【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 10月17日~10月23日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。寒暖差の激しい日々が続き、雨模様だったり晴れたり色々とせわしないですが、みなさんどうか養生してくださいね。

10月17日

イラストののち、執筆。日々の雑記を一つのファイルにまとめています。自分が思ったこと、見たもの、感じたことをそのままに書くスケッチ練習のようなものです。

10月18日

晴れて心地いい気持ち。執筆の疲れが出たのか、かなり眠っている時間が長かったです。月曜日なので英会話を独学ラジオで。久々に作品群の推敲。夜にある雑誌のゲラを落掌しました。すぐに返せてよかったな。大橋崇行『中高生のための本の読み方 読書案内・ブックトーク・PISA型読解』回送中。

10月19日

雨そして寒いこと! 朝だけ暖房デビューしました。ぜったいに風邪をひかないと誓って移動図書館にささっと行ってささっと帰ってきました。おうちでしごと。

・嵐山光三郎『ゆうゆうヨシ子さん』中央公論新社

親子っていいなあ。俳句でつながる親と子のつながり。わたしも連句仲間とは「あの句が忘れられない」となぜだかずっと覚えていたり。友達って、会えていなくてもそういうところでつながっていたりするんです。ヨシ子さんは百歳の「ローボ」。息子が彼女の伝記仕立てで共に暮らす日々を俳句で彩りながら書いていきます。両親も息子も俳句をやっているなんて素敵だなあ。二人句会なんてときめきますね。わたしの両親は俳句はやっていなかったものの、わたしに色々なジャンルの本を教えてくれました。父は主に詩歌、日本文学。母は翻訳文学や英米文学に詳しい人でした。うん、もう少しがんばってみよう。

・飯田彩乃『歌集 リヴァーサイド』本阿弥書店

わたしの友達の友達、という遠いけれど憧れをいだいていた飯田さん。彼女の短歌を読みたいとずっと思っていました。びっくりした。このことばがここに配置される驚きであったり、彼女自身はきっと何気なくぽん、と出したのだろうけれど、水の不思議であったり。表現や文体は平明であるにもかかわらず、そこにはいい意味で平凡さがありません。わたしが思った水の不思議は、水、というものがペットボトルの中にも、バスタブにも、汗にも、そして空にも海にも匂いにもあること。飯田さん自身が川べりに住んでいたから、とあとがきで解説されていますが、そのくらい彼女と「水」は切っても切れない関係であったのだろうなと思います。

・金原瑞人 三辺律子編『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOK MARK』

三辺さんとは連句仲間なので、図書館で見つけたときに「ま! うれしい」とにまにましてしまいました。実はわたし、BOOK MARKの大ファンなんです。2019年のカレンダーを買って、そこに書いてある本をすべて制覇したことを思い出しました。その2019年に出たカレンダーの中身がこの本にぎゅっと入っています。1号から12号までのBOOK MARKの軌跡、そして「海外文学を広めたい!」という翻訳者の熱意。金原さんも三辺さんもお仕事を本というかたちで拝見していますが、とても熱意を持って紹介されているなと本当に思いました。わたしもがんばります。

10月20日

晴れ、昼過ぎ少しあたたかかったです。イベントの準備、もろもろ。

・イザベラ・ディオニシオ『平安女子は、みんな必死で恋してた イタリア人がハマった日本の古典』淡交社

すごーい!! 2020年に出た古典超訳と解説なのですが、そうだよねえ、イタリアでは「愛してる」を「アモーレ」と伝えるけれど、平安時代や古典の世界では和歌で伝えているから、「愛してる」がたくさんの変化に富んでいるわけです。この著者は高校生や中学生にもなじみやすい日本語で古典の魅力を伝えているけれど、わたしにもド直球でした。楽しい! そしてこんなに日本の古典を偏愛してくれてうれしい! と思いました。

・山川藍『歌集 いらっしゃい』角川書店

こんなうた、初めて読みました。いい意味でびっくり。平明かつ誰もが使うような、そしてどこか女性芸人のような噺家をイメージしてしまいました。現代で活躍中の女性芸人はみんな拝見している限りではとてもパワフルだと思っていて、さばさばとしていてかっこいいです。彼女たちが「生きる」ということ、日々を過ごすということを一緒に感じられました。そして、山川さんは接客という仕事に話をするのが下手ながらもつとめます。ことばの魅力に良い意味でとらわれて短歌と出会った個性豊かな方だなあと思いました。

10月21日

晴れ、がんばってきてよかったなあと思ったことがもろもろあった日でした。時間のかかるもの(年単位・月単位)ですが、そういうのって本当に大事ですね。

・大橋崇行『中高生のための本の読み方 読書案内・ブックトーク・PISA型読解』ひつじ書房

こういう本、貴重だなあ。わたしは教育現場の図書館を次々まわって勤めていたため、こういう読書案内の本があると図書館ももっと活躍できるはずだと思います。現代の中高生に本当に読んでほしいし、先生方にも読んでほしい。今、「本」という紙媒体で読む子どもたちは少ないけれど、そういう人達にもわかりやすく読解の仕方が書かれています。

・武田百合子/文 野中ユリ/画『ことばの食卓』筑摩書房

武田百合子さんの随筆は「凄い」としか言えません。随筆で凄いって……と思った皆さま、読んでみればわかります。まなざしがまっすぐで率直で、何かを食べる音とか空想とか、そういったものが今にも目に見えるように書かれてある。彼女の日記から始まった随筆文学は、彼女が齢を重ねるごとに進化・深化していくように感じるんです。おすすめです。ぜひ極上の随筆を。

・上野誠『万葉集講義 最古の歌集の素顔』中公新書

東洋からいきなりやってきた「文字」というものの「漢字」というもの。それに押し流されつつ、ことばというものを「文字」にしていくって、とんでもない作業だったと思いますよ。日本には「うた」がありました。その「うた」を書き起こす作業。それも「文字」という「漢字」で……と思うと気が遠くなりそう。でもそれも、最近の研究でわかったことなんだそうです。実は中国など他の文化も混じってできた歌集なのかもしれないという実験的な一冊でした。


10月22日

雨、家にこもってしごと。新作一編。今日も万葉集講義をラジオで。最近「半七捕物帳」の朗読をラジオで平日は毎日聞いています。寄稿した新刊のお知らせができました。情報詳細はもう少しお待ちください。

・戸田響子『煮汁』書肆侃侃房

夢と現実のあわい、境界線を見ること、それをことばにすることに秀でた歌集だなと思いました。きっとそれは歌会で磨かれたのだと思いますが、自由詩というかたちをとって現れる著者のことばの選び方が「単語」というものをはっきりと「詩句」に彩っています。こういう詩歌の作り方は絶妙なものがあり、いつも使っている平明なことばを詩歌にすることはとても難しい。そういった意味で、ポエジーを感じさせられました。

・ヘンリック・イプセン 坂口玲子訳『人形の家』構想社

俳優の大竹しのぶさんが登場人物のヒロイン、ノラを演じるということになって新しく訳されて書かれた戯曲です。そうですね……この劇が上演されたのが1990年代当初と考えると、そこまでこの物語のストーリーラインは驚くものではないんですが、実際に結婚している「平穏を演じている」家族が「家族ごっこ」をしているという指摘は確かにあるのかもしれません。「平穏」を「演じている」ってちょっと不思議なんですが、本当の平穏を家庭に持ってくるというのは本当に大変なことだなあと思います。ノラもそうですが、「自分」というものを常に持っている女性は現代でも多いですし、そうした彼女たちが「家」を飛び出していくという描写もよくある話のような気がしています。家族の平穏、家庭の平和について考えました。

10月23日

朝晩冷えますね。昼はあたたかいのですが……どうかみなさん、お体ご自愛くださいませ。

・大森静佳『歌集 てのひらを燃やす』角川書店

小川洋子さんの帯文がしっくりくるなあと思います。傷ついた時にてのひらが痛む、という著者。心よりも先に身体感覚の方が先に出てしまうんですね。そういうの、わかるかも。精神的な痛みはきちんとからだとつながっていて、生きることを感じる「部分」として大森さんには「てのひら」が重要だったのではないでしょうか。大学生、という多感な時期を生と死のあわいを見つめながらうたった歌集です。

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