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連載『欲の涙』

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欲望の渦巻くネオン街。欲は何を、誰に語るのか。欲のささやきと声に溺れる人たち。その中間に位置する人たちーーどこへと向かうのか。
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『欲の涙』(①)

『欲の涙』(①)

逆転 暑い日のことだ。「歴史的」猛暑の東京都。気になるよな、歴史っていつから遡ったモンなのかさ。

 オレの事務所でホストモン二人と野球賭博をしていた。二人とも、色白だ。

 酒を受け付けない体質なのに、飲めないのに飲め、と圧がつねにかかっているように、青白く映った。ウンザリしているのだろう。気が休まらないのかもな。

 笑顔は絶やさないがしんどそうな様子。コイツらの真の姿は、憂うつなのかもしれな

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『欲の涙』(②)

『欲の涙』(②)

失踪とある野党のとある有名議員が、オレの事務所をノックした。

 何の用だ?

 ドアの小さなウィンドウ越しに依頼人を眺める。そこには、急かされているような、汗だくの男がいた。

ーーどうぞ、とひと言。依頼内容を伝える。なるたけカンタンに再現したい。ただ、印象的すぎた。細部まで、目を通してほしい。

 ある日突然のこと。

 門限を過ぎても帰ってこなかったという。最初に身代金をたかられるのでは、と

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『欲の涙』(③)

『欲の涙』(③)

店内 「お帰りなさいませ、お客様」だなんて言ってくるものだから、調子が狂う。一見だぞ?初めましてからだろ、と言葉の揚げ足を内心では、とっていた。

 こんな店には長居したくない。ヒビキが在籍しているか、確認するだけだ。それ以外の用はない。

 テーラードジャケット服を着た人間がコンカフェにいるのも場違いだ。ましてやオレは30代。周りの客は大体10代後半から20代前半だ。

 内装はゴシック模様。中

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『欲の涙』(④)

『欲の涙』(④)



【街の光】
 歌舞伎町がネオンに彩られる時間だ。文字通り、人もネオンみたく光っていて、街も様ざまな欲望の色に染まる時間帯。このまがまがしい「光」の誘惑に惹き込まれ、戻れなくなった人が何人いるのだろうかーー。

 この街を「つくっている」人たち、この街で「踊っている」人たちが、誘惑と欲に溺れているのかもしれないな。

 そんなことを考え始めると、吐き気をもよおすんだ。考えすぎか?おかしいのはオ

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『欲の涙』(⑤)

『欲の涙』(⑤)

【転生】 ひめのですーー。そう言い放つカオリさんはこの街で「転生」したというワケか。写真で見たカオリさんは確かにここにはいない。

 栄養失調でいつ死んでもおかしくない姿だ。髪もツヤがなく、目がうつろーーシャブを覚えてすぐに、こんなにひょう変するとはな。

 「何の用ですか?」と、か細く震えた声で話した。やっとの思いで振り絞ったような声音が蚊の鳴き声のようだ。身体全体もが震えている。

 横に客、

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『欲の涙』⑥

『欲の涙』⑥

【再会】 どうやら谷川はこのプッシャーと一緒に一時期、ネタを捌いていたとかなんとか。取り分かなんかだろう、揉めて仲違いした原因は。

 まさか、こんなところで「再会」とはな。

 「破門になって、ケツも持たないで好き勝手やってくれてんな。シマを荒らしてんの。分かるだろ?」とプッシャーが、二人の因縁に火をつけた。
 「お前はケツに守ってもらってばっかりの疫病神だよな」
 「元はてめえがケジメつけなか

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『欲の涙』⑦

『欲の涙』⑦


【?】 想定外--。この言葉が頭のなかでこだまする。

 今は中野区某所にいる。隠れアジトは谷川が手配してあった。「あの場」から去る時に乗った車の行き先は、あらかじめ決まっていたのだ。

 去り際、車内で、
 --当てずっぽうな場所に行くなよ、分かんだろ?谷ちゃんよ
 --隠れ家に行くよ。カイくん、すまないけれど運転中は無言で頼む、と谷川。あのドタバタ劇から脱するルートを前もって決めていたのだろ

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『欲の涙』⑧

『欲の涙』⑧

【傘がない】 オレは今から三上のところに行く--憎堂一家の組長、三上に。

 出たタイミングで、横殴りの雨に当たった。たいして強くないが、風でこちらに当たってくる。

 たとえ傘があったとしても意味がないんだろうな。どうせ雨にあたって、傘なんて要らねえってなって棄てるか、先に骨組みがブッ壊れるかのどちらかだろうな。

 風が強く吹いている。

 雨を運ぶ風が、頬を叩きつける感覚が目を覚まさせる。

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『欲の涙』⑨

『欲の涙』⑨


 どうやら長野とは連絡がつかないようだ。     

 そのことに三上は腹を立てていた。報酬の話はもちろん、長野が組を蔑んでいるのだと思え、イラ立ちが収まらないのだとか--「コッチに依頼しておいて、カイちゃんにも依頼だなんてねえ。中間連絡もないし、ナメられたものよ」

 「連れてくればいいのでしょうか?」
 「2日以内にココね。坂本の番号が登録されている携帯電話を使ってね」と、即座に応え携帯電話

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『欲の涙』➓

『欲の涙』➓


【手引き】 北条とアイツの回しているホストの幹部とが、コソコソ話をしていた。
 恐らく「あの」話。

 オレが三上のところに出向いた時に、北条へのイラ立ちが昂じた理由--中島と伊藤が、みかじめ料を徴収しなくなれば、得られるあっ旋とヤクの売買での、利益を北条と幹部で山分けする算段だった。

 実は陰で自分たちの利益を計算していたからだ。

 オレが坂本に「あの日」投げた携帯電話には、その「利益は大

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『欲の涙』11

『欲の涙』11

 【あざとい数式】

 つまることころ、だ。

 三上は、オレと坂本が動いている間に、長野からの依頼――カオリさん・ひめのを殺すこと――を要領よく実行していた。

 オレと坂本を組ませた。そうして注意を逸らすよう計算していた。思いつきで動く性質(たち)ではない。今回の計画の数が10あるとする。オレが知ったのは、たった一つの計画――カオリさん・ひめのの殺害だ。それを計算してこなすんだ。

 十の中一

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『欲の涙』12

『欲の涙』12

 さて、と。

 「今から言うことをしっかり聞けよ、坂本に右翼の兄ちゃんたち」と、右翼A・B・Cをけん制するようにも、強気に話を切り出した。右翼トリオはどこか、困惑している様子。目が泳いでいる。

 それもそうかもしれない。

 坂本っていう力と優位な権力のあるヤツに対して、畳み掛けるこの人は「何モン?」と抱えている疑問。それを顔に出しているように映る。

 クエスチョンマークみたく、曲がっている

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『欲の涙』13

『欲の涙』13

 ナイフの先端をロリコン秘書の脇腹に、少しだけ--ほんの1ミリ程度、その存在が伝わるところまで刺している。血は出ない。が、ビビって硬直している秘書――。自分の足でサカファードまで歩かせ、後部座席を坂本が開けた。子煩悩ヤクザが鬼の形相に。

 秘書に向けられているのは、小型のハンドガン。手の甲の中に収まるサイズ。大きくないからこそ、余計にリアリティがあって、恐ろしい。

 植え付けるだけなんだ。恐怖

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『欲の涙』14

『欲の涙』14

 ジュンちゃんとは、かれこれ10年以上前に仲違いした。血のつながっていない、兄弟のような親友だ。いや、正確には「だった」んだ。

 「その女」はジュンちゃんをなぜか知っている。歌舞伎町に来てからというもの、誰にも口にしていないのに。

 頭のなかでさきの「その女」の正体、違和感を払拭しようと精いっぱいだった。奇妙な得体のしれない、恐ろしさを抱いていた。

 情に流されず、持っていかれないように今は

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