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野菜ジュース前、野菜ジュース後

振り返るとあれが境目だった、という瞬間がある。

ここ数年だと、コロナを思い浮かべる人が多いのかもしれない。
「紀元前」を表す「BC」が今や「コロナ前(Before Corona)」を意味する、なんて話もあるほどだ。


話が地球規模から我が家の冷蔵庫にまで小さくなるが、冷蔵庫の中身にも「あぁ、あの日が境目だったな」という瞬間がある。

夫と同棲を始めて、初めて一緒にスーパーへ行った日だ。

空っぽの冷蔵庫に詰め込むための食材でパンパンのカートを押していると、夫は牛乳やジュースが並ぶコーナーで足を止めた。

確かに、二人暮らしなら牛乳が常にあっても良いかもね。

そんなことを考えていたので、夫が野菜ジュースの200mlパックを6つも抱えて戻ってきた時はただ驚いた。

この人は「ジュースを飲む家」の人だったのか!
そしてこの小さなジュースは、まとめ買いされるものだったのか!


実家の冷蔵庫には、いつも麦茶しか入っていなかった。

ジュースが禁止だったわけではない。わたしにとってジュースとは、外出先の自販機や外食で飲むもので、手に取るタイミングを知らなかっただけだ。

その日買った小さなパックを、夫はお風呂上がりにちゅーちゅーと吸っていた。

ははぁ。こういうタイミングで飲むものなのね。


冷蔵庫に常に二、三個転がっている小さなジュースは、夫との新生活の象徴になった。

真似をして、風呂上がりに髪を濡らしたまま「瀬戸内 柑橘ミックス」にストローを刺してみる。

空いたコップや冷えた麦茶が無くても、風呂上がりにすぐ冷たい飲み物が飲める。これは素晴らしいことだった。

いつしかジュース以外も手に取りはじめ、今は鉄分入りの飲むヨーグルトを自分用にまとめ買いしている。

「次は『梨ミックス』だってさ」
野菜ジュースの裏側を見て新作フレーバーを夫に報告するのも、小さな楽しみとなった。

唯一面倒なのは、レジ袋から取り出したジュースを一つずつ冷蔵庫へ入れる作業だった。
しかし、プラスチックのカゴを用意してまとめて出し入れするようになってから、買い出し後の作業も楽になっている。

冷蔵庫の中身の歴史は「ジュース前」「ジュース後」で大きく分けられた。


他にも「キッチンペーパー前」とか、もっと革命的な「衣類乾燥機前」も無くはない。

しかし「野菜ジュース前」「野菜ジュース後」のささやかな、ふとしたきっかけで消えてしまいそうな変化が、わたしは結構気に入っている。



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