鮎川 まき/エッセイ

でっかい川のある街で働きながらエッセイを書いています。 既刊→「子どもが欲しい、とい…

鮎川 まき/エッセイ

でっかい川のある街で働きながらエッセイを書いています。 既刊→「子どもが欲しい、という気持ちが欲しい」「輝くスイーツ シャインマスカット」「いのちって感じのご飯」 booth→https://ayukawamaki.booth.pm/

マガジン

  • 日記

    思い出してフフッとしてしまう一言だったり、一日中考え続けていたことだったり。その日のハイライトをギュッと詰め込みます。

  • いのちって感じのご飯

    食事や食べ物にまつわるエッセイを集めました。懐かしかったり、不思議だったり。おいしいだけでは終わらないエッセイ集です。

  • 東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う

    2023年、妻は東京・夫は岐阜の遠距離婚をしながら岐阜県に家を建てました。 遠距離、コロナ…色々なハードルを乗り越えた我が家の一大プロジェクトのエッセイです🏠

  • 輝くスイーツ シャインマスカット

    文学フリマ東京37で初売りしたZINE「輝くスイーツ シャインマスカット」に掲載したエッセイです。 東京→岐阜へUターンしてからの日常を書いています。 冊子版では修正を入れているため、冊子とnoteのマガジンに多少の差異があることをご了承ください。

最近の記事

  • 固定された記事

子どもが欲しい、という気持ちが欲しい

26歳の頃。1歳上の友人Aに子どもができた。 ワンピースをぽっこりと押し上げるその膨らみを、Aは手慣れた様子で、だけど丁寧になでる。 「まきは子ども欲しいの?」 「うーん、わかんない」 24歳で結婚してまだ2年目。私たち夫婦は子どもについて真剣に話し合っていなかった。 「わからないってことは欲しくないってことだよ。『欲しい!』って思わないうちは待ったほうがいいよ」 なるほど。そういうもんか。 保育士のAの言葉には妙に説得力があった。 『わからないってことは欲しくない

    • 自信を持って言おう、カラオケが「苦手」だと

      人は、どうしてあんなにカラオケが好きなんだろう。 記憶が正しければ、クラスメイトの大半は歌のテストが嫌だ嫌だと騒いでいたはずである。それなのに、彼らはいつの間にか休日や飲み会後に喜んでカラオケへ繰り出すようになった。 歌のテストとカラオケの違いが分からないわたしは内心叫ぶ。 人前で歌うのは、嫌だったんじゃないですか!? わたしは歌のテストもカラオケも嫌いだ。 学生の頃は付き合いで参加したが、マイクから逃げるのに必死で楽しめた記憶はあまりない。 「無理に歌わなくていいよ

      • 日記(2024/7/3、7/5)

        ちょこちょこと書いている日記から、今週の二日分を抜き出しました。 2024年7月3日(水) 二十二時。 リビングのソファから仕事机に目をやると、見慣れないビビッドピンクが目に入る。 何だあれは......。そう思いながら近寄ると、なんとわたしのブラジャーが机に引っ掛けられていた。 どうしてブラジャーが仕事机の側面に引っ掛けられているのか。 犯人は数時間前のわたしだ。 わたしは家では基本的にノーブラだ。在宅勤務でももちろんノーブラ。 しかし今日は社外とのオンライン会議が

        • 日記(2024/6/27、6/29)

          毎日ちょこちょこと書いている日記から、今週の二日分を抜き出しました。 2024/6/27(木) 食後の散歩の途中に、暑くてドラッグストアへ避難する。午後八時の店内はガラガラだった。 ドラッグストアを歩き回るのが好きだ。 涼しいし、新商品を見ていると退屈しない。 通路に面した特設コーナーは、制汗剤や暑さ対策グッズでいつの間にか青一色になっていた。 長い夏の始まりだ。 最前面に押し出された日焼け止めは、昨年から更に進化していた。 動物だったら何十世代もかかる進化を一年で

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        子どもが欲しい、という気持ちが欲しい

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        • 日記
          62本
        • いのちって感じのご飯
          10本
          ¥500
        • 東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う
          8本
        • 輝くスイーツ シャインマスカット
          13本
          ¥500

        記事

          雑貨屋に売っている服とか着てそう

          高校生の頃「雑貨屋に売っている服とか着てそう」と言われた。 よく分からないまま「ありがとう」と言ってしまったが、あれはギリギリ悪口だった。 雑貨屋は悪くない。雑貨屋に置いてある服も悪くない。 雑貨屋の服は高級品の部類だ。 裏側に当てた手のひらが透けるようなブラウスが、なぜか八千円や九千円もする。 じゃあ何が気に入らないのか。 雑貨屋の服が持つほっこり感というか気の抜けた感じが、ありたい自分とはあまりにもかけ離れていたのだ。 わたしは吹奏楽部の中で、ぶっちぎりのイジられ

          雑貨屋に売っている服とか着てそう

          日記:デートの行き先リセット宣言(2024/06/15(土))

          結婚八年目にもなると、夫との過ごし方がマンネリ化する。 動物園、庭キャンプ、スーパー銭湯、日曜大工、クロワッサン作り……。 いくらこの世に娯楽が溢れていても、週末の限られた時間と予算で楽しめて、両方が「まぁ、やってみるか」程度の興味が持てる遊びは多くない。 ネタ切れのせいだろう。金曜日が近づくと夫は「週末、何する?」と聞いてくるようになった。 金曜の19時まで仕事で頭がいっぱいのわたしは、当然何にも考えていない。「んん」とか「何も考えてない」と返事にならない返事でやり過

          日記:デートの行き先リセット宣言(2024/06/15(土))

          日記:寿司を野菜室へ(2024/06/12(水))

          閉店間際のスーパーでパック寿司が半額になっていた。明日の昼に食べるために、素早く確保する。 外食だと今はうどんでも500円近く必要なのに、家で半額の寿司を食べると390円で済む。家で食べるだけでこんなに得をしていいんだろうか。 帰り道に「お寿司を冷蔵庫に入れると、米が固くなっちゃうんだよなぁ」とこぼすと、夫が野菜室に入れるといいと教えてくれた。野菜室の方が温度が高く、米が冷えすぎないらしい。 まったく知らなかった。 料理担当のわたしの方が冷蔵庫を触る回数は多いのに、夫

          日記:寿司を野菜室へ(2024/06/12(水))

          名もなき料理

          子どもの頃、夜ご飯で「名もなき料理」が出てくるとガッカリした。 母が「今日の夜ご飯は『豚肉を炒めて焼き肉のタレをかけたやつ』でーす」と言いながら並べる、あの料理だ。 それらは、材料+調理法+調味料の組み合わせで呼ばれる。 「豚肉を味噌で炒めたやつ」「鶏肉を煮て胡麻ダレをかけたやつ」などバリエーションがあったが、一つの材料と一つの味なので、いつも三口で飽きた。 なんなら、食べる前から食べ飽きていた。 名前を聞いた瞬間から「ああ、あれか」と頭に浮かぶ。予想通りの味が、コピ

          文庫本に、なに挟む?

          中古で買った文庫本を読んでいると、何かがページの隙間から落ちそうになった。 それは、一枚のレシートだった。 "atre kichijoji" 吉祥寺で買われた本がはるばる岐阜県まで。 持ち主が引っ越したのか、古本屋を巡り巡ったのか。随分と長旅だったようだ。 もしかしたら、他に買った本が載っているかもしれない。 そう思ったが、レシートに本のタイトルは書かれていなかった。それどころか、よく見るとそのレシートは服屋のものだった。 読みかけの文庫本を閉じ、スマホで店名を検索

          文庫本に、なに挟む?

          野菜ジュース前、野菜ジュース後

          振り返るとあれが境目だった、という瞬間がある。 ここ数年だと、コロナを思い浮かべる人が多いのかもしれない。 「紀元前」を表す「BC」が今や「コロナ前(Before Corona)」を意味する、なんて話もあるほどだ。 話が地球規模から我が家の冷蔵庫にまで小さくなるが、冷蔵庫の中身にも「あぁ、あの日が境目だったな」という瞬間がある。 夫と同棲を始めて、初めて一緒にスーパーへ行った日だ。 空っぽの冷蔵庫に詰め込むための食材でパンパンのカートを押していると、夫は牛乳やジュース

          野菜ジュース前、野菜ジュース後

          「あなたはどんな仕事をした人だと思われたいですか?」

          ときどき「面接官」の仕事がある。 わたしの働く会社では、中途採用者を同じ職種の社員が面接するのだ。 ペアで面接官を担当するのはいつも同じ人だ。 アメリカのバスケ小僧が来ていそうなズルズルの古着を着て、飄々と仕事をする男性である。 「あー。ちょっと変な質問なんですけどぉ、林さんが定年を迎えるとき、どんな仕事をした人だと周囲に思われたいですか?」 「思われたいですかぁ?」に関西の響きを残しながら、いたずらっぽく微笑む。 鼻の下のヒゲが、一緒にくいっと上がった。 うーわ

          「あなたはどんな仕事をした人だと思われたいですか?」

          文学フリマ東京38に出店しました

          5/19(日)開催の「文学フリマ東京38」に出店してきました!来場してくださった皆様、運営の皆様、ありがとうございました。 こちらは参加レポ&感想記事です。 当日販売していたエッセイ 今回は新刊・既刊の計二冊を持っていきました。 【新刊】子どもが欲しい、という気持ちが欲しい(94P/1000円) 「30歳になったけど、子どもが欲しいのか分からん!どうしよう〜!」をひたすら書いたエッセイ集。 【既刊】いのちって感じのご飯(40P/500円) おふくろの味、まかない

          文学フリマ東京38に出店しました

          右手に銃を構えて怒れ

          三十代に入ってから、周りの友人がバタバタと休職し始めた。 久しぶりに仕事仲間とテーブルを囲むと、五人中三人が休職経験者だと気づく。 昨年も友人の一人が休職した。 SNSの投稿が減ったと思ったら「実はさぁ、休職中なんだよね」と打ち明けられてしまった。 こういうときは何て言えばいいのだろうか。「寝れてますか?」と「食べれてますか?」を繰り返すことしかできない。 「もう、仕事はほどほどでいいかなって」 へにゃりと笑う彼と、目が合わない。 肯定するように無言で頷いたのは半分本

          右手に銃を構えて怒れ

          飛行機で甘やかされる

          健康診断が好きだ。 待合室でワイドショーをぼうっと眺める時間も好きだし、「こちらのソファで待ってください」「次は突き当たりの部屋へ」と促されるままに診察室を巡るのも好きだ。 何より好きなのは採血。 注射は嫌いだけど、子ども扱いしてもらえるのはたまらない。 「倒れたことがあるので、ベッドで採血してもらえませんか?」 カウンターには座らず、眉毛をグッとハの字に下げて伝える。看護師さんの目尻が(あらあらっ)と下がる。 「では、こちらへどうぞ〜」 そうして看護師さんの声が

          飛行機で甘やかされる

          文学フリマ東京38でエッセイを出します📖

          本日はエッセイではなくイベント参加のお知らせです。 2週間後に迫りました「文学フリマ東京38」にエッセイ2冊で参加します! 出展場所場所は第一展示場のQ-35、入ってほぼ正面の列です 販売予定のエッセイ今回は新刊1冊、既刊1冊の計2冊を持っていきます。 【新刊】子どもが欲しい、という気持ちが欲しい(94P/1000円) 「30歳になったけど、子どもが欲しいのか分からん!どうしよう〜!」をひたすら書いたエッセイ集。 30歳から31歳までの迷走した一年間をまとめたら、9

          文学フリマ東京38でエッセイを出します📖

          日記:Wi-Fiネットワーク名の名付け(2024/04/27(土))

          カフェが提供しているWi-Fiを使うために、PCのWi-Fi設定を開いた。候補一覧を見ると、他の客が使っているだろうネットワーク名が並ぶ。 「oatmeal」 好物だろうか。オートミールって、「白米」のように単品で好きになるイメージがなかったのでなんか新鮮。 「clarinet」 おっ。クラリネットを吹いている人だろうか。わたしも、わたしも吹いてたよ!クラリネット!  「cadenza」 この人も音楽をやっている可能性大。しかしなぜカデンツァ……? ツッコミを入れなが

          日記:Wi-Fiネットワーク名の名付け(2024/04/27(土))