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【詩人の読書記録日記特別号】松下育男×草間小鳥子 トークイベント at 七月堂
Topic
こんにちは。長尾早苗です。先日は松下育男さんと草間小鳥子さんのトークイベントに豪徳寺にある七月堂さんに行きました。
草間さんとは10年(以上……?)来の友人なので、彼女から聞くいつもの詩の話より、もっと突っ込んだ話が聞きたいと思い伺いました。
松下育男さんとは草間小鳥子さんとの対談前に草間さんと打ち合わせに歩いていたのにばったりお会いしていて、草間さんにわがままを言って、というか自然な流れで(笑)一緒にカフェに行ってみんなで詩の話をしたんですよね。とてもよい時間でした。
トークイベント当日はどうしてもファミレスでハンバーグとパスタを食べたいと思って世田谷のファミレスで腹ごしらえしてから伺ったのですが、三連休の中日、そりゃあ混むよね苦笑。遅刻するかも! とぎりぎりであわてていました。
でも、七月堂さんに伺ったら松下さんが和やかに語りかけてくれたり、いつもの七月堂スタッフさんの明るさで終始穏やかにイベントが進みました。(店主の後藤さんのヘアターバンが素敵でした! わたしもつけてみようかな)
いつかお会いしたい! と思っていた雪柳あうこさん、八尋由紀さんとお会いしました! わーい!
詩の発想の根
資料を調べてから書くと安心する、と草間さんは仰っていました。
わたしは彼女の書き方をある程度小説家に近い書き方をしているなと思っています。
松下さんがより自分に近い、肉体(心も含む)から詩を書き始めると仰っていて、わたしもそういう書き方をしているので、資料はわたしも見ないです。自分がよって立つ場所として「場所」があるのですが、草間さんは遠くから両腕で引き寄せるように詩を書く。
そうか、彼女の発想の根はある程度時事に近いものなのかなと思っていましたが、即物的に時事を扱うのではなく、一旦自分の中に引き寄せてから書くという手法が素晴らしいなと思います。
特に顕著に表れているのが「手をふる 手をふる」という詩。
これは横浜近辺の子どもたちがよく遠足などで行く国立公園の「こどもの国」を舞台に、そこを走る単線の「うしでんしゃ」に手をふるこども、そしてそこで昔弾薬が作られていた「戦跡」としての史実を書いています。
草間さんは計4紙の新聞を毎日読まれているそうで、それをクリッピングして詩の発想の根にしているんだとか。すごいなあ、と思います。
場所と詩
わたしも横浜市青葉区に引っ越してきてから草間さんとよく会うようになり、場所と詩について彼女が考えていることをわたしも考えるようになりました。
だって歩いていたら詩人や漫画家や歌手に会える街なんですよ。これはすこし、自慢です。
松下さんは草間さんの詩のことを「叙事詩のよう」と仰っていました。わかる気がします。抒情詩なんだけれど、現実の固有名詞と詩人の詩情が重なって、詩人の肉体が拠って立つ場所として、そこであったすべてのことを「汲んで」いるような気もします。まるで詩人としてではなく、何年も歴史を見てきた樹木のような。
散歩道の慣性
散歩を日課にしている詩人は多いと聞きました。
草間さんとは散歩道でもよくお会いしていましたが、草間さんは考え事をしながら歩いている時が多いので、詩のことを考えているのかなと思います。彼女が歩く道をわたしは勝手に「哲学の道」と呼んでいて、松下さんがトークイベントで草間さんに「高尚な散歩だね」と愉快そうに笑っていたのが忘れられません。
わたしも歩かないと書けなくて、ある種筋肉と血流と詩と心はつながっているんじゃないか、そんな気がします。
草間さんの詩「散歩道の慣性」は散歩の中で出会った景色を描いたオムニバスの詩。
松下さんは散歩道で「無になる瞬間が詩を生み出す」と仰っていて、それもわかるような気がしました。
仕事と育児と主婦と母と詩人と
草間さんがすごいのは、正社員でありながら育児をし、家事をこなし、詩を書いているという事実そのもので、しかもわたしには書けない詩をいつも書いてくるところです。
彼女は詩「役に立たないものについて」でも書いていますが、お母さまの岡田さんが物書きであるという日常を幼い時より日々見てきたからかも、と思います。
午前三時まで書いて、午前六時に起きて、子どもたちの前では書き物をしなかったという草間さんのお母さま。
血縁が詩を書く、書かないには影響しないと松下さんも仰っていましたが、わたしもそう思います。わたしの血縁もなんだか公務員が多くて、詩人とか物書きはいなかったなあ、と思います。一人芸術家の血縁者はいますが、彼の作品がわたしの詩に影響を与えているかというとそうではありません。
草間さんの詩の書き方はすごいし、そこまで体力があるんだ……とぼうっとしてしまいますが、彼女にとってそのどれもの肩書のようなものが消せないと言います。全てがつながっていて、詩を書くことにつながっているとのこと。
草間小鳥子『源流のある町』(七月堂)レビュー
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前々から個人的な交流もあった草間さん。
彼女と話していくうちに、わたしが運営するZoom合評にも来てもらっていて、詩のことを本音で語り合う仲になりました。
まさか一緒に七月堂さんから詩集を出すとは、、と思っていましたが、草間さんがしたかった「町の歴史と詩を書く」ということがこの詩集でできているんじゃないかと思います。
先述した通り小説的な要素も含んでいて、「ハセガワマートの爆発」はそのまま短編小説を詩にしたもの。
肉体からの閉そく感、そして子どもだった頃の「狭い世界」からの閉そく感に常に違和を感じ、なるべく肉体や「狭い世界」から遠くより自分を見つめる彼女の視点が好きです。
時間や場所を越えて、彼女が表したかった世界がこの詩集に詰まっているのではないかと思っています。
詩人の読書記録日記
・現代詩手帖2022年10月号(思潮社)
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ちょうどそのイベントの時に七月堂さんに松下さんと峯澤さんが来られたという話を伺い、その時にわたしの詩集も手渡してもらいました。ありがたい機会です。
松下さんと暮らしている文鳥の「点ちゃん」は本当にかわいくて、いつもツイッターでも拝見しています。詩にも「点ちゃん」は大事なのかもしれない。
読点を置くこと、句点を置くことで呼吸ができる。
詩人の呼吸は「点ちゃん」によって成り立っているのかもと思いました。
・生き事17号2022
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松下育男さん、ご寄贈ありがとうございます!
生きていることと詩人が詩を書くことは切り離せなくて、きっとわたしも一生詩を書いていくであろうし、この詩誌のみなさんもきっとそうだろうなと思いました。
わたしにはまだ「翌日」がたくさんある、という思いに駆られ、もっと前を向いて元気に進んでいいんだ、そんな思いも持ちました。
・松下育男『コーヒーに砂糖は入れない』(思潮社)
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詩集の中で鴨居・大森など、個人的に近しい地名が出てくるところもとてもすき。
松下さんの詩を読んでいると、心を許せる年上の友人に話しかけているような気がしていたのですが、実際にお会いしてしゃべってみたら、なんとうちの父にとてもよく似たしゃべり方で、ちょっとびっくりしてほっとしました。そうか、この安心感はここからも来るんだなと思いました。
・BOOKS SOMETHING『文集 本を作る生活』(三輪舎)
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後藤さんのことばの選び方と猫のポポちゃんとの日々、なぜか豪徳寺の名物「招き猫」とつながっているような気がしています。
・木下龍也『オールアラウンドユー』ナナロク社
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・松下育男『現代詩文庫 松下育男詩集』思潮社
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わたしは10歳の時に茨木のり子『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)で松下さんの「顔」という詩に出会い、いつかお会いしたいという夢が19年ごしで叶いました!
トークイベントで目の前で朗読していただいた「ゆうびんうけが ぬれているのは」も大好きな詩。
よこはましあおばく、詩にあふれる町です。
近況をお話しすると
ストック詩がたまりすぎてどうしよう問題にぶつかり、イラレでzineを作り始めました!
最初は関西訪問記から始め、今はzineの詩集を2冊A6(文庫版サイズ!)で作りました。文庫版サイズの詩集はいつか作ってみたかったので、自分で編集できることがうれしいです。
『太陽の街 関西訪問記詩編』(こちらはA5)『水脈の呼び声』『シャングリラ』と、あとまとめた原稿類が2冊。編集は事務作業に近いものがあるけれど、とっても楽しい!(自分のだから怒られないのもあって、とても自由です)忘我して取り組んでいます。
今は拙著『フレア』(七月堂)を売り出しながら、1か月に1冊くらいzineを売り出していきたいな、など模索中です。
毎日意識的に詩を作っているのもあって、今日はよい詩が書けたと思ったらそのまま保存、うーん、これはなあ、というのは推敲フォルダにまわす、などを一日のうちにやってしまいます。
自分では気が付かなかったんですけど、一旦「書く」モードになったら五分で一編作るらしいので、まあ原稿はたまります。それしかできない、でもそれでいいんだと思っています。
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