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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 8月1日~8月7日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。たくさんの方が詩人の読書記録日記、仕事雑記を読んでくれてとてもうれしいです。気がつけば2か月目突入ですね。おつきあいありがとうございます。最後にお知らせがありますので、ぜひ今回も最後まで読んでいただきたいと思います。

8月1日

昨日の疲れが残っていたのか、ぐっすり眠りました。感想共有のファイルにみなさんの詩の感想を書き込み、図書館へ。ラジオで以前お便りを読んでいただいたので、かわいいイラストをいただきました。ありがたいことです。

・工藤玲音『水中で口笛』左右社

高校生から社会人になるまでの軌跡と、恋をし、東北の岩手県民としてアイデンティティを持つこと、震災。東京。ふるさとと石川啄木を考えさせられる歌集でした。工藤さんは稀有な感覚の持ち主だと思います。時にこころがひりひりして、時にこころも揺れる。彼女自身がすくすくと育つ野の花のようです。くどうれいんとして、小説の方も頑張られている方です。そんな彼女の第一歌集。

将来は強い恐竜になりたいそしてかわいい化石になりたい 玲音

8月2日

ラジオをほぼ一日中聞いて執筆していました。声を聞いていると落ち着くんでしょうね。明日は移動図書館に2か所行きます。喜多嶋隆『夏だけが知っている』を予約。

8月3日

移動図書館に行きました。夏休み期間だからか子どもたちも多く、ほっこりしました。瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』を予約。暑くてバテそうだったのだけど、ゆっくり休みます。

8月4日

今日は夜に楽しみにしているPodcastがあるのでがんばれました。瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』喜多嶋隆『夏だけが知っている』回送中。暑いですね! みなさん水分補給などこまめにとってくださいね。

・町田康『残響 中原中也の詩によせる言葉』講談社

解説とエッセイと散文詩のはざまを考えていました。中原中也の詩には何か一言いいたくなる、というか、何か心に反響して、そこからことばがあふれてくる、という詩人が多いような気がしています。わたし自身も「文芸創作ほしのたねvol.18 特集・バディ」に中原中也の詩「サーカス」に現代を寄せた「サーカス・サーカス」を寄せていますが、何か中原中也には心を揺さぶられるものがあるんだと思います。町田さんは町田さんなりの文体で、「だっせー」「この野郎」のように、いささか乱暴かもしれないことばをパンク調に紡ぎながら答えていくというものがおもしろかったですね。確かにそれは中原中也が遺した「残響」なのかもしれません。

・赤瀬川原平『猫から出たマコト』日本出版社

猫のことわざを章のはじめにおいて、かわいいイラストと写真・エッセイから構成された豪華な一冊。どれも、赤瀬川さん自身が担当されているんですね。いやあマルチな才能です。いいなあ。猫が本来好きではなかった赤瀬川さん。しかし一緒に暮らすということで、新たな発見があり、どうしてだか影響されてしまって身近な生き物ととらえるようになったとあります。わたしは今の家で動物を飼っていないのですが、同居している家族と日々過ごすうちに、その人になんらかの影響をされることが多々ありました。わたし自身は猫でも犬でもなんでもOK!なひとですが、外を散歩していて猫や犬に出会うことよりうれしいことって……うーん、おいしいものを食べた時ですかね。

・内田康夫・早坂真紀『愛と別れ 夫婦短歌』短歌研究社

内田さんは有名なミステリ作家。しかし、そんな彼も病に伏して執筆ができなくなってしまいます。その「最期の一年」を妻でありよきパートナーであった早坂さんと、短歌の相聞歌風に詠みあう。とても素敵で、最後には早坂さんだけの歌が残されます。これを借りに移動図書館の公園に行ったときは夏休みで、中学生のカップルがスーパーでペットボトルの炭酸水を1本買ってわけあっていました。いいなあと横目で見つつ、彼女たちにはそういう炭酸水の泡みたいな恋がちょうどよいのかもしれないと思っていました。しかし、齢を重ねていくとそれがどんどん深まっていって、愛というとても重いものに変わります。愛は死の後も残ります。そんなことを考えつつ、わたしも詩集の中に入れた「トワイライト・ソーダ」という大人の恋愛の詩を思い出したりしていました。

・谷村志穂『りん語録』集英社

谷村さんは「りんご先生」と呼ばれるくらいの無類のりんご好き。そんな彼女が各地をりんごの「種」ごとに旅し、取材し、まわります。日記帳に書く描写が秀逸でした。日付となんという種類のりんごを食べたかで始まる日記。ただのりんごノート、と本文では触れられていますが、そんな中に娘さんとの交流もあって。この本でも各所で触れられているのが、「りんご」と「文学」ですね。島崎藤村、宮沢賢治など、たくさんの作家が「りんご」を重要なモチーフとして使っています。あありんごが食べたい。買いに行ってしまいましょうか。

・阿川佐和子『バブルノタシナミ』世界文化社

阿川佐和子さんも稀有な作家だと思います。彼女自身が「女性」という問題提起をしているのもあり、「女性」を描くということに非常に優れた感性をお持ちの方なのではないでしょうか。嫉妬・羨望・美意識・寄る年波。そういったものをある種受け容れながら、自分の変化を楽しんでいく。いいですね、わたしもそんな作品を書き続けていきたいです。そして彼女のエッセイはいつも「元気」があふれているように感じるんです。多くの女性が阿川佐和子作品にハマるのは、自分と同じような感じ方を彼女がスパッと歯切れよく言ってくれるからなのではないでしょうか。最近そんな気がしています。

8月5日

今日は大学時代からの友人の朗読YouTubeを聞きながら推敲など。友達が朗読系ユーチューバーだとうれしいですね。作業中に聞いて作業が捗ります。新作を2編書き、午後はクラシックをスマホで流していました。

・赤塚不二夫『酒とバカの日々 赤塚不二夫的生き方のススメ』白夜書房

バカ、ということについて考えていました。赤塚不二夫は、たくさん真面目な顔で締め切りまでがんばって、がんばってがんばったからこそ、こんな酒浸りの生活や派手な暮らしができたのだと思います。トキワ荘のみなさんは、みんなそんな感じなんじゃないかなあ。とにかくクーラーなしの暑い部屋で、手塚治虫先生のもと、切磋琢磨しあっていました。そんな赤塚不二夫の「バカな日々」を描いたエッセイですが、努力に努力を積み重ねたからこそできる「バカ」なのだと思います。

・柴崎友香『虹色と幸運』筑摩書房

25歳をとうにすぎたかおり、夏美、珠子。この3人は3人三様、恋愛についての考え方や仕事へ対する考え方も違います。ただ、この3人は、「何かしないとまずいぞ」という焦りだけがあります。年下の後輩が結婚した時の複雑な気持ちや、後輩の恋愛をあたたかな目で見守る気持ち、どちらもありますよね。ただ、そういうことをできる年齢、としていささかもやもやした思いを抱えつつなのですね。20代後半はだいたい焦りがち。でも、焦りはそんなに持たなくていいです。何かを変えたかったら、前に進まなきゃいけませんから、前へ進むためにどうすればいいかを考えるだけ、です。

・土居伸光『望 のぞみ』光文社

死の恐怖、というものは一番怖いものですね。どんなに人が息詰まろうが、この恐怖との戦いはすさまじいものがあります。「ぼく」の妻はがんにかかり、最期を見据えています。最初はその覚悟を信じられなかった「ぼく」ですが、静かな至福感、一日一日を大切に生きること。そういうことを、身体中で感じることこそが大事だと思いますし、そうやって生きようという気力が持てました。

・浅田次郎ほか『ひんやりと、甘味』河出書房新社

甘いものって語りたくなりますよね。例えば今日食べたスイーツとか。わたしは結構コンビニスイーツが好きなのですが、今回このエッセイ集は小説家たちのたくさんの「涼」を感じる甘味について書かれた本です。アイスクリーム、かき氷、チョコレート、マンゴーパフェ……ああ食べたい。小説家や作家とお菓子は切っても切れない関係になると思います。頭脳労働ということで、糖分や水分、欲してしまうんですよね。涼を感じたいときにおすすめの本です。

・原田ひ香『ランチ酒 おかわり日和』祥伝社

ランチ酒シリーズは第一作も読んでいまして、第二弾も楽しく読みました。祥子という夜勤で見守り番として働く訳アリの女性が、勤務後にランチに出かけ、おいしいものを食べてお酒を飲む。ただその繰り返しなのですが、クライアントとの関係で祥子の人生自体も前を向いて歩いていこうというふうに変わっていきます。おいしいものは、ひとを元気にさせるものです。そして、今は難しいですが、いつかゆっくり「ランチ酒」が外で楽しめる時代になってほしいものです。

8月6日

色々と考える日。それでもひとは生きていく。新作を1編。今日も午前の仕事のお供はラジオです。推敲や知り合いになった方のブログを読んでいました。午後はパンケーキを焼いたり、クラシックを聴いて過ごすなど。

8月7日

魂を揺さぶられて思わず泣いてしまった2冊に出会いました。泣くと体力を使いますね。でも、いい涙で、デトックスだったのかもしれません。今日もよい日でした。

・喜多嶋隆『夏だけが知っている』KADOKAWA

クールな湘南の海の高校生、航一のもとへどんくさい母親違いの年子の妹の凜がやってくるところからこの物語は始まるのですが、高校生、男の子が女の子にどんな感情を抱くか、女の子が男の子にどういった感情を抱くかはみなさんご承知の通りだと思います。ひとつ屋根の下や学校で暮らしていく中で、様々な事件が起こり、航一と凜の間柄もどんどん変わっていって……切なくて、切なくて泣けてしまうほどに、ひりひりと痛い。いいなあと思うけれど、マスコミに凜が巻き込まれてしまうシーンでは胸が痛くなりました。保護者会のシーンでは本当に泣いてしまいました。夏の海で肌が焼けたような感覚です。

・瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』新潮社

仕事も人間関係も行き詰った23歳の千鶴。彼女は睡眠薬を飲んで自らいのちを絶とうとしますが、ぐっすりと眠っただけで失敗します。おおざっぱだけれどどこまでも優しい民宿のおっちゃん、田村に日々救われていく千鶴。おっちゃんの関西弁が優しくて優しくて、何かあたたかいものに包まれていく感覚になりました。瀬尾さんの作品や文体にはいつも「包まれるもの」を感じます。そういったやさしいまなざしで、一歩前へ踏み出していこうという勇気を、千鶴と同じようにわたしも持てました。

*お知らせ*

まことに勝手ながら、「【詩人の読書記録日記】栞の代わりに」は来週から2週間夏休みを取らせていただきます。いつも応援してくださって、読んでくださっているみなさんに本当に励まされてきました。また2週間後、元気でお会いしましょうね。

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