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PV撮影

 今回もRain dropsのハードコアなファンだけが知る裏エピソードを書く。こんな裏エピソードばかり書いているから、Rain dropsのファンの方からいい加減そんな暴露話はやめてちゃんとした記事を書いて下さいというお叱りのコメントを頂いた。たしかにそうだ。こんな暴露話じゃなくてまともな記事を書きたい。だけどあの三度にわたるハゲ事件のせいでどんなにまともな記事を書いてもハゲハゲハゲと中傷のコメントがくるだけだし、大体まともな記事は書き尽くしてしまったのだ。

 という訳で今回はRain dropsがシングル『キラキラ』をリリースした頃のことを書こうと思う。このシングルは前年に出したシングル『裸』とアルバム『NAKID SONG』を引っ提げた全国ツアーで長い低迷期から見事脱したRain dropsがその人気を再び磐石なものにしようとしてリリースされたものだ。しかしこの『キラキラ』という曲は何故かリリース後はあまりライブで演奏されていない。それはメンバーがこの曲を好んでいないせいである。照山君は後にハッキリとこの曲が失敗作だったと語っている。彼によると失敗の理由は売れる曲を作ろうとして無理にポップにしすぎた事が原因だそうだ。だけどファンの立場でこの曲を聴いていた私はさほど悪くない曲だと思っていた。今聴いてもさほど悪くない。いや、もしかしたら後期Rain dropsの名曲の一つなんじゃないかとさえ思える。デビュー当初に帰ったような甘酸っぱい曲調は久しくRain dropsにはなかったもので却って新鮮だし、それでいて低迷期を乗り越えて復活したバンドの逞しさも感じさせるからだ。歌詞も開き直ったかのように少年性に満ちていて、改めてRain dropsが少年以外何者でもないことを知らしめていた。小田和正氏が同じタイトルの曲を出しているが、キラキラ度ではRain dropsの方が遥かに上だ。彼らはこの曲で少年だけが出せるキラキラ感を全方面に放出していた。

 さて今回書くのはその『キラキラ』のPV撮影中に起こった事件だ。上に書いたようにRain dropsのキラキラはデビュー当初に帰ったような甘酸っぱい曲だけど、歌詞も「小学校の運動会、徒競走で取った一等賞、あの頃を思い出して、もう一度僕は立ち上がる」というバンドの原点回帰を歌った内容だった。バンドのメンバーは曲を完成させると早速レコード会社の人間に聴かせたのだが、みんな一応にRain dropsらしい曲とベタ褒めし、その内の一人がこの曲のPVは運動会にしましょうよとバンドに提案した。バンドもそれはいい提案だと思った。久しぶりに尋ねた母校でたまたまやっていた運動会を見たRain dropsのメンバーが、一生懸命になって走る小学生を見て、昔の自分たちを思い出す。メンバーはこんなイメージを頭に思い浮かべてもしかしたらRain drops史上最高のPVが出来るかもと語り合った。

 さて我らがRain dropsはマネージャーに連れられてロケ地である小学校に着くと早速撮影スタッフとエキストラの小学生に挨した。その時に照山は運動会頑張ってねと声をかけたけどなぜか小学生は頭に疑問符がついたような顔をしていた。バンドのメンバーはそれぞれ自分にあてがわれた席に座り撮影が始まるのを待った。

 しかしその時である。何故か体操着と半パンをきた毛だらけの男がいきなり彼らに向かって怒鳴ってきたのだ。

「お前ら何座ってダベってんだよ!早く準備しろよ!」

 この男か今回のPVの監督らしい。男にこういきなり怒鳴り声を浴びせられたギターの有神は何故自分たちが怒られるかわからずに尋ねた。

「準備しろって言うけど小学生は座ったまんまじゃないですか?早く彼らに運動会を始めるように言ってくださいよ。そうしなきゃ僕らだって何もできないですよ」

「バカヤロー!お前ら何勘違いしてんだ!あの子たちはただの応援役なんだよ!お前らが出て来ねえからずっと待ってんだよ!さっさと目の前の机にある体操着着てグラウンド行けよ!」

 監督からそう言われたRain dropsは目の前の机を見た。するとそこにキッチリ折り畳まれた体操着があるではないか。メンバーたちはこれを俺たちが着るのかと信じられないと目を剥いて監督を見た。

「わかったか!運動会をするのはお前らなんだよ!今回のPVはお前らが少年性を取り戻すためにメンバー4人で運動会やるって内容なんだ!俺はこれをお前らのために寝ないで一晩中考えたんだぞ!だから早く体操着に着替ろよ!」

 しかし運動会をやれと言われても出来るものではない。なんでいい年した大人が小っ恥ずかしい体操着なんか着て運動会なんてやらなきゃいけないんだ。そう思った有神は近くにいたマネージャーを呼んでアイツは何者なんだよ。と詰め寄った。マネージャーは困った顔をしながらこう答えた。

「バカヤロ!あの人は海外でも有名な監督で、俺たちのためにレコード会社がわざわざ頭を下げて頼み込んで引き受けてくれたんだ。しかもあの人お前らの曲えらく気に入ってな。PVの内容俺が考えてやるって言ってくれたんだぞ!だから監督には逆らうな!あの人だったら絶対最高のPV作ってくれるから!」

 マネージャーの話が終わってからメンバーはしばらく考え込んでいたが、有神がマネージャーに一つ気になった事があったので聞きたい事があると言った。

「その監督さんって普段どんなアーティストのPV作ってるんですか?」

「そりゃ海外の大御所だよ!この間ハッテン場で捕まったあいつとか、去年に男のパートナーと結婚したアイツとか……。あとは日本の男性専門アイドル事務所の新人グループをやってるな!とにかくお前らあの人怒らせるんじゃねえぞ!」

 Rain dropsのメンバーはマネージャーから監督の事を聞くと頭が真っ暗になった。俺たちは監督のおもちゃにされるのかよ!と草生と家山は愚痴った。有神などやってらんねえと帰るそぶりすら見せた。しかしその時今まで黙っていたボーカル&ギターでバンドのリーダーでもある照山がメンバーに向かって言ったのだ。

「みんな体操着に着替えようぜ!マネージャーが言ってただろ?あの人は世界的に有名なPV監督なんだって!その彼が僕らのためにこうしてPVを制作してくれるどころか、僕らのためにわざわざストーリーまで作ってくれたんだ。やるしかないよ!たしかに体操着なんて今の僕らには恥ずかしいかもしれない。だけど僕らは少年だろ?みんな小学生時代を思い出せよ。あの頃僕らは天真爛漫に野原を駆け抜けてたじゃないか。僕らもう一度子供に戻ろうぜ!」

 メンバーは照山が少年剥き出しの表情で情熱的な語りに感化されて俺も少年だと我先に着替え始めた。照山はメンバーを鼓舞するかのようにバサッと全裸になって堂々と着替えていた。

 そしてRain drops全員が着替え終わり監督の前に出るとこの有名監督はメンバーをジロリと見回すといきなりギターの有神にケチをつけ始めた。

「おい、ギター!お前なんだよそのすね毛は!それで少年やるつもりか?いいか?お前は汚れなき少年をやるんだぞ!わかってんのか?」

「わかってるも何も俺ら普通の大人ですよ。すね毛ぐらい普通に生えてるでしょ!」

「うるせいんだよ!このバカ!おい、スタッフ!このバカのすね毛剃ってこい!」

 有神は抵抗したが、ガチムチのスタッフに簡単に組み伏せられてしまい、あっという間にどこかに連れて行かれてしまった。そして次の犠牲者はベースの草生であった。

「お前もだよベース!なんだよその不精髭は!少年やるんだったらその汚ねえ髭なんとかしろ!ほら百均のカミソリやるから今すぐそれ!」

「でもこのひげ俺のトレードマークだし……」

「何だお前!剃れってのがわかんねえのか!」

草生は監督にびびって慌てて髭を剃りに言った。その次はドラムの家山である。

「ドラム、お前舐めてんのか?そんなにデブってみっともねえと思わねえのかよ!いやお前のデブは今すぐ治せねえからしょうがねえ!デブキャラの小学生って事で許してやるよ!ただし今度あった時デブのまんまだったらバーベキューにしてやるから覚悟しろ!」

「はい!明日からダイエットするであります!」

「バカ!明日からじゃねえ今日からやるんだよ!」

「はい!監督殿今日からダイエットするであります!」

 家山は直立不動で監督にダイエットする事を誓った。

 そしていよいよボーカル&ギターの照山である。監督は照山をチェックしたのだが、何故か考え込んでしまった。照山は自分も厳しい叱咤を浴びると覚悟してひたすら監督の叱咤を待っていた。しかし監督は照山を叱らずただ彼を舐め回すように見つめでは腕を組んでうーんと唸っている。やがて監督は照山に向かってボソリと言った。

「なんかお前体操着ブカブカだな」

 監督は照山にそれだけ言うとすでに戻っていた有神も含めて改めてRain dropsのメンバーを見た。

「やっぱ体操着のサイズ一回り小さくすっか。いま着させてるのじゃシワが出過ぎて少年感が出ねえんだよ。もっとピチピチしたやつ着させねえと。おい予備の小さいサイズの体操着全員分持ってこい!」

 メンバーはスタッフから新しい体操着を渡されてまた着替えたがそれを見た監督は目を潤ませて褒め出した。

「い〜ね、い〜ね!ピチピチしてて少年感が出まくってるよ!じゃあ早速撮影始めっぞ!」

 こうしてRain dropsの運動会、いやPV撮影は始まった。撮影は新曲『キラキラ』をエンドレスで流しながら行われた。照山は不安がるメンバーをよそに全力で取り組んだ。不安のせいで動きが鈍く表情の暗いメンバーは度々叱られたが、少年そのままの笑顔で懸命に取り組む照山は監督に無茶苦茶褒められた。「い〜ね、い〜ね!君その頑張ってる表情ぐっとくるねぇ〜!」

 メンバーもひたすら頑張る照山を見てその気になったのかようやくやる気になったようだ。Rain dropsはエキストラの小学生に応援されながらかけっこをし、障害物競争をした。パン競争では何故かバニラまみれのパンが出され、マラソンでは何故かポカリの代わりに牛乳を出されたがメンバーは何故か分からず水分補給に牛乳を飲んだ。監督はパン食い競争の時は口元についたバニラの跡を見て「い〜ね、い〜ね!」と照山たちを褒め、マラソンの時は口元から溢れた牛乳と走る照山たちの苦悶の表情を見て「い〜ね、い〜ね!その切ない表情最高だよ!」と腰をクネクネさせながら長距離を走るなぜか髪だけは濡れていないが全身汗でびっしりの照山を撮り続けた。

 しかし照山は騎馬戦だけは頑として断った。髪に手を当てながらそんな恐ろしい事はできないと言い放ったのだ。監督は今まで率先してやってきた照山が何故騎馬戦を頑なに嫌がるのか不思議に思い冗談混じりにこう言った。

「何言ってんだお前騎馬戦って肩車で帽子の取り合いするだけじゃねえかよ。まさかお前帽子と一緒にカツラが取られんのが怖いのか?お前カツラなのか?」

 そう言った瞬間監督は照山が明らかに自分を殺意を込めた視線で見ていることに気づいてハッとした。命の危険を感じて彼はやっぱり騎馬戦はやめだ。お前らが怪我するかも知れねえしな。と言って騎馬戦は中止することにした。

 最後の競技はリレーであった。曲のサビそのままにメンバーが次の走者のメンバーにバトンを渡してゆくのだ。監督はずっとかけていた曲のボリュームを上げろと言った。「小学生の僕から、今の僕に託されたバトン。その少年の想い引き継いで、僕は駆け出してゆく」家山から草生にバトンは渡され、草生からバトンを引き継いだ有神はアンカーの照山にみんなの想いを託した。照山はみんなの想いを受け取って今走り出す。感動的なシーンだった。撮り終えた瞬間メンバーは抱き合い、監督は感激のあまり腰を突き出して叫んだ!

「いいよ!お前ら最高だよ!ファッキン・グレイトだよ!」

 そしていよいよラストの演奏シーンの撮影の準備が行われたが、そこで事件が起こったのだ。監督はメンバーに坊主のカツラをつけさせたがっていた。彼は運動会を思い出したRain dropsのメンバーが演奏しているうちにあの頃の少年に戻ってゆくというストーリーを考えていたのだ。監督は笑いながらメンバーに言った。

「おい、お前らそこにあるハゲのカツラかぶれ!お前らが演奏している最中にハゲになってくとこ撮りてえんだよ!」

 この監督の言葉は恐ろしいほど説明不足であった。メンバーはそれでも監督の意図を察していたが、照山はこの言葉に自分が侮辱されたと怒りいきなり監督をボコボコにし始めた。

「ふざけるな!僕はハゲなんかじゃない!決してハゲなんかじゃない!」

 メンバーはこの突然の凶行にに驚いて慌てて照山を監督から引き剥がした。それを見ていたマネージャーは慌てて誤りに行ったが監督は何故か涙を流して私も悪かったの。照山くんごめんなさい。と逆に謝ってきて、冷静になった照山も頭を擦り付けんばかりに土下座した。

 こうして演奏シーンは坊主にならずそのままの姿で撮影され、そして三日後レコード会社の会議室でメンバーとレコード会社の社員一緒に新曲『キラキラ』のPVを見たのである。PVの中には曲に乗せて体操着を汗だくにして乳首も露わに口元から牛乳をこぼして走っているメンバーの姿があった。特に照山はその苦悶の表情からふくらはぎや股間まで大写しにされまともな人間だったら正視できるものではなかった。PVを全て観た後レコード会社の社員の一人は言った。

「これ、放送禁止ものですよ……」

 全員の意見は見事に一致した。


 今YouTubeとかに上げられてるPVは演奏シーンだけを撮ったものであるが、噂では監督が編集したPVの無修正バージョンというものが秋葉原の某店で超プレミア価格で販売されていたという話だ。しかし例の三度にわたるハゲ晒し事件で急激に価格は下がったので儲けようと大量に購入した転売屋は今非常に困っているらしい。


 


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