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KALATH
2023年10月19日 14:22
逆転 暑い日のことだ。「歴史的」猛暑の東京都。気になるよな、歴史っていつから遡ったモンなのかさ。 オレの事務所でホストモン二人と野球賭博をしていた。二人とも、色白だ。 酒を受け付けない体質なのに、飲めないのに飲め、と圧がつねにかかっているように、青白く映った。ウンザリしているのだろう。気が休まらないのかもな。 笑顔は絶やさないがしんどそうな様子。コイツらの真の姿は、憂うつなのかもしれな
2023年10月24日 13:15
失踪とある野党のとある有名議員が、オレの事務所をノックした。 何の用だ? ドアの小さなウィンドウ越しに依頼人を眺める。そこには、急かされているような、汗だくの男がいた。ーーどうぞ、とひと言。依頼内容を伝える。なるたけカンタンに再現したい。ただ、印象的すぎた。細部まで、目を通してほしい。 ある日突然のこと。 門限を過ぎても帰ってこなかったという。最初に身代金をたかられるのでは、と
2023年10月25日 09:11
店内 「お帰りなさいませ、お客様」だなんて言ってくるものだから、調子が狂う。一見だぞ?初めましてからだろ、と言葉の揚げ足を内心では、とっていた。 こんな店には長居したくない。ヒビキが在籍しているか、確認するだけだ。それ以外の用はない。 テーラードジャケット服を着た人間がコンカフェにいるのも場違いだ。ましてやオレは30代。周りの客は大体10代後半から20代前半だ。 内装はゴシック模様。中
2023年10月30日 09:47
f【街の光】 歌舞伎町がネオンに彩られる時間だ。文字通り、人もネオンみたく光っていて、街も様ざまな欲望の色に染まる時間帯。このまがまがしい「光」の誘惑に惹き込まれ、戻れなくなった人が何人いるのだろうかーー。 この街を「つくっている」人たち、この街で「踊っている」人たちが、誘惑と欲に溺れているのかもしれないな。 そんなことを考え始めると、吐き気をもよおすんだ。考えすぎか?おかしいのはオ
2023年11月4日 21:58
【転生】 ひめのですーー。そう言い放つカオリさんはこの街で「転生」したというワケか。写真で見たカオリさんは確かにここにはいない。 栄養失調でいつ死んでもおかしくない姿だ。髪もツヤがなく、目がうつろーーシャブを覚えてすぐに、こんなにひょう変するとはな。 「何の用ですか?」と、か細く震えた声で話した。やっとの思いで振り絞ったような声音が蚊の鳴き声のようだ。身体全体もが震えている。 横に客、
2023年11月9日 13:50
【再会】 どうやら谷川はこのプッシャーと一緒に一時期、ネタを捌いていたとかなんとか。取り分かなんかだろう、揉めて仲違いした原因は。 まさか、こんなところで「再会」とはな。 「破門になって、ケツも持たないで好き勝手やってくれてんな。シマを荒らしてんの。分かるだろ?」とプッシャーが、二人の因縁に火をつけた。 「お前はケツに守ってもらってばっかりの疫病神だよな」 「元はてめえがケジメつけなか
2023年11月17日 07:46
【?】 想定外--。この言葉が頭のなかでこだまする。 今は中野区某所にいる。隠れアジトは谷川が手配してあった。「あの場」から去る時に乗った車の行き先は、あらかじめ決まっていたのだ。 去り際、車内で、 --当てずっぽうな場所に行くなよ、分かんだろ?谷ちゃんよ --隠れ家に行くよ。カイくん、すまないけれど運転中は無言で頼む、と谷川。あのドタバタ劇から脱するルートを前もって決めていたのだろ
2023年11月23日 16:50
【傘がない】 オレは今から三上のところに行く--憎堂一家の組長、三上に。 出たタイミングで、横殴りの雨に当たった。たいして強くないが、風でこちらに当たってくる。 たとえ傘があったとしても意味がないんだろうな。どうせ雨にあたって、傘なんて要らねえってなって棄てるか、先に骨組みがブッ壊れるかのどちらかだろうな。 風が強く吹いている。 雨を運ぶ風が、頬を叩きつける感覚が目を覚まさせる。
2023年11月27日 11:22
どうやら長野とは連絡がつかないようだ。 そのことに三上は腹を立てていた。報酬の話はもちろん、長野が組を蔑んでいるのだと思え、イラ立ちが収まらないのだとか--「コッチに依頼しておいて、カイちゃんにも依頼だなんてねえ。中間連絡もないし、ナメられたものよ」 「連れてくればいいのでしょうか?」 「2日以内にココね。坂本の番号が登録されている携帯電話を使ってね」と、即座に応え携帯電話
2023年12月9日 19:51
【手引き】 北条とアイツの回しているホストの幹部とが、コソコソ話をしていた。 恐らく「あの」話。 オレが三上のところに出向いた時に、北条へのイラ立ちが昂じた理由--中島と伊藤が、みかじめ料を徴収しなくなれば、得られるあっ旋とヤクの売買での、利益を北条と幹部で山分けする算段だった。 実は陰で自分たちの利益を計算していたからだ。 オレが坂本に「あの日」投げた携帯電話には、その「利益は大
2024年1月7日 03:34
【あざとい数式】 つまることころ、だ。 三上は、オレと坂本が動いている間に、長野からの依頼――カオリさん・ひめのを殺すこと――を要領よく実行していた。 オレと坂本を組ませた。そうして注意を逸らすよう計算していた。思いつきで動く性質(たち)ではない。今回の計画の数が10あるとする。オレが知ったのは、たった一つの計画――カオリさん・ひめのの殺害だ。それを計算してこなすんだ。 十の中一
2024年1月10日 18:57
さて、と。 「今から言うことをしっかり聞けよ、坂本に右翼の兄ちゃんたち」と、右翼A・B・Cをけん制するようにも、強気に話を切り出した。右翼トリオはどこか、困惑している様子。目が泳いでいる。 それもそうかもしれない。 坂本っていう力と優位な権力のあるヤツに対して、畳み掛けるこの人は「何モン?」と抱えている疑問。それを顔に出しているように映る。 クエスチョンマークみたく、曲がっている
2024年1月14日 02:59
ナイフの先端をロリコン秘書の脇腹に、少しだけ--ほんの1ミリ程度、その存在が伝わるところまで刺している。血は出ない。が、ビビって硬直している秘書――。自分の足でサカファードまで歩かせ、後部座席を坂本が開けた。子煩悩ヤクザが鬼の形相に。 秘書に向けられているのは、小型のハンドガン。手の甲の中に収まるサイズ。大きくないからこそ、余計にリアリティがあって、恐ろしい。 植え付けるだけなんだ。恐怖
2024年1月18日 08:57
ジュンちゃんとは、かれこれ10年以上前に仲違いした。血のつながっていない、兄弟のような親友だ。いや、正確には「だった」んだ。 「その女」はジュンちゃんをなぜか知っている。歌舞伎町に来てからというもの、誰にも口にしていないのに。 頭のなかでさきの「その女」の正体、違和感を払拭しようと精いっぱいだった。奇妙な得体のしれない、恐ろしさを抱いていた。 情に流されず、持っていかれないように今は