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完全独占

 事を終えてからしばらく経ち、恍惚が引いていくのを感じた剛は、重なっていた花子の濡れ切った股から萎んだ杓子を引き抜いてベッドの彼女の隣に身を横たえた。体にはまだ先程の激しい情事の余韻が生々しく残っている。

「相変わらず激しいんだから。どうしてあなたはいつもこんなに私を欲しがるの?」

 剛は事の後のこのいつも花子のセリフに顔を赤らめた。確かに今日も欲しがり過ぎた。欲しがり過ぎて挿れてから新幹線並みの速度で発射してしまった。確かに自分は気持ちよかったが、花子を満足に楽しませてあげられなかったような気がする。愛撫もそこそこにすぐに挿れてしまった。花子はいくら我慢しないで挿れてもいいよなんて言っても、ガキじゃあるまいしすぐ突っ込むのは良くない事だ。だけど自分は花子をそれほど愛しているのだ。彼女を完全に独占したいほどに。

「悪かったな。今日はちょっとはしゃぎ過ぎた。もうちょっと時間かけてやればよかったな。でもしょうがないんだ。俺はお前をやばいぐらい愛しているから。お前は一生俺だけのものなんだって。ホントお前の中から俺以外の男の記憶を消してやりたいぐらいだよ」

「剛今日はマジどうしたの?ぶっちゃけ過ぎてない?でも嬉しいよ。だって剛は千人斬りの私が最後に辿り着いた港だから。ねぇ、剛。もう一回お願いしていい?今度はたっぷり愛してもらうから」

「ああ、っていうかもうピンピンに勃っちゃってるよ」

 こうして剛は花子と本日二回目のエッチを行いそれから寝た。その夢か現かわからぬ時のなか、誰かが彼に声をかけてきた。空からだった。

「剛さん、あなたは花子さんを完全に独占したいと思いませんか?花子さんが関係を持った男たちと出会う以前に戻って運命の恋人のように彼女と結ばれたくありませんか?」

 これは夢なのか。いや疑問を感じるまでもなく夢だ。だけどこの声は妙に真に迫っている。まるで天の声が直に自分に話しかけてくるような。

「剛さん、私はあなたの花子さんへの想いに心打たれてここに来ました。私はあなたの想いを叶える手助けがしたいのです。ああ!だけど時間がありません。夜明け前に答えてくれなければ私は光の塵となって消えてしまうでしょう。さぁ早く決めて下さい」

 ああ!決めろと言われても迷う!当然このままで幸せなんだから天の声の誘い断るべきなんだ。だが、もし男を知らない純白の彼女と運命の恋人として結ばれることが出来るのなら。

 剛は花子との毎夜のまぐわいを思い出し、自分がこんなに毎回新幹線のように突っ走ってしまいのは花子の昔付き合っていた男たちへの嫉妬があるからだと考えた。アイツらが花子にまとわりつくせいで俺は無駄に力を挿れて突っ走ってしまうんだ。彼女は付き合う時、俺に今まで付き合っていた男の写真を見せて「こんな私でもいいの?」って聞いた。その時俺は彼女を抱きしめていいぜなんて答えたけど、当然平常心でいられなかった。ああ!アイツらの存在自体なければ俺は花子と運命の恋人として愛ある生活を、一時間以上ぶっ通しのボートのようにゆらゆら揺れまくるような素敵なラブライフが送れるんだ!剛は天の声に向かってはっきりと花子の過去に行って結ばれてやると宣言した。すると天の声は急に厳かな調子になり剛にこう告げた。

「あなたの想い受け取りました。今からあなたを純真無垢だった花子さんの所に連れて行きましょう」

 そう天の声が言った瞬間強烈な光が辺りを包んだ。剛は光に目が眩んでそのまま気を失った。


 目覚めたのはとある港町であった。道路標識に中華街とあるから多分横浜だろう。彼は中学生になっていた。だが自分は進学で上京するまで首都圏には来た事がない。どういうことだ。剛は下を向いて自分の胸と手を見た。ああ!なんと中学時代そのままの制服ではないか。横浜に来たからって横浜の中学生になったわけではなかったのか。彼はそれが悔しかったが、ふと自分の顔が見たくなって適当な店のガラスで自分の姿を見た。やっぱり酷い顔だ。自分は中学時代洒落にならないほど酷かった。こんなキモヲタ顔を花子が一目で好きになってくれるだろうか。いや好きになるはずだ。剛はそう自分を励ましてまっすぐ道を進んだ。

 と、そこに中学生の花子が現れたではないか。ああ!なんと可憐で美しかっただろう。まるで実際の花子と出会った時そのままだ。中学生の花子はいかにもミッション系かなんかのオシャレな制服を着てキュートな仕草で誰かを待っている。誰を待っているんだ?いや、それは俺だ。実際に彼女が誰を待っていようが関係ない。彼女はこの場で俺と結ばれる運命なんだから。剛はそう決心を固めて花子の元に駆け寄ろうとしたが、ふと自分のキモヲタマックスのルックスを思って立ち止まった。花子はこんなキモヲタ野郎の俺を好きになるだろうか。嫌われたらどうすればいいんだ。だが、だがである。剛は愛の力を信じた。俺と花子は運命で結ばれている。出会って五秒で合体するように固く激しく結ばれるんだ。剛は迷いを振り切って目をガン開きにして花子に突っ込んだ。

 だが花子は突然現れた剛に当然気づくはずもなく、後からやってきたヤンキー風の男の方に駆け寄ってしまった。彼女はヤンキー風の男にこのストーカーみたいなキモヲタマックスの男をぶん殴ってと頼んだ。ヤンキー風の男は花子に言われた通り剛をボコンボコンのボッコボッコにしてしまった。

 剛は花子が五回まわしの醤油ぐらい自分を誤解していると思いそれから彼女を徹底的につけまくった。彼女を追ってその度に僕たちは運命の恋人なんだよちゃんと話を聞いておくれと叫んだ。もはやただのストーカーであった。花子は何度ヤンキーを呼んでボコボコにしても懲りずにストーキングしまくる剛にブチ切れてとうとう警察を呼んだ。ああ!哀れ剛は花子の蔑みにも程がある視線を浴びながらパトカーで連行された。

 これは悪い夢に違いない。ああ!へんな幻想なんて持つからこんなろくでもない夢を見るんだと剛は思って必死に起きようとした。天の声など死んでしまえ!やっぱり今、隣に花子がいるこの時が一番いいんだ!彼女は俺を最後の港だと言ってくれたじゃないか!花子、ごめんよ!俺はありのままのお前が好きなんだ!

 ようやく夢から覚めた剛は花子を見ようと隣を向いた。しかしそこには花子の姿はなく代わりに刺青だらけのオッさんが横たわっていた。これに驚いて剛は声を上げた。するとオッさんが起き上がって剛に拳骨を喰らわせた。これで完全に目覚めた剛は周りを見て目を剥いた。一体ここはどこだ。どうして俺はこんな網走みたいな所にいるんだ?剛は隣の刺青オッさんに聞いた。

「あの〜、僕どうしてここにいるんでしょうか?」

 オッさんはこれを聞いて呆れたにも程があるって顔で答えた。

「お前、若いのにボケが入ってるのか?お前は中学時代からずっと花子さんって女をストーカーした罪で無期懲役になってこの網走刑務所に入れられてんだよ!あんまり危険すぎるから恩赦のなしだって話だ。全くとんでもない野郎だぜ!何で俺がお前なんかと同じ部屋なんだよ!」

 剛はこの言葉を聞いて愕然となった。おい、夢じゃないのかよこれ。一体どうなってんだよ。さっきまで花子と二回もエッチしてたじゃねえか!何で今無期懲役で網走なんかにいるんだよ!おい天の声よ!これは何なんだよ!お前がやったのか?答えろ天の声!

「おい、天の声!ふざけんなよ早く花子の所に俺を戻せ!」

 すると刺青オッさんがまた剛を叩いた。

「お前いい加減にしろよ!毎日毎日花子花子言いやがって!どんだけ花子にストーカーしたいんだよ!無期懲役になってもまだ足りないか!」

 


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