鮎川 まき(5/19(日)文学フリマ東京)

東京→地方にUターンして暮らしています。 文学フリマでエッセイ集「輝くスイーツ シャイ…

鮎川 まき(5/19(日)文学フリマ東京)

東京→地方にUターンして暮らしています。 文学フリマでエッセイ集「輝くスイーツ シャインマスカット」を出しました。 2024/05の文学フリマ東京では、子どもを持つかどうかの迷いを書いたエッセイを出す予定です。

マガジン

  • 日記

    思い出してフフッとしてしまう一言だったり、一日中考え続けていたことだったり。その日のハイライトをギュッと詰め込みます。

  • いのちって感じのご飯

    食事や食べ物にまつわるエッセイを集めました。懐かしかったり、不思議だったり。おいしいだけでは終わらないエッセイ集です。

  • 東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う

    2023年、妻は東京・夫は岐阜の遠距離婚をしながら岐阜県に家を建てました。 遠距離、コロナ…色々なハードルを乗り越えた我が家の一大プロジェクトのエッセイです🏠

  • 輝くスイーツ シャインマスカット

    文学フリマ東京37で初売りしたZINE「輝くスイーツ シャインマスカット」に掲載したエッセイです。 東京→岐阜へUターンしてからの日常を書いています。 冊子版では修正を入れているため、冊子とnoteのマガジンに多少の差異があることをご了承ください。

最近の記事

  • 固定された記事

子どもが欲しい、という気持ちが欲しい

26歳の頃。1歳上の友人Aに子どもができた。 ワンピースをぽっこりと押し上げるその膨らみを、Aは手慣れた様子で、だけど丁寧になでる。 「まきは子ども欲しいの?」 「うーん、わかんない」 24歳で結婚してまだ2年目。私たち夫婦は子どもについて真剣に話し合っていなかった。 「わからないってことは欲しくないってことだよ。『欲しい!』って思わないうちは待ったほうがいいよ」 なるほど。そういうもんか。 保育士のAの言葉には妙に説得力があった。 『わからないってことは欲しくない

    • 日記:Wi-Fiネットワーク名の名付け(2024/04/27(土))

      カフェが提供しているWi-Fiを使うために、PCのWi-Fi設定を開いた。候補一覧を見ると、他の客が使っているだろうネットワーク名が並ぶ。 「oatmeal」 好物だろうか。オートミールって、「白米」のように単品で好きになるイメージがなかったのでなんか新鮮。 「clarinet」 おっ。クラリネットを吹いている人だろうか。わたしも、わたしも吹いてたよ!クラリネット!  「cadenza」 この人も音楽をやっている可能性大。しかしなぜカデンツァ……? ツッコミを入れなが

      • 「しっかり者」やめます宣言

        言われても、あまり嬉しくない褒め言葉がある。 「しっかり者」「メンタルが強い」の二つだ。 嬉しくないのに、よく言われる褒め言葉トップ5には入っている。 「いやぁ〜、鮎川さんは本当にメンタル強いよねぇ」 飲み会でジョッキを握りしめた男性が唸り、周りがしみじみと頷く。 「いやぁ〜↑↑」と上がり調子の声に込められたのは、感嘆か、畏れか、それともおだてか。分からないので、謙遜か受取拒否か分からないようにへらへらと打ち返す。 「や〜、そんなことないですよぉ」 言葉の空中戦。不毛だ

        • 子どもはいないが、西松屋へ行く

          「鮎川さん、それなら西松屋へ行くといいですよ」 会社の飲み会が始まって三時間ほど経った頃だった。 人数は最初の半分ほどに減り、残ったメンバーもいい感じにベロンベロンな時間だ。そんなだらりとした空気の中で「子どもを……欲しくなりたいんです〜」と泣き言をこぼしたわたしに、二歳の息子を育てる同僚が言った。 「西松屋で子ども服を見ましょう! ちっちゃい服や靴がたまらなくかわいいですから。特に、七十センチくらいがいいですね!」 七十センチ。七十ってなんだろうと思い、すぐに子ど

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        子どもが欲しい、という気持ちが欲しい

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        • 日記
          60本
        • いのちって感じのご飯
          10本
          ¥500
        • 東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う
          8本
        • 輝くスイーツ シャインマスカット
          13本
          ¥500

        記事

          日記:本能にしたがって(2024/04/18(木))

          ちょろちょろ……と水が流れる音がして、顔を上げる。その度に、ああ、給水器を買ったんだと思い出す。 給水器というのは猫用の水飲みだ。どんぶりくらいの大きさで、底から吸い上げられた水がてっぺんの小さな噴水から落ちて、ぐるぐる巡る仕組みになっている。 猫は、流れている水が本能的に好きだ。 我が家の猫も夫が毎日洗ってくれる水入れを無視しては、わたしが何日も放置しているキッチンの蛇口や風呂場の床を流れる水滴を舐めている。 でも仕方ない。 自然界では、一箇所に留まる水よりも流れてい

          日記:本能にしたがって(2024/04/18(木))

          日記:4月の「小さな恋のうた」(2024/04/12(金))

          昼休みは、朝でも夜でもない特別な時間が流れている。 太陽であたためられた空気が、ポンと置かれたようにただそこにある。 人や車の動きでむやみにかき乱されることもなく、風が吹いたら流れ、吹かなければそこに留まる。もったりとした、形をかろうじて保った生クリームのような空気。 その中を自転車でゆっくり進むのが好きだ。 昼休みに仕事場へ向かって自転車を漕いでいると、聞き慣れない低音が耳に飛び込んできた。 (あれ、車?)と意識を集中させた瞬間に、それが車でないことに気づく。 楽器だ

          日記:4月の「小さな恋のうた」(2024/04/12(金))

          日記:結局、直感(2024/04/08(月))

          花粉と寒さが落ち着いたので、朝の散歩を再開した。 カギをポケットに入れてスニーカーを履くのはいつもと同じだが、今日は買ったばかりの帽子を被る。 真っ白の糸で編まれたバケットハットだ。 ここ数年は暑さが強烈になり、日焼け対策も兼ねてちょっとした外出や散歩で被れる帽子を探していた。 昨夏「バケットハット」「帽子」と検索した総時間はもはや計測不能だ。 今でもあちこちの通販サイトの「お気に入り」には、もうカートに入ることはない黒のリボン付きの麦わら帽子やベージュのキャップが眠って

          日記:結局、直感(2024/04/08(月))

          日記:自己紹介と豆知識(2024/04/3(水))

          新年度が始まり、わたしのチームにも新入社員がやってきた。 「じゃあ、一人ずつ自己紹介と……最近知った豆知識を言ってください」 「豆知識」の部分は自己紹介のお約束で、リーダーの小さなおふざけだ。過去には「住んでみたい場所」とか「子どもの頃の夢」なんてのがあった。 思いついた人から自己紹介ね、の一言で全員が焦ったような困ったような顔で黙る。 わたしは会議が止まったのをいいことに、マイクをオフにしてティッシュ箱を引き寄せた。週末に引いた風邪を引きずっているのだ。 「お母さん

          日記:自己紹介と豆知識(2024/04/3(水))

          出張先で受けた性差別と、それに対して怒ることの難しさ

          3泊5日の海外出張から帰ってきた。所属する部署の代表として、社長や役員と一緒の旅である。 しかし、帰りの飛行機の中で私は悲しくて悲しくて仕方がなかった。 部署代表としての務めもしっかり果たしたのに、帰国して丸一日経った今も、自分が受けた仕打ちに怒り悲しんでいる。 そしてその怒りは、一緒に出張に行ったメンバーにはどうせ伝わらないだろうと思い、ここに書くことにする。 最終日、現地で働く日本人との交流があった。営業職と名乗るその人は、社長、役員、私と一歳違いの別部署の代表者(

          出張先で受けた性差別と、それに対して怒ることの難しさ

          日記:トイレに残された香水(2024/03/24(日))

          駅ビルのトイレでズボンを脱ごうとしたら、トイレットペーパーホルダーの上に赤い小瓶を見つけた。 これは、忘れ物じゃないか! 小瓶を引っ掴んでドアを開けると、ハンドドライヤーで手を乾かしている女性と目が合う。 「あの、これ」 「あっ。わたしじゃないです」 何か言いかけるよりも早く、その人は笑顔で手を左右に振った。 (分かってますよ、置いてありましたよね) そう優しい目で言いながら。 あ、はい……。 すごすごと個室から乗り出した半身を引っ込め、小瓶をトイレットペーパーホル

          日記:トイレに残された香水(2024/03/24(日))

          女の子はみんなオムライスが好き

          大学二年生の春。同じ学部の男の子から食事へ誘われた。 講義が終わり荷物をまとめていると、やたら背の高い男の子がニュッと現れる。 「鮎川さん! 久しぶり」 久しぶり……? え、誰? 突然現れたその人は、色白でタレ目で驚くほど格好よく、それが余計に怪しい。 顔に出ていたのだろう。彼はちょっと気まずそうな表情で(これも格好いい)続けた。 「近藤です。ほら、体育で一緒だった」 「あっ!」 「忘れてました」と言わんばかりに大きな声が出てバツが悪かったのか。わたしは、顔も名前

          女の子はみんなオムライスが好き

          日記:「大丈夫?」ねだり(2024/03/22(金))

          ベッドに寝っ転がって本を読んでいた。 本をつかんだまま布団を直そうとしたら手を離してしまい、本が二つ並んだベッドの隙間に落ちる。 「あぁあ〜〜! なんてことだぁ〜〜」 枕に顔を半分埋めて、ターザンっぽく叫んだ。大きな声を出すと、それで気が済む。隙間に手を突っ込んでフローリングをペタペタ触りながら本を拾い上げた。 ガタン 顔を上げると、猫がコップを倒していた。麦茶の水たまりが目の前でみるみる大きくなっていく。 「へいへいへ〜〜い! 猫さん! 何やってるんだい?」 何

          日記:「大丈夫?」ねだり(2024/03/22(金))

          日記:ただ薄着が好きなだけ(2024/03/21(木))

          寒い。イスに座った背中がやけにスースーと冷える。 理由は明らかで、今日は厚めのデニムシャツとタンクトップしか着ていないのだった。最高気温は8℃。室内とはいえ薄着すぎる。 二ヶ月前に同じ気温だった時は、ヒートテックとニットを着ていたはずなのに。わたしの服選びはなぜか一方通行だ。ぐっと上がった気温につられて一度でも薄着になると、そのまま春をめがけて強行突破してしまう。 「三寒四温」という言葉と非常に相性が悪い。 そういえば、会社でノースリーブを着るのも一番乗りだった。五月に入

          日記:ただ薄着が好きなだけ(2024/03/21(木))

          喫茶店がこわい

          個人経営の喫茶店が怖い。 美容院や定食屋に比べて、個人経営の喫茶店はなぜあそこまで店主の個性が強く反映されるのだろうか。 店主の縄張り(店内)に入り、その世界観や暗黙のルールに身を投じるのが怖い。「外」の世界のルールが通用しなかったらどうしよう。そんな可能性を感じさせるのが喫茶店だ。 週末に夫と行った店は、まさに店主の作り上げた濃密な世界だった。 モーニングの時間に訪れたわたしたちは、名物の釜焼きパンケーキと普通のパンケーキを注文することにした。 「ホットコーヒーと

          日記:ホーチミンに10時集合!(2024/03/18(月))

          突然決まったベトナム出張が来週に迫っている。 来週の今頃は現地にいるはずなのに、まだ集合時間も航空券もホテルの有無も聞いていない。さすがに不安になり、同僚へ連絡すると「僕もホーチミンに10時集合としか聞いてないんです」と返事が来た。 わたしたちが行くのは本当に出張なのだろうか。実はホーチミンについた瞬間に原付に乗せられ、そのままベトナム縦断をさせられるんじゃないだろうか。

          日記:ホーチミンに10時集合!(2024/03/18(月))

          十品目ルールとの戦い

          食事を作る係として、夕食には最低十品目入れることを目標にしている。 十、という数字は何も考えずに料理するとギリギリ足りない。絶妙に難しい数字だ。 キッチンに立ち、調理中の鍋に一つずつ目をやる。フライパンで焼いている塩サバには焼き目がつき始め、ぐつぐつと湧く湯の中で味噌汁用の玉ねぎとえのきが揺れる。電子レンジの中では、二分半の加熱が終わったほうれん草が味付けを待っている。今日はこの三品で終わりだ。 サバ、玉ねぎ、えのき、味噌、ほうれん草、米。 指を一本ずつ折り、食材を数え