見出し画像

「きこりの兄弟 木を切ることをやめたきこりの話」

「ようやく森も終わりか」

旅人は森を抜けると、そこには小さなお店があった。
そこには木を材料にした工芸品が並んでいた。

「これはすごい」
「ありがとうございます」

感嘆の言葉が漏れたところで、話しかけられた。
どうやらここの店主のようだ。

「おや?」

旅人はその店主の顔を見て、これまた声を上げた。

「もしかして……」
「ははは、もしかして、森の中できこりに会いましたか?」

そういって笑う店主の顔は、森の中であった木こりの兄弟に似ていた。

「もしかして、ご兄弟で?」
「はい。そのとおりです」

店主は頷いた。

「それにしてもすばらしい品々ですね。これはあなたが?」
「ありがとうございます。全部、自分でつくっています」

うれしそうな店主。
聞くと工芸品の他、日用品も作っていて、近くに住む人たちからも好評だという。

「ちなみに材料は兄弟がきった木なんですよ」
「それはおもしろいですね」

店主曰く、父親もその父親もきこりでこの森でずっと暮らしてきたらしい。
そして、いまも他の兄弟は旅人が見てきた通り、きこりになっていた。

「あなたはきこりにならなかったのですか?」
「はい」
「木を切るのが得意ではなかったとか?」
「いえいえ、こういうのはなんですが、兄弟で一番うまいほうでしたよ」
「なまけもの、、というわけでもなさそうですね」
「コツコツやるのは得意です」
それは工芸品の数々を見ていると感じられる。

「うまかった、ということは、きこりとして色々と学んだのですか?」
「ええ」

店主はうなづく

「父親は子供たちはきこりなるものだと思っていましたから、兄弟全員に木の切り方やきこりとしての仕事の仕方を丁寧におしてくれました」

「なるほど。立派なお父さんだ。でもあなたはきこりにならなかったのですね」
「はい。自分でも子供のころはきこりになるもんだと思っていたんですがね」

そういって店主は森を見た。

「木を切るのもうまく、そう思っていたというのに、どうしてきこりにならなかったのですか?」
「不思議ですか?」
「ええ、おそらく立派なきこりになったでしょうに」
「そうですね。立派かどうかはともかく、いっぱしのきこりにはなれたんではないでしょうか」

「でしたらどうして? なにかあったのですか?」
「いやぁ大した話じゃありません」

店主がいう。

「ここには、切った木を使ってなにかしようと思っていた者がいなかったのですよ」

聞くと、いままでは、ずっと木を切り、それを市場に渡していただけらしい。

「自分は木をいじくるのも得意だったので、やってみたらみんなよろこんでくれたんですよ」

兄弟のきこりたちにとっても、直接、材料として買ってもらった方がいいようだった。

「なるほど。お互いに得になっているんですね」
「ええ。ここにいれば自分としても材料に事欠かない。きこりはたくさんいますからね」
そういって店主は笑った。

ふむふむと頷きながら、旅人はきいてみた。
「しかし、木こりにならなくてよかったのですか? 木を切るのもうまかったのでしょう?」
「ああ、そうですね。自分も、子供のころから自分はきこりになるとおもっていました」
「そうでしょう、そうでしょう」
「しかし、ある日、ふと思ったんですよ。自分は……」
「自分は……?」


「木を切るの、別に好きじゃないなって」

そういうと、はっはっは、と店主は笑ったのだった。


最後まで読んでくれて thank you !です。感想つきでシェアをして頂けたら一番嬉しいです。Nazy