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月が一番綺麗に輝く十月にピッタリなうどんの作り方を教えます!

 十月です。十月は神無月とか神在月とか雷無月とか醸成月とか、とにかく月がらみで呼ばれる事が多い月でして、実際にスーパームーンって言葉の通り一年の中で月が一番大きく見える時期なんです。食べ物も月見だんごとか月見そばとかいろいろありますね。秋の夜の月を見ながらだんこを食べるのは確かに風情があるし、とろりと落とした卵を絡めて食べるそばも美味しいでしょう。マックなんかがこの時期にメニューに入れている月見バーガーを食べている人もいるでしょう。かくいう私も月見バーガーが大好きで毎日五万円分買って食べています。あともしかしたら醤油ラーメンに卵を落として月見ラーメンと称して食べている人だっているんじゃないでしょうか。

 と、ここまで読んだ読者の中にはなんで月見うどを挙げないのかと思う人がいるでしょう。秋(空き)時間、お前には月見うどんこそ月夜の夜にピッタリだろっていうだろうと。いやぁ、その通りですよ。月見うどんは確かにこの時期の満月の夜にピッタリですよ。だけど皆さん、かけうどんの味気ないつゆの上に乗った卵を見てもつまらないと思いませんか?私も卵だけ乗ったそれを見るとあんまりの侘しさに泣きたくなります。うどんをこの月見の十月に相応しいものにするためにはやっぱりあれしかありません。

 桃源郷の故事で有名な古代中国の詩人陶淵明にこんな逸話があります。陶淵明はまるでうだつの上がらない役人時代に日々月見うどんを食べて世を儚んでいたそうです。世はこのかけうどんのように平凡で惨めだ。こんな沼の水のようなうどんつゆに乗った卵を月に見立ててもなんの風情もない。ああ!早く遁世したい!陶淵明は毎日毎日うどん屋でそんな虚しい思いでうどんを食べていました。だけどある日の事です。うどん屋に入った陶淵明はいつもの席に座って月見うどんを注文したのですが、その月見うどんを持ってきた店員が陶淵明の目の前で誤ってうどんに天かすと生姜と醤油をぶちまけてしまったのです。店員はもう平謝りで店長なんかブチ切れて包丁手に凌遅処死なんてしかねない有様でした。ですが陶淵明はそれにブチ切れて今すぐ自分の目の前でこのクズを凌遅処死にしてしまえと叫ぶどころかその天かすと生姜と醤油がたっぷりかけられたどんぶりを見て涙を流したのです。

「なんだこのうどんは!天かすは泰山のように聳え立ち、生姜はまるで琥珀のようにつゆに濡れてキラキラと輝くではないか。それに醤油だ。醤油は天かすと生姜の上を五回転に旋回する黒龍のようだ。最後にうどんとつゆの上の卵だ。これは本当に名月のようだ。ああ!まさかこれがずっと夢見ていた仙境なのか。ああ!うどんが冷めぬうちに食べねばならぬ。この仙境が見かけだけのものでないことを確かめなければ!」

 陶淵明は店長によって包丁で切り刻まれようとしている店員を放っ散らかして天かすと生姜と醤油がまぶされたうどんに飛びつきました。食べ終わった陶淵明はこのうどんが自分の思っていた仙境そのものであることを悟り、そして啜っても啜っても泉の如く溢れ出るうどんの美味さに今まで朧げにしか見えていなかった桃源郷が顕現されるのを見たのです。たちまちのうちにこの桃源郷を平らげた陶淵明はまだ凌遅処死をしようとしているうどん屋の従業員をガン無視してそのまま金も払わずまっすぐ自分の桃源郷へと向かったのです。


 これが陶淵明の逸話ですが、この逸話に出てくる天かすと生姜と醤油についても話しましょう。この三種の薬味は昔からうどんの三種の神器と呼ばれています。この三種の神器にも逸話があって中でも天かすが一番古く秦の始皇帝の時代にまで巡ります。天下を制した始皇帝は永遠の命を求めて家来をあちこちに探索を出しましたが、その家来の徐福が天かすを持ってきたそうです。徐福はこれは天女の衣のかけらこれを食べれば陛下は永遠の命を手に入れられると申し上げたそうです。結局始皇帝は永遠の命を手に入れられる事が出来ませんでしたが、始皇帝はその生涯の最後まで天かすを食べていたそうです。 

 次に紹介するのは生姜の逸話です。生姜については前漢の功臣蕭何にこんな逸話があります。楚漢戦争の時、病気で倒れた主君劉邦を見て彼はしょうがねえなと思いながらも主君の病気を直すために家来に薬草を探させました。しばらくして家来が根っこが膨らんでいる草を見つけてきたではないですか。蕭何は家来にその草はなんぞと家来に問いました。すると家来はこれは生姜という珍味ですと答えました。なんでもこれを擦って大さじ一杯飲ませれば飲めばどんな病気もたちまちのうちに治るというのです。それを聞いた蕭何は早速家来に大さじ一杯分擦らせた生姜を劉邦に飲ませたのです。するとなんと今まで萎れかけていた劉邦がたちまちのうちに生気を取り戻したではありませんか。その後元気百倍になった劉邦は宿敵項羽を倒して見事天下統一を成し遂げたそうです。

 最後に醤油の逸話を紹介します。醤油は三種の神器の中で一番新しく、とはいっても古代ですがこんな逸話があります。時は後漢末期のあの有名な赤壁の戦いの頃。後に呉の皇帝となる孫権の配下のイケメン将軍周瑜は同盟を結びに来訪してきた孔明こと諸葛亮を自宅でもてなしたのですが、自分を上回る才を持った孔明に嫉妬していた彼は孔明に一杯食わせてやろうと、壺に入れたまんま腐って墨汁のように黒い液体になってしまったものをそのまんま入れた徳利を我が地方に伝わる黒龍の酒と嘘をついて孔明に差し出したのです。しかし孔明は周瑜の挙動不審過ぎる態度を怪しんで徳利を指差して中に入っているこの墨汁みたいなのはいたずらの仕込みかと問いました。周瑜は孔明の勘の良さにビビッて大慌てでそれは誤解である。この酒を一口飲めば黒龍のように五回転して飛翔すると大嘘を言いました。孔明はこの周瑜の弁明を聞いてふふふと微笑み、そしてなんと徳利を傾けて五回まわしで料理にかけてそのまま食べてしまったのです。食べ終わった孔明は言いました。「周瑜よ。お前はこの黒い液体を俺に飲ませて恥をかかせようとした。だがお前は決して酒ではないこの墨汁みたいな黒い液体が非常に珍味なものであることに気づかなかった。全くしょうゆうとこだよ。お前がダメなのは!悪知恵ばかり考えて目の前のものがどういうものか確かめようとさえしないんだから。この黒き液体を誤解していたのは俺じゃなくてお前だよ。しょうゆうところを反省して誤解などせぬように空飛ぶ竜みたいに五回ぐらい見回して確かめろ」

 陶淵明はこの三種の神器と一緒になったうどんに自らの桃源郷を見たのですが、このうどんの美味は後の世に伝わりそれはいつしか天かす生姜醤油全部入りうどんと呼ばれるようになりました。この中国四千年の歴史が生んだ天かす生姜醤油全部入りうどんは、うどんの最高峰どころか世界のあらゆる料理の中の頂点に立つ料理なのです。天かす生姜醤油全部入りうどんは今では普段は卵ぬきで食べられていますが、この中秋の名月の時期には卵を入れて風情を味わいながら食べる風習も残っています。


 さて前置きが長くなりましたが、いよいよ天かす生姜醤油全部入りうどんの作り方をレクチャーする時が来ました。この中国四千年の最高峰の料理はなんとほぼワンコインで食べられるものなのです。しかも自分でも簡単に作れるんです。まず、はなまるうどんでかけうどんを注文してください。うどんを受け取ったらそのまま薬味コーナーに行ってください。薬味コーナーにはあの三種の神器が揃っています。まずはその中から天かすをうどんに陶淵明が夢見た桃源郷に聳え立つ泰山のようにかけましょう。白き泰山のような天かすを見てきっとあなたは始皇帝のような気分になるでしょう。次に生姜です。生姜は大きな琥珀を入れるように大匙一杯かけましょう。うどんに入った琥珀色に光る生姜を見てきっとあなたは蕭何のようにしょうがねえなと目頭が熱くなるでしょう。最後に醤油です。醤油は周瑜のように誤解して孔明に叱られないようちゃんと五回まわしでかけましょう。三種の神器を入れ終わったら後は卵をうどんに落として完成です。

 これで天かす生姜醤油全部入りうどんは出来上がりました。あなたは今天かす生姜醤油全部入りうどんという桃源郷を目にしています。どんぶりの中には古代中国の人々が夢見た桃源郷がそのまま息づいているのです。泰山のような天かす。琥珀のような生姜。五回転する黒龍のような醤油。そしてこの中秋の名月の時期にピッタリのうどんのつゆに浮かぶ卵の月。全く見ているだけでうっとりしてしまいますね。だけどいつまでも見ていたらうどんは伸びて桃源郷も味気ないものになってしまいます。ここはがっつりと勢いよく食べましょう。うどんを口にいれ桃源郷を体に取り込んだあなたはたちまちのうちに世界が眩く輝くのを見るでしょう。見慣れた遠くの山は天かすの泰山になるし、その辺の石ころは大さじ一杯の琥珀へと変貌するし、そこら中に置いてあるLOOPは速度限界を超えて五回ターンする黒龍となるでしょう。あなたはうどんのつゆにぷよぷよと浮かぶ月を見て月でトランポリンするうさぎのような気分になるでしょう。ああ!卵入りの天かす生姜醤油全部入りうどんこそ人類がこの中秋の名月の時期に食べるべき料理なのです。このインバウンドの時代に相応しいのは天かす生姜醤油全部入りうどんです。もう国策として日本国民一丸となって天かす生姜醤油全部入りうどんを広めようではありませんか!

 今回の記事はこれで終わりです。また来月まで、ちゃお!


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