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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(3)
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6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(3)
と、その隣でエレーネが申し出た。
「ねえ、ナイフ。私も一緒に行っていい?」
「ええ、もちろんだけど…。でも今日は、巨大鳥というより、『別のこと』の確認で行くのだけど、構わない?」
「ええ。私もちょっと気になっている事があって。もう一度じっくり壁画を見たいと思っていたの」
そう言ってディルムッドの方を見るエレーネ。
「街を出て構わないかしら?」
「もちろんだ。ミリア様には私がお付きする」
「お茶だけは私が淹れておくから、あなたもそれを飲んでね」
「まあ、エレーネ。わたくしもお茶は淹れられるわ」
ミリアがスッと背筋を伸ばして訴えるが、エレーネは首を横に振る。
「それは…、ダメよ。ディル、ミリアが自分でお茶を淹れないよう、重々注意していてね」
「?」
首を傾げつつも頷くディルムッドに、リカルドとナイフはこっそり吹き出す。と、その時。
「お邪魔します! ゴナン、元気になったか!」
また、昨日と同じ元気な声が玄関の方から響いてきた。ジョージはため息をつきながらエドワードを迎える。
「またこんな早い時間に来て…」
「すみませ…、申し訳ございません! ゴナンの様子が気になって」
そう言ってダイニングを覗き込み、ゴナンの姿を見つけるエドワード。
「お、もう元気そうだな!」
「うん。…あ…」
ゴナンはハッとして、リカルドとナイフの方を見た。リカルドは少しだけ考えると、寂しげな微笑みを浮かべながらゴナンの頭をなでる。
「ゴナン。こちらの方は気にしないでいいよ。そうだね、約束だったもんね」
「…うん」
ゴナンは少し申し訳なさそうに頷くと、エドワードの方へと歩みを進めた。ナイフがエドワードに笑顔で話しかける。
「ゴナン、楽しんでらっしゃい。エドくん、ゴナンは病み上がりだから、その点よろしくね」
「あ、はい! もちろんです!」
そう元気に返事して、ナイフをじいっと見るエドワード。ジョージがまた、エドワードを諫める。
「エド、そうやって人をジロジロ見るのは失礼だぞ」
「あ…、すみません…」
「いいのよ。この街ではなかなか見ない人種でしょうからね、私は」
そう言ってウインクするナイフに、ペコリと頭を下げるエドワード。そしてゴナンに向いた。
「もう出られるか? 行こうぜ」
「…うん…。バンダナ巻いてくるから、ちょっとだけ待ってて」
「何だよ、オシャレボーイかよ!」
「外出るときは、ないと落ち着かないんだよ…」
そう言って笑い合いながらダイニングを出て行く2人。ナイフは、目線で2人の後ろ姿を追っていたリカルドの様子を不思議に感じた。
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「…意地でもゴナンと一緒に出かけたがると思っていたのに。最近、ゴナンと距離を取る時間が増えてない?」
「うん、そうだね…」
リカルドは伏し目がちに応える。
「…ゴナンの人生にとっては、僕なんかの用事に連れ回されるよりも、友達とただ遊ぶ時間の方がずっと有益だよ…」
「……」
ナイフは腕組みをしてふう、と息をついた。とはいえベッドでは相変わらず一緒に寝ているようだし、今までの執着具合を考えると、リカルドの中ではおそらく葛藤が渦巻いているのだろう。
「何事にも嫌な笑顔で自信満々にこなす博士様が、ゴナンに関することだけは妙に弱気で卑屈だこと」
「…」
++++++++++++++++++++++++++++++
ジョージの予報通り、この日は快晴。
リカルドとナイフ、エレーネの3人は、遺跡へと出発した。リカルドがまた馬で違う道を進んだり逃げたりしないよう、乗馬ではなく幌馬車で向かっている。ナイフが御者を務め、エレーネはリカルドと共に幌の中だ。
「…ミリアに淹れたお茶の残りを水筒に持ってきたの。ちょっとぬるいけど、飲む? 茶菓子ももらってきたわよ」
「…ああ、ありがとう」
リカルドは少しボンヤリしつつも、水筒を受け取った。
「…うん、美味しいね。エレーネは貴族の令嬢だというのに、お茶を淹れるのも上手だし、身の回りのことも普通以上に自分でできるよね?」
「まあ…、貴族と言っても、王女様と同じように思われると困るわ。自分の事は自分でできるように教育されてきたし、旅も長いから」
「ふうん…」
どこぞかの国のなにがしかの家の令嬢、という情報しか知らないため、それ以上なんとも反応のしようがないが、それ以上何かを追求することはない。
そのまま、車内でウトウトしつつ小一時間。
「着いたわよ」
ナイフの声かけで、2人ははっと目覚めた。
「ごめんなさい、すっかり寝てしまっていたわ」
「仕方ないわよ、この気持ちの良い気候で、この高級幌馬車だもの」
そう言ってうーんと背伸びをするナイフ。「帰りは御者を代わるわね」とエレーネが馬車から降りるが、リカルドは寝台にゴロンと横になってしまった。
「ああ、本当に今日は気持ちいいね。僕はこのまま、少し昼寝をしておくとするよ。いってらっしゃい」
「……」
やはり、遺跡に入りたがらない。ひとまずナイフが入口の岩を退けて準備を整えると、リカルドの首根っこを掴んで無理矢理引きずり出す。
「あっ、ナイフちゃん、そんな雑に…」
「わざとじゃないと分かっていても、その態度がいささか腹立つのよね」
少し荒々しくリカルドを引っ張りながら、遺跡の入口へとやって来た。リカルドはといえば、ソワソワとしているが、遺跡に入ることへ激しく抵抗する感じはない。不思議である。
↓次の話↓
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