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こっちも見てくれよ

僕はいつもの公園で遊んでいた。

大人がもっている「行きつけ」というやつだ。
そしてそこで僕は今日もまた、いつもの遊具で遊ぶんだ。
これも大人がよく言うよね。「いつもの」って。
子供にだってあるんだぞ。
「行きつけ」や「いつもの」が、ね。

行きつけの公園のいつもの遊具で遊ぶ、いつもの僕。
すると、どこからか声が聞こえた。
おかしい…今日は僕以外誰もいないのに。
辺りを見回したけれど、やっぱり誰もいない。
でもまた声がしたんだ。

なぁ、こっちも見てくれよ。

下から聞こえる?
けど地面を見ても、そこには何も…

いや、なくはないだろう。

え?どこ!

今お前の視線の先にいるぞ。見えるだろう?


地面に映る影が少し揺れたように見えた。

そうだ、影だよ。俺はこいつの影だ。

影が言う通り、そこにはいつもの遊具がある。
そして恐らくいつもの影が、ある。
ということは、影がしゃべった…?

そうさ、影だって話せるんだぞ。生きてるんだからな。

影は僕に「一緒に遊ぼう」と言った。
でも僕は影とどうやって遊べばいいかわからない。
影と遊ぶ方法といっても、僕は「影踏み」しか知らない。
でもそれはなんだか違う気がして
影には言わなかった。

そこで僕は「書く」ことにした。

近くに転がっていた木の棒を取って
僕は影をなぞった。

地面にどんどん線を書いていく僕。
だんだんと輪郭をあらわす影。

お、上手いな。

影は嬉しそうだった。

僕は深くなぞった。
簡単には消えないように
深く深く掘った。


辺りが暗くなり始め、僕は帰る時間になった。
ちょっと淋しかったけど
また来るねって言ってバイバイした。

影はその時は何も言わず
でもまたちょっとだけ、揺れた。


次の日ここはすごい大雨になった。
心配になった僕は傘をさし公園へ向かう。

行きつけの公園はいつものとは思えないほど
暗い表情をしていて今日はなんだか違って見える。
そして残念なことに、僕が一緒に遊んだ影は
もうそこにはいなかった。


いないことがわかっても諦めきれず
何度も地面を探してしまう。
でもその時気づいたんだ
君の痕跡に。


地面にはちゃんと君がいた。


深くなぞったあの形。
雨で少し崩れてはいるけれど
それでも君はちゃんと存在していた。


よし。
晴れたらまた、会いに来よう。

もしかしたら次に会う影は
もう君じゃないのかもしれない。
でもそれでもいい。
これからも通い続けていれば
君にまた偶然
会えるかもしれないから。


行きつけの公園のいつもの遊具。
僕はまだまだこの行きつけに
通わなければならないようだ。


また、君に会うために。


《おしまい》


ありがとうございました🐨


ではまた。

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