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期間限定の恋 第一話:木枯らしが吹く前に

 天気予報だと今日は木枯らしが吹くということだ。だけど僕の頭は木枯らしよりも遥かに酷い嵐だった。やっぱり今日彼女に告白すべきなんだろうか。この頭の中の嵐を静めるにはそうするしかないのだろう。そうしなきゃいつまでも嵐は治らず、そして彼女さえいつまでも告白しない僕に呆れ果てて去ってしまうのだから。

 だけど告白するには似合いのシュチュエーションが必要だ。ラブホテルの前で告白なんかしたら彼女は僕を引っ叩いてそのまま逃げていくだけだろう。それではいけない。僕はかろうじて理性を保っている頭で告白すべき場所を考えた。そういえば駅から学校までの道に長い並木道があった。そこで告白をしよう。

 そういうわけで今僕は並木道で学校から来るであろう彼女を待っている。僕は乾いた落ち葉を踏み締めてその感触を確かめながらどんなふうに告白するか考えた。あたりには木枯らしの先触れのような強い風が吹き始めてきた。だけど彼女は来ない。僕は木の幹に寄りかかりながらずっと彼女を待っている。だけど彼女は来ない。どうしてなのだろう。いつもだったら今頃はとっくにこの辺を歩いているはずだ。まさか僕を避けて別の道から下校したのか。そんなはずはない。だって彼女は僕が話しかけるといつもにこにこして応じてくれるし、彼女から話しかけてさえくるんだ。そして彼女だって僕の気持ちはそれとなく察してくれるはずなんだ。それは彼女の態度から明らかだ。僕は未だこない彼女の事を思い浮かべて胸が苦しくなった。なんだか涙まで溢れて来る。自分でも情けないと思う。彼女が来ないだけでこんなに取り乱すなんて。ねえ早く僕のところに来ておくれ。せめて木枯らしが吹く前にこの思い伝えたいんだ。

 その僕の願いが天に通じたのか、彼女はとうとう僕の前に現れた。彼女は木枯らし前の強い風に髪をなびかせながら一人歩いている。これは奇跡だった。周りには誰もいない。今この並木道にいるのは僕と彼女だけだ。僕は思わず彼女の前に飛び出した。それと同時に猛烈な風が僕らに吹き付けてきた。木枯らしだった。木枯らしの中で僕は驚いて立ち止まっている彼女を見る。彼女は僕の眼差しを見てとり、そして僕に言う。

「どうしたの?そんなに真剣な顔して……」

 僕は木枯らしにその長い髪をなびかせている彼女の潤んだ目を見つめた。僕は今彼女の前に立ち勇気を振り絞って告白する。

「僕、君がす……」


「えっと申し訳ありません!たった今期限時間が来てしまいまして、あの~もう終了なんですよ。わかっていると思いますが、この恋は期間限定の恋でしてもう木枯らしが吹いたら告白できなくなってしまうんです。だからお客さんには大変心苦しいことですが諦めて頂いて次のキャンペーンがありましたらそちらでまた挑戦させていただくたく思いまして。あの~ですね。やはりこういう期間限定のキャンペーンですから突然終わってしまうことにご納得出来ないお客さんもいらっしゃることはこちらも重々承知していますが、でも当方といたしましてもそこをなんとかご理解いただきたく……」

「で、アンタだれ?それに彼女どこ消えたの?」

 僕は木枯らしの中突然彼女が僕の前から消え、その代わりに何故か固定電話機持ってイヤホンつけてるおっさんが現れたのでびっくりしてしまった。回りを見ても彼女の気配すらなくなってしまった。おかしい、今さっきまで彼女は僕の目の前にいたのに!僕はおっさんに食ってかかった。

「だから彼女はどこに消えたのかって聞いてんだよ!アンタがさらったのか?おい、誘拐罪で警察に訴えるぞ!」

「お客様には誠に申し訳ありません。重ね重ねお詫び申し上げます。期間限定の恋なので通常なら締め切りで終了なのですが、今回はお詫びとしてスペシャルクーポンを差し上げます。これを次回の期間限定の恋に使えば30分だけ延長できます!もし機会がありましたら是非ご利用お願いします!」

 電話を持ったおっさんはそう僕ではなくイヤホンのマイクに向かって謝っていた。僕は頭にきておっさんのイヤホンをむしり取りその耳に向かって思いっきり叫んだ。

「おい、訳のわかんねえこと言ってんじゃねえよ!一体お前は何者だんだよ!そして彼女はどこに消えたんだよ!今すぐ答えろ!」

「お客様が今回の期間限定の恋キャンペーンにご納得いかないというお気持ちは重々承知しました。こちらもお客様のご要望を検討する所存であります。こちらとしてもお客様にはサービスのご利用を続けていただきたく思いますので、もし当方のサービスへのご要望などがありましたらお問合せフォームで受け付けておりますので今後ご要望がありましたらそちらへお願いします」




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