連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(2)
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6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(2)
その日の午後。
結局あのあと、ゴナンの熱はもう少し高くなり、薬を飲んで個室でぐったりと休んでいる。リカルドは書斎で地質に関する資料を見ながら、レポートをまとめていた。書斎内ではナイフも書物を読んでいる。その手には、世界の武術をまとめた本。なんとも幅広い本が揃っている場所だ。ちなみにミリアは例によって自室で『あなユラ』を読んでおり、ディルムッドはそこに付き従っている。エレーネは気分転換にと、街のマーケットまで散策中だ。
今日は薄曇り。しかし雨は降らなそうだ。ジョージの予報によると、明日はまた快晴になるだろうとのこと。雲のヴェール越しに届く紗々とした日光の中、しんとした時間が流れていた。
「…ねえ、ナイフちゃん…」
おもむろにリカルドが、その静寂を破った。
「…何?」
「…あの、たぶん、気のせいではないと思うんだけどさ…」
「?」
リカルドは少し困ったように頭をかき、そして、うーんと唸って自分の考えをまとめるような素振りを見せてから、再び口を開く。
「…あの、僕、あの遺跡?に行ったとき、おかしかったよね…?」
「…!」
ナイフは「今さら?」とリカルドの方を向いた。もう1週間も前のことだが…。
「自分でも気付いていたのね。何がどうおかしかったと感じているの?」
「…」
そうナイフに尋ねられて、リカルドはまた言葉に詰まる。
「…僕はね、子どもの頃から理知的で賢くて、さらには知的好奇心も旺盛な、とてもクレバーな人間なんだよ」
「は? 何の話?」
「…なのに、そんな僕が、なんとも意味ありげな遺跡のことを何度も忘れているらしいし、興味も持たない、記憶にも残らないっていうのは、あまりにもおかしいんだよね…」
「…でも、遺跡に行ったことは覚えてはいるのよね? どんな壁画を見たかは?」
「うん…。巨大鳥と、卵と…。でも、なんだかモヤがかかっているようで、鮮明ではない…。あとは、壁の石積みをやたら見ていたような…」
「…」
やはり『大樹の壁画』が引っかかっているようだ。ナイフは手にしていた本を閉じ、リカルドの方へと近づく。
「で、今さら、あの遺跡のことがどうしたの? 巨大鳥につながるヒントにでも気付いた?」
「…うん…。いや、僕だけがこんなに変な感じになるということはね、どちらかというと、ユーの呪いに関わりがあるんじゃないかと思っているんだ…」
「……!」
ナイフはハッとする。確かに、彼の様子がここまでおかしくなる原因としては、不思議ではない。
「…そう言われればそうね。考えもしなかったわ」
「…それで、できればもう一度あの遺跡に行きたいと思っているんだけど、でも…」
そう口にしたところでまた口ごもりボンヤリとした表情になるリカルド。ナイフは目の前でパン、と手を叩いた。
「…あ…。遺跡、を…」
「そういう風に無意識であの遺跡を避けようとしてしまうから、私に引っ張っていってほしいってことね?」
「…ああ、うん。そう。お願い、したい…。できれば明日にでも…」
あの遺跡のことを考えようとすると、意識が散漫になっていくリカルド。その狭間で必死に戦っているようだ。ナイフは立ち上がってポン、と自分の胸板を叩いた。
「そういうことなら任せなさい。首に縄付けてでも引っ張っていってあげるから」
+++++++++++++++++++++++++
そして翌日。
やはりリカルドの予想通りゴナンの症状は軽く済んだようで、一晩ですっかり熱は下がっていた。
(やっぱりこの街が、ゴナンには合っているのかな…)
朝食の時間、食欲も復活しモリモリとご飯を食べるゴナンの姿を見守りながら、リカルドはまた切ない表情になる。ナイフはそんなリカルドを不思議そうに見つつ、ゴナンに話しかけた。
「ゴナン。今日はリカルドと一緒に、この前の遺跡にまた行くのよ。あなたも行く?」
「行く」
ゴナンは即答して、目を輝かせた。当のリカルドはといえば、『遺跡』のワードが出た途端、やはり反応が鈍くなる。その様子を一瞥したのち、ミリアにも尋ねた。
「ミリアはどうする?」
「…」
尋ねられたミリアは、少しだけ目線を迷わせた後、じっと何かを訴える目でナイフを見た。ナイフはふふ、と吹き出す。
「ええ、分かったわ。今日も本の虫ね。読書に勤しみなさいな」
そう言われて、ミリアはにっこりと微笑む。
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