見出し画像

ビデオゲーム

 別にラナ・デル・レイのこの曲が好きなわけじゃない。大体ラナ・デル・ルイなんて歌手YouTubeで見るまでは知りもしなかったんだから。まぁ、これで判るように僕には音楽の趣味なんてない。僕は家でゲームばかりやっている完全なヲタクだ。これでも普段は会社員をやっている。とはいっても僕はキモオタの脳なしでみんなから嫌われまくっている。判るさ君たちの気持ちは僕だって近くにこんな脳なしのキモオタがいたら叩き出してやりたいもの。だけどそんなキモオタの僕に声をかけてくれる人はいるんだ。その人は僕の隣にいる素敵な女性さ。朝来れば絶対に挨拶してくれるんだ。彼女とは二言三言しか言葉は交わさない。だけどそれで充分だ。だって僕はどうしようもないキモオタ。彼女と話なんて合うわけないんだから。ゲーム?バトルロワイヤルなんなのそれ?なんて不思議がられるに決まっている。

 今日僕は課長に絞られ、同僚に思いっきり嘲笑された。一人の同僚なんか僕に向かって今すぐ飛び降り自殺しろとまで言い放った。彼によると僕は会社、いや社会にとって粗大ゴミ同然だから死んで処理してもらった方がマシらしい。僕は傷ついたが、こんな事慣れっこだから卑屈な笑いでそれを受け入れる。そんな僕を彼女は心配そうな目で見た。いいんだよ。僕はキモヨタのクズ社員。君に同情される価値なんてないんだから。

 僕は家に帰って早速バトルロワイヤルをやる準備をした。こんなキモヨタの僕にとっての存在価値はここだけにしかない。僕はキャラクターに自分の名前をつけている。それが自分がこの世界にいることの自己証明みたいなものだからだ。ようやくゲームが立ち上がるとさっとチームメイトとの合流地に向かって走り出した。チームに入るまではずっと一人でやってきたけど、このチームのリーダーの奴が僕の強さを見込んで勧誘してきたんだ。最初は断るつもりだったけど、強引に連れ込まれたんだ。それからはこのチームの一員としてゲームに参加している。毎回僕が一番キルしてるからチームメイトは凄えって褒めてくれる。

 だけど今日は全くダメだった。やっぱり会社であそこまで言われたのが、尾を引いてたんだ。動きの悪い僕は敵に狙われ続け、チームは惨敗しまくった。それでチームメイトがブチ切れて僕にこの役立たず!お前なんか死ね!と罵詈雑言を浴びせてきた。僕はこれにはショックだった。まさかゲームでも同じことを言われるなんてショックだった。それで僕はチームメイトに対してチームから離れたいって言ったんだ。そしたらアイツらは「あっそ」とか言ってさっさと僕から離れて行った。

 悪い事は続くなんて事はよくある事だと思ってだけど、こんなに最悪の事が連続して起こるなんて思っても見なかった。現実に捨てられ、ゲームにも捨てられた。もうこれってホントに死ねって事なのか。人間滅多に人に死ねなんて冗談でもなければ言わない。現実でもゲームでも滅多に言わないものだ。だけど彼らは本気で僕に死ねって言ったんだ。という事はみんな僕に対して本気で死ねって言ってるんだな。じゃあ、お望み通り死んでやるとPCの電源ごと消してバトルロワイヤルから立ち去ろうとした時だった。画面を見るとチャットの吹き出しが出ていて、いつの間にか女性型のキャラが僕のそばにいるではないか。僕はその吹き出しと彼女の名前にハッとして画面を何度も確認した。彼女の名前は会社の隣の素敵な女性と同じ名前であり、その彼女はチャットで僕にこう言っていた。

「そんなに落ち込まないで。これからは私が一緒についてあげるから。私がいる限り絶対に誰にもあなたを殺させはしないから」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?