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【思考訓練の場としての経済学入門】生命保険選びのポイント

(1)はじめに

 皆さんは、生命保険に入っていますか。すでに加入しているなら、今の保険を選んだのはどのような理由からでしょうか。
 「ネットで上位にランキングしていたから」、「人にすすめられたから」、「保険料が一番安かったから」と理由は様々だと思います。
 生命保険は、人生で2番目にカネがかかる買い物と言われています(1番は住居費です)。月々数千円に過ぎない保険料ですが、何年も支払えば、塵も積もって何百万円にも膨れ上がります。
それほど大きな買い物であるにもかかわらず、よく分からずに加入している方が多いようです。「いつもの営業担当者から勧められるままに加入した」という方も多いでしょう。
 そこで、本稿では、そもそも保険の役割とは何か、保険を選ぶときのポイントを解説いたします。

(2)生命保険の本質

 保険は、「不幸のくじ引きである」と言われています。保険の本質を的確に表現していると思います。例えば、亡くなったときに支払われる死亡保険。保険料(くじ引き代)は毎月支払いますが、当たり(死)を引かないと1円も入ってきません。つまり、保険で得する=死ぬということです。「高い保険料を支払っているのに、損ばかりしている」と嘆く方がいますが、当たりが出ないということは、不幸に遭遇していないということなのです。
 そもそも保険は、お金のない人たちが寄り集まって、お互いを助け合う相互扶助の精神で成り立っています。その起源は諸説ありますが、中世ヨーロッパでは、亡くなったときの葬儀代が支払えない人たちのために、互助会をつくってメンバーから少しずつお金を集め、メンバーが亡くなると、集金した中から葬儀代を支払っていました。
余談:日本に保険の概念を輸入したのは、福沢諭吉です。
前記事(※)でも述べましたが、保険の本来の役割はリスク管理です。一家の大黒柱に万が一のことがあり、残された家族を養うため(死亡保険、所得補償)、病気の治療費が支払えないリスクに備えるため(医療保険)などの大きなリスクを、保険に加入しているメンバーで共有し、一人ひとりの負担を軽減する仕組みです。

※【思考訓練の場としての経済学入門】リスクマネジメントの基礎知識

(3)保険不要論の是非

 「高い保険料を払うくらいなら、貯金に回したほうが良い」という考えがあります。この主張は、一理あります。例えば、医療費がいくらかかっても、高額療養費制度で、毎月の自己負担を抑えられます。そのため、医療保険に入っても、一生出番はこないということもあります。使う機会のない保険なら、保険料は無駄になるので、それなら貯蓄に回し、万が一のときはその貯金から賄う方がよいという考えです。貯金は、使い道を制限されませんから、何にでも使える「万能の保険」とみなせます。
 しかし、先述のとおり、保険の本質は「不幸のくじ引き」です。使うことがなくても、その間、リスクを回避するための安心料を支払っているということなので、たとえ掛け捨てでも損をしているわけではないのです。ただ、必要以上に保険をかけて、無駄な保険料を支払うことはよくないと思います。

(4)生命保険の効用

 生命保険にはどのような種類があり、それぞれどのようなメリットがあるのでしょうか。

【保障内容による違い】
死亡保険:死んだときに保険金が支払われます。他にも高度障害となり、働けなくなった場合や、余命宣告を受けた場合に支払われる場合があります。
医療保険:病気やケガを負ったときに保険金が支払われます。医療は日進月歩するため、それに合わせ、新しい商品がどんどん発売されています。
年金保険:「長生きのリスク」に備える保険です。年金だけでは老後資金は不足すると言われています。不足分は自力確保する必要があります。年金保険は、保険会社に運用してもらい、予め決められた年金を受け取ることができる商品です。株式投資など、高リスク商品と違い、将来受け取れる金額が予め分かる点や、保険料控除で税金を還付してもらえる場合がある点がメリットです。
養老保険:死亡保険と年金保険を合わせたような商品です。満期までは死亡保険金が受け取れ、それ以降は満期金を受け取れます。保険料は、割高なことが多いようです。
収入保障保険:働けなくなったときに保険金が受け取れます。
学資保険:子供の進学にかかる費用を賄うための保険です。あまり増えないので、最近では、終身保険で代用する人もいます(低解約返戻金型の終身保険で、子供が進学するタイミングで解約して資金を確保する。もし使わなければ、そのまま終身保険として持ち続けることができます)。

【保険期間による違い】
 終身(保障が一生涯続く)か定期(期限付き)の違いです。
 終身保険は、定期保険と比べ保険料は高いですが、保険料支払いが完了した後も、一生涯の保障がつきます。また、解約時にお金(解約返戻金(かいやくへんれいきん))を受け取れることがあります。解約返戻金は、保険料払い込み満了後は、払った保険料以上の金額に増えること多く、若いうちは死亡保障で死亡リスクに備え、年を取ったら解約して老後資金に充てられます。また、契約当初の解約返戻金をグッと低く抑えて保険料を安くした商品もあります(低解約返戻金)。
 定期保険は、保障期間が期限付きで、保険料は掛捨てです。支払った保険料が戻らない分保険料は安いです。保険料の負担を抑えながら、ライフステージに合わせて契約を更新したい方に向いています。家計を見直していたら、月々の保険料の負担割合が高いことが分かった。保険を解約して負担を軽くしたいが、万が一のときのリスクも怖いと思う方は、定期・掛捨て型の保険に切替えることをお勧めします。

【保険料の取り扱いによる違い】
①解約返戻金の有無
 解約返戻金があるタイプは保険料が高く、解約返戻金がないタイプ(掛捨)は安いです。
②月々の支払か一括支払いか
 保険料は、まとめて支払うほど割引されます。資金に余裕がある場合は、全期間分を支払う(全期前納)するのも一手です。年払い、半年払いという方法もあります。ただし、一度支払った保険料は返してもらえませんので、注意が必要です。

【通貨の違い】
 扱う通貨が、日本円か外貨かの違いです。
 外貨建て保険の場合、ドルならドルで支払い、ドルで支払われます。これを日本円で支払い、受け取ることもできますが、為替変動のリスクがあります。他にもリスクがあるため、外貨建て保険は「特定保険契約」に分類され、投資商品と同じように契約前にリスクを説明し、顧客が十分理解していなければ販売してはいけない商品となっております。
 リスクがありますが、外貨建て保険はよく売れます。日本は低金利が長引き、「円で置いても増えない」というのが常識となりました。一方、外国に目を向けますと、日本より金利が高い国がゴロゴロありますので、低金利に不満を持つ日本人にとって、これらの国の金利は魅力的に映ります。また、日本は借金大国なので、将来、円の価値が暴落するのではないかと不安に思う方が、資産の一部を外貨に分散するために契約することもあります。他にも、最近は海外留学が一般的になってきたことから、子供の留学費用を確保するために、ドル資産を持とうと、外貨建て保険を使う人もいます。
 あとは、単に営業マンが売りたいからです。外貨建て保険は、販売時にかかる手数料率が高いです。5~6%近くのものもあります(1,000万円の契約なら5~60万円)。契約1本で個人目標を達成させられるほど「オイシイ」商品なのです。ただ、近年では手数料率を開示させる傾向にあるので、露骨に外貨建て保険に誘導すれば、賢い消費者ならピンとくる時代になるでしょう。
 外貨保険で資産運用したいという方に気を付けていただきたいのは、「積立利率」です。あたかも金利のように誤解されがちですが、違います。支払った保険料にこの利率が掛けられるのではありません。保険料から手数料等、諸々差し引かれて残った積立金に対してかかる利率です。つまり「積立利率3%」の保険は、1,000万円が10年後に1,300万円に増える!なんて夢のような商品ではございません。

(5)保険料の仕組み

【3つの「率」】
 保険料は、保険数理の専門家(アクチュアリー)高度な数学を用いて計算しています。私は、アクチュアリーではないので、細かい説明はできませんが、大まかにいうと、保険料の決定に大きく関わっているのは、次の3つの「率」です。
①予定死亡率
 性別・年齢ごとの1年間の死亡割合です。例えば、30代男性のグループは、1年間に0.1%の死亡率であるとします。つまり、30代男性を1,000人集めてきた場合、1年後にその中から1人死ぬということです。そこで、期間1年、死亡保険金1,000万円の保険をこの1,000人でつくるとします。1年後に必要な資金は、1,000万円(死亡者1名×保険金1,000万円)ですから、一人当たり1万円(1,000万円÷1,000万円)の保険料を徴収する必要があります。
 一般的に、男性の方が女性より亡くなりやすく、年を取るほど死亡率は上がりますから、女性より男性が、年をとればとるほど保険料は高くなります。
 逆に、同グループメンバーで、1年後も生き残っているのは999人です。1年後に生存者へ100万円支払う年金保険をつくる場合、1年後に必要な資金は999百万円となり、一人頭99万9千円の保険料を徴収する必要があります。

②予定利率
 保険料を集めた瞬間に保険金を支払うなんてことは普通ありません。集めた保険料の中には、今すぐ使わず、将来の支払いに備えて保険会社にプールされる資金があります。ただ、保険会社の金庫に大切に保管されているわけでもありません。
 そのまま多額の資金を遊ばせておくのも勿体ないですから、その資金を運用します。予定する運用の利率を予定利率と言います。
 なお、H29年度時点で保有している有価証券(313兆7,466億円)の構成比は、債券は6割(国債47%、地方債3.9%、社債8.3%)、株式7.4%、外国証券28.4%、その他5.1%となっています。将来の保険金支払いに備えるためのお金ですから、保守的な運用をしていることが分かります。保険会社のマネーは300兆円規模と巨額ですから、投資家は、その動向に注目しています。

③予定事業費率
 保険料にかかる保険会社の経費割合を予定事業比率といいます。保険会社の職員は、タダ働きしてくれるわけではありません。たくさんの営業職員を雇えば、たくさんのお給料が発生しますし、使っているビルの家賃等もかかります。大物俳優などの有名人を起用し、CMを作れば、莫大な広告宣伝費がかかります。ド派手な宣伝は、親しみを感じますが、それは契約者が負担しているということを忘れないでください。最近では、徹底的にコストを削減したネット保険が人気ですね(その先駆者がライフネット生命です)。H29年時点で、事業費率は、およそ14%です。

 それぞれの率は、あくまで予定です。死亡者が予定より少なかったり、思っていたより運用がうまくいったりしたときは、お金が余ります。この余ったお金は、保険契約者に配当金として還元されます(※無配当の商品もあります)。

【保険料の構成】
純保険料:将来のお金の支払いに備えて財源としている部分。予定死亡率、予定利率で算出した死亡保険料、生存保険料から構成されています。
付加保険料:保険会社の経費。
 保険料は、理屈に基づいて決められますので、恣意的な設定はされにくいでしょう。それでも保険料に差が生まれるのは、本来の保障以外の部分に余計なコストがかかっているということ。営業マン(人件費)や有名人を起用したCM(広告宣伝費)などコストの代表格です。高級感のある見た目は、信頼感につながりますが、その演出費用は、私たちが支払っていることを忘れないでください。どの金融商品にも言えることですが、自分で知識を身に付け、自分で考え、ネットで買うのが一番コストのかからない方法だと思います。

(6)まとめ:保険選びのポイント

 ここまで、「保険」という金融商品がどのようなものなのか説明しました。
 最後に、保険選びのポイントを、実際に保険を販売してきた立場からアドバイスいたします。あくまで私見ですが、販売員の言いなりになって損しないためには役立つでしょう。

ポイント①:自分にとってのリスクを知る
 何度も言いますが、保険はリスク管理の手段です。
 不安に思うことは、人それぞれです。万人が、全く同じ不安を持っているなどありえません。不安は十人十色ですから、必要なリスク対策も十人十色のはずです。家族がいない人間に、多額の死亡保険金は必要ですか?入院時に1日何万円も必要ですか?(病院で豪遊するおつもりでしょうか?)。
 「みんなが入っているから自分も入る」というのは間違った考えです。確かに、世間一般の情報は、参考になります。しかし、結局は「あなたはあなた。私は私」なのです。
まずは、自分にとってリスクは何かを考え、万が一それが発生したときにどれくらいの費用が必要になるのか、公的な支援がないか調べましょう。それでもお金が足りなくなると考えたときに、保険加入を検討すべきでしょう。

ポイント②:保険で金持ちになろうとしない
 「保険では、あまりお金を増えない」という意見を聞きます。それはそうだと思います。
 何度も言いますが、保険の本来の役割は「保障」であり、「お金を増やす」という機能はオマケに過ぎません。保障機能を無視して、単にお金がいくら増えるかという点だけで、他の投資商品と比較するのは、「テニスプレイヤーを力士として番付するとどうか」と言っているようなものです。
 先述のとおり、保険は、比較的保守的な運用をしています。投資信託や株式投資に比べると、ローリスク・ローリターンなのです。また、保険料の全てが運用に回されるわけではないということは、先述のとおりです。
 個人的には、保険を運用商品としてみなしたくはないのですが、あえて資産形成に役立つ商品として評価した場合、運用成果が目に見えることはメリットだと思います。何一つ約束されていない株や投資信託等と違い、契約前に「保険設計書」で、何年後にいくらになるかが分かりますので、老後資金を計画的に用意することができます。

ポイント③:ひとつの商品と一生涯付き合う必要はない
 リスクは時や状況によって変わります。頻繁に乗り換えろとは言いませんが、定期的に加入している保険を見直し、必要になった機能を付け足したり、不要な保険を捨てましょう。
 最近は、1つの商品で、特約をつけたり外したりしてカスタマイズできる商品もあるようです。1つの商品にまとまっている方が、分かりやすいというメリットがあるのでしょう。ただ、保険会社各社、得意分野がありますので、機能毎に保険を分けるという方法もあります。

 いかかでしたでしょうか。ここまで、生命保険の仕組みや選び方のポイントについて駆け足で解説しました。
 保険は、本来、お金がない人を助けるための金融商品です。ところが、家計が逼迫し、カットの対象になりやすいのもまた保険だと思います。保険をカットするというのは、エアバッグやシートベルトを取り外して車を運転するようなもので、カットしすぎて万が一のときに何の保障もなく、路頭に迷うようなことがあっては本末転倒です。かといって、コテコテにガードを固める必要はありません。自分に必要な保険は何か、自分の頭で考えることが必要です。自分一人だけの力では考えられないときに、専門家に相談することも大事です。そのとき出会う専門家が、「これは売れ筋ですよ」なんて低レベルの売り文句でセールスするのではなく、あなたにとってのリスクをあぶりだし、必要な保険をお勧めしてくれることを願います。


(参考)
一般社団法人 生命保険協会HP

【ドリル】


(1)保険の本質は、「(①)」の手段である。
(2)保険加入者が、保険会社に支払う料金を(②)、保険事故の発生につき、保険会社が保険契約に基づき支払うお金を(③)という。
(②)は、(④)と(⑤)で構成されている。(④)は、(⑥)、(⑦)で算出した将来の支払いに備えて積み立てておく資金であり、(⑤)は、(⑧)で算出された、保険会社が事業を維持するのに必要な経費を賄う資金である。






【解答】
①リスク管理
②保険料
③保険金
④純保険料
⑤付加保険料
⑥予定死亡率
⑦予定利率
⑧予定事業費率



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