?」

というものがあるかと思います。研究成果の社会実装を目指すには企業というのは非常に魅力的な環境であると思っていますが、やはり製品開発を最終的な目的とする企業の研究と比べて、発見そのものが主たる目的のアカデミアの研究はやはり研究自由度が高いと思います。

その一方で、アカデミアの研究であってもその原資は国民の税金であるのだから、国民あるいはすべての人類に還元できるような研究を行うべきだという考えもあるかと思います。

個人的には、本質的に人は知りたがる生き物であり(子供なんてまさにそうですよね、好奇心のかたまりで自分が知らないことを知ることで世界が広がっていくのが本当に楽しいように見えます)、知の発見・獲得そのものに価値があると考えています。しかしながら、お金は限りあるものですのであれにもこれにも予算をつけることはできない悲しい現実があります。

実際、我が国では「選択と集中」が推進され、ごく限られた領域とグループに研究予算が偏っているように感じています。成果がわかりやすい研究、なおかつ、研究実績があるグループに集中的に投資が行われやすい状況であり、萌芽的な研究にはチャレンジしにくいのが現状かと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、企業ではどうでしょうか?というのが今回の話題です。僕はまだまだ企業研究者歴が浅いうえに、1社しか経験していないのであくまで個人の感想となってしまうのですが、参考程度にお読みいただけますと幸いです。

結論から言うと、基本的には企業では個々人の興味があるやりたい研究を行うのは難しいけれど、全くできないわけでもない、というのが僕の考えです。

企業では製品開発につながる研究を行うことが大前提

まずは当たり前の話になってしまうのですが、企業は営利団体ですので、極端な話とすると研究は必須ではありません。実際、研究所や開発センターを持たない企業はゴマンとあります。というよりも、そうした機能をもっていない企業のほうが多いかと思います。あくまでも、営利活動を行う上で研究・開発を行って新しい製品を生み出したほうが長期的に有益だと経営陣が判断しているからこそ製造部門や営業部門をはじめとする色んな方々が生み出してくれた利益の一部を使用して、研究活動を行うことができるのです(※豊田中央研究所やサントリーグローバルイノベーションセンターのような特殊な会社もありますが)。

したがって、研究を行った際に製品には全くつながる見込みはないけど、すごく面白い現象を見つけた!ということがあったとしても、「よし、学術的に面白そうだからそれを細かく調べてみよう」ということは滅多にありません。企業の技術力を示し、当該分野での共同研究を実施しやすくしたり、企業プレゼンスの向上のために論文化させてくれたりすることは昔は少なくなかったようですが、今は色んな企業でそうした機会も減りつつあるようです。残念。

また、次々と新しい技術が生み出される現代では自社で1から何かを発見するところから始めるよりも、面白い技術を既に持っているスタートアップ企業をM&Aしたり、技術の特許を購入してしまったほうが早いため、純粋な基礎研究への投資はどんどん縮小傾向にあります。実際、生命科学系でいうと、比較的最近では味の素の基礎研究の中核を担っていたイノベーション研究所が2019年に閉鎖されました。

したがって、(研究出身ではないような)経営陣の方々でもわかりやすい成果につながるような研究に集中的に人やお金が投資されやすいのが企業の研究所なのだと感じています。

言葉が正しいかはわかりませんが、研究を萌芽研究・基礎研究・応用研究・開発研究という4つのステージに分類するとすれば、応用研究や開発研究に投資(人も含めて)が偏っているような印象を受けています。

ですので、既知のものを如何に社会実装していくか、ということがやりたい研究だという人は企業の研究所はとても良い環境課と思います。僕の場合は、基礎レベルの科学としてもインパクトのある発見を行ったうえでそれを社会実装したいという欲張りとも言える想いを持っているため、まずは萌芽研究や基礎研究に該当するような研究を行いたいという欲求がありました。ですので、現時点ではそれがやりたい研究に当たります。

企業では全く萌芽研究・基礎研究はできないか?

では、学術的な研究は企業で行うことは不可能なのか?と問われたら、それはNoである、と僕個人は考えています。確かに、行いにくい環境ではありますし、上司によっては発見そのものをなかなか評価してくれないこともあるでしょうが、不可能ではありませんし、場合によってはアカデミアよりも行いやすいのではなかろうか、と思うときもあります(これはごく最近そう思えるようになってきました)。

これも所属する企業の文化や環境に大きく依存するので、すべての企業で当てはまるわけではありませんが、少なくとも私の会社やいくつかの会社では、業務時間の内一定の割合程度であれば自由に研究を行うことを容認されているケースがあります。確かに製品開発に直接つながる研究をするのが好ましいけど、研究って未知との遭遇なので意外なところから素晴らしい技術やイノベーションが生まれることってあるよね、という考えが研究者の共通認識としてベースにあるからだと思います。直接的に製品に貢献することがわかりやすいような研究からは、改善や改良は生まれやすいし、投資への見返りは期待できるけど、その一方で大当たりは生まれにくいというジレンマを経営陣たちも抱えているのでしょう。

実際、業務外の「闇研」から素晴らしい製品が生まれたという例はたくさんあります。Gショックや第三のビールなど、誰もが目にしたことがあるような製品も、もともとは研究者の人たちがこっそりと自由にやりたい研究を行った結果生まれたものだそうです。

業務時間の内の決められた割合以内でなら、というルールはもともとはとある製薬企業の制度だったらしいのですが、「おっ、それはなかなかいい制度だな」ということで色んな企業で真似をするようになったのだとかなんだとか・・・(真偽は知りません)。そうした制度を明文化し採用してる有名な企業としてはP&Gがあります。P&Gでは、業務時間の15%以内、と定められているそうです。

私のような若手研究者だと、自分自身で科研費を申請してもせいぜい3年間で200-300万円程度の予算しか獲得できないと思いますし、額が大きくない科研費であろうとその採択率は非常に低く、大変狭き門です。自由な研究といえど、上司の承認さえいただければ企業では使える額もある程度大きいですし、そもそも研究所内に必要な試薬や機器が揃っていたりしますので、そう考えると自由な研究はある程度行うことは不可能ではないといえます。上司次第、企業文化次第という面は否めませんし、土日祝日にも自由に研究ができるアカデミア違って、労働時間に制限がある分、不自由はしますが・・・。

入社当初は、本当にやってみたいような研究はなかなかできない・・・。自由度が少ない・・・。と嘆いておりましたが、土日には通常業務がない分、やりたい分野の勉強をしたりする時間は非常に多く確保できますので、事前に頭の中で計画を練って、必要最小限の実験をささっと済ませてしまうだけなら、業務時間の内の限られた時間であっても割となんとかなるのでは?というふうに最近は思えるようになってきました。

結局は自分次第?

アカデミアにはアカデミアの、企業には企業の良い部分がそれぞれあり、それを見つけられるかどうか、自身に与えられた環境を活かすことができるかどうかは結局は自分次第だと思います。今自分が所属している組織が100点満点という人はなかなかいないでしょうし、以前まで所属していた組織と比べて悪いところは目につきやすく、良いところは案外気づきにくいものです。

最後に、入社してから僕が気づいた企業に所属するデメリットも記載しておきます。研究者としては業績を積み上げるために研究成果の特許化や論文化を行う必要がありますが、これらはライバル企業に情報を公開することでもあります。あえて公開せずに、ノウハウにしてしまったほうがいいのでは?(コカ・コーラのレシピとかもそうですよね)という研究成果も分野によってはわりとあり、研究者としての業績を積みやすいかどうかという視点も含めて、自分の生き方を考えたほうがいいかもしれません。

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