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#3-5 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン3(運用編)】

エピソード5「薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ~中編」


執筆・インタビューを担当するのは・・・
こんにちは!
「名寄市医療介護連携ICT導入・運用アドバイザー(令和2&3年度)」の大曽根 衛(地域包括ケア研究所)です。
 
前回(エピソード4)に引き続き、名寄で先がけて在宅患者さんに訪問薬剤サービスを行ってきた名寄調剤薬局の町田忠相さん(副薬局長)に全3編に渡ってお話を伺います。
 

名寄調剤薬局の町田忠相さん(副薬局長)

★地道に一歩ずつ一歩ずつ


―大曽根
町田先生、中編もよろしくお願いいたします。
中編では、病院勤務から調剤薬局に移り、在宅での実際の動きなどの話を中心に伺っていきたいと思います。
 
名寄調剤薬局に移られて8年、現在、町田先生は在宅がメインで動かれているんですか?

名寄調剤薬局(正面)

―町田
そうですね、基本的に在宅がメインです。
ただし、午前中は薬局内で調剤業務をし、午後は基本的には「フリー」として主に在宅の動きをしています。
 
最初の頃は、深井先生を始め数人が在宅もやっていましたが、私が入り、それぞれの担当の患者さんを私に全部引き継いでくださったんです。
 
最初は、ケアマネさんや市内の事業所に顔を売りに行くところから始めました。
 
―大曽根
そうだったのですね。
感覚的にはこの8年で在宅の対応される患者さんの数ってどう変化してきているんですか?
 
―町田
すごい変化です。
今では、僕だけではなく若いスタッフもみんな在宅に関わって動いてますね。
かなり裾野が広がったんじゃないかなと。
 
でも、うちのキャパシティ的にはそろそろいっぱいかなというところまできているかもしれません。
 
―大曽根
必要とされる患者さんたちに、きちんとサポートできる体制が整ってきた感じですかね。
 
―町田
そうですね。
薬剤師の在宅での関わり方についても、名寄という地域にある程度根付いてきたともいえると思います。
 
―大曽根
なるほど、すばらしいですね!
 
―町田
最初はそうでなかったので、地道に一歩ずつ一歩ずつです。
 
いろいろな所に顔を出しては、薬剤師が在宅で何をするのか、説明を何度も何度も丁寧に行いました。
少しずつ少しずつです。
 
「薬剤師さんに頼んだ方が良いね」っていう雰囲気に徐々になっていった感じです。

名寄調剤薬局の町田忠相さん(左)とインタビューに同席する守屋潔さん(名寄市健康福祉部参与 地域包括ケア ICT システム担当)

★病院と在宅はまるっきり逆


―大曽根
町田先生ご自身は、病院から在宅に出てみて、実際に何が起きた感じですか?
想像していたものと実際に見た景色はけっこう違った感じですか?
 
―町田
もう全くもって違いましたね。
 
それまでは病院しか知らなかったわけで、病院では医療者の方が主導になれるんですよね。
いつ行っても、行けば必ず患者さんがベッドにいるわけですから。
病院は治療するという前提がある場所なので、「こうですからね」「こういう風にしてくださいね」って言えるわけです。
 
でも、在宅はまるっきり逆になるわけです。
こちらがお客さんになるわけです。
まさにホームアンドアウェイです。
 
「お邪魔します」と入っていって、「こうやれませんかね?」って話すのですが、「いやそんなことやらんわ」ってなることも多いんです。
 
―大曽根
ご本人は、ご自宅というホームの環境だから、嫌なものはイヤと言うことができるわけですね。
 
―町田
はい、そうなんですよ。
それをどういう風に修正していくかということなのですが、そもそも「信頼関係」を患者さんと築いてないと何してもダメなわけです。
ケアマネジャーさんを介しているとはいえ、全然知らない人がいきなり来るわけですからね。
その人から、いきなり「ああしろ、こうしろ」って言われたくないですよね。
 
まずそこは病棟の時より遥かに大変ですね。
人間関係の構築が最初の一歩ですから。
 
―大曽根
それは簡単なことではないですね。
 
―町田
はい。
病院では診療報酬上の点数の支払いについて、ベッドサイドで都度いくらですとお支払いいただくことはないわけですが、在宅ですと、薬剤管理指導料としていただくことにきちんと「価値」を感じてもらわないとお支払いいただけない。
 
そんなにお金払うんだったら来なくていいよ、と簡単になってしまうんですよ。
 
―大曽根
たしかに、そうですね。
 
―町田
だからそこをどのようにやっていくかはとても大変なところです。

★お薬だけでない自分という人間の価値


―大曽根
信頼関係構築のためにはどのようなことが重要となってくるのですか?
 
―町田
信頼関係をつくるために、関係が構築できたと自分が感じることができるまで、タダで行くことも多いです。
 
―大曽根
え!そうなんですね。
 
―町田
本来、実働分があるので本当は報酬をいただかないといけないんですが、ご本人が納得しているのを感じてからというのを意識しています。
 
―大曽根
「心を開いていただけたかどうか」を大事にしてるっていうことですね。
 
―町田
そう。
 
僕らがお宅に伺うことを、お薬だけの目的以外、例えばデイケアやデイサービスなどに行くような感覚で待っててくださる人もいる。
来るのを楽しみにしてくれる人もいる。
 
お薬の話はもちろんするんですが、それ以外に身体のことをケアしてもらえていると感じてもらえることなどに価値を感じてくれる方もいらっしゃる。
 
「また来てね」という言葉をいただけるような関係性になっていくことを大切にしています。
 

在宅でお一人おひとりと寄り添う町田さん(左)

―大曽根
なるほどですね。
とてもすてきですね。
 
―町田
「信頼関係」の構築っていうのは本当に大事で。
そうしていくと、だんだんこちらも「情」が入っていく関係になっていきます。
 
―大曽根
なんだかすごく人間味がありますね。
町田先生たちの動きから感じるのは、調剤のお仕事うんぬんではなく、自分の肩書とか立場などを一回脇に置いている感じですね。
 
―町田
そう、肩書も立場も全部いらないんですよ。
そこが本当に面白いです。
 
―大曽根
いやすごいなー。 

★在宅は見守るところ


在宅の薬剤師として大切にしている軸とかポリシーのようなものってあるんですか?
 
―町田
僕の中の一番のポリシーは、「在宅は見守るところ」ということですかね。
 
そこが病院と圧倒的に違うところで、病院は治療する場なので、「病院は”良くなる“」ことが目標じゃないですか。
でも、「在宅は”今そのままの状態でいれる”」ということが目標なんです。
 
そのためのアプローチとしてお薬がお手伝いできることもあるんですが、お薬の位置づけが違うんです。
 
病院で薬を飲み忘れたり、看護師さんがポトッと薬を落としたりするとインシデントになるわけです。
でも、家ではそのようなことは日常茶飯事であるじゃないですか。
 
―大曽根
たしかに、そうですね。
 
―町田
ケアマネさんやヘルパーさんからも「こうなっちゃってて、一回もお薬飲まれてないんですけどどうしましょう?」ってよく電話がくるんですよね。
そういう時は「大丈夫ですよ」と伝えます。
「そこが病院だったら大丈夫じゃないんですけど、家ではしょうがないです。もちろん飲ませなければいけないですが、しょうがない時はしょうがないじゃないですか」っていう話をするようにしています。
 
―大曽根
「いいんだよ」という受容から入っているところに姿勢を感じます。
 
―町田
そう、「いいよ」から入る。
加えて「できればこっちよりこっちの方が良いんだけど」と言う程度ですかね。
 
―大曽根
「いいよー。でもこっちの方がいいかもよー。」みたいな感じですね。
 
―町田
そうそう、そうなんです。
だから酒飲むのも良いんですけど、できれば酒飲む前に飲んで欲しいって。
 
―大曽根
そういうところはすごいリアルですよね。
 
―町田
そうなんですよ。そこはすごいリアルに感じましたね。
 

★名寄のICTはいい感じ


―大曽根
少し話は変わりますが、2021年から名寄市に医療介護連携ICTが入ってきて、実際にどんな変化があったのか教えていただけますか?
 
―町田
そうですね、僕は電カルで育ってますから、ようやく名寄市内の連携でもそれっぽくなってきたなっていう感じがしました。

訪問から戻りポラリスネットワークに入力を行う町田さん

―大曽根
それはどういうことですか?
 
―町田
情報の共有ですね。
ICTを使えばある程度データが見れたり、処方歴を見れたり、情報の共有ができるじゃないですか。
それってやはり画期的だなって思ったんです。
 
そしてTEAM(患者ごとに設定される専門職種間のグループチャット機能)でのコミュニケーションが素晴らしいと思います。
 
―大曽根
どのように素晴らしいのですか?
 
―町田
病院内でも、「先生どうしたらよいでしょう?」と先生に内線などで連絡しているのですが、院内外問わず関係者間の連絡が取りやすくなったっていうのはすごく成果だと思います。
もう一段踏み込んだ情報も見れると良いかと思いますが、段階的でしょうかね。
 
デイサービスやヘルパーさんが書いてくれているのも、非常に役立ちますね。
出来事やコミュニケーションのやり取りなどの状況がリアルタイムに分かることも助かりますし、あと以前はほとんどなかった質問なども「これでよかったでしょうか?」などと直接してくれるようになりました。
 
直接その人の言葉を確認できるというのは、やはりとても良いことだと思いますし、質問するというハードルも下がったように感じます。
 
―大曽根
それはいいですね。
町田先生の日常どのように使用されていますか?
 
―町田
僕は在宅から薬局に戻ってきてから、変化やバイタル、薬の残量や受診の促しなどを中心に書いています。
「こんなこと言ってましたよ」など、別に不要かなと思う情報でも、くだらなくてごめんねと思いながら、書くようにしています。
 
あとは、臨床検査値などを見て、薬が増えている理由などを確認したりすることもあります。
 
―大曽根
なるほどですね!
 
 
シーズン3エピソード5は町田先生が在宅の訪問薬剤師としての実務や大切にされていることなどを紐解いてきました。
 
町田先生の後編はエピソード6をご覧ください。
 ※内容はインタビュー実施時点(2022年11月17日)のものになります。

 ★★名寄市あったかICT物語の構成★★

【シーズン1(導入前夜編)】

·        エピソード0:「名寄ICT物語、始めるにあたって」

·        エピソード1:「つながったら動いてみる」

·        エピソード2:「焦りとICT」

 【シーズン2(導入編)】

·        エピソード1:「想いをカタチへ①」

·        エピソード2:「想いをカタチへ②」

·        エピソード3:「名寄医療介護連携ICTの概要」

·        エピソード4:「ケアマネジャーから見たICT①」

·        エピソード5:「ケアマネジャーから見たICT②」

·        エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」

·        エピソード7:「孤独に陥らないあたたかいシステム」

 【シーズン3(運用編)】

·        エピソード1:「名寄ならではの訪問看護を探究し続ける」

·        エピソード2:「訪問歯科がある安心感と連携のこれから」

·        エピソード3:「利用者さんの笑顔のために」

·        エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

 【シーズン4(運用編②_医療機関編)】

·        エピソード1:「道具の使い方と生身の情報~風連国保診療所」

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