#1-2 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン1(導入前夜編)】
エピソード2「焦りとICT」
大曽根(地域包括ケア研究所)
橋本さん、前回のエピソード1からの続きになります。
よろしくお願いします。
橋本(名寄市健康福祉部こども・高齢者支援室地域包括支援センター所長)
はい、よろしくお願いします。
大曽根
エピソード1では、橋本さんの中で多職種連携の必要性が徐々に高まっていき、そして多職種で実際に集まる機会などが増えてきたところまでお聞きしました。
そして、ICTのキーパーソンでもある名寄市立総合病院の酒井副院長との出会いがありましたね。
具体的には、出会いの後、どのような動きがあったのかからお聞きしていきたいと思います。
★ICTを考えるキッカケはひょんなことから
橋本
はい、まず2017年(平成29年)4月に私が新設の地域包括ケアシステム構築担当参事に異動しました。
部下もいないたった一人の部署。さて、どうしようかなと思ったんですが、名寄市内の地図を1枚もらってそこにいろいろマッピングしてみようかなぁとか、周りのひとと話し合ったり、さまざまなデータを集めてみようと思ったり、、2ヵ月悶々とした感じで。
一体なにやればいいんだろう?って思ってたら、5月末くらいにとある営業の方がいきなり訪ねてこられて、連携のシステムを紹介してくれたんです。地域包括ケアシステムにはICTで連携とるとこんな風に良いんですよって。
酒井先生にも営業されているのを聞いたので、病院だけで立ち上がってしまう前に会いに行こうって酒井先生のところに乗り込んだんです。
大曽根
そんなことがあったのですね。
橋本
はい。
酒井先生と1時間以上話して、地域包括ケアシステムのツールとしてICTもあるけど、ICTやるとかやらないとかっていう以前に必要なのかどうかっていうこと何人かのメンバーと話し合うことが大事だと。
さらにはちょうどその頃、旭川医科大学の先生からの相談で、学生や若手の医師に名寄をフィールドにして地域医療を学んでほしいといった話なども、酒井先生からお聞きしました。
それであれば、色んなテーマで話し合う多職種のワーキンググループをぜひ立ち上げられたら良いよねって、盛り上がったんです。
ちょうど旭川医大さんの流れで大曽根さんもワーキンググループに顔を出すようになられましたね。
★ワーキンググループの発足と多職種での対話
大曽根
そういうことだったのですね。私が参加させていただくようになったのは2017年の10月頃からだったと記憶してますが、ワーキンググループは立ち上がったばかりだと確かにおっしゃっていました。
とてもエネルギーのある素敵なメンバーが集まっているのが印象に残っています。
きっかけはICTで、でもICTありきでなく、多職種でいろいろ話し合おうという目的だったんですね。
あったかい!
橋本
はい、そうだったんです。
大曽根
在宅医療について学ぶセミナーなど、名寄と旭川医大とで協働でいろいろな企画をしましたね。
私もほぼ毎月ワーキングに参加させてもらっていましたが、2018年(平成30年)にはICTを具体的に考えていくという話が出て来ていて、市内の医療・介護・行政などの多職種が集まり、ICTについて考えるセミナーを行いましたね。
ICTについて公開で公式的に行い、みんなで考えたり意見出し合うというのはあの会が初めてだったんですか?
橋本
あのセミナーをやるまでの間も、市としてケアマネさんたちに意向は確認していってたんです。アンケート調査したりだとか、居宅の打ち合わせ会議で集まっているところでケアマネさんたちに意見聞いたりだとか。
その中ではやっぱりICTをぜひ導入してもらいたいって意見が多く、ICT導入したらどういう情報だとかを見たいのかだとかどういうものが必要なのかということも具体的に聞いたりしていました。
そのような準備みたいのは少しずつ進めてきたんですが、いざICTの導入をってなると、私も凄い苦手な領域で、なかなか話を進められなかったんです。また、紹介いただいていたシステムもイメージが違かったんです。
大曽根
どう違ったんですか?
橋本
Lineのようなチャット機能がメインで、医療情報などが見れなかったんです。
それぞれで使っているシステム同士をつなげることで、他の事業所のシステムの中の例えばケアプランや検査結果、処方内容などを自由に見に行くことができる、そういうシステムにしたいなっていう希望があったんですよね。
★必要なことだけど苦手・・・焦りと混乱の日々
大曽根
なるほど。
橋本さん自身がICTなどシステムの検討など苦手という中で、どのように進めていったのですか?
橋本
ワーキングの中のICTグループ(部会)が私も全然ちんぷんかんぷんだし、集まって話をしようと思ってもどんな風に進めていいか全然分からなくなって、しまいには酒井先生にも怒られるし…(笑)
私自身も気持ちがアレルギー反応みたいな感じになっていました。
ちょうど、市長のICTに強い思いがあり公約にもしたタイミングでしたし、私の上司の部長からも、ICTを立ち上げるにあたっては、介護・福祉側が主体となって立ち上げるのはたぶん前例がないだろうけど、それで行くぞみたいな感じで。
誰もやったことがないので余計にさっぱり分からなくなってしまいました。
さらには、当時、総務省の補助金が10割出る補助金があったんですが、それを取れるように頑張ろうっていっていた翌年50%の補助率に変わってしまったりと。
大曽根
そういう意味では、ICTについてそもそもどうなのかを話し合うためにスタートしたワーキングの立ち上がりまではたぶん自然な流れだったけど、いざ形にしようとか、どう形にしていくのかというところでちょっと停滞期があったんですね。
事業としてグッと前に進めるってところでどんな動きがあったんですか。
橋本
役所の中で話し合いをしていてもどうしたらいいかさっぱり分からないので、いろいろなベンダーのデモを見たり、ICTをすでに運用しているいろいろな地域に見学させていただきました。
早く進めなきゃって思って取り合えずいろいろ視察行くか、みたいに苦肉の策みたいな感じも正直ありました。
でも、見学に行った時にも、名寄での具体的なイメージができるかどうかはしっかり見ようと。
とはいえ地域ごとに背景や医療介護資源が異なり、使用しているシステムも異なるので、なかなかイメージできるものがなかったんですが、某地域さんのイメージがけっこう近かったんです。
大曽根
なるほど。結果として、大事にしていこうとしたことはどのようなことだったのですか?けっこう整理して見えてきてた感じですか?
橋本
頭はごちゃごちゃしてて、もう何をどうすればいいのか分からないし…
だけど事業は進めなきゃいけないっていう焦り。
ICTって考えるだけで嫌な汗が出てくるみたいな(苦笑)
大曽根
なんと、そんなに焦っていたんですね。
橋本
「も~!あーやんなきゃー!」みたいな感じで。
だけど「何をどうすればいいの?」って。
★人生最大のカオスからの脱出!?
大曽根
でも、2020年度(令和2年度)に向けた予算化は進めていたわけですよね。
橋本
はい。
守屋さんの話を部長から聞く本当にその直前まですごい焦りまくってて。
大曽根
2020年(令和2年)4月から名寄市健康福祉部の参与となる守屋潔さんですね。守屋さんは、ICTを具体化していくには経験や知識が豊かな専門家ですね。
守屋さんが入られた後の4月からの話は、シーズン2でしっかり触れていきましょう!きっとおもしろい話が盛りだくさんです。
橋本
はい。
「あ!守屋先生!」って言って。
「会ったことはないけど私は知ってる!」って。
「酒井先生から何回も守屋先生のお名前聞いてたから知ってる!」って。
部長から、「こういう人から履歴書来てるんだけど、どうだ?」って。
「ICT立ち上げるけど来てもらうって手もあると思うんだよな」っていうのを言われて、「是非来てください!」って。
守屋さんの話を聞いて目の前が明るくなったというか、ほんとに光がパーッと差した感じ。
その直前まで私は本当にもう人生最大のカオスに入っていた。
大曽根
そ、そんな状況だったんですね。けっこう追い込まれていた?
橋本
もうずっとICTやるなんて言わなければよかったって・・・自分の気持ちの中では何回も思ってましたが、絶対口には出さなかった。
大曽根
かなりふんばっていたんですね。
橋本
ICTをやったほうがいいよねって所々思うところがあって、それが胆振の大地震の時の大停電。みんな役所に来たんだけどパソコンも使えないし、電話も通じない。独居の高齢者が多くいるからその人たち困ってないかどうか、無事かどうか、それぞれ担当の方の家に行ってみたんです。
だけどその時に一人の利用者さんに対して包括だけでなく、ヘルパーさんも、デイサービスの担当さんも行き、それであれば他の利用者さんのところにも行ったり、時間を開けて行けたらしいという意味で、一人に対して三人もいくっていう効率の悪さがあるなと感じたんです。無事が分かればそれをみんなでいっぺんに共有したいよねって気持ちがあって。
その時携帯は使えたり、Lineは使えたりとかしてたので、タブレットだったらもしかしたら使えたかもしれないよねっていう事とかで、こんな時こそICTだよねとかっていう言葉が包括の中からも聞こえて来ることがあって…
やっぱり導入したほうがずっといいなって思ったなっていうのもありました。
★「言葉にすれば、夢は叶う。」
大曽根
たしかに、有事の時にもコミュニケーションツールの選択肢としてあると心強いですね。
橋本さん、最後にお聞きします。
焦りやごちゃごちゃカオスの中で、グッとこらえて楽な方に行かなかったというのは、橋本さんの中の何がそうさせていたんですか?
橋本
漠然としてるんですけど、私は今まで「こうやりたいんだ」って口に出して言ったら叶えられてきたことがけっこう多かったんです。
たぶん「ICTを始めたいんだ」っていうのをみんなが知ってたし、それも守屋さんの耳に届いたんじゃないかなと思って。
やりたいこととか夢とか、こんないいことがあるとか、言っていかないと言わないと誰も分からないし、言ったら誰か聞いてくれて、その実現に繋がっていったんじゃないかなって思うんです。
これは絶対やったらいいとか、やっていきたいって事があれば言葉にする。
「言葉にすれば、夢は叶う。」
大曽根
一番大事な話が最後に聞けたような気がします!
僕も4、5年橋本さんとお付き合いさせていただいていますが、確かに周りによく話している印象ありますね。
どんな些細な事でもそれやりたいんだと。
仲間を集めていくとか、助けてくれる人がいるとか、自分だけが丸抱えしないとか、まさに連携のあるべき姿を体現されてるのかなって気がしました。
お話聞けてよかったです!ありがとうございました。
橋本
いえいえ、ありがとうございます。
大曽根
それでは、ICT導入前夜は橋本さんの視点からひも解いてきました。
続いて、シーズン2はいよいよICTの具体的導入準備として、2020年(令和2年)4月からの物語を見ていきます。
シーズン2では、酒井副院長や守屋潔さんをはじめ、様々なキーパンソンの方々の目線から見ていきたいと思います。
※本記事の内容はインタビュー実施時点(2022年3月2日)のものになります。
★★名寄市あったかICT物語の構成★★
【シーズン1(導入前夜編)】
【シーズン2(導入編)】
· エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」
【シーズン3(運用編)】
· エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」