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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 11月7日~11月13日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。おお、もう立冬ですか。初夏から続けてきた記録ですが、読んでくださるみなさんのおかげで続けられています。先週文庫本の所蔵が多い図書館に行ってきましたので、今週紹介するのはほとんど文庫本です。文庫というかたちについても考える機会の多い週になりそうです。

11月7日

今日は寄稿した雑誌が次々入稿したので、その連絡を待ちながら文庫本をセレクトして読んでいました。文庫って、いいですよね。持ち運びしやすいし、軽いのでどこへでも持っていける手軽さがある中に文学がきちんと収まっている。わたしがペーパーバックで詩集を出したのも、そういう「手軽さ」に憧れてのことなんです。次の詩集のサイズに思いを馳せます。

・さくらももこ『のほほん絵日記』集英社文庫

さくらももこさん、さみしいけれど、こうして彼女が残っているということにもほっとします。この絵日記は装幀が祖父江慎さん。かわいい本に仕上がっています。息子さんとの何気ない日常、家族であるということ。母から娘へ、そして息子という孫へ。そういったささやかな日常こそが大きなあたたかさに包まれているということ。彼女の絵と文字を見て、たぶんわたしは毎回思い出すのだろうな。

・幸田文『雀の手帖』新潮文庫

どうでもいいような平凡な日常こそが、本当はすごく大切だったりするんでしょう。今はツイッターやSNSがあるので、そもそも「鳥」のように「ぺちゃくちゃ」とおしゃべりすることが可能ですが、幸田文さんのこの随筆はそれがきちんと文学として高まったものだと思います。一編2ページくらいの短編エッセイではあるものの、お風呂の湯加減であったり、花の話であったり、なんてことない「日常」が描かれています。わたしたちも「記録することができなくても幸せ」な日常を描いていきたいものです。

・幸田文『さざなみの日記』講談社文芸文庫

幸田文さんの随筆に触れる機会はたくさんありましたが、もっと彼女の小説も読んでいかなければ、とハッとしました。彼女自身、擬声語を多用しながら女性達を書くということについて非常に実験的・かつ時代を反映させて書きたかった思いがひしひしと伝わってきます。結婚すること、子どもを産むこと。決してそれらにとらわれない現代という社会の中での女性の位置づけ。人の価値観というものは流動的ではありますが、今に問うものもあると思っています。

・内村光良『金メダル男』中公文庫

内村さん。ウッチャンナンチャンのウッチャンです。わたしはLIFE!というコント番組が非常に好きで、勤めていた図書館の夜勤帰りによく見ていました。彼の映画・俳優・笑いに対する情熱はものすごくて、この「金メダル男」も前の東京オリンピックの年に生まれた著者の自伝的エピソードとも捉えることができます。とにかく一番になりたかった男。そして一番になることに非常に執着していた男。それを五月女ケイ子さんの挿絵で書かれています。今、オリンピックというと違う文脈で読まれることが多くなりましたが、それとは関係なしに、一番になることへのユーモアあふれる文章に一緒に笑ってください。

・井上ひさし『青葉繁れる』文春文庫

戦後の動乱の中で、東北一の名門校に通う落ちこぼれの稔、ユッヘ、デコ、ジャナリ。そして東京からの転校生俊介。彼らは恋をして、それでも「何者か」になりたくて事件を多々巻き起こします。そうだなあ、高校生の頃って、自分の未来というものが見えてこなくて当然だと思うんですね。稔はいつか東京大学に進学することを夢見ていますが、それでキャーキャー言われるということに憧れを持っています。ただ、現実世界で彼は落ちこぼれていて、「何者か」になる信念を貫いてはいません。現実世界で「何ができるか」で未来は変わると思っていて、そんなにステレオタイプではないよと思ってしまうのは、わたしが現代に生きている大人であるせいでしょうか。若々しく瑞々しく、好感を持てた少年達でした。

・今江祥智『戦争童話集』小学館文庫

童話について考えます。戦争ということ、それが大人も子供も受け入れがたい真実であったこと。この童話集は、子どもたちの会話で織りなされたものもありますが、大人が語る戦争の真実まで、ありとあらゆる側面から「人から見た戦争」とでもいうのでしょうか。そういった戦争にまつわる物語です。飛行機のことを「きれいな鳥みたい」という感性には少し涙するものもありますね。今でこそ違う文脈になってしまった「飛行機」に彼ら彼女たちは何を感じていたのか考えます。

・寺山修司『新・書を捨てよ、町へ出よう』河出文庫

改めて、ものすごいひとだと思います。少年が持つ母への愛憎、そして若さゆえに何者かを壊したい・あるいは自分を何かで破壊したいという欲望。それって結構誰しもが若い時に何か壁にぶち当たった時に思うことだと思うんです。身を裂くような悲しみがいずれ待っているとしても、わたしたちはそれを表現していくしかないという「表現者としてのやるせなさ」をある種爽快に描き切っている。そこには世間体というものが存在しません。改めて、彼の才能に脱帽しました。

・津村節子『土恋』ちくま文庫

うつわ、というものについて考えます。わたしは高校時代美術専攻で、恩師の先生は一家で陶芸家という先生でした。彼がわたし達の作品制作中に自分の作品の自主制作も行っていたため、どういうかたちで「土からうつわができるのか」非常に興味を持って見ていたのを思い出します。陶芸ってある種、生活と切っては切れないような気がしていて。お皿にご飯は盛り付けるものですし、プラスチック製の容器が増えてきたとはいえ、器にこだわるひとも多いと思います。わたしもその一人です。この物語では陶芸を通して家族を描いた秀逸な作品でしたが、そういった職業として「器を作る」職人たちの生きざまを見せつけられたような気がしました。

・壷井栄『二十四の瞳』新潮文庫

わたしは教師をしている方を本当に尊敬していて、一クラスに全然違う個性が二十人くらい集まっているわけで、そんな彼ら彼女たちに勉強や社会を教え、そして個々の伸ばせるところを見つけていくということは非常に大変だと思っています。この本は確か中学生の時に課題として読んだ本でしたが、今読むとなつかしさに胸がいっぱいになりますね。戦争という大きな「世界の崩壊」のあとで、彼ら彼女たちが大人になって先生に出会う。大人って、子どもからたくさんのことを教えてもらうのだなと思いました。

・豊田美加 脚本 朝原雄三/福田卓郎『愛を積むひと』小学館文庫

美瑛。行ったことはないけれど、素敵な街なんだろうなと思います。ひとが命をうしなうとき、残されたものに伝えるということはとてもドラマチックだと思うし、そしてそのこと自体が一番ひとが生きていくといううえで大切なことなのかもしれません。良子と篤史という夫婦の愛の物語ですが、家の周りに石塀を積んでほしいというのが良子の最後の頼みでした。良子自身はたくさんの篤史にあてた手紙を残してこの世を去ります。色々な人間関係にもまれていく中で、うしなったひとに生きているひとが助けられることも多々あるのではないかなと思いました。

11月8日

昨日、自作詩の朗読YouTubeチャンネルを作りました。少しずつマイペースにアップ出来たらと思います。週に二回更新することが目標……。詩はほぼ書下ろしです。新作一編。

そして、星々という団体のクラウドファンディングのリターンが届きました!わたしの140字小説が載っているのが『星々ーー生きるように書くこと』『月々の星々』となっております。『星々ーー生きるように書くこと』は文学フリマ東京などで売り出されますので、どうぞよろしくお願いいたします。のちのち通販サイトでも売り出すのではと思います。こちら、書影です。

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11月9日

朝から大雨。最近散歩するという仕事を怠っていましたが、そのツケが出てきたようです。ポエジーが……何か枯渇してきたようなので、部屋の中で歩くことにしました。移動図書館が来なかったので、ほしおさなえ『東京のぼる坂くだる坂』筑摩書房を再読。散歩小説なので部屋でぐるぐる歩きながら読んでいました。いつの間にか部屋の中で六千歩を達成していました。一万歩あるくくらいの体力を使いました。また雨の日はこうして部屋散歩しよう。

11月10日

晴れていたので散歩再開。今日は時間があったので、昼の散歩にもでかけました。色々なひとがひとそれぞれの日常を大切に生きているんだなと思います。歩くことと読むことと書くことは密接につながり合っているのかもしれません。一万歩以上あるいてよい疲れです。新作を一編作り出そうとしています。ちょっと密度の濃いものなので、時間をかけて。連作にするといいかもなと思っています。夕方、同人誌の文章など。

11月11日

ポッキーの日ですね!ちょっと懐かしくなって、昼は近くの大学のそばを散歩しながら詩を一編。そうか、テレビを見ない生活を長年続けてきたからか、わたしの知っているポッキーと、今リアルタイムで大学生の子たちが思うポッキーって違うんだな、とちょっとしんみり。でも、そういうのも必要だよなあ。

また新たに刊行のお知らせです!『インカレポエトリ5号 燕(七月堂)が刊行されました。わたしも詩「創造」をフェリスから寄せています。

11月12日

残されたもの、として非常に思うところが多いこの頃。悲しいとも思うし、それでも前へ進んで行かなきゃとも思います。詩の友達とお茶する機会がまた増えました!楽しみ楽しみ。

またまた刊行のお知らせです!『爆弾低気圧vol.5』の告知が始まりました。わたしも詩とエッセイを寄せています。随時更新されますのでぜひ! 更新情報はこちら

11月13日

昨夜からはわたしのホームグラウンド、『ほしのたね20号』の告知が始まりました。今回は特集「遊園地」の合作です。まだ詳しいことは申し上げられませんが、わたしの文章も載っています。ほしのたねの最新情報はこちらから。朝方新作を一編。明日からは作品群の推敲ウィークに入ります。

・吉原幸子『昼顔』現代女性詩人叢書 サンリオ出版

ナイフをつき立てたかった。何者かに対する怒りの矛先が、吉原幸子さんの詩においては常に語り手であり書き手の「わたし」となっているところに非常に共感を覚えます。時折、書き手としては矢印の方向が外に行きづらい時ってあるんです。彼女にとって満たされない愛、それは「あなた」(愛した人かなと他の詩を読んでいて思います)との「純粋に愛する」という「共犯」関係にありました。本当は「愛すること」はプラスに考えていいんだと思いますが、その中で何かを失って、傷つけられて、それでも何者かに「わたし」は愛されたくて、愛したかったけれど、それがかなわなかった。そのことと、「女性」というこの詩集の全ての詩における問題提起とが「血」の赤、「ぴすとる」「ナイフ」によってあらわされています。びっくりしました。

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