#2-5 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン2(導入編)】
エピソード5「ケアマネジャーから見たICT②」
執筆・インタビューを担当するのは・・・
こんにちは!
「名寄市医療介護連携ICT導入・運用アドバイザー(令和2&3年度)」の大曽根 衛(地域包括ケア研究所)です。
前回に引き続き、ケアマネジャーさんの目線から医療介護連携ICTを見ていきたいと思います。
エピソード4では、居宅介護支援事業所SUNのケアマネジャー江口英樹さんにお話を伺います。
★なによりも先に伝えたいこと
ー大曽根
江口さん、今日はよろしくお願いいたします。
ー江口
最初にお伝えしたいことがあるんです。
ー大曽根
はい、なんでしょうか?
ー江口
先日、北海道の介護支援専門協会でICTの研修会があって参加してきた際に、名寄ってどんな活動してるんですか?と、質問を受けたんです。
研修会の中で、名寄市の場合、特徴的なのが行政が主導してICTを活用している部分がけっこう注目されているところでした。
他の地域では民間組織が主導して民間組織だけで完結してしまうICTが一般的なのですが、名寄市の場合は行政主導で介護も全て入ってICTを活用していてすごい!と。
さらに、ケアマネジャーがみんなタブレットを持っているのもすごいねって。
これを聞いて、こういう良い取り組みはもっと発信しないといけないなって思いました。
ー大曽根
まさにですよね。
いろいろと試行錯誤や葛藤を超えてきて、始まったばかりとはいえ、こうして外からフィードバックいただけるのは本当にありがたいですね。
ー江口
はい、本当にそうですね。
ー大曽根
そこに至る過程での江口さんから見た景色をいろいろお聞きしていきたいと思うのですが、まず江口さんの簡単なプロフィールを教えていただけますか?
★ケアマネジャーになる前に感じた違和感
ー江口
はい、まず出身は名寄です。
名寄の当時工業高校の建築科を卒業して、以前より夢だった料理の世界に行きたいという夢があって東京の料理の学校に進学しました。
そこで紆余曲折色々ありまして、学校は卒業したんですけど直接料理の世界じゃなくて、料理学校の実習助手として社会人スタートしました。
その後もうまくいかない時期が続き、 このままじゃ何も前に進まないぞって思い、足掛け8年東京にいて名寄にUターンしました。
ー大曽根
じゃあ30歳手前くらいですか?
ー江口
25、6歳ですね。今後何をしたらいいのかっていう話になった時に、たまたまうちの家系的に医療系で働いてる人が多く、て。医師はいないですけど看護師とかレントゲン技師だとか医療系で働いてる人がすごい多かったこともあり、医療の道に進む前にいろいろ学べたら良いなということで福祉の世界にアルバイトとして入ったのがきっかけです。
―大曽根
なるほど。それはじゃあちょっと時間を繋ぐっていう形だったのですね。
―江口
そうですね、はい。でそこで「この世界も良いな」っていうことでそのまま仕事として。
介護保険が始まる年にちょうどヘルパー受かりました。
ー大曽根
ケアマネジャーさんになるまではどのようなハイライトだったのですか?
ー江口
最初、老健施設に入職し、通所リハビリとデイサービスの方で勤務をしてましたが、ちょうど相談員さんが辞めるということになって、相談員の仕事をすることになりました。
相談員となって、介護福祉士の資格を取った後に、ケアマネージャーを取り、それから10年くらいは施設のケアマネジャーと事務の責任者の仕事をしていたんです。組織的な配置換えがあり、病院の相談員をした後に居宅介護支援事業所に移りました。
ー大曽根
そうだったのですね、いろいろ経験されている!
その過程で自分の仕事観に影響のあったことなどありましたか?
ー江口
病院で医療相談員をしたときに、全国の相談員の勉強会に参加したことがあり、グループワーク形式だったのですが自己紹介があったんです。
みなさん社会福祉士、MSWの人たちばかりで、僕は社会福祉士の資格は持っていなかったんですが、「A病院の社会福祉士の〇〇です。」と話している流れで、僕が「●●病院の介護支援専門員の江口です」って言ったら、「あ、ケアマネジャー(介護支援専門員)さんは別」みたいな感じになって。
え?医療の世界ってこうなの?みたいな印象を持ったことがあります。
ー大曽根
ちょっと空気が変わったような感じがしたんですか。
ー江口
最初はみんな面と向かっていて、僕の方も向いてたのが、そう言った瞬間に向き変わったくらい空気変わったんですよ。
あ、医療ってこういう世界なんだ。医療の相談員さんてこういう、医療だけで働く人たちなんだっていうのを感じてしまったんです。
医療介護連携と既にうたわれていた時期だったので、福祉や介護の人たちって入っていけないじゃんって、思ってしまったことがあります。
早速、名寄に戻ってきて、病院内にメディカルベースキャンプのような捉え方で、医療の相談員もヘルパーもケアマネジャーも訪問看護も全部同じフロアで一緒に顔を向け合いながら仕事をできるようにレイアウト変更したんです。
ー大曽根
それは働き方を変えたってことですか?
ー江口
そうです。
ー大曽根
え、すごい
ー江口
それってすごい風通しが良くなって、連携しやすくなりました。
あの勉強会に行かなかったら、そのような発想も出てこなかったので感謝しています。僕がケアマネジャーになる前の、12年くらい前のできごとですが、連携を考える上での一つ原体験になっています。
ー大曽根
大事な体験だったのですね。ありがとうございます。
少しずつICTの話にも近づいていこうと思うんですが、江口さんは、どのように感じながら、どのように関わっていったのですか?
★消極的だったICT
ー江口
まずICTっていう言葉は数年前から聞いてましたし、市内の動きに関しては大変恐縮なんですがけど、ICTのグループでは話されているが自分にとっては感じてなかったです。
そこまではICTっていうものには全く興味もなく、自分たちがICTとして色々とやっていくということに対してはあまり消極的な感じでした。
ー大曽根
ICTの動きが具体的になり始めたり、近づいてきたときにけっこうネガティブな感じだったんですか?それとも中立的な感じ?いやいや良いぞって言う感じだったのですか?
ー江口
良いぞって思い始めたのっていつなんだろうな。
直接利用者に関わっていくっていうくらいで「あ、使ってみましょうか」だと思います。
機器が配られる前の先行トライアル始めるちょっとくらい前ですね。
ー大曽根
そうすると事例検討会などのグループワークの途中みたいな感じですかね。
ー江口
はい、そうです、そうです。
職場としても個人的にも、ICTに対してどうなのかというのは意見が拮抗していました。
ー大曽根
それってひとつの健康的な反応なのかなとも思いますね。
ICT入れると良いこともあるだろうけど、負担かかるんじゃないかと。
ー江口
その人その人でICTに何を求めるのかっていうところがあまり見えてない段階だったんだろうなって思います。
ペーパーレスを目的にするのか、情報共有の簡易化(情報の電子化)なのかでも期待することは変わります。
コミュニケーションとしてのツールとして考えれば入りやすかったんですけど、なかなかイメージしにくいわけです。
ー大曽根
そういう意味では今はどうなってきているのですか?
ー江口
現場サイドで活用してる人は、変わってきている気がします。
今までは電話やFAXで対応してた調整を、全てICT越しで出来るっていうのはすごいことだと思っています。
会議をするために3つの事業所を集約しないといけない時に、「やりますよ」とICTに書いておけば、それに対してみなさん反応してくれます。
電話をそれぞれにかける必要性がなくなったってというのはすごく大きいなと思います。
ケアマネジャーの立場ですと、医療の情報をいち早く正確に確認して、それに対する対応をデスク上でできることは非常に大きいです。
ー大曽根
デスク上でできる?
ー江口
すぐに行かなければいけないのか、そこまでいかなくていいのかなどの判断です。
救急入って今朝確認終わったから今行こうかとか。
この方は入院しそうかな、など予測できる、これはすごくプラス要素じゃないかと思います。
ー大曽根
そういうことですね。
少し戻りますが、本格稼働の前に事例検討会や先行トライアルをしたステップは今どのように振り返られます?最初はまだICTの輪郭がまだ具体的でない時期からだったと思うんですよね。
★理想的な導入プロセスと医療と介護の壁
ー江口
とても理想形だったと思います。
そもそもICTを活用しなくてもできる連携はありますし、今までそれでやってきたので、連携の質を上げる話し合いの中で、ICTの可能性も考える。
今回、循環器内科の担当してる患者さんのケースに絞ってトライアルをスタートしたのも、他の科や他の病院への展開のうえで良かったと思います。
で少なからずトライアルでやったケースっていうのは、医療や介護全体が繋がったなという気がします。
病気に対して医師から注意事項が出てきます。生活ではこういう事で注意をしています。サービスを活用して注意されるようなこととして、医療に関することもやってます、という情報をICTの中で一連づけることができている点です。
ー大曽根
ひとつのモデル、プロセスのモデルかもしれないですね。
ー江口
医療の相談員していても感じたのですが、医師は職業柄「結論」を求める傾向があると思いますが、介護の世界って「プロセス」がすごい大事。
介護の現場の人は、プロセス的な表現をすることが多く、先生方からすると「で何が言いたいの?」ってなる。
「で何が言いたいの?」って言われたら介護の人たちって引いちゃう。
でも先生方からは、結論から言ってもらわないと前に進まないよ、という感覚。その違いっていうのが永遠に違いとして埋まらない気がするんですよね。
介護の世界においては結論なんて、結論を出せない人たちだからプロセスに近いように動くし、先生方は「結論を言った上で困ったことを言ってくれないと時間がなんぼあってもきりないよって、そんなことどうでもいいんだ」っていう風になっちゃって永遠に平行線になってしまう。
だからとにかく医師を交えて発展させていかなければというよりも、周りにいるコメディカルの人たちも活用してもらえるようになっていけば良いのかなと個人的には思います。
―大曽根
たしかにそうかもしれませんね。
今回の事例検討会などの過程の中で、少し歩み寄ったりなど起きていたりしたのですか?
ー江口
今回、心不全というのを元に地域包括ケアを目指して色々と学ぶチームに参加させてもらっていると思うんです。
僕は介護側ってこういうことをしてるんですよ、介護側ってこういう観察をしてるんですよってことを積極的に医師に伝えていかないといけないという意識でいます。
ー大曽根
まだその努力の途上なんですね。
ー江口
そうですね。
ICTを通じて介護の世界を医療の方に知ってもらえてるっていう状況は大いにあるなって気がして、それはとてもありがたいなって感じていますが、それぞれの癖や傾向が出る部分はあるので、まだまだ双方にとって良いコミュニケーションの形というのは磨いていかないといけないと思います。
ー大曽根
なるほどですね。
少しは話は変わりますが、ICTというツールがあったことで利用者さんにとってより良い状態に繋がったなどはありますか?
★ICTがあることで自宅で過ごせる喜び
ー江口
そうですね。
これまでであれば自宅で暮らすのはもう限界になってきても、ICTがあること支援を受けながら家で暮らせているケースですね。
老々介護でお互いに介護状態・認知症かつ心不全で家族も援助できない85歳の方です。
でも訪問看護やデイなどの方がICTで情報共有されているので、悪い時にすぐ受診するなど対応できるんですよ。
ICTがなかったら、電話で出れないなど行き違いなどもあって、遅れてしまうこともありえます。
その方がいまだに「今年もまた畑やりたい」という言葉が出てくるのを聞くと、これこそが地域包括ケアシステムだなと。
ー大曽根
入退院は繰り返されているんですか?
ー江口
入退院繰り返していました。
でもICT導入後、入院していないです。
ー大曽根
それはすばらしいですね!
具体的によく使う機能はありますか?
ー江口
僕がメインとして見るのは経過記録ですね。
体重管理をしなきゃいけない方が出てくれば、温度版とかも見るようにしてますね。
あとは処方内容とか検査データは、ID-Linkから確認します。
ー大曽根
1日の中で見る時間は大体決まってるんですか?
ー江口
事務所にいて、デスクに座ってる時はほぼ開いてます。
あとは緊急時などはタブレット持参します。
ー大曽根
そういう意味では正確な情報へのアクセス、経過とかへのアクセスはしやすくなってるんですね。
ケアマネジャーという立場における連携の在り方って他に何か変化ありますか?
ー江口
利用者と寄り添うという部分は、深くなったようにも感じます。
デイサービスや訪問看護、ヘルパーさんがやってることなど、変化に応じて情報が入ってくるんですね。
今までは電話とかだと限定的な情報だったり、そもそも情報が入ってこなかったことも、比較的容易に情報を入れてもらえ、アクセスできるんです。
昨日あまり便出てなかったんだ、水分取れてなかったんだ、ちょっと心配だから見に行こうと、サインが受け取りやすくなったんです。
利用者さんとさらに身近になってるんじゃないかなって気がします。
月1回訪問して、来月の予定どうだいって言うだけで終わってたことが、タイムリーに状況がアップデートされるっていうのは大きいですね。
ー大曽根
たしかにですね。
ここまでお聞きししながら、江口さんってすごく利用者さんが中心にいながら、今よりもさらにより良くなることを客観的に真剣に考えてらっしゃる。なにか江口さん大切にされているモットーやベースの考え方みたいなものがあるんですか?
★もっともっとICTを磨く、もっともっと自分たちを磨く
ー江口
僕が関わってる利用者さんが豊かになるのは当然の話です。
だけども名寄市ってこういうすごい素晴らしいことをやってるにも関わらずなかなか伝わりきれていない部分もある。
同業者の中でも上手く使いこなすのにまだ抵抗を示す状況もあるんですね。でもやっぱり良いものはもっともっと使うべきだよ、もっともっと有効活用していくべきだよねって思っています。
ケアマネジャーであり管理者である以上、良い部分はもっともっと活用し、良くない部分は改善していくということやっていかないと、後世に繋がっていかないんだろうなって気がするんですよね。
今、事業所もケアマネジャーとしてもICTをこれから業務にどんどんどんどん入れていかなきゃならないって模索しています。
とにかく客観的に見たらすごいことやってるじゃんって思うんです。
ー大曽根
ある意味試行錯誤してる感じを冷静にちゃんと見てらっしゃるんですね。。
今回ケアマネさんの中から江口さんや井上さんが早い段階からこうして先行トライアルだとか本格稼働などで中心的で動いていらっしゃいます。
ー江口
守屋さんが名寄に来てくださってから非常に拍車がかかったなあと思うんですが、よく行政主導でここまで構築したなって思うんです。
ー大曽根
このような自治体そんなに多くないと思うんですよ。なにが名寄に合ったんですかね?システムをいかに入れればいいかという感じになりがちです。
ー江口
そうなんですよね。そんなにないですよね。
さらに、導入後ももっと良くしていこうという継続的な動きがある。
そのきっかけのひとつとして、医療がすごい介護を受け入れたこともあると思うんです。
特に酒井先生ですけど、すごい介護を受け入れてくれた。
それはすごい大きいことだと思います。
―大曽根
なるほど。
事例検討会や先行トライアルの時に、具体的に先生からも言葉が出てましたね。
ー江口
ケアマネジャーに対してもだし、ここまで介護に対して医療側、医師が受け入れてくれるというのは他になかなか無いんじゃないかなと思います。
在宅医療や総合診療の医師だったら別ですが。
ー大曽根
いやー、すごい素敵だなぁなるほどなぁ。
僕はほんと名寄のICTって、本当に人が動かしているんだなと感じています。
ICTをかたちにするまでに、想いとジレンマに向き合って、汗かいたり反発したり、こうするといいんじゃないかと試行してみたりがあって。
そこには行政とか医療とか介護の垣根があるようで無いような感じ。
江口さん、最後に伝えておきたいことありますか?
―江口
全然ICTに無関係なんですけど、ケアマネージャーもお医者さんと話するのに対して抵抗がある時代がありました。
で、そこからもう10年近くそういうこと言っているけど変われていない。そこってそろそろ本当に変わらなきゃいけない。
ー大曽根
それって今回のICTの導入は、良くなっていくきっかけになってますか?
ー江口
なっていると思います。
なっていると思うし、なんだかんだでうちのスタッフも全員ICTやっているし、これできないわーできないわーって毎回言いながら、教え合ってやってるんです。
意外とできなくはないし、実際できているし、でも苦手だっていう意識は簡単には変わらないんです。
ー大曽根
まあいってもまだ1年経ってない。
ー江口
そうですね。
うまく名寄市のICTのプロジェクト自体もすごい拍車かかって一気によくここまで形にできたのはすごいなあって、ほんと思います。
―大曽根
去年の今頃って先行トライアルですもんね。最中ですからね。
―江口
僕自身はここでもう一度、事業所の中でICTに関することをみんなで共有できる機会を作っていきたいと思っています。
自分たちが外野にならないで、きちんと輪の中にいる状態でありたいです。
他のところがどのように使っているのかなども参考になると思うんです。
ー大曽根
ICTというデジタルの場を活かしていくためには、アナログで集まる場があって、顔が見えたり繋がりを確認して、より良い形を検討して、ICTを加速する。そのような機会は作っていかないといけないですね。
ー江口
サービス事業所連携会議のように、医療と介護の全ての施設・事業所が一堂に会して顔合わせ会があるんですが、コロナ禍で以前のような形でできなくなっていますが、あれって大事だったなあって思うんですよね。
ー大曽根
改めて大切なことがわかりますね。
まだ本格稼働から1年経たない途中の段階ですが、これからもいろいろな節目で続きをお聞きしたいなと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
ー江口
はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
ー大曽根
今日は貴重なお話ありがとうございました。
ー江口
はい、ありがとうございました。
シーズン2エピソード5はICT導入前後についてケアマネジャー江口さんの視点からひも解いてきました。
※内容はインタビュー実施時点(2022年4月13日)のものになります。
続いて、エピソード6は酒井博司先生(名寄市立総合病院 副院長・患者総合支援センター長・名寄市医療介護連携ICT協議会長)にインタビューしていきます。
★★名寄市あったかICT物語の構成★★
【シーズン1(導入前夜編)】
【シーズン2(導入編)】
· エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」
【シーズン3(運用編)】
· エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
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