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私と姉の特殊な関係(その3)


〈私と姉の特殊な関係〉〈私と姉の特殊な関係(その2)〉の続きです。

自分の過ちを素直に認め「ごめんなさい」と言えるということが、
どんなに大切なことであるかは、すでに多くの人がよく知っています。
しかしそれ以上に、相手を許すことも、儚く大切な感情であると私は思います。


姉がまだ実家にいた頃のいつかのある日、
家族団欒中、何かの折に遠い昔を懐かしむように、
母が姉の酷い反抗期時代のことを口にしたことがありました。
姉のしたことの数々を、笑い話をするように話す母に父も同調し、
姉は恥ずかしいから止めてと、笑いながらもそれを制していました。
その時、ふと姉の長すぎる反抗期の訳を考えました。

両親は、私たち姉妹にあらゆる面から
強い愛情を注ぎました。
衣食住を何不自由なくし、大学にまで進学させ、
青年期は、姉にはバレエとピアノを習わせて、
私には、長くは続きませんでしたが同じくピアノを習わせつつ、
スポーツの習い事ができない分、小説やビデオなど、
趣味として没頭できるものを買い与えてくれました。
姉には「お姉ちゃんなんだから○○しなさい」という言葉で
叱ることをできうる限り避け、
私には「姉からのお下がりで我慢しなさい」と強要することを
できうる限り少なくしてくれました。
学校行事への参加も、友人への関心も、
大人にとってはくだらない冗談やオチのない話も、
何事にも興味関心を持ち、接してくれました。
挙げるとキリがないほど、能う限りの愛情表現です。
家を出た今でも、それは続いています。

そんな両親になぜ、姉はあんなにも反抗したのでしょうか。
冷静に考えれば考えるほど、不思議でなりませんでしたが、
その答えの一部となるものは、すぐ近くにありました。
それは、私です。

〈私と姉の特殊な関係〉で書きましたように、
私の持病は、幼少期の頃は特に重度で、
生まれてから暫くの時間を、病院で過ごしていました。
その間、言ってしまえば両親を姉から奪ってしまっていたのです。
姉は、一番親の愛情を感じたかったその時に、
それを感じることができなかったのではないでしょうか。
その後にどんなに愛情を注がれても、その時に欲したそれに
代えることはできなかったのではないかと思います。

姉は親への反抗中も、私とのどの喧嘩の時も、
そのことを理由に家族を責めたり、私の病気を責めたことは
一度だってありませんでしたが、本人にしか分からない
心の奥底では、決定的な深い傷となっていたのではないでしょうか。
それでも、そのことを指摘したらいよいよ自分の家族は壊れてしまうから、
そんなことを思って、敢えて口に出さなかったのかもしれません。
姉自身が、幼少期のトラウマにも似たその感情を自覚していたか否かは
分かりようがありませんし、そのことが本当に酷い反抗期と、
私との確執に影響しているかも、そもそものところ不明です。
前述のように、本人にしか分からないことですから。
あくまで推測にはなりますが、それでも私は、
少なからず姉にとっては大きく辛い出来事であり、
人格形成やその後の人生の選択に、大きく影響を及ぼしただろうと思っています。

私も、当然健常者で生まれたかったですし、
無自覚にも、遠回しにも、危うく家族を壊しかけるようなことは
したくはなかったです。
しかし、病気は人を選びません。
あの頃は、私は生きることに必死だったでしょうし、
母は不安でいっぱいで、私と姉の身を案じ祈ることしかできなかったでしょうし、
父は、大黒柱として、家族を守ろうともがいていたでしょうし、
姉は、子供ながらに両親を困らせまいと、強くなることに必死だったでしょう。
誰も悪くはありません。
それでも事実として、私は一時的にでも、姉をから両親を奪ってしまいました。

姉は、中学生から大学卒業時まで続いた反抗期や私との喧嘩など、
当時のめちゃくちゃについて謝罪をしたことがありません。
しかし、その原因を作った可能性が大いにある私も、
自覚していながら、そのことを謝ったことがありません。
ですから姉も、少なくとも私に対しては、生涯謝る必要はありません。

毎回冒頭に記載している通り、過ちを認めて謝罪することは
本当に大事なことでありますが、
それ以上に、許すことも大事であると私は思います。
綺麗事のようですが、私は姉との関係を通して、
人として大事なことに気がつくことができました。

私と姉の特殊な関係、と題した記事を書いておりますが、
このような曖昧な関係性や、いつの間には生まれた歪みは
兄弟姉妹の間では、よくあるものなのかもしれません。
兄弟姉妹に限らず、親子や夫婦も然りです。
しかし、血縁やそれに近しい関係性であるからこそ、
例え無条件でも、許すこともできるのかもしれません。
こういった関係を通して人々は、
初めて「人を許す」ということを覚えるのでしょうか。

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