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意識の高い女の一週間 土曜日

今日は土曜日。そして私にとって最も意識を高くしなければならない大事な日だ。そう今日はパートナーとのセックスが待っている。私は意外に思われるかも知れないが、小心者でいざと言う時に非常に弱い。あんなに強気なことを散々書いているのにそれって何? と人は笑うかも知れない。だけどそんな私も私の一部だ。意識を高めるためには自分のすべてを知って改善スべきところは改善すべきなのだ。しかしどうしても改善できないところは責めないで今は優しく包み込もう。そんなあなたが愛しいと愛してあげよう。だってそれもあなただから。

というわけで私は自分のダメなところを赦しようにパートナーも許そうと先程からレストランでまっているけど、彼はなかなか来ない。別に彼にレディーファーストを求めているわけじゃないし、それどころか私は意識が高い女なのでレディーファースト自体がか弱い女性を助けるという男性優位に根ざした価値観の産物であるので、そんなものは破棄せよと常々公言しているぐらいである。しかしいつ来るか連絡ぐらいあっても良さそうだ。大体遅れそうになったら連絡を入れるのは世間の常識であるだろう。それは男女でも共通のルールであるはずだ。というわけで私は頭に来てパートナーにLINEで文句を言ってやろうとスマホを手にした時、ウェイトレスが来てお連れ様がいらっしゃいましたとパートナーを連れて来たのだった。
彼は汗まみれでハーハーと息を荒くしている。話を聞いて見ると、寝坊して起きた時には待ち合わせ時間の一時間前だったらしい。全く呆れ果てる。こんなに意識の低い男は初めてだ。私は彼をキッと睨んでレポートちゃんと書いてきた? と聞いた。すると彼はおもむろにバッグからシワだらけの紙を何枚か出してそれを私の前に出した。なんてことだろう。私との約束のレポートを紙を封筒にも入れずそのままバッグに詰め込むなんて! しかし私は声を荒げたりはしなかった。ただ冷静にレポートを広げて読んだだけだ。
きっと彼は昨日からずっと寝ないでレポートを書いていて、それで書き終えたら寝てしまったのだ。で起きたら待ち合わせ時間の一時間前だった。それならばしょうがない。彼は昨日からずっと彼なりに私とのセックスについて考えていたのだ。私はあの時遠慮しないで何でも自分のしたいこと、されたいことを書いてと言った。彼は私にどうしたいのか、またどうされたいのか。男性のセックス感については実のところまだ完全に知っているとはいえない。男性が女性のセックスに対して偏見を抱いているように、女性もまた男性のセックスに対して偏見を抱いているだろう。私はパートナーにレポートを書かせることに寄って男性のセックスを知り、更に私も彼に自分のセックスをさらけ出すことで互いのすべてを分かち合い。彼と新しい関係を気づいて行きたいと思っている。彼にはそんな私の考えがわかるだろうか。この意識の高すぎる考えを彼にわからせるためには徹底した教育を行わなければならない。まずはレポートを読んで……。
と思って用紙を見たら全部打ち込みじゃないか。しかも私が送った例文をそのままコピペしているだけだ。私はもう耐えきれず彼に向かって怒鳴りつけた。
「あなたこの前私言ったわよね! ちゃんと手書きで書けって! しかも何これ! 私の送った例文そのままコピペしているだけじゃない! あなたまともに文章すら書けないの! 呆れたわ! こんなバカと一生付き合っていこうとしていたなんて!」
彼は私が怒鳴りつけている間中ずっと頭を下げて謝っていた。僕は字が下手だから君に見せたくなかったんだとか下手な言い訳をするだけだ。私はそんな彼に向かってじゃあ、あなた私とのセックスについてちゃんと考えてはいるのね!と言ったが、そしたら彼はちゃんと考えてる。先週お前に言われたときからセックスについては考えてきたんだとかいい出した。私はもう売り言葉に買い言葉みたいな気分になって彼に「じゃあ、そのあなたなりに考えたセックスを今からホテルで実践しなさいよ!」と言い放った。すると彼は私にうなずき、私たちはレストランをでてまっすぐホテルへと向かった。

ホテルではやっぱり大失敗だった。確かに彼は先週よりもボディタッチが丁寧であったし、私を気遣ってもいた。私はそんな彼の優しさが嬉しくなり今まで彼にしたことのなかったことまでしてあげた。だが、である。彼がエレクトしなかったのだ。彼によると緊張のあまり気が散ってしまったらしい。呆れたことだ。私など彼を思うあまりホテル前ですでに濡れていたのに。

今、私は能天気に寝ているパートナーの横でこの記事を書いている。確かに彼をきつく責めすぎたかも知れないと反省はする。しかし彼は今まで私が何もしなくても勝手にエレクトしたのだ。おそらくは彼は私に指摘されるまでセックスというものを女というおもちゃで遊ぶ行為だと思っていたのだ。だけど私からセックスを真面目に考えろと指摘されて彼は自分がセックスを全く知らないことに思い当たったのだ。彼にも自分がエレクトしなくなった理由はわからないだろう。だけどそれは彼にとっては良いことだ。彼はこれから私のもとで男性と女性がすべてを分かち合う、真に正しいセックスを一から学んで行くのだから。私は今の日本人が性に対してあまりにも真面目に考えないことを憂慮している。その不真面目さが、セックスの不和を呼び、更には性犯罪さえ呼ぶのだ。私はもうセックスは免許性にしたほうがよいと思う。成人になったらまずセックス免許センターに行って、意識の高いセックスに関しての受講をさせる。まずそこでは女性が如何に貶められてきたかを徹底的に叩き込むのだ。受講が完了したら次は自分がセックス可能かどうかテストを受けさせる。そして合格したら晴れて恋人とセックスが出来る。これで人は確実に意識の高くなるだろう。この私の遠大な計画の最初の被験者は当然今横で寝ているパートナーだ。彼を再教育して意識の高い人間に頭脳改革を行っていくつもりだ。そして私は……。「ぷうーーーーーーー!」

私はハッと彼を見る。良かった。まだ寝ている。これも生理現象決して恥ではない。本来隠す必要なんてないものだ。しかしあいも変わらずバカ面で、さっき私にあれほど恥をかかせておいてよくこんな能天気に寝ていられるものだ。しかしあなたは今日から私が再教育するんだから……。と思ってたらおもむろに彼が起きてきて私に言った。

「くせえなあ、おまえ今屁こいただろ?」



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