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猫又のバラバラ書評「おかめ八目」

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猫又のバラバラ書評「おかめ八目」

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 『エルサレム〈以前〉のアイヒマン 大量が草津者の平穏な生活』ベッティーナ・シュタングネト著 香月恵里訳

 本書を読む前に、私はひどく困惑していた。つまりアイヒマンに関する本を読むということはユダヤ人に対するナチの犯罪行為を人道に対する罪であることを認識しているからである。その被害者であったユダヤ人の国家であるイスラエルが建国以来現在まで、その地に定着していたパレスチナ人に対して排除し、住民の生

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 『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ著 高橋 啓訳
 一九八〇年3月26日、ロラン・バルトが2月25日の交通事故が原因で死んだことはかなりショックであった。ところがそれをめぐってとんでもない本が書かれるとは思ってもいなかった。即ちこの本のことなのだが、推理小説である。登場するのがめちゃくちゃ有名人ばかり。そしてその人びとがやたらに過激で、猥雑で、ハチャメチャで、かつそれをつないでいる理論が難解な

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 『放射能の人類学 ムナナのウラン鉱山を歩く』内山田 康著

 福島原発事故が私たちに与えた衝撃は大きく、原発の危険性や経済効率の嘘や、なかんずく、事故で被災された方々が故郷を失い、さらには事故の後処理もままならないまま、事故当事者である東京電力も責任を取らず、国策で進められたにもかかわらず政府がこれを反省材料にする様子もない。むしろ事故を風化させることに力を注いでいるかのような現在である。
 本

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 『リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す』山本義隆著

 著者、山本義隆とあるだけで、心が揺らぐのは同時代を生きてきた人たちにはあるのではないかと思う。山本氏は科学史家として多くの著書がありそのいずれもが重厚なもので私の本棚にもある(のだが読み切れたためしはない)。その他、「福島原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと」と「近代日本150年――科学技術総力戦体制の

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 『なぜ彼女は革命家になったのか 叛逆者フロラ・トリスタンの生涯』ゲルハルト・レオ著 小杉隆芳訳

 本書の主人公フロラ・トリスタンという革命家がいたことを知る人は多くはないと思える。私もバルガス・ジョサの『楽園への道』にゴーギャンの祖母のフロラが女性解放論者であったと言う事を僅かに知っていただけである。本書は1970年代に発掘された彼女の書いたものや19世紀中頃、彼女が活動していた時代に革新的な

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 『なぜ彼女は革命家になったのか 叛逆者フロラ・トリスタンの生涯』ゲルハルト・レオ著 小杉隆芳訳

 本書の主人公フロラ・トリスタンという革命家がいたことを知る人は多くはないと思える。私もバルガス・ジョサの『楽園への道』にゴーギャンの祖母のフロラが女性解放論者であったと言う事を僅かに知っていただけである。本書は1970年代に発掘された彼女の書いたものや19世紀中頃、彼女が活動していた時代に革新的な

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 『その後の慶喜 大正まで生きた将軍』家近良樹著

 最後の将軍慶喜について幕末の政治情勢、特に大政奉還までの存在については歴史的にも大体わかっていたが、その後どうしていたのか、実はよく分かっていなかった。その理由は慶喜が非常に賢明に身を隠して、不安定な明治政権に対して、自らの存在が影響を及ぼす事を避けたらしいのだ。慶喜自身は自伝的な書きものは残さなかった。ただし最晩年渋沢栄一によって聞き書きがな

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 『かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた 二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯』ウラジミール・アレクサンドロフ著 竹田円訳

 強い期待を持って本書を読もうと思ったわけではなかったのだが、まるで知らなかったひとりの黒人が激動の時代に不屈の精神でアメリカからロシアへ渡り、その後コンスタンチノープルで劇場を運営し、ショウビジネスの世界で大成功を収め、巨万の富を築き

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 『福島 モノローグ』いとうせいこう著

 東日本大震災から10年。東北の震災の傷跡は埋められるはずもない。そして特に原発事故の被災者は政府に忘れることを強いられている現状の中で、それに抗いながら生きている方々の在り様を真摯に受け止めて行かねばならないと思ってきた。

 3・11以後、文学作品として多くの作品が書かれてきたし、中には世界的な評価を得ている作品も出てきている。私自身の経験からいうと、

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 『女たちの中東 ロジャヴァの革命 民主的自治とジェンダーの平等』ミヒャエル・クナップ アーニャ・フラッハ エルジャン・アイボーア 序文デヴィッド・グレーバー 山梨彰訳

 私にとっては近年まれに見る感動的な本である。本書にたどりついたのは、先日急逝したデヴィッド・グレーバーの著作を読み進めている中で、本書が引用されていたことで読んでみる契機になったのだが、私は本当に中東情勢に疎く、地理的関係も良

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 『水道、再び公営化 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』岸本聡子著

 水道民営化問題について、日本の状況を正確に理解している国民は多くはないのではないか。2018年「水道法改正」がほとんど審議もされないまま可決されてしまった。当時この問題に危機感を持っていた一部の人は反対の意思表示をして、その中で多くの国々でこの水道の再公営化に取り組み、実際に再公営化していることも情報としては得ていた。本書はア

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「海賊ユートピア 背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界」ピーター・ランボーン・ウィルソン著 菰田真介訳

 何でこんな本を読んでいるかというと、ふざけているわけではない。今注目されている先日急逝したアナキズム人類学者デヴィッド・グレーバーの著作の中に引用されていて、興味を持っていたのだ。海賊というとなにやら悪辣非道、人民の敵のようなイメージなのだが、それはなにから来ているのか?事実なのか?あれや

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 『人新世の「資本論」』斎藤幸平著

 かなり有名になっている本であるのは知っていたが、この題名がなんだかわからなくて、購入したままになっていたのだが、放置するわけにもいかず、読んだのだが、かなり驚いたし、ここまで若者の認識が進んでいる事に未来を託せる世代が出て来たのだと思えて、不思議な感慨を抱いた。筆者は1987年生まれ、30代である。さらに多くの若者が外国留学といえばアメリカへというコースとは

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  『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』オードリー・タン著

 コロナの時代に、現れたデジタル界の天才の書籍である。実は私は、オードリー・タンの存在は全く知らなかったが、台湾のコロナの対策で手腕を発揮して、知られることになったので、今の日本の政府の無策ぶりに憤りを感じていた私は、オードリー・タンがコロナ対策をどのように展開したのかを知りたかったと言うのが、本書を読み始めた理由なのである

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