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#4-3 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン4(運用編②_医療機関編)】

エピソード3「そっと寄り添い架け橋になる患者総合支援センター(後編)」


エピソード3(後編)はエピソード2(前編)に引き続き、名寄市立総合病院の患者総合支援センター(旧地域医療連携室)で主に退院支援を担当されている看護師の納村歩美係長ソーシャルワーカーの大松芽衣さんにお話を伺います。

後編では、主にICT導入によって患者総合支援センターの業務がどう変化したのか、またこれからのことについても聞いていきたいと思います。

大松芽衣さん(左)と納村歩美係長(右)

―大曽根 衛(一般社団法人地域包括ケア研究所)
納村さん、大松さん、後編もよろしくお願いいたします。

―納村さん・大松さん
はい、よろしくお願いいたします。

―大曽根
医療介護連携ICTが導入されて約2年ですが、仕事上どのような変化がありますか?

★1つの写真や動画で業務やリハビリが変わる

―納村さん
そうですね、やはり共有しやすくなったと思います。

Team(チャット機能)に一生懸命記載するなど業務的に増えた側面はありますが、ケアマネジャーさんとの連絡が取りやすくなったことは大きいですし、ケアマネさんだけじゃなくヘルパーさんや福祉関係の業者さんなど様々な所と繋がっている
私から何かを発信したら皆さんが見てくれている。

今までであれば、デイサービス以外ですと直接介護サービス事業所のヘルパーさんなどにお話をする機会は少なかったと思うんですよね。

―大曽根
少なかったというのは?

―納村さん
それまでは、直接ではなくケアマネさんを介して各所へ発信するという流れでしたが、ICTを使うことで、私からも「こういう理由で入院されました」「これぐらいの歩き恰好になってきたからもう少しだと思います」「先生が、ゴールはこのぐらいだと言ってました」などと伝えることができ、そうすると関係者がそれぞれ「そうなんだ、じゃあもうちょっとで帰ってくるから準備しなくちゃね」みたいなことが一斉にできるようになりました。

さらに、長めの動画も投稿できるようになったので、院内でのリハビリの様子や入院中の様子を見ていただくことで、コロナ禍で面会が難しかった状況の中でも居宅の方などそれぞれが具体イメージを持ちやすくなったのかなって思うんです。

逆もそうですね。

入院時は「家は何階建てですか?/家の前の玄関は何段ありますか?/玄関は引き戸ですか?/開き戸ですか?/玄関はフードありますか?/上がり框(あがりかまち)何センチですか?」などひとつひとつ聞いていたんです。

―大曽根
そういう細かいところまでやっているんですね!

―納村さん
はい、今までやっていました。

これ何センチ?これぐらいの高さ?って。
ではどれぐらいの幅だろう?人通れるぐらいかな?って、普段からメジャーを持ち歩いていたんです。

メジャーをサッと取り出す納村さん

でも、自宅の様子を写真で投稿してくださることで、家や玄関の様子が一目瞭然です。
玄関だけでなく、浴槽の深さなども確認するのですが、具体的に分かりやすくなりました。

写真を見ることで、事前にイメージしたり想定していたもの違ったりすることもなくなりましたし、リハビリの担当にも共有でき、「ただ階段練習お願いします」ではなく「こういう感じだから、ここを特にお願いしたいんですよね」「ちょっと高めの階段だからリハ室にある階段じゃなくて病棟の階段使った方が良いね」などと具体的に相談できます。

家の環境をイメージしやすくなったことと、リハビリなどとの連携などの結果、退院に向けて動く時に調整がしやすくなったと思います。

―大曽根
なるほど、とてもリアルですね。

―納村さん
はい、最近本当にそう思います。

「外玄関で階段やばいんだよね、なん段あるんだろう」と話をしていて、実際写真を投稿してもらうと「え?こんな階段なの?それは危なくて転んでしまうわ」みたいなことがよくあります。

様々な角度からリハビリの様子を撮影する大松さん
様々な角度からリハビリの様子を撮影する大松さん


―大曽根
リハの内容も変わってきますね。

ICTの前の状況はご存じないかもしれませんが、大松さんはいかがですか?

★言葉を大切にする仕事だからこそのICTの意義

―大松さん
そうですね、元々札幌で働いてたときICTが全然なかったです。

私たちソーシャルワーカーって仕事柄、言葉で伝える職務だからこそ特に言葉を大事にしするのですが、その方の背格好とか歩き方というを表現しなければいけない中で、どうしても齟齬があったりすることがあり、伝えたイメージと全然乖離してしまうこともありえます。

「それだと家に帰れないです」のようになってしまいもどかしくなることもあるのですが、名寄に来てみたら、動画や写真で伝えられることが分かり、「なんだこれは!?」って思いました。

―大曽根
そうだったのですね!

―大松さん
はい、それこそ普段ヘルパーさんが入ってる方ですと、服薬管理についても、例えば牛乳パックで作ったこれがあれでなどとひとつひとつ言わなくても、「あ、これですね」と写真などで共有でき、より生活に入り込んだお話ができるんだってことを実感でき、そういうことにすごく喜びを感じます。

同じイメージ、同じ視点で話ができたり、より引き出せたりすることができ役立っています。

生活に入り込む立場なので、「こんなものを使っててね」と状況を汲み取っていることでそっと寄り添うことに少しでもなっているのかなと感じることができるのが、ここ1年ですかね。

大松さん

―大曽根
そういうことですね。
ありがとうございます。

患者総合支援センターとしてICTの価値について、その他にいかがですか?

★退院してからも繋がり続ける

―納村さん
退院後、ご自宅に帰ってからの様子を確認できるのは大きいですね。

最初から自分が関わったケースはもちろん、支援センターの中でよく話題にあがっていた患者さんなどは意識的に確認するようにしています。
変化があったりすると、「ちゃんとデイサービス行ってんだな」であったり、「こうなっているんだな」と。
その後の様子を見ながら、何か関係者が困ってそうだなという時は、必要そうな情報を書き込んだりしています。

―大曽根
わぁ、そんなこともされているんですね。。

―納村さん
Teamの申し送りなどで「先生は、こんなことをお話してましたよ」であったり「外来の時にはご家族いらしてませんでしたよ」などと共有したり、デリケートな内容の時は、ケアマネさんに電話をしたりするようなこともあります。
担当患者さんを持たなくなったことで、少し一歩引いて支援していくような時間を持ちやすくなったのかもしれないです。
私自身の性分として、退院された患者さんがその後どうなのか気になる方だというのもあるかもしれません。

―大曽根
前編で患者さんとの距離感のお話を納村さんはされていましたが、まさに退院後は物理的距離は離れるけど、どこか離れずに近くいるような気持でサポートされている様子が伝わってきました。

大松さんはいかがですか?

★病気でなく生活の一部として情報を繋げ合わせていく

―大松さん
ICTがあることで、ソーシャルワーカー同士でも情報取りやすくなりますね。

例えば、大腿骨骨折で整形外科病棟に入院され、その後一度退院された後に循環器に再入院されたケースなどでも、骨折前後の様子は私たちがケアマネさんたちとの面談を通して申し送りし、電子カルテには生活歴などの様子を書いてるんです。

このように、違う疾患で来られた時に、患者さんの生活の様子などを担当するワーカー同士で引継ぎしやすくなります。

病気でなく生活の一部の中で情報を繋げていける、私たちのような職業としては理想的な引継ぎだなと、感じています。

―大曽根
なるほど、それは良いですね。

院内各所との連携、地域との連携だけでなく、課内のワーカー同士の連携という視点ですね。

実際には、端末やシーンとして、どのようにICTと触れているのですか?

―大松さん
私は、電子カルテの端末で見ることが多いです。
診療の情報とTeamでの投稿内容などを両方表示して見たり、書き込んだりしています。
リハビリの動画や処置で必要な時などはタブレットを持ち歩いて活用しています。

―大曽根
ありがとうございます。
かなりICTが業務の中に必要な道具になっているようですね。

―納村さん
はい、もうICTがない状態には戻れないです。

―大松さん
そうですね、外来や病棟の看護師さんにも、「Teamを見ておいてください」と伝えることで、共有しやすくなったことも大きいです。

―大曽根
これから個人として、患者総合支援センターとしてどのようにしていきたいかという視点についてお話いただけますでしょうか。

★内も外も繋ぐ「架け橋」でありたい

―納村さん
患者総合支援センターとしてという部分は私個人からはお話しにくいところはありますので、上の方にお話しいただけるとありがたいです(笑)

私個人としては、看護師という自分の立場から看護師さん側のニーズや大変さも分かるので、患者総合支援センターと病棟看護師さんの架け橋になりたいと思っています。
もちろん意外と簡単なことではなく、状況によってうまく調整できないこともあるのですが、そうありたいと思います。

気さくにスタッフと話し始める納村さん

また、若いメンバーも多いので、より成長でき、働きやすい職場でありたいとも思っています。課内のチームワークが強ければ、より良い支援につながりますし、垣根を低くしてサポートし合えるようにしていけると良いと考えています。

―大曽根
そういう状態になることや維持し続けることは大切なことですね。

―納村さん
はい、内も外も「繋がり」を大事にしていきたいです。

―大曽根
大松さんはいかがですか?

★専門職として、そしてひとりの人間として

―大松さん
そうですね、あくまでも私個人的な視点ということになりますが、「あの人に相談してみようかな」って、思っていただけるような支援をしていきたいです。

今後、一人のソーシャルワーカーという立場としても、大松という1人の人間としても、困ってらっしゃる人が「ちょっと大松のところに話しに行こうかな」と思っていただけるような。
私自身のソーシャルワーカー像としての理想のような目標でもあります。

もちろん、私が担当にならなかったとしても、「同じ立場でしっかりやってくれるから、この人にお願いしますね」と繋げられるような大人になりたいな、というのが個人的な目標ですね。

ICTについては、ポラリスネットワークのように道北以北でもっと繋がるとありがたいなと感じています。

―大曽根
それはどういうところですか?

―大松さん
そうですね。
市外の患者さんも多く、実際には訪問看護などの報告書など書面でのやり取りも多いこともありますし、広域なので各地域で生活習慣やコミュニケーションをなどもそれぞれ特徴があったりします。

なるべく溝ができないように意識していますが難しいことも多く、ICTで繋がれると良いなと感じることもあります。

―大曽根
たしかに、広域でつながっていくと良いですね。

最後にお伝えしておきたいことや今日の感想などあれば、それぞれからお願いいたします。

★想いの共有とこれからへ

―納村さん
大松さんは、内に秘めてるものがありそうだなとずっと感じていたので、逆にインタビューを通して、大松さんという人を知れて、ますます好きになりました。

―大松さん
え、そんな。ありがとうございます。

―納村さん
元々好きなんですけど、大好きになりました(笑)。
大松さん本当に落ち着いていて、私より全然精神的に大人だと思うんです(笑)。

―大曽根
大松さんはどうでしたか。

―大松さん
自分が自分のことを話すことがなくなってきたので、自分の整理ができたこと、そして原点に戻れたような時間をいただいたなと思います。
自分のことを言葉にするのが苦手なので話せるかなって思ってたんですけど良かったです。

あと、納村さんの想いや考え方は共通する部分があると再確認できて、「付いていきます!」と思いました(笑)

―納村さん
わぁ、ありがとうございます(笑)。

―大曽根
納村さん、大松さん、すてきなエピソードや、大切な視点をたくさん聞かせていただきにありがとうございます。

大松さん(左)と納村さん(右)


シーズン4/エピソード2・エピソード3では名寄市立総合病院患者総合支援センターの納村さんと大松さんにお話を伺いました。

※内容はインタビュー実施時点(2023年8月中旬)のものになります。

 

 ★★名寄市あったかICT物語の構成★★

【シーズン1(導入前夜編)】

·        エピソード0:「名寄ICT物語、始めるにあたって」

·        エピソード1:「つながったら動いてみる」

·        エピソード2:「焦りとICT」

 【シーズン2(導入編)】

·        エピソード1:「想いをカタチへ①」

·        エピソード2:「想いをカタチへ②」

·        エピソード3:「名寄医療介護連携ICTの概要」

·        エピソード4:「ケアマネジャーから見たICT①」

·        エピソード5:「ケアマネジャーから見たICT②」

·        エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」

·        エピソード7:「孤独に陥らないあたたかいシステム」

 【シーズン3(運用編)】

·        エピソード1:「名寄ならではの訪問看護を探究し続ける」

·        エピソード2:「訪問歯科がある安心感と連携のこれから」

·        エピソード3:「利用者さんの笑顔のために」

·        エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

 【シーズン4(運用編②~医療機関~)】

·        エピソード1「道具の使い方と生身の情報~風連国保診療所」

·        エピソード2「そっと寄り添い架け橋になる 患者総合支援センター(前編)」


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